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夕食の席ではまたたっぷり料理が供された。
伯爵夫妻は大人があまり知らない子供によくそうするように「今日はどんなことをしたんだい?」「なにがお好き?」などと尋ねた。
「バルド君は魚を捌いてごちそうしてくれたそうだよ」
港町で合流してリエトからあれこれ話して聞かされたことを、今度はライネーリ伯爵が妻オルガに語る。
「まあ、すごいですわね」
『バルドは船長になるの。おれとリエトはバルドのふねに乗るの』
アーテルが言うのに「あら、良いわねえ。リエトも将来はお父さまのように交易をするのね」などと言う。
「そうなったら、船は居心地よいものにしなくては」
リュケイオンの「わんわん探索部」の部室をぞんぶんに心地よい空間にしたライネーリ伯爵である。迅速な行動をする者である。今から、未来に息子が乗る船のための様々な器具を開発しようと意気込む。
「隠し部屋があるなんて、さすがは魔装器具の研究が盛んなリュケイオンね」
フランカも子供じみた真似をするとはみなさず、面白がる。
「そんなリュケイオンでクラブを新設したうえ、トレントを目覚めさせたのですものねえ。アーテルは大活躍ね」
『えへん!』
オルガの称賛に、アーテルは顎を上げて胸を張る。尾が高く持ち上げられ左右に振られる。
微笑ましい家族のやり取りを見ながら、少年たちはリエトは手紙にいろいろ書いて送っているのだなと感じる。だからこそ、歓待してくれ、少年たちに沿うもてなしをしてくれているのだ。
夫人はシストにリエトに勉強を教えてくれてありがとうと礼を言い、ルキーノの記憶力の良さを褒め、ルーベンやアルフォンソの周囲をよく見て気配りをするのに感謝した。みんな、リエトが手紙に書いて送った事柄だろう。少年たちは次々に話しかけられ、順番に食事の手を止めて応対した。
「わたくしも食べるのがとても好きなの。男の子だもの。動き回るのだから、お腹が空くのも当たり前ですわね。みなさんにはたくさん食べていっぱい動いてもらいたいわ」
「妻は領民にもそうして欲しいと思っていてね」
カントリーハウスの敷地に隣接する街の祭りに魔装冷蔵庫や魔装冷凍庫を貸し出し、他にはない美味しい飲食物を売り出しているのだという。
「鶏の丸焼きを回転させ炙る器具なんかは一見の価値があるよ」
伯爵の言葉に、少年たちは興味をそそられる。そして、伯爵だけでなく、ふくよかでおっとりした夫人をいっぺんに好きになった。
その日の夜、少年たちはひと部屋に集まった。
魔装照明はつけず、ろうそくに火をともす。
アーテルといっしょに寝ても広々したベッドは、さすがに六人もの少年たちをのせることはできず、一部は床に寝転がる。絨毯が敷かれているから、十分だ。
「夏の夜、みんなですると言えばコレだろう」
「怪談?」
「肝試しだろう」
「肝試しをするにはちょっとライネーリ伯爵家の敷地は広すぎる」
「だからって、室内を勝手にうろつき回るのもだめだよ」
「むしろ、帰省した箱入り息子が夜中にこっそり部屋を抜け出したと露見すれば大騒ぎとなるだろう」
口火を切るバルドにリエトがわくわくと目を輝かせ、ほかの案を出したルキーノにアルフォンソとルーベンが待ったをかけ、シストが締めくくる。お昼寝をたっぷりしたアーテルもまた元気いっぱいで、リエトの傍らでなにをするのかと尾を振っている。
「じゃあ、怖い話な」
バルドがろうそくの明かりの下、にっと笑う。
そして、言い出しっぺの彼が話し始めた船にまつわる幽霊話はとてもともて怖かった。諍いが高じて決闘し、死亡した船員が血まみれで夜な夜な船内をうろつく話や、霧の中、ゆらゆらただよう船を見つけて乗り込んでみたら人っ子一人いないのにもかかわらず、つい今しがたまで食事していたかのように食卓では料理が湯気をたてている、といったような話である。アーテルを除く聞き手たちは震え上がる。
「ひぇぇぇぇぇっ」
「ひゃあっ」
「————っ!」
「変な声を上げるな」
「だってぇ、怖いよ!」
「おい、シスト、目を開いたまま、寝ているのか?」
アーテルはリエトにしがみつかれてご満悦だ。
第一弾の話がとんでもなく怖かったので、後に続いて話す者はいなかった。しばらくは怖い怖いとはしゃぎまくる。
そのときのことである。
ジジ、とろうそくの芯が音をたて、ふ、と炎が消えた。す、と部屋は闇に沈んだ。
「「「「「「ぎゃーっ!!」」」」」」
「しーっ! 静かに! さすがに、だれかが来るぞ」
「なんだよ、お前も悲鳴を上げただろうが」
「あっはははははは」
「え、ちょ、ちょっと、リエト? 大丈夫?」
「怖さが限界を突破したか」
「いや、怖がり過ぎたのが面白かったんじゃないか?」
「でも、リエトも悲鳴を上げていたよな」
「リエトはさあ、リュケイオンを魔物が襲撃したときもそうだったよな」
「ああ、あれはすごかった。魔物に追いかけられながら笑っているんだもんな」
言いながら、だれかがろうそくに火を灯す。
「だってさあ、」
こんな風に同年代の少年たちと集まって夜中に怖い話をすることなどなかったのだ。そんなことを考える余裕はなかった。夜、眠った後、目を覚まさないかもしれないと思っていたのだ。
それから、アーテルがやって来て、どんどん元気になり、カントリーハウスの広い敷地を走り回ることができるようになった。隣街にも行けるようになった。でも、リエトの世界はそれだけだった。
それが、こんな風にいろんな考えをも持つ少年たちといっしょに様々なことをすることになるなんて、考えもしなかったのだ。
「アーテルは怖がっていないな」
「アーテルは夜目が利くもの。闇も怖くないものね」
リエトに顔を向けられて、アーテルはご機嫌に尾を振る。
「そうか。アーテルは怖いものはないのか?」
『こわいもの?』
アーテルは考える風に小首をかしげた。
『こわいもの、ある』
アーテルが顎を下げ、上目遣いになる。情けなさそうな表情に、少年たちは顔を見あわせた。




