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いつか魔女が眠るまで~ゴーストクリエイター魔女になる~  作者: 穂波祈弦
一章 脱出編・望まないはじまり~書きかけの小説をかかずに死ぬとは情けない~
9/28

9 そしてその書、知の泉への鍵

 


 悶々として熟睡できない日々のなか、珍しく今日はずいぶん寝た気がする。プラマさんお手製のフライパン目覚ましを食らわなかったらしい。


 「んーおはようござぃマース」


 背伸びして、あくびをしながらノソノソと起き上がった。連日プラマさんから、みっちり色々指導いただいてるせいか、早起きが板についてしまったはずだが、今日は何故だか外が明るい。つまり日が昇っている?


「あれ?」


 朝から、プラマさんが、現れないということはなにかあったのだろうか。もしかして、自分のほうが早く起きたかと思ったけれど、まさかのあのプラマさんが寝坊?


 核式生命体(ホムンクルス)は、ぶっ通しで数日稼働もできるらしいけれど、なにもない時は、プラマにも基本的に最低限休止期間は必要らしい。ぶっ通しで稼働していると、熱暴走するがごとく身体が熱くなるらしいのだ。でもさすがに不出来ながら、不肖の弟子、ご指導賜っていても、そこまで無理はさせていないはずだ。


 ならやはり寝坊?


 ーーこれはこれは、プラマさんが寝坊とは……ふふふふふ。


 足ビリビリのお仕置きと、フライパン目覚ましのお礼を、やり返したりするべきでは?


 ちょっとした、いたずら心、もとい邪な気持ちが芽生える。さすがに普段のお礼から、ビリビリアタックはしないが、フライパンで起こしてさしあげるのくらいは、許されるだろう。 


 ーーでは早速、調理場から、フライパンを……。


「フライパンで、プラマさんを」

『フライパンがなんでせう?』

「へ? ぷぷぷぷぷプラマさん!?」

『なにかやましいことを考えてやがりましたね?』

「ない、ないです、まったくないです!?ふゅふゅふゅ~♪」

 『吹けてないでいやがります』


 ーーくっ、フライパン目覚まし、ならず、無念っ……。さすがは、プラマさん、私の上には上をいく。


『一昨日きやがれです、ふっ、師匠に勝てる弟子などいないのです、しかたない、今日は許してやるでせうっ』

「すいません! ありがとうございますっ!」

『それで、ご飯ができていやがるので、さっさと着替えてくるでやがります、やることが今日は目白押しでなのでせう』

「了解しました!」

『洗濯は、かごにいれておくでいやがりますよー!』


 そういって去っていたプラマさん、おかんか、なんて突っ込みをいれたくなったがグッと我慢した。そこそこのご家庭では、裏番長を司る母という存在、心理的、財布的な紐を握っている人には勝てないと決まっている。

 しかし負けない。

 プラマさんが、部屋を出ていくまで敬礼し見送ったあと、いつか、いつか、フライパン返しをと、心に固く誓った。


「さてと、着替えないと、そういえば何で早く起こさなかったんだろう、聞き忘れた、ま、いっかご飯食べながら聞こう」


 服を取り出すために、クローゼットを開けた。寝室の部屋に備え付けられたクローゼットは、拡張型になっており、見た目よりかなり広い感じだった。クローゼットを開けると、二部屋ぶんほどの奥行きがある。寝室より広い。畳でいうなら20畳くらいと大容量だ。

 

 ーー一人での暮らしで、そこそこものの置き場にこまる人にはうらやま、けしからん感じの大容量!


 そこには、ローブのようなもの、コート類とおぼしき服、肌着、寝間着、普段着、軽装の服、など様々、綺麗に詰まっている。寝室にいけば着替えられると、プラマさんに案内されたけれど、こういうことだったのかと、倒れたあとで知った。倒れた時に着ていた寝間着もここから出したらしい。


 正直この拡張クローゼット機能は有能すぎる。これはすごい。巨大拡張型クローゼット、これは自分の持っている知識のものよりかなり便利かも。


 そして、ここで生活をはじめて、似たように便利なグッズを実感したものが、もう一つあった。多機能かごだ。服を入れると、勝手にかごにいれたものは、染み抜き、消臭済みで、洗浄、浄化されているのだ。奥さま必見の一品である。シワにはなるので、あとは、プラマさんが|干してくれるらしい《家事は自分の領分らしく譲れないらしい》。洗濯機要らずとはこの事か。なにこれお一人様御用達になりそう。


 ちなみにこれは、プラマ曰く高機能カゴらしく、ズボラマスターアスリアのお手製らしい。プラマさん曰く、研究以外超がつくほどのズボラマスターだったらしいアスリアさんが、汚部屋(OBEYA)化させたのだという。その結果キノコが生えた服を見つけ、プラマは絶叫したらしい。そして、プラマさんが直訴して、造らせたとか、なんと便利な。


ーー究極のズボラは服も洗わないだと……!? 


 そんな、衝撃も受けた。その結果生まれた多機能かごだが、確かにシミは、綺麗に取れた。取れたのだが、やっぱり水洗いしないと洗った感がぬぐえず、しばらくなれそうにない。知識の中であった洗濯板や、洗濯機は、この世界に存在しないのだろうか……。あの手間を恋しがるときが来るとは。


 いまだなれないけれど、すっぽりと服を脱いで、とりあえずカゴにいれる。


 それから着替えて、部屋を出た。ギロりと、甲冑に睨まれたので、足早に恐くなって走る。階段をおりて、広間から調理場にいくと、すでにプラマさんがご飯を並べていた。一人分のご飯である。


 プラマさんは、ご飯を食べられなくはないけれど、変換効率自体は悪く、エネルギーにあまりならないらしい。そのため、あまり食べないとのこと。マスターからの力の供給で十分だそうだ。今は自分と同期しているので、それで勝手に力が流れて賄えているらしい。アスリアが眠ってからは、休止のスパンを長くして省エネし、稼働時に家事をしていたとのこと。


 それに一月分の食料しかないのに、無駄食いするわけにはいかないとのことだ。食べられるなら食べてほしいけれど、今は遠慮されたので無理に進めないことにした。申し訳ない。


 でも食べられるのなら、余裕ができたら一緒に食べたい。 


 手洗いをして、うがいをし、席について食事をとりはじめると、プラマさんも反対のテーブルあたりに腰かけた。光の玉だからどこら辺が、腰なのかわからないけど。


「もぐもぐもぐもぐごくっ、あのふぁっ、今日起こしにくるの遅かったけど、なんかあったでしょうか、私に教えるので疲れてるとか?」

『物覚えが悪い生徒ほど可愛いというやつでいやがりね、疲れくらいどうということもないでいやがります』 

「プラマさんや、それ絶対嫌味でいやがりますよね、ぐぬぬ、でも、面目しだいもございません、不出来な生徒でございやすっ」


『物覚えの良し悪しなんて、魔女の長い人生なら些末なことだと思いやがりますが、今回ばかりは急ぎでやがりますからね、ま、でも、そんな嫌みをいうために寝かせたわけではないでやがります、最近寝付けていないように感じたでやがります、ぐっすり休んだでせうか?』


 なるほどバレていたのか。あれから、一週間と半分ほどたって、勉強は嫌でも書き取り効果によって、身に付いてきていた。記憶力がなかろうとあろうと、あのビリビリお仕置き訓練法のやり方は嫌でも覚える。心理学の実験で、スキナーさんという科学者がおこなった、箱のなかのネズミとかハトみたいな気分だった。エサのレバーを、引いたら、電撃を流して、ビリビリーみたいな学習の反応を知る有名な方法実験のことである。そのラットさんになった感じだ。唯一ビリビリお仕置き訓練法、これのいいところは肩こりが緩和されるくらいか。そんな実験もとい、学習のおかげでどうにか頭に入ったがそれでも、なんとなくアスリアのことや、魔女のことやらなにやら、ずっと気になっていた。睡眠不足も相まって勉強に身が入らないことを気にかけられていたらしい。


 心配してくれて今日は長く寝させてくれていたのだろうか。だとしたら、なんて優しいプラマさんだろうか。そしてつい口を滑らせてしまう。


「今日は寝れたよぐっすりっ」

『なら、今日から魔法の練習も、加えるでいやがります』


ーー前言撤回、これはスパルタの前置きだった!? 


「ん、魔法?」


 魔法という言葉、その響きはとても何故だか心が踊るものだった。世界のどこかにあって、列車でいくような魔法学校とか、そういうのを、小さい頃は夢にみたりもするだろう。現実は学校どころか、要塞の中だけれど。


「魔法!?使えるの!?」


 魔法という単語に握っていたフォークとスプーンが手から落ちた。


『使わないと、外でどうにもならないでやがります、これが短期間でどうにか外に出よう作戦の秘策でせう』

「そ、その秘策とか、実行できれば火とか水とか出せる!?」

『火を出す魔法よりも、水を出すよりも覚えなければいけない魔法があるのでやがります』

「なんだっけ?」


 火とか水とかだせるのかと、浮かれた結果すっかり忘れていたあることに気付くまで白い目でプラマさんに睨まれた。


ーー目はプラマさんにないけど。絶対睨んでたあれは。


『言葉を聞いたり、話せないでどうやって買い物をするつもりでいやがりますかっ』

「そうだったー!?」

『国の常識や基礎情報は叩き込んでも、言葉が話せなければお話にならないでせう』

「でも言葉って一両日中にどうにかできるものではないとおもうんだけど、本当にどうにかなる? いや、プラマが嘘ついてるとかじゃないのはわかるけど、なんかどうにかなる想像がつかなくて」

 

 この世界の魔法というものにあまりに想像がつかない。プラマさんが、魔女の想像図を話したときもなんとなくイメージと違うといっていた。でもあのカゴをみるに、有用な魔法はたくさんありそうだし、本当にそんなことができるのかもしれない。


『普通の方法では無理でやがります、だから、マスターの魔法とマスターの蔵書館を使い、特定の魔法だけ、優先して覚えてもらうことにするでせう、国の常識の基礎は復習はしていくですが、まずは集積と収集を覚えるのでせう』

 「集積と収集?」





 そんな魔法の疑問を解決するべく、私とプラマは食事のあと、調査隊として、マスターアスリアの蔵書館とやらにむかうことになった。


 蔵書館、その名前の通りきっとたくさんの本があるのだろう。どんな本があるのか、どんな魔法だろうといろいろと、胸膨らませて、プラマさんについていく。


 魔法とかいてロマンと読む。


 ついていった先にあるのは、目覚めたときに埃臭かった倉庫のようなあの部屋だ。その倉庫の壁際に、棚が設置してある。その棚のうえにはなぜか緑色に、変色した、カビたパンがあった。こんなのあったかなと思いながら小首をかしげていると、迷いなくプラマさんはそのパンを触ろうとした。


「まって、まって、まって、まちー!?」

『なんでやがりますか』

「カビたパンだよ触らない方がいいでしょっ」

『カビたパンに触りたいやつなんていないでやがります』

「だ、だよねでもプラマさわろうと」

『ほい』

「ぎゃーーー!?」


 プラマさんが自分の手を掴んで、カビたパンに手を突っ込ませた。ぬちゃーっと湿気を含んで溶けた感触と青臭い香りに耐えようとするが、いっこうにその感触は訪れなかった。手は、スカッと空を切るばかりだ。


「パン……がない?」

『保存の魔法が刻んであるこの要塞全てにたいして、腐敗と風化はもっとも反する事象でやがります、それと反するものがあるということは常に異常であるということなのでせう』

「なるほど?」

『わかってねぇー顔でいやがりますね』

「何となくは伝わってるよなんとなく、けど、なんでカビたパンなの、触りたくないよめちゃくちゃ」

『マスターが腐敗したものに触りたくないのは知性あるものの性だといっていたのでやがります』

「確かに触りたくないかも……ん?なんかあるよここに」

『そこにあるやつをとるのでせう』


 パンの置かれた場所の棚に、小さな溝のようなものがある。棚板の一部分が削れているらしい。その溝に何か挟まっているようで、取り出そうとするが、なかなかとれない。カビた丸い大きいパンに手をつっこんでいるとか、端からみるとおかしな姿に違いない。光景と実体とで感覚がバグりそうになった。溝の奥にやっと、指が届き中からその奥に挟まっていたものを取り出す。 


「カギ?」


それは確かにカギだった、カギの形をしていた。しかし、そのカギは、まるで光を凝縮したかのように白く発光し、空間でも浮くほどに眩く輝きながら、脈動している。生きているかのような鼓動があるのだ。鍵だというのに生き物みたいだ。触ってみると、そのカギはほのかに温かい。


『こっちでやがります、それを、この棚の隙間に刺すのでいやがります』


プラマさんをちらちらみながら、本当に何もない壁に挿すのかといわれたら、頷かれた。疑問に思いながらも、棚と棚の隙間の壁にカギを突き刺すと、カチャ、という音がして、次の瞬間壁が波打った。


「え?」


一瞬幻覚でもみたかとおもったが、確かに壁が波打っている。波紋が広がるように。


 そしてカギを横にすると、その倉庫にあったものは、まるでイミテーションの置物であったかのように透き通り、壁には白い鍵と似た光を放つ扉ができていた。扉には、みたことない紋様が壁に浮き出ている。その紋様は、石棺の間の、床に書かれているものに似ていた。


『ここから入るでやがります』


 プラマさんは扉をすり抜ける。慌てて、後をおっていくと、まったく別の場所に出た。繋がっている場所は、暗い石造りの螺旋階段だった。足元が暗いので、プラマさんが、ランプ替わりに、点灯してくれる。プラマさんの体は光るらしい。家事もできて、物を教えられて、ランプがわりにもなるとか、多機能すぎやしないかい、プラマさん。他にも探せば色々できそうだ。最終的には巨大ロボにでもなったりして。アスリアさん、プラマさんに多機能さを求めすぎではないか?


ーー求めすぎると離婚されたりするよ。


 そんなことを思いながら、螺旋階段を降りていく。そして、わずかにうすぼんやりと明かりがみえてくる。何かの隙間から光がもれているようだ。


 プラマさんが壁を押すとゴゴゴと、音がする。何が動いたのかと確かめてみると、石造りの本棚だった。これには見覚えがある。そうだここは、私が目覚めた場所だった。


 「私ここで目が覚めたんだけど、まさかここが蔵書館ってわけじゃ……」

 『そんなわけねぇです、この木が生えてる場所の真下でやがります』

 「まだ下があるの?」

『そうでやがります、この小さい木はその下にある中継地点から力が配給されているのでいやがります』

「へー」


 プラマさんは別の本棚の隙間をまた押すと、さっきと同じように本棚が動いた。この場所要塞っていうだけあって用心深いらしく、ものすごく仕掛け扉が多い。建築的には隠し部屋なんてナンセンスらしいけど、この世界ならお構い無しなのかもしれない。

 動いた本棚のさきには廊下があり、その奥には、ただ空間にポツンと扉が立っていた。


『またさっきの鍵をさすでやがります』

「う、うん」


扉の鍵穴に脈動する鍵をさして、回すと、天地が逆転して、視界は暗転した。しばらく慣れない感覚に酔いそうになりながら落ちる恐怖に備えていると、いつまで立ってもその感触は襲ってこない。

 ビビり散らかしてたじろいで、目を開けずにいたら、後ろからプラマさんに小突かれた。


「うぅー!?」


 変な悲鳴にもならない声をあげながら、目を開けようと努力する。正直怖い。けれど、どうにも、先程の薄暗さと変わって眩しい。目蓋ごしにも光が入ってきそうなくらいには。


「ええいっ……ってえー?!」


 恐る恐る、目を開けると、そこには大きな大樹があった。神々しい光を放ち、存在をこれでもかと、主張するほどに巨大に育っている。地下だというのに、天井はガラス張りで、その木は、太陽の光を取り入れているらしい。木の中央にはその光を集めるかのように輝く、大きな琥珀のようなものがみえる。

 その大樹の大きさや神々しさにも目を見張るばかりだったけれど、その部屋の存在する目的、本質は、違うみたいだ。

 そう、その大樹を取り囲むように、見果てぬばかりの、大量の図書がその部屋を覆い尽くしているのだ。


 『マスターが生涯をあつめて収集集積した自動情報集積型蔵書館(アーカイブ)、大樹の間でせう』

 「これ、全部本?」

『本でやがります』


 本好きの人なら夢のような場所だろう。自分は何かしらそれらにトラウマをもってはいるらしいが、それでも純粋な好奇心と本への好意は記憶のない自分にも、残っているらしい。食糧の問題がなかったらここにいて、しばらくこもって読みふけっていられるのに。


「って、あれ?」


 本に目を奪われて、目を輝かせていたら、あることに気がついた。


「う、浮いてる!?落ちる!?のぅううううう」


 平泳ぎ、クロール、バタフライ色々ためしてじたばたしてしまう。そんなことしたって、普通なら、落下するだけなのだけれど、実際は、落ちることなく、身体は姿勢を保ったまま宙に浮いていた。

 拍子抜けだった。

 ちょっと恥ずかしい。

 てへっと頭をかきながら、プラマさんの方をみると、なんか若干いたずらが成功したような雰囲気が伝わってくる。同期しているせいだろうか。


 『残念ながら、ここは地面に落ちないでいやがりますよ~』

『先に言ってよぉ!!」


 いたずらしてきた、プラマさんを掴もうとすると、すんでのところで避けられた。おのれ、またフライパンのほかにやられてしまった。いたずらする小学生か!


 おのれこの恨みいつかはらさでおくべきか。


 ぐぬぬっとしながらも、プラマさんを追いかけることで、なんとなくこの場所の移動のしかたを会得した気がする。これは飛び回るというより無重力状態に近い。

 動かなければ、その場でゆっくり回転したり停滞したりできる。

 その他に、つかまって押し出したり、壁を蹴ったり、行きたい方向に力を与えると、その方向に進む。

 地面の重力から解き放たれたかのように、軽い推進力で望む方向に、進むのだ。

 なるほど、これだけ本があるのだから、長い梯子でもなければ天井近くの書物は、本来なら、届かない。これなら、自分から高いところにとりにいけるのだから確かに便利だ。落下する心配すらない。

 そんなこんなで、コツを掴ませるためだったのか、慣れはじめた頃には、プラマさんは大樹のそばの地面に着地していた。

 プラマさんのもとまで、とりあえず、どうにかたどり着いた。地面に足をつけると不思議と浮き上がることはない。歩くことができる。どういう仕組み、なんだろう。そんなことを考えてしまう。


『おせぇでやがります』

「し、仕方ないとおもいますっはじめてなのでー」

『しかたないでやがりますねぇ』

「しかたなぃでやがるんですっ」

『と、からかうのもここらへんにするでせぅ、時はなんとやらでやがります、とりあえずここにくるのでせぅ』

「う、うん?わかった」


 プラマにいわれるがまま、プラマに誘導され、大樹の根本にきた。大樹を見上げながらその場所に行くと、蔵書館とは不釣り合いな、小さな四角い機械のようなものが浮いていた。


『あの鍵をさすでやがります』 

「これに?」


 頷かれたので、とりあえず鍵を差し込んでみる。

 すると、鍵が吸い込まれ、カシャカシャと音を立てて、立体パズルのように回転し、しばらくすると静止した。形状が変化し、薄い板のようになる。そして、板には、くぼみのようなものが存在している。


『ーーーーーーー』


そして音声を発するけれど、やはり聞き取れない。何語なんだろう。


『生体情報を確認した、長期間利用していなかったため、権限がリセットされた、先にマスターであることを証明しろといってるでやがります……盗難防止機能があったのを忘れていたでやがります』

「忘れないでよっ、証明できるものなんてないよ」

『マスターのことだから、何か考えてるはずでやがります、このくぼみ何かハマりそうなものはないでやがりますか』

「本のサイズくらいのくぼみだよね……まさか、この中から探せとか、それを鍵にしてるとかないよねっ!?パソコンのログインパスワード忘れたみたいなことになるよっ」

『パソコン?とやらはわからないでいやがりますが、ズボラマスターがそんな面倒なことするはずないでやがります、一番可能性としては、あの本じゃないでやがりますか?』

「あの本、あれ、星色の本のやつ」


 あの、研究の本、託されたあの本のことだろうか。それがだめなら、他を探さなければならない。

 あの星色の本を思い浮かべる。あれは部屋においてきたはずだ、取りに行かなければ、そう思った瞬間、持ってきていなかった、あの本が、いつの間にか目の前に現れた。追跡機能つきとは。 


「のぁっ」


ーーびっくりしたなぁ、もう。呪いの本なのかな!?あなたの後ろにいるの的に。


「心臓に悪いから脅かさないでっ」

『本にいっても無意味でせう、とりあえずはめてみるのでやがります』

「そ、そうだよね」


本をくぼみにいれてみると、また音をたてて、本を解析しはじめた。さながら、コピー機でスキャンしているかのような、様子だった。しばらくすると、きゅーん、と音をたてて、廃熱して停止する。


「大事な本だけどだ、だいじょうぶだよね?」

『そのときはマスターの設計みすでやがります』

「いいのそれで!?」


そしてまたキュィーンと、廃熱ファンが回るかのようなパソコンを立ち上げたときのような音がして、本はくぼみから自然に外れて手元に戻ってきた。それと同時に、薄い板のように変形していたそれは、また形を指輪のようにかえ、自分の中指にはまった。驚いていると、さらに、驚く出来事がやってくる。指輪のような形状の中央に宝石のようなものがはめられており、その石にあの本が吸い込まれたのだ。


「ちょ、とりこまれたけどっ!?やばいよっ」

『正常な反応でやがります、鍵が起動したでやがります』

「正常なのこれが、大切な本らしいから、出せないと困るけど!?」


『触って望めば排出されるはずでやがります、本を持ち歩くのがめんどくさいマスターがつけた機能でやがります、ついでにこうしておけば、本にお茶をこぼす必要もないでやがります』


「べ、便利だー!?」


 いわれた指輪に通り触れながら、さっきの本を取り出す想像をしてみると、ちゃんと手の中に収まった。またいれたいと思いながら念じると、あの本が姿を消す。何度か試して驚いて感動してしまう。

 確かに考えてみれば膨大な本があって、みたい本をあれもこれもと抱えるのは不便になる。大量の本を持ち運び、本を落として足の小指にぶつけるなんてこともないのだ。ありがたみが過ぎる。


 『その形状変化して、指輪化した、それは、ここの鍵のようなものになるでやがります、身につけているとこの場所の情報を検索して、該当する項目を読み込み、触れたい知識へ適切な本へと導いてくれるのでやがります』


デジタルな、司書さんみたいだ。あるいは高機能検索エンジン的な。


『その指輪に、生活魔法、情報収集集積魔法のかいてある文献および書物を目録化して、目の前に現出させるよう頼むでやがります、今いった通り命令すれば良いのでやがります』

「これは言葉が通じなくてもできるの?」

『さっき認証がすんだのでやがるので、念じただけで本が排出されたように、もう使用者のイメージ、思考による指示に切り替わっているのでせう、想像するだけで可能になるのでやがります』


なんとも魔法なのに、現代的機能のある指輪もとい鍵なのだろうか。とりあえずやってみよう。まずは念じる前に、椅子に座ることにする。本を読むためのスペースなのか、机やソファーが大樹の近くに置いてあるのだ。立ち読みは限度があるので、当然といえば当然だけど。クッションがついていたり、色々と快適すぎる、これで食べ物まであればネカフェ?とやら、みたいだ。とりあえず椅子に座る。


「ええーとじゃ、生活魔法?情報収集集積魔法とかいうやつを目録化して目の前の机に現出させて、あ、初心者ように冊数をしぼって」


 指輪に触れながら思考すると、次の瞬間にドサッと音がして机の上に本が現れた。そして指輪からは、スクリーンのようなものが表示されて、いまここにおかれた本の目録があらわれる。

 便利だ。いちいち驚いていたら、切りはないし慣れていくのだろうが、やっぱりすごい。


 『まず一番最初にこの本を使って生活魔法を覚えてもらうでやがるのでせうが』

「ま、魔法っ、ついに」

『再確認しやがりますが、ガグゥをどうにかして、外に出て、ここから出ると近くに町があるとマスターがいっていたのでやがります、そこで食糧を買う、それがまず第一目的でやがります、いいでせう?』

「うん」

『まず、そうするといきなり貧弱なマスター(仮)がガグゥにやられないのは無理な話なので、ガグゥ対策は"戦わない"ことを、軸に考えるでやがります、しかし、身を守る術や最低限の力は必要でやがります』

「急につよつよにはなれないと」

『そもそも魔女は最初から魔法をうまれた瞬間から扱えるものなのでやがります、しかし、マスター(仮)は、魔法の魔の字も理解できそうにないでやがります』

「魔女って最初から魔法つかえるものなの!?」

『数日観察していやがりましたが、魔法を使う素振りを見せている様子もない、魔法の力の根元たる流力(るりょく)の流れも感じている様子もない、その点でなにもかも、普通の魔女とは想定して話してないでやがります』

 「不出来で雑魚雑魚ですみませんシクシク」

『とりあえずそんな雑魚雑魚魔女のマスター(仮)のために、人間方式で魔法を覚えさせることにしたのでやがります』 


 ここでいう人間は私の知る人間そのものをさすわけではなく、二足歩行で知性をもつ生き物全てのこと、さまざまな種をまとめてそう呼ぶらしい。つまりそれらの研究によって得られた成果を使い、魔女なのに魔法が不出来な魔女が覚えようということなのだ。魔女のすごい力たる魔法、それなのに普っ通ーの人間様のお陰で魔法が使えるようになるとは。人間様、さまさまである。


 「人間さんプラマさんあざーっす、ごほん、ありがとうござますっ」

 『今回教えることは生活魔法よりも基礎の基礎、一番魔女として理解できなければ完全に欠陥だめだめ魔女になりさがるでやがります』

「そんなご無体な」


 社会人新卒一年目の雑魚雑魚魔女になった気分だ。


『落ち込む必要はないでせう、そうはいいやがりましても、魔女というのは、魔法の源たる流力という力の集合体のようなものでやがります、それを魔女が感じられないのは血管や神経がぶつりと切れて死にかけてるようなものでやがります、マスター(仮)がしかしこうして存在している以上、身体に流力が流れていると考えるられるのでせう』


 これが身体に存在しないとつまり自分はここにいないと。それは少し安心する。しかしですね、そうは言われましても、身体に意識を向けてみるけれどなんにも感じないのですがあの。 


 「でも、その、感じ、られないよ?」

『流力がなければプラマ自身、マスター(仮)から流力の繋がりが切れて、さっさと消滅していやがるのでせう、だからないはずがないのでやがります』

「そう……なの?」


 プラマさんがいなかったら詰んでいたので、死活問題だ。よかった流力とやらがあって。それでも、とにかくあるらしいのだがわからない。いでよ、なんか、謎の力と念じても当然に出るわけがない。杖に、光ちゃってー、なんて唱えても出そうにもない。


『それがわからないことには魔法はつかえないでやがります、それが理解できるようになるための今日は一番最初の授業でやがります、とはいっても、プラマは魔女ではないでやがりますから、最後にはマスター(仮)の自力に頼るしかないのでやがりますが』


「そっかそうだよね、でも、まっっっったく、なんにも感じられないっ……くっ、自分の無能さが憎い」


『自信満々に無能さを嘆くなでやがりますっ、とにかくおつむが少し下がったマスター(仮)のためにわかりやすくいうならば、この世界に流力(るりょく)はどこにでもあり量は多かれ少なかれ差があるでやがりますが、確かにそこにある力なのでやがります』

「どこにでもあるってこと?」

『そうでやがります難しいことを詰め込むと右から左に出ていきそうでやがるので省くでせうが、魔女みたいに流暢に使えないだけで、人間も他の生き物も、無意識に恩恵をうけているのでやがります、触ってみるでせう』


プラマさんが、突然目の前に移動したのであわてて量の手のひらで、優しく包んで持ち上げる。一度触らせてくれたことがあったけれど、とてつもなくホワホワだ。微妙に体温のようなものをかんじてぬくくて、気持ちいい。口以外はこんなにふわふわで柔らかい。

 気がぬけそうになったが、いけないといけないと、緩みきった心を振り払う。


 『いまからプラマから流力を、変換して、プラマの体に纏うでやがります、意図的に流力を体表に濃くしやがるので可視化しやすくなるでやがります、感じるように努力するのでせう』

「や、やってみる」


 ずっとプラマさんをもっていると、なんだろう、プラマさんの回りに確かに揺らぎのようなものが見える。液体に中性洗剤をとかすと、水のなかで揺らぎがみえる。シュリーレン現象とかいったっけ?定かじゃないけれど。そんなかんじだったきがする。そう、んな感じに似ている。水中に揺らぎがみえるよう光景だ。空間に突如として蜃気楼が現れるような。プラマのまわりだけ、透明な空気にまるでなにかが混ざったたかのようななにかが存在している。それは気体でもなくなにか、得たいの知れないもの。単純な熱量のようなものでもない。多分自分の知らない何かだが、確かにある。触ろうとしてみるが触れない。だけれど確かに揺らぎがある。

 その揺らぎにみえる力、流れかたにはムラがあるのか、大樹のほうにながれたり、自分のほうに流れたり、プラマのほうに流れたりする。しかしプラマから離れたものは、途端に可視化できなくなって視界で捉えられなくなった。


「この揺らぎみたいなのが、流力?」

『そうでやがります、低濃度の流力だと、一般の人間の目には見えにくく、魔女や人間のなかで流力を扱う流術士しか、視認しにくいとされているでやがります』

「こんなのが自分のなかにもあるってことだよね」

『そうでせう、流力は滞留するだけでなく、人間や、植物、動物、鉱物などに纏わりつきやすい性質をもつでやがります、特段魔女はその器としてもっとも強大な入れ物とされているのでやがります、プラマ自身の放つ力を使ってこの流力の流れをたどり自分の中にある、流力を感じるのが今回の授業最初の基礎でやがります』

「こんなこと、何度もやってもらったら、プラマさんは疲れない?」

『同期してる相手の流力が消費されるだけでやがります』

「つ、つまり自分が疲れると」

『疲れないためにはやく習得することでやがります、これが終わったら生活魔法、解析や保存にはいるでやがります』

 「了解しましたっ」


 プラマさんの流力から自分の内と外にある流力の流れを感じる訓練がはじまった。何度か繰り返すと、プラマさんから離れた流力が霧散して捉えられなくなっていたが、少しずつ、範囲が広がって視認できるようになってきた。


 『流力によって、死骸だったものが、知性を持ち形を維持し蘇る現象、そして流力そのものが、生前の形となってあらわれるそれが、魔女なのではないかと、マスターは考えていやがりました、完全な答えではないといっていやがりましたが』


 めちゃくちゃ重要なことをさらっといわれたので、集中していた意識が途切れた。


「結構流力の流れがみえてきたところだったのにっ」

『わざとでやがります、意識しなくても集中しなくとも感じられるようにならないと、魔法は簡単にはできないでやがります』


 ついに、楽しい火を出したり水を出したりする魔法が使えると思ったら、めちゃくちゃ地味で難しい作業がはじまるとは思っていなかった。わかってきたと思ったら、プラマさんが、手をかえ、品をかえて邪魔してくるので。すぐに意識がそれて、奪われる。


 『肉体に縛られた生前の生き物たちにとって、流力を取り込みすぎると肉体に負荷がかかり、大きな力を扱おうとすればするほど、流力が必要になって、反動で身体が壊れてしまうといっていたでやがります』


 大きな力で、物にぶつかれば、跳ね返ったときに自分にダメージが出る。普通の生きている肉体では、魔法を起こすほどの大量の流力には、耐えられない。半ば死体が蘇ったような生命のあり方に固執されない、魔女だからこそ、負荷がかからないからのかもしれない。それに流力が干渉して、蘇ったような存在が魔女なのならば、身体が流力そのもので構成されている存在に制限なんてない、と考えれば話が何となく繋がってくる。


「って考えはじめたら、また糸が切れたっぐぬぬぬ!?」


 プラマさんと自分の流れをたどりはじめて二時間くらいはたったのかもしれない。ようやく糸のような細い繋がりを感じられるようになってきたのに、また絶たれてしまった。


 「はぁ……全然だめじゃん……どうしよ、いや、ん、まてよ、でも魔女が、流力の制限をうけない、魔法は流力の影響でうまれたってことは、それなら、もしかしたら前提が違うのでは?」


 プラマさんは魔女ではない。教えるのだってプラマさんも手探りなはずだ。魔女にそもそも流力の利用の仕方なんて、教えなくていいものなのだから困るに決まっている。けれど、それ故に話してくれたものがヒントになった。いまいったアスリアさんの研究が、本当である可能性があるなら、魔女ではないプラマさんとは、前提が違うのかもしれない。


 いままではプラマさんの中にある流力と似たものを探ろうとしていた。けれど本来魔女は流力そのものとして身体が構成されているのならば、世界に滞留しあちこちに存在する流力と魔女には隔たりがない。世界の流力と魔女の身体は不可分、分けるものではないのかもしれない。魔女の身体の流力は、世界と同一なのだ。


 プラマさんの身体を覆う流力の繋がりから、自身の中を探るため、細いその流れをたどり、管のなかを探すようにみていた。内側にある力を探そうとして。だけれど、それは違うとしたら。


 「魔女は世界と隔たりがない」


 それを認識した瞬間、自身のからだの周囲そのものの景色が、歪み、揺らいでいるのがみえた。さらには、身体と世界との隔たりが急に開かれたようなきがして、周囲を見回してみると、大樹の回りに色のついた光のようなものが見える。あれも流力だとなんとなくわかる。木にまとわりつこうとして性質を変えたもなのだろう。


 蛍のように光る木がまとう流力、小さな光によって変質した流力、それぞれが世界に溢れ、鮮やかだった。

 


 こんなに魔女は美しい世界をみていたのか。




 これをみた後では世界の感じかたがあまりに違う。記憶はないがなんとなく、違う常識を持って生きている感覚があったからだろうか。無意識に、世界と自分との隔たりを作っていたのかもしれない。

 魔女の身体は、流力そのもので構成されていると過程すれば、その中にあるものを探そうとしたって無駄だ。水のなかで、また別の水を探すようなものなのだから。前提が全然違ったのだ。


 「できた!」

 『みえたでやがりますか?』 

 「うん、考え方が違ったみたい」


 その中身を説明すると、プラマさんも、魔女違う存在であるため、また人間の方式では成り立たない盲点だったらしい。


 『それはいくらやってもわからないでやがります、プラマの失態でせう』

 「プラマさんも魔女に教えるなんてことが異質なんでしょ、なら私のせいだよ」

『けど、これはプラマの不手際でやがります』


 いつも小生意気な態度でいたずらして口の悪いプラマだけれど、本心は、マスターが好きな寂しがりなのは垣間見えている。マスターの役に立てない自分がいやなのかもしれない。しょんぼりしているようにみえる。


 「でも、さっきのヒントで、できたからプラマのおかげだよね」

『そ、そうでやがりますね』

 「そうそう」


 プラマさんはいろいろな属性をもっている。ちょっとめんどかわいい。これ以上ほめると調子に乗りそうなので言わないけれど。


 『と、とにかくこれでできたのでやがりますね』

 「できたでやがりまするよ!」


 ーー苦節二時間、もう、なにもかも諦めていたそのとき、私は、ついにやったぞ!


 『声に出ていやがるです、苦節というわりには短いでせう』

「まぁまぁ、魔女ならうまれたときからかんじられるんでしょ、なら苦労したってことで」

『それもそうでやがりますね、雑魚雑魚魔女から雑魚の魔女になったでやがります』


 雑魚の魔女にレベルアップした。嬉しいような悲しいような。


「あ、そういえばきがついたことがあったんだけど、背中のあたりに、強く流力の流れを感じやすい場所があるみたいなんだけど、魔女ってみんなそうなの?」


 そういうと、プラマさんが、いきなり背中をめくりあげた。びっくりしてあとずさる。なにも言わずにめくりあげるプラマさんもわるいのだけれど、きゃープラマさんのすけべぇ!といったら白い目でみられそうだからやめておこう。なにか理由があるのだろう。あわてて服をもとに戻して恐る恐る近づく。


 『なんかよこしまなことをかんがえてそうでやがりますが、安心するのでやがります、貧相な真っ白いガリガリマスターの身体になんてプラマは微塵も興味ないのでやがります安心するでせう』

「それって、なんか、喜んでいいのか悲しいのかわからないけどっ!」

『こんな雑魚雑魚マスター(仮)に、欲情するくらいならプラマは切腹ものでやがるでせう』

「ホムンクルスにすらそういわれる私ってなに!?」

『ごほん、ごほん、えー、あー、流力を感じられるようになってより顕著に濃く描かれるようになっているでやがります』

「そらされたっ、でも、ん?」


 ーー何が?背中に?あると?


『前にいっていた流刻印(りゅうこくいん)、魔女として蘇ったものが、必ずそのみに宿す刻印を、そう人が名付けたのでやがります、とかく魔女を毛嫌いする国だと魔女の烙印とよんで蔑むのでさらさないことでやがります』


 流刻印、


 魔女の烙印……。


 魔女になるとかならずあらわれるタテゥーみたいなものだときいた。この背中がぼんやりと熱くなる感覚が、それが原因らしい。あとで勉強したときに、いっていたことは、魔女同様あまり意味が判明されていないといっていた。アスリアさんの研究段階では、死体が地面や流力が流れやすい場所に接している面に、流刻印はできやすいんじゃないかと仮説をたてていたらしい。

 つまり、自分の場合は背中にそれがあるので、力が流れ込みやすい地面などと、接していた面はおそらく背中だったのだろう。


「んぬーっみえないっ」

『みてもなにも変わらないでやがります』

「なんかでもみたくなるものなの」

『生活魔法のひとつにある転写魔法でも覚えればあとでみれるようになるのでせう』

「結局魔法かー」


 自分の身体にそんなものがあるといわれると、気になってしまうのが定めである。とりあえず諦めてあとで確認してみよう。


「どんな模様なの?」

『マスター(仮)のやつは、羽根のような木のような変なやつでやがります』

「変なやつっ」

『マスターの模様と似てるでせう』

「そうなんだ、似てるってことはこれってみんな違うの?」

『違うらしいでせう、マスターがいってるだけだからみたことないのでやがりますが、それよりポンコツマスター(仮)がおぼえることは、それをみられたら実験動物まっしぐらなことでやがります、いいでやがりますか、絶対にぜーったいに人前でさらしてはいけないのでやがりますよっ』


 背中なんて浴槽にでもつからないかぎり、人に素肌なんてさらさないはずだ。服でも燃えてラッキースケベなことにならないかぎりは、大丈夫だろう。スケベする、される?相手がいても困るが。そもそも、こんなお貧相なお身体をさらすことはないでございますですよね、ないないほんとない。あるわけがない。


 ーーえ、ないよね?


 ないことを祈るしかない。


 「と、とにかくこれで流力をかんじられるようになったんだから魔法に移れるんだよね!」


 『ようやくでやがります』


 要塞からの脱出、もとい食料調達への道は、堅実にどうやらいくしかないようだ。ようやくこれで一歩目くらいかもしれない。


 ーー魔法つかっちゃうぞー!


 

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