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3-6

 

 リエトの家族はなるべく食事は共に摂るようにしている。そこで学院のことをよく話していたし、クラブを新設したことも興味津々で聞いていた。隠し部屋のことは秘密にするとなったら、ぺろっと話してしまいそうだ。しかし、それを恐れてクラブのことを話さないのは不自然だ。


『リエトのお父さま、リエトの話を聞くのすき! 聞けなかったら、しょぼんってなっちゃう!』

 アーテルはリエトのことだけでなくその周辺のことも良く見ている。

 しかし、大の大人、しかも事業で大成する伯爵が「しょぼん」。アーテルの言い様に、少年たちは笑いをこらえた。


「「じゃあ、お父さまはオッケー」」

 伯爵には大恩がある腹ペコ男子ふたりが声を揃える。

「お兄さまもいい?」

「いいだろう」

 アルフォンソが頷く。

「お義姉さまは?」

「いいよ。あと何人いるの?」

 ルーベンが噴き出す。

「ええと、とりあえず、それだけで」

 領地のカントリーハウスにいる家族に書く手紙の内容位ならごまかせるだろう。


 さて、このやりとりで秘密にこだわることもあるまいという雰囲気になり、少年たちは結局、学院長に話すことにした。

「発見者特権を主張しようぜ。アーテルだ」

 バルドが鼻息荒く言うのに、ルキーノも肩を怒らせる。

 発見者特権とは最初に見出した者が権利を主張できるとされるものである。


 シストは先だってのトレントの一件でアーテルが目覚ましい役割をしたことを思い出す。アーテルの名前を出して功労者だと言い立てれば当然学院長もそのことに思考を繋げるだろう。そして、大いに恥ずかしめられて繰り広げた過去の失態も。バルドとルキーノは意図せずして脅迫めいたことをすることになりやしないかと危惧した。


 ところが、学院長は話を聞いてあっさり許可した。

「だって、神秘を探索するクラブじゃもの。クラブ自体が隠し部屋を部室にしているなんて、うってつけじゃろう?」

 学院長はそう言ってウインクした。茶目っ気たっぷりだ。

「それに、お前さんたちが見つけたのじゃからのう」

 顧問が把握しておけば良いだろうという。事務側にはちゃんと「隠し部屋」を部室にすると言っておくという。

「あー、ほかの人にもバレちゃうのかあ」

「なに、二階の用具置き場と魔装回路装置室の間に小部屋があるなんて、誰も知らんよ。わしも今知ったもの」

 そんな風にして、拍子抜けするほど簡単に「わんわん探索部」の部室は決定した。

 ところが翌日、「わんわん探索部」の部員たちは学院長室に呼ばれた。


「なにかやらかしたっけかなあ?」

「やっぱり部室として使えないとか?」

 呼び出しということに戦々恐々としながら、学院長室に入る。

「あれ?」

 重厚な机の前に置かれたソファに、学院長と向かい合って座る人を見て、リエトは目を丸くする。

「やあ、来たね、リエト」

 感慨深そうにリエトとその友人たちを見渡す見栄えの良い男性に、アーテルが声を上げる。

『リエトのお父さま!』

 リエトの父親である伯爵は上品な中にも明るく茶目っ気がある男前だ。

「アーテルもいっしょだね」

『うん、いっしょ! おれ、リエトといっしょ!』

「そうだね。頼もしいよ」

 アーテルが褒められた、とばかりに得意げにリエトを見上げる。リエトはその顎の下を撫でる。


「こちらはライネーリ伯爵じゃ。リエトの父上じゃよ」

「初めまして」

「「「「「お初にお目にかかります」」」」」

 この時ばかりは、バルドとルキーノもまた姿勢正しく挨拶をする。何しろ、大口寄付者であり、腹ペコ男子たちの大恩ある貴族だ。


 リエトの父ライネーリ伯爵はにこやかに少年たちを見渡した。

「リエトからクラブの部室のことを聞いてね」

 昨日、どの範囲まで隠し部屋のことを話すか相談し合ったばかりだ。リエトは帰ってそのことを話したのだろう。そして、次の日、伯爵はやって来た。

 なんという迅速さ!

 聞きしに勝る過保護ぶりに、少年たちは驚いた。しかし、それは序の口だった。


「隠し部屋なんてすばらしい! 若者ならではの楽しみだね。いやあ、リエトから聞いてわたしも年甲斐もなくわくわくしたよ。君たちの話を聞くのを楽しみにしているんだよ。うちの息子は実に良い友人を得た」

 手放しの称賛に、一部は頬を紅潮させ、一部は箱入り息子を悪の道へ引き込むとはなんたることかという苦情でなかったことに胸をなでおろす。


「ただ、何もない部屋だと聞きましてね。リエトが課外活動をするのは好ましいけれど、環境を整えたい。温かい飲み物がなければ、喉が乾燥して風邪をひいてしまうでしょう。毛布も必要だし、ソファもクッションも」

 伯爵は少年たちから学院の長に視線を移して滔々(とうとう)と続ける。

「これだけは譲れません。リエトが体調を崩したりしたら!」

 ライネーリ伯爵の言に真っ先に反応したのはアーテルだ。

『リエトが身体を壊したらタイヘン! ダメ!』

「そうだよな、アーテル」

 当然とばかりに伯爵が頷く。学院長は微妙な顔つきをしている。

 過保護である。実に頑丈に囲い込んでいる。

 無言で見やって来る友人たちの視線に、リエトは居心地が悪そうに身じろぎした。


「しかしですな、元々、隠されていた部屋でして」

 当然のことながら設備は整っていないという学院長に、伯爵はひとつ頷く。

「もちろん、我が子の身体のためのことだから、こちらで用意します。部員のみなで使って下さい」

 渋い顔つきの学院長ではあるが、少年たちはともかく、世事に長けた伯爵はその表情が殊更作られたものだと見破っていた。


 伯爵はふと声の調子を変える。話題が切り替わるという合図だ。

「時に学院長、リエトのクラブはトレントの長の沈黙を破ったそうですね。トレントを目覚めさせたとか。創設当時から華々しい功績をもつクラブの顧問となられて、ご祝着にございます」

「これはこれは、ご丁寧に痛み入ります」

 学院長は悠然と受けるも、アーテルの功績をクラブの、ひいては顧問である自身の功績にしただろう、という言外の意味合いをしっかりと読み取っていた。

 部員たちは新入生ばかりだ。そんな者たちが新設したクラブの華々しい功績について、第三者たちはどう思うか。おそらく、学院長の指導があったに違いないと考える。顧問である学院長が主導したのだと。

 実情は違うが、人々はそう思う。それによって学院長の名声が高まり、地位が確固たるものとなる。ほとんど、アーテルの功績を横取りしたようなものだ。

 伯爵は賛辞を述べるに見せかけてそういった情報を盛り込んだ。


「こちらとしましても、アーテルの特異性を前面に押し出すのはよろしくない。だから、(黙っておきます。あなたも黙って)部室の必需品を受け取っておいてください」

 括弧内の言葉は語られることはなく学院長には伝わった。ほかには、シストだけがなんとなく察した。ルーベンがちょっと文脈がつながっていないのではないかと、思ったが勢いのある事業展開を遂げる伯爵家当主の話すことに疑問を差し挟む余地はなかった。

「それでは、ありがたくちょうだいすることにしましょう」

「では、早速手配します」

 伯爵は立ち上がって学院長と握手した。





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