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どうして「わんわん探索部」のことを「武術研究部」が知っているのか。そもそも、なぜ、「武術」を研究しているはずのクラブが「魔装器具研究部」の部室の前に陣取っているのか。それ以前になぜ、「武術」を研究しているはずのクラブが実況と解説を行うのか。せめて、武術関連に留めて置けばまだ意味が分かるものを。
「そりゃあ、いつでもどこでも、解説と実況をするためですよ!」
「顧問を学院長に据え、大聖教司さまのお墨付きをいただいた犬をマスコットにする「わんわん探索部」! これは目が離せません!」
「はい。そして、その期待を裏切らず、クラブ新設早々、学院の名物「沈黙のトレント」を眠りから目覚めさせた。いやあ、この先も期待できますね」
ゴシップ記者みたいなことを自信満々に言う。
「へえ、あのトレントさん、「沈黙のトレント」って言われていたんだな」
「今は目覚めているから「目覚めたトレント」ってとこか?」
感心するシストにルキーノが冗談を言う。
「「お寝坊トレント」は?」
アルフォンソがぼそりとこぼした。
「アルフォンソ!」
「君!」
はたで見ていたルーベンがバルドとルキーノの勢いに一歩後退する。
「「マジ、天才だな!」」
バルドとルキーノはアルフォンソの左右の手をそれぞれ握りしめ、健闘を称えるかのように軽く振って見せる。
アルフォンソと言えば、今度は余裕を持ってふたりの反応を受け止め、「ふ、当然だ」と流し目で言ってみせ、ちょっとばかり格好をつけてみせた。ちなみに、本当に格好良いと思っているのではなく、冗談のつもりだったのが、「カッコイイ」「やるなあ」とバルドとルキーノはばっしばっしとアルフォンソの肩を叩く。
「いやあ、アツい友情ですね!」
「んー、ちょっぴりお馬鹿さんなところが、のびのびした一年生らしさがありますね」
ふだんのバルドとルキーノのお馬鹿さんぶりに「武術研究部」の実況と解説が加わって、事態の収拾がつかなくなると判断したシストが少年たちを促し、一行は「武術研究部」の部室の扉をようやくノックした。ちなみにそれらのやり取りをしている間、アーテルはリエトを鼻先でつついたり、制服の上着の中に顔を潜り込ませたりと、いつもと変わらぬ調子だった。
つまり、彼らはどこまでもマイペースなのであった。がんばれ、シスト。顧問も君に期待している。
さて、「魔装器具研究部」はその期待の大きさゆえか、いくつもの部屋を使っている。部員数も多いし、器材も素材も大量にあるから、中はごちゃごちゃしていた。
「失礼します。「わんわん探索部」です。ジラルドさんはおられますか?」
ノックしても返事がなかったので、再度叩いた扉を開けてシストは礼儀正しく声を掛けた。
「はーい。ジラルドさん、お客さんですよー」
一般的な返事があって、リエトはなんだかほっとした。天才の卵たちの集団だから、妙な受け答えをする人たちばかりではないかと、心のどこかで思っていたのだ。興味津々で部室内を覗き込むバルドとルキーノは、シストに上着の背中を掴まれ、それ以上は入り込まないようにされている。途中からアルフォンソが手伝い、バルドの方を抑えにかかる。
「君たちが学院長が言っていた「わんわん探索部」?」
部室は複数の部屋が内部の扉で繋がっており、その向こうからなにかの装置を抱えた中背で痩せ気味の生徒がやって来た。あまり日に当たっていないようで、肌は白を通り越して青白かった。
「そうです」
言いながら、シストは目線でルキーノのことをルーベンに託した。学院どころか、下手をすれば国に益をもたらすかもしれない研究をしている場所だ。うかつに触って破損させては大変である。ルーベンは困惑しながらも、なんとかルキーノを捕まえておこうとする。リエトは逆側からルキーノの手を取り、ルーベンを手伝った。ルキーノは「はっはっは」と笑いながら両腕を掲げてふたりを持ち上げようとして、失敗していた。その傍らで、じたばたするバルドを、なんとかアルフォンソが抑え込む。
「武術研究部」は後ろで少年たちのやり取りを実況および解説している。
騒がしいことこの上ない。
ジラルドは彼らを眺めながらまばたきを何度かする。
「面白いね、君たち」
「うるさくてすみません。ちなみに、後ろの「武術研究部」の方々はこの部室前でかち合っただけです」
言外に無関係だと伝える。そして、ここでは落ち着かないから、場所を移そうというシストの提案に、ジラルドは頷いた。
学院内のあちこちにある小広場にはテーブルやベンチが置かれており、生徒たちが教科書やノートを広げて話し合っている。そのテーブルのひとつに陣取る。ジラルドとシストが向かい合わせで座り、バルドとルキーノ、アルフォンソが近くの空いた椅子を移動させて来る。その間、個人的な話をするので、と言ってシストがなぜかここまでついてきた「武術研究部」のニコロとトマスを追い払う。
「いやあ、君たちの行動を実況と解説ができなくて残念だ」
「今後の期待を活躍しているよ」
妙な人たちに興味を持たれてしまったなと思いつつ、「わんわん探索部」の部員たちはふたりを見送った。
「そのうち、「わんわん探索部」の活動中について回りそうだね」
ルーベンの言葉は冗談ではなく、そう遠くない未来にそうなりそうな気がして、シストは思わず身をふるわせる。
「その子が「わんわん探索部」というクラブ名の由来になったのかな」
ジラルドはリエトの傍の地面に腹をつけてうずくまるアーテルを見やる。昼間の明るい日差しの中、まぶしそうに目を細めている。大きな身体に少しばかりいかつい顔のアーテルはだが、至極のんびりとした様子でときおりフスフスと鼻を鳴らしており、いかにも平穏そのものだった。
「そうなんです。ジラルドさんの探し物も見つかると良いんですけれど」
「なにを探せば良いでしょう? 失くした場所や時間の心当たりがあれば教えてください」
リエトの返事を契機に、シストはてきぱきと聞いておくべきことを質問する。
「この魔装器具にはめ込む予定だった魔石をなくしてしまってね。それを探してほしいんだ」
ジラルドが部室から持ってきた魔装器具を少年たちに見せる。
大きさは手のひらに収まるサイズで、ポケットに入れて移動していた。それがなくなっていることに気づいたのは今朝のことだという。
「慌てて学院長に話して、すぐに君たちが来てくれて良かったよ」
必ず見つかるとは限らないのだが、そう言われてしまえば頑張るほかない。
「魔石って何色?」
「どんな形?」
バルドとルキーノが口々に問う。
青白いジラルドの顔がこのときばかりは血色が良くなった。
「セミの形だよ」
「「「「「「セミ?」」」」」」
リエトたち「わんわん探索部」の部員の言葉が揃う。ジラルドは誇らしげに口元を緩める。
「セミの抜け殻に魔力を詰め込んでみたんだ」




