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街は色とりどりの布や花で飾られ、とても華やかだった。辻々には流しの吟遊詩人が楽器を奏でたり歌を歌い、祭りの賑わいを盛り上げる。中には小動物を連れた者もいて、芸をさせ、観客から貨幣をせしめている。街は浮き浮きとした高揚の中にあった。
フランカとアウローラとはサーカスのテントで落ち合うことになった。少年たちは祭りを楽しむことにした。リエトとしては、残念のような、気を抜いて存分に祭りを見物できるような、ちょっとばかり複雑な心境である。
「人が多いな」
「あちこちから集まって来るんだ。周辺の村からだけじゃなく、ちょっと離れた都市の商人たちもやって来るんだよ」
祭りの屋台料理に用いられる魔装器具のお披露目を兼ねているのだという。
「実際に使っているところを見られるのか」
「使用結果が分かるのは良いな」
「あ、あれ!」
「伯爵さまがおっしゃっていたやつじゃないか?」
「ああ、本当だ」
「「「「「鶏の丸焼き!」」」」」
羽根をむしった鶏が刺さった串を回転させながら直火で炙っている。
「わーお!」
「うお! あれ、メッチャ美味しそう!」
丸鶏を串に刺して回し焼くというのが、見た目がワイルドでインパクトがある。
脂がこんがりと焼けた皮を伝って下にしたたりおちる。もう、それを見ただけでごくりと喉が鳴る。さらに香ばしい匂いが追い打ちをかける。
「あれも魔装器具だよ。前は手回ししていたんだ。ずっと火の側にいれば熱いし回し続けるのも大変なんだって」
「なるほどな。串を回すことによって、肉全体が均等に焼けるようになっているんだな」
リエトの言葉に、シストが顎に指をあてて頷く。
「そうだよ。通常のオーブンよりも肉を乾燥させにくいから、ジューシーに焼き上がるんだ」
リエトとアーテルに目礼してみせた丸鶏の串焼き屋の主がアピールする。少年たちはごくりと生唾を呑みこむ。
まだ午前中の早い時間だというのに、すでに美味しそうに焼けているとは。
少年たちはさっそく注文した。
「あいよ!」
主は肉を削ぎ切りながら、少年たちが差し出す器に入れていく。
街門の傍で安価な木彫りの器とカトラリーを買い、これに屋台で買った食べ物を入れてもらうシステムだ。もちろん、自前の器を持ち込んでも良い。
街はいたるところに小広場があるが、どこも人でにぎわっている。リエトたちも空いたスペースに固まって、熱々の鶏肉に舌鼓を打つ。
「さっきの串を回す魔装器具もそうなんだけれど、魔装冷蔵庫や魔装冷凍庫も屑魔石で使えるように開発しているんだ」
そうやって庶民でも使い勝手が良いものを、ライネーリ伯爵家で作っているのだという。
「魔石は高いからなあ」
「屑魔石って、何度も使った魔石を回収していくらか魔力を込めたやつ?」
「うん、そう。お兄さまがリサイクルシステムを考案したんだ。無駄をなくせるし、新しい雇用も生まれるっておっしゃったんだよ。集めて来るのは小さな子供でもできるからって」
そうやって小遣い稼ぎをして、ためたお金をこういった祭りの日に使うのだ。労働に楽しみや希望を持たせることを意識づけるという意味合いもある。イヤイヤやるよりは、先の楽しさを予感させるのだ。労働はそういうわくわくすることなのだと。
なお、こういった発案はリエトが将来自分はなにができるのか、と思い悩んだときに兄によって考案された。子供でもできることを、という発想らしい。だからといって、考案者にリエトも組み込もうとしたものだからあわてた。事あるごとに自分を立ててくれようとする家族である。
「お兄さま、すげえじゃん!」
『リエトのお兄さま、すごいよ!』
なぜかアーテルが得意げに胸を張る。その脇をまだ昼にもなっていないというのにすでに酔っぱらっている一団が通りすぎる。大きな杯を喉を鳴らして飲み干し、息を吐き出す。
「かーっ! これこれ! こののど越し!」
「この冷たいエールが飲みたくてはるばるやって来たんだよ! 冷たいエール、サイコー!」
「ライネーリ伯爵家さまさまだな!」
「ああ! ライネーリ伯爵家ばんざい!」
「俺さ、金が溜まったら、魔装冷蔵庫を買うんだ」
「まあなあ、この冷たいエールが家でも飲めたらなあ」
「暑い日にこののど越し!」
少年たちは鶏を食べながら耳を傾ける。なるほど、確かに暑い日に冷たい飲み物を飲めるというのは魅力的だ。呑兵衛ならなおさらだろう。これこそが、ライネーリ伯爵が言っていた宣伝効果というやつだ。聞くのと実際自分が味わうのとではまったく違う。現に、この祭りで提供されるものを目当てに遠くからやって来たと言っていた。先ほどの屑魔石を集めて小遣いを貯める子供といっしょで、楽しみを持たせるというものだ。ひいては、ライネーリ伯爵家の事業は希望のたくさん詰まったものだという印象付けも可能にしている。
「冷たい飲み物といえば、ジュースもあるよ」
『リエト、おれ、アイス食べたい!』
「アイスってなんだ?」
「アイスクリームのことだよ」
「俺、聞いたことがある!」
「僕は知らない」
「じゃあ、アイスクリームの屋台を探してみようか」
「「「「「賛成!」」」」」
祭りとあって集まって来る者たちの財布のひもも緩む。
「な、な、隠し部屋でも作れないかな」
「でも、アイスクリームって頻繁に混ぜないといけないらしいから」
目を輝かせるルキーノに、リエトは眉尻を下げる。
『リエト、あっち!』
「こんなにたくさんの人や物があるのに、アーテルは匂いを嗅ぎ分けることができるのか」
ともすれば、会話に気を取られるリエトを先導するアーテルに、アルフォンソが感心する。
「並んでいる。あれかな?」
「ああ、そうだね」
最後尾に並ぶと、あちこちから「アーテルだ」「リエトさま、こんにちは!」という声が掛かる。
「アーテル、馴染んでいるなあ」
『「リムの大冒険」でリムが街で買い物していたの! リムは幻獣で人間じゃなくても人間の街で買い物していた! だから、おれも大丈夫!』
そんな風に言うアーテルに、街へ始めて繰り出すことになった際、期待のこもった無邪気で純粋な瞳で言われたリエトは困ったのだろうな、と少年たちは察した。
「で、実際のところ、どうやったんだ?」
「ええと、その、執事が街でアーテルのことを話して理解を得てくれたんだ」
「わーお」
「さすがは、執事」
「ニコニコのシツジ、だね」
「ライネーリ伯爵にしろ、兄上さまにしろ、執事にしろ、辣腕家の下には有能な者が集まるのかな」
さて、アイスクリームを食べた少年たちは目を丸くし、その美味しさ冷たさ、なめらかさに身もだえした。




