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4-5

 

 うつくしくも甘酸っぱい思い出を突きまわしたことへの、学院長の腹いせだとは知らないバルドとルキーノは盛大に憤慨した。

「くぅぅぅ! ムカつく!」

「あれ、ゼッタイ、俺たちがやったと思ってやがる!」

「落ち着け。違う。学院長は君たちにやる気を出させようとあおったんだ」

 憤るバルドとルキーノを、シストがなだめる。


「そうだ。第一、俺たちには隠し部屋があるから、食べ物には困っていない」

「でも、それは学院長は知らないことだ!」

 アルフォンソにバルドが穿うがったことを言う。


「そうそう。たとえ煽られたんだとしても、俺たちが疑われているってのが腹が立つ!」

 怒り心頭とばかりにルキーノが腕組みする。

「それはそうだよね。いわれのない濡れ衣だよ」

 珍しくルーベンも怒っている。


「そりゃあさ、以前、木の実を取って食べたら、「薬学研究部」が研究に育てているやつだったよ」

「食べたのかよ!」

 少々落ち着きを取り戻したバルドに、今度はシストが大きな声を出す。


「見つかっちゃってさあ、めっちゃ怒られる!かと思ったら、食べた後の体調をしつこく聞かれて、「俺、もう長くないかもしれない」と青くなったものだよなあ」

 今までの怒りはどこへやら、いつものへらりとした調子でルキーノが言う。そんな軽い調子でこの世の終わりを予感したのか。それでいいのか。

「ルキーノよ、君もか」

 アルフォンソがどこか疲れた調子で言う。


 ともあれ、ふたりはわざとではなく、過失で行ったことであり、そういうことがあったから、決して学院生が育てているものには手を出さないのだと主張する。


 そんなに元気が有り余っているのなら労働バイトすれば良いという意見は庶民のものだ。

 貴族は基本的に労働をしない。

 持っている財産を他人に貸し出して成果物の一部を得る。

 いわば、不労収入を持つのだ。自分は働かない。領地運営は家宰が行う。

 貴族が身体を動かすのは自己鍛錬のためであり、昔の騎士という地位を兼任していたなごりである。

 サバイバル能力があれど、今は流行らない。身体を鍛えるのとはまた違うのだ。

「ああ、いっそ、詩人騎士のように、愛人パトロンがほしい」

 正確には愛を捧げた貴婦人が夫に口利きして雇用先を得るのだが、これはこれでなかなか難しいのだ。


 では、貴族の端くれの家門の出であるバルドはさておき、庶民であるルキーノはと言えば、「ここ数年、学院では院外労働を禁止されているんだ」という。

 学院から許可を取れば可能だ。

「そのうち、働くかもしれない」

 なんの気なしに言うルキーノに、リエトはなんと言って良いものか分からなかった。


「ともあれ、今は疑いを晴らすことだ!」

「そうだ! 「わんわん探索部」始動!」

 ルキーノの宣言にバルドが乗る。


 まずは畑を調査しよう、いや、その前に「薬学研究部」の部員と話そうと言い合う。どちらにせよ、畑に向かう。

 その途中でリエトはまたカップルを目撃する。先ほど、ジラルドの失せ物探しをする間も思っていたことだが、学院内のあちこちでイチャイチャする生徒を見かける。

「いいなあ」

 ついぽろりと口から出る。

 リエトの呟きを拾った少年たちが互いの中で誰が人気があるかを言い合う。


「バルドはモテるよな」

「シストもだろう?」

 わき腹を突くルキーノを避けながら、バルドはシストに振る。

「アルフォンソだって、コナかけられていた」

 シストはどこ吹く風のアルフォンソも巻き込むことにした。


「え?! みんな、そうなの?」

「リエトにだって、濃いの相手がいるだろう」

 バルドが生温かい目つきをしながら、リエトの肩をぽんと叩く。ルキーノが無言でアーテルを指し示す。

 またそれか。リエトはきゅむっと唇を尖らせる。


「アルフォンソは高位貴族の子息でも、まだ婚約者がいないからなあ」

 自分は庶民だからと言うルキーノに、リエトはあれ、と小首を傾げる。

「だったら、ルーベンは?」

「あれ、言っていなかったっけ。僕には婚約者がいるから」

「えぇっ?!」

『リエト、どうしたの?』

「う、ううん、びっくりしただけだよ」

 驚きのままもっと色々聞きたかったが、アーテルが気づかわし気に見上げて来るし、今はまず、疑惑を晴らす方が先決だ。


 アルフォンソやバルド、シストがモテるのに、どうして婚約者がいない自分はなにもないのだろう。

 リエトはきゅむっと唇をひん曲げながら、ずんずん歩いた。


「リエトはそんじょそこいらの女子よりも可愛いからなあ。隣に並ぶのが嫌なんだろうな」

「クラスの子がわたしよりもまつげが長くて肌も唇もプルプルなのよ!って怒っていた」

「あとはまあ、アーテルが認める女子ってそうそういないだろう」

「勢いのある伯爵家の子息だけれど、大切にされているもんねえ」

「「うちの可愛いリエトはそんじょそこいらの馬の骨にはやらん!」ってか?」

 後ろで友人たちがひそひそ言い合うのが聞こえてくるが、断固として振り返らないリエトだった。


 さて、校舎を通り抜け、「むっちむち♡の樹」を避け、畑を越えて、リエトたちはトレントの下へ向かった。

「薬学研究部」と「神秘植物研究部」の部員は授業そっちのけでずっとトレントに張り付いていると聞いていたからだ。

 知性あるがゆえに意思疎通ができる神秘植物が目覚めたのだから、ぜひとも話を聞きたいというのだろう。


「お願いします、お願いします」

「どうか我らにお声を」

「お答えくださいませ!」

『そうさな、今日は良い天気だの』

「そうです、そうです。良い天気です。それでですね、我が「薬学研究部」が苦心して育てた薬効を期待できる果実が———」

『未熟で硬い果実を投げつけるトレントもおっての』

「そ、それはなんという果実で?!」

「どんなものなんですか?」

「なんという種類のトレントですか?」

 周りを囲みながら口々に話す生徒と、まったく噛み合わない会話をするトレントの姿があった。


「ぼけたばあちゃんとの会話みたいだな」

「おばあちゃん、ご飯は一昨日食べたでしょう?」

「いや、昨日も食べさせてあげて。今日も食べさせてあげて」

 ぼそりと呟いたアルフォンソに、バルドとルキーノが漫才を始めた。





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