■ 序章
それが最初に見つかったとき、誰もそれを「船」だとは思わなかった。
海の上に、ただ白い塊が浮かんでいる。
遠目には、氷のようにも見えた。だがこの海域に流氷が現れることはない。そもそも、あれはあまりにも巨大すぎた。
調査隊の一人が、双眼鏡を下ろして言った。
「……構造物だな」
その声には、わずかな興奮が混じっていた。
この世界では、未知の構造物は珍しくない。崩壊以前の文明——いまでは"旧時代"と呼ばれるそれの遺物は、各地に点在している。だが、ここまで保存状態の良いものは、そう多くない。
しかも、これは海上にある。
「記録にあるか?」
「いや……この海域に該当するものはないはずだ」
船内の空気が、わずかに張り詰める。
旧時代の遺物は、しばしば危険を伴う。
だが同時に、失われた技術の手がかりでもある。
「近づくぞ」
誰かがそう言い、船はゆっくりと進路を変えた。
近づくにつれて、それはより明確な"形"を持ち始めた。
滑らかな外殻。
継ぎ目の見えない表面。
そして、異様なほどに均一な白。
汚れがない。
風雨に晒されていたはずなのに、劣化の痕跡がほとんど見られない。
「……気味が悪いな」
誰かが呟いた。
それは、全員がうっすら感じていたことだった。
接舷は、予想以上に容易だった。
まるで、最初からそこに"乗り込まれること"を想定していたかのように、適切な高さに足場があり、緩やかな傾斜が続いている。
「罠……って感じでもないな」
「歓迎されてるみたいだ」
冗談めかした言葉だったが、誰も笑わなかった。
入口は、すぐに見つかった。
扉のようなものがある。
しかし、取っ手も、鍵穴も、操作盤もない。
ただ、そこに"区切り"があるだけだ。
調査員の一人が手を触れる。
その瞬間——
音もなく、扉が開いた。
白い光が、あふれた。




