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2-4

 

「「わんわん捜索隊」は?」

 そう提案したのは以前自身が出した名前を少しばかり変えただけのルーベンだ。

「「神秘探検隊」だ!」

 バルドが胸を張る。

「研究会じゃないの?」

「実際に動くからな」

 小首を傾げるリエトに、アルフォンソが言う。


「んじゃ、「わんわん探索部」?」

 バルドは自分が口にしたクラブ名ではなく、ルーベンの案を一部修正してみせる。そういうこだわらない点がさっぱりしているというか、適当に言っているだけなのが露見するというか。


「あ、なあ、「わわわん探索部」はどう?」

 そう提案したルキーノに、はっとバルドが見やる。ふたりは無言のまま、ガシッと手を握り合う。

 阿呆だ。


 なお、アーテルは犬ではない。

「だったら、「黒狼探索部」ではないのか?」

 だから、真面目なシストはそう言った。それだけだ。しかし、集まったメンバーが悪かった。

「えー! そんな思春期の妄想を煮詰めたような!」

「やだあ、恥ずかしー!」

 どう違うというのか。わんわん云々とどっこいどっこいだ。

 シストもそう思ったから、こめかみに青筋を立てる。


「んー、じゃあ、間を取って「わんわん探します部」?」

 シストの無言の怒りを察し、ルキーノが折衷案とも言えないことを言い、バルドが他人事のように返す。

「おー、ていねいだな」

 丁寧かもしれないが、それもおっつかっつだ。


「リエト、どうしたんだ?」

 バルドとルキーノ、そしてシストのやり取りを聞きながら、うつむいていたリエトにアルフォンソが気づく。

「んー、なんか、ボタンが取れそう」

 糸がびろーんと伸びたボタンをつまんで見せる。

「もういっそ、糸をちぎってボタンを持っていた方が良いんじゃない?」

 いつ糸がちぎれるか分からない、というルーベンにそれもそうかとリエトがボタンを千切ったとき、ちょうどどこからかネズミが出てきた。驚いたリエトの手からボタンがこぼれおちる。ネズミがそれを咥えて逃げて行く。


「「「あ!」」」

 一連の出来事を見ていたリエトのほか、アルフォンソとルーベンの声が揃う。


 くしくもそれは「リエトの手から離れ遠ざかる物体」となった。

『取ってくる!』

「取って来い!」遊びよろしく、アーテルが駆けだした。開いていた扉から廊下に出る。

 リエトは慌ててアーテルの後を追う。ほかの少年たちも身軽く後に続く。


 シストが走りながら言う。

「付き合いが良いな、君ら」

「シストも」

 アルフォンソが視線だけ寄越してぼそりとこぼす。

「わたしは———なんか、つられただけだ」

 探した言葉が出て来ず、ちょっと恥ずかしそうにそんな風に言う。

「なにそれ」

 アルフォンソが今度は顔を向いて、ぷっと吹き出す。シストも笑う。


 ルーベンもまた、迷ったものの、結局ついて行った。彼らの中で一番足が遅くて引き離される。

 アーテルは建物を出て、広い学院内を疾駆する。途中で見失うも、道行く者に尋ねれば、すぐに「あっちへ走って行ったよ」と教えてくれる。今や学院の名物獣となっている。どちらかと言うと引っ込み思案なルーベンは置いて行かれまいという一心から知らない人に話しかけにくい、という心境を忘れ去っていた。それが功を奏し、リエトたちといっしょに行動し、騒動に巻き込まれるうちにコミュニケーションを取るのが上手くなった。そうなってみれば、人に警戒心を抱かせにくく人好きされやすいことが判明するのだが、それはもう少し後のことだ。


 さて、ルーベンはコの字の校舎の奥、「神秘植物研究部」と「薬学研究部」の畑までやって来た。近くにいる者に聞けば、リエトたちはこの先に向かったのだという。

「むっちむち♡の樹」の洗礼を受けないように慎重に壁伝いに歩いて難関を越える。

「この先って、まさか、」

 ルーベンの危惧は的を射ていた。

 アーテルは学院の奥庭のさらに奥に鎮座するトレントのところにまでリエトたちを導いていたのだ。


「だめだよ、アーテル、こんなところまできちゃ」

 そう言うリエトの手にはボタンがつままれてるから、ネズミから上手く取り返すことができたのだろう。

 アーテルの脚力ならば、ネズミを易々と捕獲できた。ただ、リエトが追ってきていたので、速度を合わせた。それでいてネズミを見失わずに追ってきたのだ。


「これが学院創立から植えられているっていうトレントかあ」

「「神秘植物研究部」も「薬学研究部」も、このトレントからアドバイスを得ることができないでいるんだよなあ」


 そう、畑を越えた先には英知を持つと言われる神秘植物、トレントが植えられている。人の言葉を介すものもいて、神秘植物の育て方の助言をくれるというエピソードはよく童話に出て来るおなじみのものだ。


「でっかいよなあ」

「なあ、みんなで両手を広げて囲もうぜ!」

「えー、囲み切れる?」

 なぜ、大きな樹があれば人は両手を広げてぐるりを囲みたがるのか。ともあれ、囲むのに何人も人が必要なほどの幹の太さ、それに見合う高さを誇る大樹である。


「アーテルは———無理か」

「なあ、アーテルだったらトレントと話せるかなあ」

「それができたら、「神秘植物研究部」も「薬学研究部」も大変だろうな」

 お祭り騒ぎとなるだろう。

「リエト、アーテルに聞いてみたら?」

 それはなにげない言葉だった。受けたリエトも気軽なものだった。

「アーテル、なにか分かる?」

 リエトに尋ねられたアーテルは小首を傾げる。そうしてみれば、鋭い目つきの面差しは可愛らしさを生む。


『ねているよ』

「「「「「「寝ているの?!」」」」」」





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