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2-3

 

 授業が終わり、空き教室にリエト、アーテル、アルフォンソ、バルド、ルキーノのいつものメンバーにシストとルーベンが加わっていびつな円を描くように座っている。


 アーテルが共に入部できるクラブを作ろうということになり、シストが巻き込まれた。彼とよくいっしょにいるルーベンも当然のように新設メンバーに組み込まれている。

 子爵子息のルーベンは最初、アーテルを怖がったが、リエトといっしょにいるアーテルは怖くないと言う。

「じゃあ、大丈夫だな」

「うん。アーテルは常にリエトといっしょにいるから」

『おれ、リエトといっしょ!』

 得意げに顎を上げる。


「ふふ。本当にアーテルはリエトが好きなんだねえ」

 恐ろし気な姿も見慣れて来る。そうなってくると、ちょっとした仕草に可愛らしさを見出すようになり、ルーベンはアーテルに語り掛けることすらできるようになった。

『おれ、リエト、だいすき!』

「僕もアーテルが大好きだよ」

 子供っぽいやり取りも、可愛らしい外見のリエトといかついアーテルの組み合わせでは、ほのぼのした雰囲気があって好意的に受け入れられる。


「ルーベンはもしかして犬は苦手なのか?」

 ふだんあまりしゃべらないアルフォンソは仲間内ではけっこう口を開き、的確なことを言う。

 ルキーノは話しかけられて少しばかり驚きつつも頷いた。

「犬に追いかけられて下衣のお尻の辺りを噛みつかれたことがあって」

 沈黙がしばらく訪れる。

「それって……」

「もしかして」

 重い空気におずおずと声が上がる。そして、決定的な言葉が放たれた。

「ズボンが破れてお尻がぺろり?」

 ルーベンは無言で首肯する。

 声にならない声が同時多発する。ルキーノは両手の指先をぴんとたてて口元を隠す。バルドはなぜか両手を腰に当てて肩を怒らせる。アルフォンソは腕組みする。シストは両掌を握りしめる。リエトはギュッとアーテルに抱き着く。ひとり分かっていないアーテルはリエトに構われるのは大歓迎とばかりに激しく尾を振る。


 しばらくして、気持ちが落ち着いたシストは無言でルーベンの肩を叩いて健闘を称える。それを潮に少年たちが騒ぎ出す。

「うわーお!」

「な、なんて古典的な!」

「勇者だ!」

 ルキーノが珍妙な声を上げ、バルドがにやつき、アルフォンソがルーベンにぐっと親指を立てて見せる。


 脱線しがちな話は行きつ戻りつしながら、新しいクラブに関して、なかなかまとまらない。

「アーテルはさ、トクベツな獣だろう? 「神秘生物研究会」なんてのはどうだ?」

「だめだよ! アーテルを被検体にするなんて!」

 すかさずリエトが抗議する。

「そんなのにするわけねえって」

 提案したバルドが腕組みしながら分厚い唇をひん曲げる。

 バチバチと火花を散らすふたりをいなすように、シストが口を挟む。

「そのつもりがなくても、「神秘生物研究会」と銘打てば、行きつく先はリエトの言う通りになるだろうな」

「そうだな。研究対象なんて態の良い言い訳だ」

 アルフォンソも同意する。

「それもそっか」

 バルドがあっさり引く。

 軽い。


「うちの学院のクラブって妙ちくりんなのが多いよなあ」

「リュケイオンのクラブはヘンなのばかりだけれど、自分を出せる場所なんじゃないかなあ」

 ルキーノが後頭部で両手を組んでへらりと笑うのに、ルーベンがおずおずと言う。

「んん? どういうことだ?」

 バルドが眉をしかめると、ルーベンが腰が引けたようになる。犬だけでなく、大柄なバルドもちょっぴり苦手なのだ。

「わたしたちの年代はどうしたって、周囲にどう見られているかを常に気にするからな。それが、クラブの中では好きにできる。やりたいことを存分にやれる。自分を出せるというのはそういうことなんじゃないか?」

 十代半ばころの子供たちはダサいかどうかが行動を左右する。ダサい(アン・クール)ことはしない。ダサい格好もいやだ。

 そうやって、周囲に自分がどう映るかを気にかける。

 シストの言葉に、ルーベンはこくこくと二度三度頷く。

「つまりは、クラブは心地良い居場所なんだ。そうして、クラブは一方向に突出するようになった。いわば、思春期のガス抜きだ。それが分かるからこそ、学院もきつい取り締まりをしようとはしない」

「それであの突き抜けた感じなのかあ」

 シストの解説に、リエトは合点がいく。




 後日、リエトはアーテルと共に学院内を歩いていると上級生たちに声を掛けられた。アーテルを寄越せと言うのに断るも、しつこく要求して来る。


「そいつはアビス神殿への良い手札となるだろう」

「俺たちがうまく使ってやろうというのだ。感謝しろ」

 アーテルを物のように扱い、あまつさえ、自分たちの欲得づくのために利用しようというのにリエトは怒った。しかし、続く言葉に怯んだ。

「ふん。いかにも貧弱な君なんかよりも俺たちの方が持つにふさわしい」

 いつも助けられっぱなしだという自覚はあった。


 言葉に詰まったリエトに、小柄な下級生などくみしやすしとばかりに、上級生たちが取り囲んだ輪を縮める。

 これに顕著に反応したのはアーテルだ。


 大勢で囲んでやいやい言い、その結果、リエトが泣きそうな顔をしたのだ。

『許すまじ!』

 突然、低い唸り声をあげたアーテルに、上級生たちは自分たちが手を出そうとした獣がどれほどおっかないかを、ようやく悟った。鼻に皺を寄せ、牙をむき出しにする。踏ん張る四肢はそこいらの犬とは比べ物にならないほど太い。

 合図もなく一散に逃げ出した上級生たちを、アーテルは追いかけた。そうして、次々と下衣のお尻の部分を噛み破ってやった。


 以前、ルーベンが話したことを聞きおぼえていた。なんだかよくわからないけれど、タイヘン恐ろしいことなのだと学習したアーテルはやってやったのだ。人間の身体に噛みついてはいけないと言い含められているから、服ならば大丈夫なのだろう。ちなみに、リエトやアーテルに危害を加えようという者も例外だ。


 とんでもなく恐ろしい目に遭わされ、ダサい姿を衆目にさらされた上級生たちは学院側に泣きついた。こういうとき、自分たちの非を幾重にもオブラートに包み、さも相手が悪いというように言いつけるのは鉄板だ。凶暴な獣がいきなり通りすがりの善良な生徒に噛みついた、くらいの話になっていた。


 その一件を知ったバルドとルキーノは、血気盛んに学院側に乗り込もうとし、アルフォンソとリエトが止める傍ら、シストとルーベンが目撃者を捜して証言を集めた。


 ちなみに、アルフォンソはバルドと力が拮抗していたが、リエトはルキーノに押されてずるずると後退し、アーテルが助太刀いたす!とばかりにリエトのお尻をぐいぐい鼻先で押す。

「潰れちゃうよ!」

『リエト、つぶれる! タイヘン!』

 リエトが上げた悲鳴に、アーテルがおろおろとその場をうろつき、ルキーノは腹を抱えて笑い出した。そんな風にしてルキーノを止めるというミッションはクリアした。


 ともあれ、学院側にはみなでアーテルの擁護をした。当然の仕儀だと。それどころか、リエトの傍にいたいアーテルを引き離すなど、アビス神殿の意に反するというシストの言葉に軍配が上がった。

「よっぽどゴッリゴリに押したんだなあ、大聖教司さま」

「ああいういかにも優し気な人が実は怖いんだよ」

 うへえ、という顔をするバルドに、ルキーノが訳知り顔になる。

「みんなのお陰でアーテルが悪くないって分かってもらえたよ。良かったね」

『おれ、みんなの仲間!』

「よっし、じゃあ、クラブの名前を決めるか!」


 こうして、よくある「冒頭に戻る」ではないが、いっかな決まらない新設クラブについて話し合うのだった。

「お腹空いたー」

 脱線しまくりである。





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