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5-2

 

 リエトとその友人たちの作ったクラブは学院の長年の悲願であったトレントとの意思疎通を、目ざめさせることで実現させた。さらには、生徒の失せ物を探し出したり、貴重な薬草が植えられた畑を荒らす犯人を見つけ出したりと短期間で目覚ましい活躍をしている。

 しかし、その名称は「わんわん探索部」である。

 口さがない生徒たちからは影でぼんくら部と呼ばれているが、実はみんな特技を持っていた。


 リエトは犬に好かれる。とにかく好かれる。イヌ科の狼やコヨーテ、ジャッカル、狐、タヌキにも好かれる。ただ、常にアーテルが傍にいるので、彼に遠慮して近寄って来ることがなく、よって触れ合う機会がない。きっと、撫でればアーテルのようにうっとりすることだろう。


 高位貴族の庶子であるアルフォンソは山育ちで山歩きに精通している。大柄なバルドは水泳が得意で、郷里では船乗りたちと交流していた。ルキーノは見たものを瞬時に覚えることができる。ただし、その内容を理解するには至らない。一方、シストはずば抜けた頭脳の持ち主で、ルーベンはまあるい頬の人好きのする少年だ。


 それぞれの特技はちょっと使いどころが難しいものの、ハマれば大きい。なにより気の置けない友人たちでわいわいやるのが楽しい。

 それを理解しない者はどこにでもいる。


「我らが「武術部」の誘いを断って、事もあろうに「わんわん探索部」だと?!」

「みそっかすが集まったガラクタ部じゃないか」

「しかも、貧乏下位貴族どころか、庶民もいると聞く」

「君も庶子ながら侯爵の家門の出なのだから、付き合う人間は選ぶべきだ」

 さも、親切ごかしに差別的なことを言うのは「武術部」の部員である。アルフォンソがスカウトを断ったら口々にのたまった。

 自由を標榜する学院では身分に左右されないとされているから、彼らは教師に隠れて好き勝手言うのだ。


「そうだな、あの小さいのも、裕福な伯爵家の子息だというじゃないか。従者としてなら入れてやらんでもない」

 アーテルの一件で大聖教司が恭しく接していたのを見るか聞くかしたのだろう。


 学院に多額の寄付をする伯爵のことを、バルドやルキーノも言及することがあるが、全然違う。もちろん、学院運営が寄付金に頼っている部分もあるから、感謝しているというのは本心だろう。けれど、リエトの家からのなんらかの恩恵のおこぼれをもらえられると思っているわけではない。


 庶民や庶民と変わらない貧乏貴族などとルキーノやバルド、シストのことを悪く言った「武術部」のことを、アルフォンソは誰にも話さずにいた。勧誘はきっぱり断ったのだから、嫌な気持ちにさせることもあるまいと思ったのだ。

 それを思い出したのは、 ルキーノの上着からぽとりとパンの欠片が落ちからだ。


「あー、ポケットに穴が開いている」

「上着、だいぶん使いこんでいるからじゃね?」

「従兄弟のお下がりだよ」

「卒業生が置いて行った制服を修繕して安くで売っているのを見たよ」

 購買で新品を買うのとは雲泥の差の値段なのだと言う。


 ちなみに、リエトはすぐに上にも横にも大きくなるからと言ったのだが、特注で制服を作ってもらった。小柄すぎて既製品ではぶかぶかすぎたのだ。友人たちに絶対に知られたくはないヒミツである。ただし、アルフォンソとルーベンはなんとなく察していたし、バルドとルキーノ、シストは考えも至っていない。シストは頭が良い分、考えが足りないところがあったし、バルドとルキーノは知ればからかうだろうが、その次の瞬間には忘れる。本人にとっては重大なことだとしても、ほかからすれば、その程度のことなのだ。


 従兄弟のおさがりの制服は、ぐんぐん身長が伸びているルキーノからしてみれば、小さい。おまけに、ポケットに穴が開いた。袖や裾はすりきれている。

「学院に来てから腹いっぱいご飯が食べられるからなあ」

 ルキーノが幸せそうな顔つきになる。たぶん、学院に来るまではそうではなかったのだろう。その反動でか、お代わり自由と聞けば食べずにはいられない腹ペコ男子だ。


「卒業生が不要な制服を学院に残して安価で売るリサイクルシステムか。良い仕組みだな」

 感心するシストも男爵ではあるが内情は厳しい。

「小遣い稼ぎをしたいなあ」

「畑でも耕せば?」

「トレントさんに助言をもらえたら、喜んで「薬学研究部」も「神秘植物研究部」も頼んでくると思うぞ」


 非常に裕福な家のリエトもアルフォンソも、比較的余裕のある家のルーベンも、家からの援助しようなどとは発想することもなかった。

 少年たちは対等だからこそ、仲間たちから一方的にしてもらうことに潔癖なまでに神経質になる。自分が持たざるものだと突き付けられるのを嫌がる。


 他方、してもらって当然と言う者もいる。たいてい、パシリのように扱うようになる。リエトたちはそういった関係性とは無縁であった。




 十三歳になるまでカントリーハウスで過ごしたリエトはタウンハウスに引っ越し、リュケイオンに通い、友人を得た。学院生活にも慣れ、クラブを新設し、次に興味を持ったのは恋愛だ。

 そんな折、学院内でナンパされた。


「おいおーい、君、いきなり「付き合って」はないだろう?」

「この子、びっくりしてんじゃん」

「つか、初対面じゃね?」

 事務室に用事があったリエトが友人たちと別れてアーテルと共に行動していたときのことだ。ちょうど、教室の扉を開いて、先にアーテルを中へ入れたときのことだった。廊下を友人たちと話しながら歩く上級生たちにはリエトの姿しか見えなかった。


 リエトの顔を見たとたん、「ねえ、君、俺とお付き合いしない?」と言った。

 軽い。

 連れ立って歩いていた上級生たちがとたんにはやし立てたことで、リエトは我に返った。


「だって、好みだったんだもん!」

「いや、男子じゃん」

「え?! マジで?! ごっめーん!」

「ごっめーん!じゃないよ」

 断ろうにも口が挟めずにいたが、ともあれ、今の告白はなかったことになったようで安堵する。

 そのまま、リエトのことなど忘れ去ったかのように騒ぎながら移動して行った。


『リエト、どうしたの?』

 待てど暮らせど来ないリエトに、アーテルが廊下へ顔を出す。といっても大した時間ではないが、アーテルにとってはいつもいっしょのリエトが傍にいない時間の流れの速さは通常とは違う。


『リエト、しょんぼり? しょんぼり? げんきだして? いっしょにあそぶ? なにする? なにする?』

 アーテル式思考順路によって、すっかり遊ぶ気になっている。期待に輝く目にリエトは苦笑しながら、今から授業だから後でね、と宥めた。





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