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■ 第1章 静かな世界

最初に感じたのは、温度だった。


 暖かくも、冷たくもない。

 ただ、均一な温度が空間全体に満ちている。


 次に気づいたのは、音のなさだった。


 外の海の音は、完全に遮断されている。

 風も、波も、何も聞こえない。


 「……なんだ、ここは」


 誰かが呟く。


 その声が、やけに遠くまで響いた。


 内部は、想像していた"船"とはまったく違っていた。


 通路のようなものはある。だが直線ではない。

 ゆるやかに湾曲し、どこまでも続いている。


 壁も床も天井も、すべてが白い。


 だが単調ではなかった。

 よく見ると、わずかな起伏や流れのようなものがある。まるで、固体と液体の中間のような質感。


 「人工物……なのか?」


 答える者はいない。


 歩みを進める。


 足音が、柔らかく吸収される。


 やがて、視界が開けた。


 そこは、広間だった。


 そして——


 全員が、立ち止まった。


 人が、いる。


 数えきれないほどの人間が、そこにいた。


 整然と並んでいる。


 同じ方向に足先をそろえ、同じ姿勢で横たわっている。

 誰一人として乱れていない。


 「……生きてる、のか?」


 誰かが言う。


 だが、その言葉には確信がなかった。


 近づく。


 ひとりの顔を覗き込む。


 目は閉じられている。


 呼吸は——ない。


 「……死んでる」


 その言葉が、空間に落ちた。


 だが、その"死"は、どこか異質だった。


 苦しみがない。


 歪みがない。


 ただ、静かに止まっている。


 まるで——


 "終わるべき瞬間"で、正確に止められたかのように。


 さらに異様だったのは、色だ。


 白。


 衣服も。


 髪も。


 肌でさえも。


 すべてが、白に近い。


 光を受けて、境界が曖昧になるほどに。


 「……なんなんだ、これは」


 誰かの声が、わずかに震えた。


 答えは、どこにもない。


 ただひとつ、確かなことがあった。


 ここには、"恐怖"がない。


 あるのは——


 完全に、終わりきったものの静けさだった。


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