4-1
リエトたちは少し前まで、授業が終わったら教室に残って話し、夕食までの時間をつぶした。リエトはアーテルと共に馬車に乗る。荒れた天候のときはシストを誘って同乗する。アルフォンソとバルド、ルキーノの寮生は寮の食堂へ向かう。ルーベンもまた馬車が迎えに来る。
誰よりも先に仲良くなっていたシストがリエトの馬車に同乗することもあると知ったルーベンは、言いにくそうにしながら懸命に伝えた。
「その、学院内では身分の違いはないと言うし、気を悪くしないかなと思ったんだ。見せつけているとか、やってあげているとか、そんな風に受け止められることもあるかなって」
要はルーベンは良かれと思って馬車へ誘っても、シストが施しを受けたと思わないかと心配したのだ。
この年代の子供らはとにかく、周囲にどうみられるかが気にかかるものだ。制服があって良かった。なかったら、毎朝どんな服装をすれば良いか、悩みに悩むだろう。制服を着ていたって、及第点を取れる髪形になるまでにどれほどの時間を要することか。
「そんなの、ルーベンが気を遣ってくれたんだとしか思わないよ。でも、ありがとうな」
入学したてのころならまだしも、今はずいぶん気心が知れたから、シストの口からはそんな言葉がすんなり出てきた。
そんな風に話しながらリエトとアーテル、シスト、ルーベンたちが向かうのは隠し部屋だ。顔を出すと、残りの部員も集まっていた。
さっそく魔装冷蔵庫を開けてバルドとルキーノがああでもないこうでもないと言い合っている。
「皿洗うのが面倒だなあ」
「もうさ、この皿からみんなが取ればいいじゃないか」
ローストした肉の塊を薄く切り分けながらルキーノが言う。
「だったら、肉はパンにはさんで食べたら?」
バルドとルキーノが顔を見合わせた。そして、ばっと音がしそうなほどの勢いでアルフォンソの方を見る。
「「天才!」」
「だろう?」
自慢げな顔をするアルフォンソは、しかし、ふたりのあまりの勢いに腰が引けていたのをリエトは見逃さなかった。もちろん、わざわざそんなことは口にする必要はない。友の名誉を守るために時には口をつぐんでいることも重要なことなのだ。
そんなことを思いつつ、アーテルが後ろ足で掻きにくいところをわしゃわしゃとかきまぜてやっていると、次第にくたーっと力が抜けていく。猫は軟体動物だとよく言うが、それに匹敵するくらいの力の抜け具合だ。お気に入りの『おれのくっしょん』に顎をうずめてうっとりと目をつぶっている。なお、このクッションはたまにアーテルが咥えてリエトにぐいぐい押し付ける。「アーテルはなにをやっているんだ?」「なんかその、僕の匂いを移しているんだって」
リラックスしているのはアーテルばかりではなかった。
居心地の良い部屋で人目を気にせずに過ごし、なおかつ美味しいものがある。想像以上に気を抜くことができる場所である。
みなで肉のサンドイッチを食べながらシストが言う。
「学院長から失せ物探しのクラブ活動依頼があった」
「おー! 依頼!」
「誰の失くし物?」
「なにを探すの?」
初めての本格的なクラブ活動に、少年たちは沸き立った。サンドイッチを高く掲げたり、目を輝かせたり、ギュインと身体の向きをシストに向けた。アーテルだけはソファに座るリエトの膝の上に顎を乗っけて尾をゆるゆると動かしている。フスフスと鼻を鳴らしたり、リエトを見上げたり、とマイペースである。むしろ、アーテルがマイペースを保てない場面というのは由々しい事態であることは想像に難くないので、現状の方が居合わせる者としては安心だ。
「校内で物をなしくたらしい。わたしたちの二年先輩だ」
そして、「魔装器具研究部」の部員なのだという。
「「魔装器具研究部」かあ」
「うちの「魔装器具研究部」って結構、すごい物を発明しているよね」
「なにを失くしたんだろうね。魔装器具はたいてい大きいから部品か素材かな?」
「財布とか私物かもしれないぞ」
「俺たちにはアーテルがいるから、匂いを嗅いだらすぐ見つかるだろう」
「いや、アーテルもどんなものを探すか分からなかったら難しいだろう。せめて範囲を絞りたい」
わいわい言い合うも、とにかく本人に会って話を聞こうとなった。
「アーテル、学院内で失くし物をしたんだって。探してくれる?」
『いいよ!』
クッションに顎をうずめたまま、上目遣いでリエトを見上げる。尾が元気よく振られる。
「面白そうだ、俺も行く」
「じゃあ、俺も」
「えー、めんどう」
などという意見もあったが、結局、全員で会いに行った。
十数年前に、過去存在した文明の失われた技術が発掘された。
一度は滅した高度文明のロスト・テクノロジーを再発見したということから、再発見技術と名付けられた。この再発見は文明の革命的変化となった。
それらの技術はいたる分野に大きな影響をもたらした。魔道具と呼ばれていたものが魔装器具と名称を変えた。今や人々の生活は魔装器具によって支えられている。現在ではそこそこ裕福な者たちが購入者であるが、じきに庶民の手に届くのではないかと期待されている。
各国はこぞって研究に力を入れた。お祭り騒ぎが徐々に落ち着いて来た結果が年少の者たちを育てようという施策であり、よって、リュケイオンを始めとする各学院のカリキュラムの大幅変更が行われた。再発見技術を学び、研究し、改良する。
さて、そんな魔装器具の分野にて外部の大人たちから注目されることもままあるリュケイオンの「魔装器具研究部」である。
「「魔装器具研究部」と武術ってなんか関係あんの?」
バルドがそんな風に聞いたのは、「魔装器具研究部」の部室の前で「武術研究部」の部員とかち合ったからである。
「実況のニコロと解説のトマス?」
以前、魔獣が入り込んだときのことをアルフォンソが思い出す。
「おおーっとお?! わたしたちのことを知っているようですよ、解説のトマスさん?」
突然、ニコロがテンションが高く話し始めたものだから、間近にいたアーテルがびっくりしやしないかとリエトはひやひやする。背中に手を置いたら、なあに?とばかりに小首をかしげてリエトを見つめてくる。大丈夫そうで安心しつつ、なんでもないよ、とぽんぽんと軽く叩く。お返し、とばかりにアーテルが尾を振ってリエトの脚を叩く。
「そうですね。彼ら「わんわん探索部」の部員ですから、マスコット犬が学院に出入りできるようになった発端の「リュケイオン魔獣侵入事件」の際にわたしたちの実況及び解説を間近で聞いていたのですね!」
「長えよ」
バルドが一刀両断する。
「誰に対しての説明?」
にへらと笑ったルキーノが後頭部で両手を組む。
「ね、待って。どうして僕たちのクラブ名を知っているの?」
ルーベンの言葉に、少年たちははっと息を呑んだ。その隣でアーテルが大口を開けて鋭い牙を見せ———あくびした。
アーテルがマイペースを保てない事態は由々しいと書きましたが、
たいていはリエトがらみであたふたしているだけなので、
大したことがないのかもな、と読み返しながら思いました。




