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3-4

 

 秘密基地。

 ある年代の少年たちの心を捉えて離さない響きを持つ。

 同じ類のものに、ひみつの合言葉、というものもある。

 とにかく、グループだけのひみつのなにか、というのは特別なものなのだ。仲間内だけで分かるというのが連帯感や結束力を強くする。


 そんなわけで、アーテルが見つけた「隠し部屋」に、少年たちが興味を持たないはずはなく、すぐに行ってみようということになった。

「アーテル、案内してくれる?」

『いいよ!』

 アーテルは意気揚々と歩きだす。少年たちはリエトを先頭にぞろぞろと後に続いた。窓から差し込む光はずいぶん赤味を帯びている。このときばかりは、腹ペコ男子たちも腹の虫のことを忘れていた。


「んん? ここは?」

「用具置き場だな」

 二階の校舎のコの字の下の角だ。コの字の縦線部分は廊下と教室がならぶ。

「確かに、ここの隣って空間が余っていそうだよな」

「その向こうは、ええと、魔装回路装置室って書いているよ」

 バルドが用具置き場の扉を開く。細長い空間に机や椅子、チョークと言った予備設備が置かれている。ルキーノがその隣の魔装回路装置室の扉の取っ手に手を掛けたがびくともしない。

「鍵がかかっている」

「当然だな」

 灯りから空調までのさまざまなエネルギー供給管理をここで行っているのだから、容易に入られないようにしている。


「うん。その用具置き場と魔装回路装置室の間に小部屋があるんだ」

「「「「「へ?!」」」」」

 アルフォンソがぺたぺたと壁を触る。

「見えない扉があるってこと?」

「ううん。こっちだよ」

 リエトは用具置き場に入る。


「初めはアーテルが開けてくれたんだ。でも、僕がやっても開くことができたから、」

 言って、リエトは用具置き場の壁を軽く握った拳で叩いた。

 トントン、トトン、トトトン

 すると、すう、と扉が現れた。


「「「「「ああっ!」」」」」

「ね?」

 笑顔で振り向いたリエトは目を丸くした。狭い用具置き場にごちゃごちゃといろんなものが詰め込まれている。特に、大きなアーテルが定位置だとばかりにリエトの隣を陣取っているものだから、みんな、壁から現れた扉を見ようと入り口から身を乗り出している。

「ぐえっ」

「押すな!」


「誰がやっても扉は現れるのか?」

「うん。今のリズムでね。ね? アーテル?」

 そうだよね、とリエトが確認すると、アーテルが『そうだよ!』と答える。


 扉を開くには、今度は逆のリズムを辿るのだと言うと、「やりたい」という声が一斉に上がる。

 その栄誉ある権利はアルフォンソが勝ち取った。もちろん、ジャンケンの結果である。

「くうっ! なぜおれはパーを出してしまったんだ!」

「本当だよ、バルドのパー(バカ)!」

「なんだよ、君もパー(バカ)じゃないかよ」

「アルフォンソ、パー(バカ)ふたりは放っておいて、早く試してみてくれ」

 シストが大分慣れてきた様子で先を促す。ちなみに、同じく敗退したルーベンはなにかがツボに入ったらしく、うずくまって笑っている。


「んだよ、みんなパー(バカ)だったじゃないか」

「そうそう。シストもルーベンもパー(バカ)!」

「ジャンケンだけだ!」

 言外に君たちふたりといっしょにするなとシストが青筋を立てる。

「そう冷たいこと言うなよお」

「そうだよ、俺たちパー(バカ)仲間じゃないか!」

 お馬鹿さんとはジャンケンだけでここまで盛り上がれるものなのか。


 唯一、パーを出さなかった賢明なアルフォンソはリエトに教わった通り、壁を叩いた。場所を譲ったリエトは扉が現れたのを見て嬉しそうに「ね?」とアルフォンソを見上げる。

 アルフォンソは唇を緩めて頷き、次に、リエトが言った通りに扉を叩く。

 トトトン、トトン、トントン

 取っ手に手を伸ばそうとすると、触れる前にギィと低い音をたてて、内側へ開いた。


「開いた!」

「おー!」

 ああでもないこうでもないと騒いでいたバルドとルキーノが注目する。


 そこは教室の三分の一ほどの小部屋だった。

 彼ら六人と一頭が広々と過ごすのにちょうど良い空間だ。


「窓がある」

「え、でも、外側からこんな部屋見たことあるか?」

「ないな。しかし、合図で現れ、ひとりでに開く扉の部屋だ。外から見えない窓があっても不思議じゃない」

「開くかな?」

 ルーベン、アルフォンソ、シストとリエトがそれぞれ話し合う間、バルドとルキーノが用具室の机みっつと椅子をむっつ、小部屋に運び入れる。

「んー、いっぺんにこんなになくなったら怪しまれるかな?」

「でもさ、君、ここにこんなものあるって知っていた?」

「いんや、まったく」

「じゃあ、なくなっても気にしないだろう?」

「そうだな!」


 隠し部屋の窓は空いた。新鮮な空気が入って来る。窓が開いた状態で、外からどう見えるか確かめて来ると言ってシストが出て行き、アルフォンソとルーベンが掃除用具を取りに行った。リエトはアーテルが目立つので待機を命じられた。

 すっかり、彼らはこの部屋を秘密基地にする気でいた。


 手分けして掃除していると、シストが戻って来て、窓は外から見えないと言う。

「教室分だけの窓しかない」

「うわーお、本格的!」

 シストの言葉に、ルキーノが興奮する。


「隣が魔装回路装置室ってのがカギっぽいよな。そっちからエネルギー供給してなんらかの魔法が掛かっていそう」

 バルドが珍しく穿ったことを言う。


「じゃあ、ここを「わんわん探索部」の部室にするってのはどう?」

「「「「賛成!」」」」

 ルーベンの提案に、一名を除いた少年たちが賛同する。

「シストは反対なの?」

「いや、顧問がなんて言うかなと思って」

「あー、学院長かあ」

 最高潮に達していた気分がとたんにしぼんだ。




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