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3-5

 

 隠し部屋を「わんわん探索部」の部室として申請するかどうか。


「やっぱさあ、子供の世界に大人が入り込むってどうなのよ」

「自由を標榜するリュケイオンの学院長ならば、大丈夫じゃないか?」

「ううん、話が分かりそうだけれど、国を代表する三学院のひとつのトップに立つってことは、それだけやり手だってことじゃないかな」

「んん?」

「つまり、人聞きが悪いこともやっていそうということか?」

「わーお、ルーベン、言うなあ!」

「えっ、やっ、あの、」

「でもさ、現実的には顧問に言っておくべきだよね。部室とするのなら」

 学院長は顧問だから正直に話そうというのと、秘密にしておこうというのと、そこから派生して話題はあちこちに跳び、喧々諤々(けんけんがくがく)と話し合った。


 話し合う少年たちを他所に、リエトの傍らに寝そべるアーテルは「くあ」と欠伸をした。

「わ、でっかい!」

「牙、すげえ」

「アクビ、長えよ」

 ばくん、と口を閉じたアーテルはうっとりと目を閉じた。

「アーテル、眠い?」

「くぅーん」

 リエトの小さな問いに、アーテルは鼻を鳴らす。

「どっちなんだ、それは」

 アルフォンソがくく、と喉を鳴らす。


「リエトはあまり長居できないだろう」

 シストがはたと気づく。もう迎えの馬車がやって来て待っているだろう。

「あ、でも、クラブ活動を始めたって話しているから、大丈夫だよ」

「俺たち寮生は良いけれどさ、リエトやシストたちは家族に話さなきゃな」

 課外活動をすれば当然帰宅時間は遅くなる。

 そこで、どこまで話すかという話題になった。


「それこそ、ちゃんと部室があると教えた方が安心するだろう」

 シストの言葉に、それもそうかとなったのはみな、幼いころに身体が弱かったというリエトが、伯爵家では非常に過保護にされていると知っているからだ。リエトが家族にクラブ活動を始めたと話したら、とても喜んでくれたと嬉しそうに言うものだから、さもありなんと頷き合う。


 バルドは男爵家ではあるものの、庶民とそう変わらない暮らしをしている。ルキーノは兄弟が多く、なんとかリュケイオンにもぐりこめたのは僥倖ぎょうこうだと思っている。なにしろ、腹いっぱい食事を摂ることができるのだ。極楽浄土と同義だ。

 腹ペコ男子たちはライネーリ伯爵が多額の寄付を行ったおかげでカフェテリアの食事の量も質も向上したとあって、大恩を感じている。しかもそれが、以前、身体が弱かった息子が元気に学院に通うことができているから、という理由からなのだから、リエトが学院のことをあれこれ語るのは歓迎するところだ。きっと、リエトが楽しそうに話したら、伯爵も喜ぶだろう。


 バルドと同じ男爵家のシストは彼の家よりももう少しマシだが、やはり内情は楽ではない。聡明なシストはよくよく分かっており、学院生であるうちにそれなりの実績を積み、卒業までには就職先を見つけておく必要があると考えている。遊ぶことだけに現を抜かすわけにはいかないが、学生でなくなれば、それこそ仕事以外に裂く時間がなくなるだろう。今だけは取るに足りないように思われることをのんびり楽しむのも良い様に思われた。


 ルーベンの家は子爵家でそれなりに歴史があり、それなりに資産を持つ。お陰で、大きな苦労をすることなく過ごして来られた。それだけに、同年代の荒っぽい少年たちの中では委縮する向きもあったが、いつの間にか騒がしい集団の中に溶け込んでいる。居心地が良いのは、彼らに悪意がないからだ。からかうにしてもしつこく繰り返すことはなく、大抵みんなで笑い声を上げて終わる。みんなで楽しめるものとなるのだ。自分が優位に立つために相手をおとしめようという雰囲気はない。


 アルフォンソはグループの中で最も高い爵位である侯爵家の縁の者だ。侯爵の後妻となった母と、物心ついたころから山で暮らしていた。母は山の民の出身で、侯爵に熱烈に求められたものの、貴族社会に馴染めず、幼いアルフォンソを連れてほとんど山の中で暮らした。だから、腹違いの兄ふたりと姉ひとりはアカデメイアに入学したが、その学院は貴族の子女ばかりが通うと聞いて、アルフォンソはリュケイオンを希望した。母が亡くなってから侯爵家に引き取られたアルフォンソもまた、貴族社会に馴染めずにいたのだ。寮生活をするようになってようやく楽に息をすることができたような気がした。


 学院で初めて友だちとなったリエトが話す家族の話は心温まるものばかりだ。リエトもアーテルも大切にされており、また、リエトも家族のことを好いているというのがありありと分かる。アルフォンソが言葉を探しながらリエトにそう言ってみると、家族に手紙を書くことを勧められた。


「手紙?」

「そうだよ。リュケイオンでどんな風に過ごしているのか書いてみたら? きっと、アルフォンソのご家族はアルフォンソが離れた場所でどんな風に過ごしているか、気にしていると思うな」

 そうかなと懐疑的になりつつも、学院生活の費用を出して貰っていることもあり、報告の意味合いを兼ねて手紙を書いてみた。便箋を前に腕を組んで難しい顔をするアルフォンソに、バルドやルキーノが「カフェテリアのどのメニューが美味しかったかを書こう」と言い出した。当然のことながら、一位を決定するまでには相当白熱した意見が交わされた。アルフォンソはバルドとルキーノが言い合うのに時折リエトが口を挟むのを聞きながら、それらの内容を簡単にまとめて手紙に書いた。

「え、そんなのでいいのか?」

「まあ、でも、息子がちゃんと食べているって分かったら安心するか!」


 さて、そんな内容の手紙の返事はすぐに返ってきた。兄ふたりと姉ひとりからそれぞれ二枚ずつ、父にいたっては三枚も書いてあり、計九枚にびっしりと書かれていた。

「分厚いな」

「おー、文字ぎっちり!」

「読んじゃ駄目だよ」

 家族四人はアルフォンソが元気そうにしていること、友だちができて楽しそうであることを寿ぎ、くれぐれも身体を大切にするようにという言葉がつづられていた。


「なんで、気づかなかったんだろうな」

 どうして、窮屈だとばかり感じていたのだろうか。こんなにアルフォンソのことを心配し、思いやってくれるというのに。

 たぶん、離れてみることが必要だったのだろう。そして、リエトがアルフォンソの背中を押してくれた。手紙を書くようにと言ってくれたこともそうだが、リエトがアーテルや家族を大切にし、逆に大切にされていることが、とても良いこと、素晴らしいことに思えたからだ。とても輝かしく、まぶしいほどだ。


 だから、アルフォンソもまた、リエトが進んでするならともかく、後ろめたく思いつつ家族に隠し事をするのを好まなかった。

 それは、シストもルーベンも同じ考えであった。

 そこで、隠し部屋については話すのなら、両親と兄弟までとし、必ず口止めすることとした。


 さて、問題は冒頭へ戻る。家族は良いとして、顧問である学院長に話すか否か。





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