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「ありがとう! ありがとう! 君たちがいてくれて本当に助かったよ!」
アーテルが見つけたセミの抜け殻型魔石はまさしくジラルドが探していたものであるという。
ぜひともお礼がしたいと言うのに、今度じっくり魔装器具を見せてもらうことや、故障した家庭用魔装器具を修理してもらうことになるかもしれないという不確定未来の約束を取り付けた。
「隠し部屋の魔装冷蔵庫が故障したら大変だからな」
いつになく真面目な様子でバルドが言い、こちらも真剣な表情でルキーノが頷く。腹ペコ男子にとってはせっかく手に入れた僥倖を手放すのは実に苦痛に感じるのだった。人はないならないで生きていられるが、一旦手に入れたものを失い、それによって受ける不便さに苦痛を感じるものだ。
「これはまだ強度に問題があるんだ。それと注ぐことはできたけれど、今度は引き出す方法を考えなければならない」
魔石は「魔力貯蔵物」であるからして、注入及び抽出ができなければ用をなさない。
「いろいろ考えることがあるんだなあ」
「セミの抜け殻に固執することなく、従来の魔石を使った方が早いんじゃないんですか?」
シストの言葉にジラルドは首を左右に振る。
「魔装機器回路には魔力を通したい部分と断絶したい部分がある。そういった部分には、魔力を通さない鉱物を使うんだ。また、鉱物は一種類だけでなく、合金で行う試みが取り入れられている。だから、こういった新素材を使ってみることは非常に有用なことなんだよ」
発展途上であるということは、新発見を手にする可能性は誰にでもあるということだとジラルドは言う。
「いろんな観点からアプローチをしていく。まさしく天才だな」
「その天才をしても、ちょちょいと簡単にできてしまうものではなくて、あれこれ試行錯誤をして、実験の結果を積み重ねていく。その努力は感嘆すべきものだな」
「魔装器具研究部」を辞した後、アルフォンソとシストがしみじみと語り合う。学生の身でありながら、素晴らしい視点の持ち主である。
リエトは功労者であるアーテルを労う。
その後ろを歩くバルドとルキーノが見つけたほかの落とし物を見せ合う。
「なあ、これ、なんだと思う?」
「なんか昆虫の翅?」
「セミの抜け殻の近くに落ちていたんだ」
空にかざすと透かし模様がうつくしく浮き上がる。大人ならば、暮らしに役立たないものを残して置こうとはあまりしないだろう。けれど、少年たちは役に立たなくともうつくしいもの、珍しいものは手許に置いておこうとした。
そんなルキーノとバルドのやり取りを見ていたルーベンが、拾ったものをすべてゴミだと見なさない方が良いのかな、と思い始めた。
「ねえ、この紙は捨ててしまっても良いのかな?」
小さく折りたたんでいたらしい折り目がついた紙は中央に小さく文字と数字が書かれている。
「うん? これはなんだろうね?」
数字は日時のようだが、とすれば、文字は地名だろうか。リエトは見覚えのない名称に首をかしげてシストを呼び止める。
アルフォンソも覗き込み、とうとう彼らは歩みを止め、ひと塊になってルーベンの手にした紙を覗き込む。
「なんだあ?」
「なになに?」
アーテルもまた自分も自分もと鼻を寄せる。
それまでのリエトに甘えてじゃれつく様子が一変する。
『ダメ! リエト、この紙、臭いがヘン! ヘンな臭いがする粉がついている! リエトは嗅いじゃダメ!』
そう言って、リエトをぐいぐいと押し、ルーベンの持つ紙から遠ざけようとする。
「「「「「「えっ?!」」」」」」
とっさにルーベンは紙から手を放そうとしつつ、なんとかこらえた。こんな薄い紙一枚、手を離せば風に飛ばされる。
バルドがさっと手を出して、折り目通りに折りたたむ。自分の手から離れたことで、ルーベンがほっと息をつく。
「だれかハンカチを持っていないか?」
シストがポケットから差し出したハンカチを広げ、それで紙を包んだ。
「学院長に渡そう」
「だな。どのみち、今回の依頼の報告に行くところだったんだから」
バルドにルキーノがのほほんと頷く。こういうときのいつもの調子であるルキーノの態度にはみながすくわれる。我を取り戻し、歩き始める。
アーテルは紙とリエトの間に自身が入るように位置取る。素晴らしい警戒ぶりであり過保護ぶりでもある。しかし、そのおかげで事前に危険を察知して警告がなされるのだ。
少年たちが慎重に持ち込んだ紙を見ながら説明を受けた学院長は難しい表情を浮かべる。
「分かった。こちらで調べるとしよう」
そう言って紙片から顔を上げた学院長の顔には称賛の色が浮かんでいた。
「いや、素晴らしい活躍じゃった。失せ物探しも、この要注意物の取り扱いもじゃ」
そこで少年たちはようやく肩の荷が下りた気がした。アーテルの剣幕に驚きおののいていたのだ。
ともあれ、「わんわん探索部」の初仕事はみごと達成された。
「よし、打ち上げしようぜ!」
「おー!」
「ちょっと待った!」
さっそくとばかりに隠し部屋に戻って美味しいものを、というところへ、学院長の声が掛かる。
「次の依頼が入っておるのじゃ」
「「えー!」」
バルドとルキーノの不服そうな声が揃う。
明らかな不満の声を他所に、平然と学院長が話を続ける。面の皮の厚さはさすがである。
「「薬学研究部」で育てている植物が荒らされているというのだ。いくつか千切り取られ、食べ差しが周辺に散らばっていたらしいのじゃ」
そこで言葉を切ってじっと少年たちを見据える。バルドとルキーノに対してはほかの者たちよりもすこしばかり時間が長かったのは気のせいだろうか。少年たちは学院長の視線が隣に移った際、圧力が緩んだのを感じた。眼力もさすがである。
学院長の無言から「お前たちじゃないだろうな」という疑念の声を読み取ったバルドとルキーノが猛抗議をする。
「俺たちじゃない!」
「濡れ衣だ!」
「ほう、濡れ衣とな。難しい言葉を知っておったものじゃわい」
激昂するふたりを軽々といなし、口元で笑って見せた。
学院長はそんな風にして、自分の若かりし頃の青臭い思い出をはやし立てたふたりに、存分に仕返しするのだった。
自由を標榜する学院リュケイオンのトップが大人げないことこの上ないものである。




