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いつか魔女が眠るまで~ゴーストクリエイター魔女になる~  作者: 穂波祈弦
一章 脱出編・望まないはじまり~書きかけの小説をかかずに死ぬとは情けない~
10/28

10 魔法


『ごほん、流力を感じ取れるようになったでやがりますね、さっそく生活魔法でやがります』


「生活魔法って具体的にいうと何があるの」


『例えば、蝋燭に火をつける、少量の水を浄化する、重いものを少し浮かせる、にっくき服の汚れを落とす、茶碗の油汚れを落とすなどでやがります、マスターアスリアや他の魔女が考案したものを、人間が術式化して、生活に役にたつものを生活魔法として分類したのでやがります、それらを類型化してそうよばれるようになったのでやがります』

「なるほど、そのなかに、アスリアさんがつくったのもあるんだ、ちなみに?」

『いろいろあるのでやがりますが、洗濯のやつとか』

「あーあれっかごのやつ!」

『あとは、痒いところに手が届かないときや動かなくても痒いところをかいてくれる魔法とかでやがりますね』

「……ズボラだ……」

『マスターの面倒さ回避への探求は、逆に面倒をよびおこしているきがしたでやがります』

「手間を惜しんだ結果結局苦労するやつ、なんかわかる気がする」


物に手が届かなくて、立ち上がるのが面倒で、横着したのちに、結局立ち上がって物をとったほうが早いとか、そんなことはよくあるが、魔法でもそうなのかもしれない。ぶっちゃけ道具がなければありがたい魔法だが、マッチやライターに類する類いのものがあれば、蝋燭に火だってつけられる。ましてや孫の手のようか棒があれば背中はかける。その魔法を産み出すために、逆に手間がかかるのではないのだろうか。


『そんな生活魔法のなかでも、いまから一番おぼえないといけないのは、収集・集積のなかに分類される、解析と取り込みを司る保管の魔法でやがります』

「どういう関係があるの?」

『いまから、この場所にある本を、全てはむりでやがりますが、必要なものを片っ端からとりこんで、外に出ても情報を検索して調べられるようにするでやがります』

 「す、すごすぎでは?自分の中に図書館つくるってこと!? 」


 本を持ち歩いてヨレたり、汚したり、置き忘れたり、電子端末がなくても、普通に望む本や知識が検索できる。それは確かに便利だ。

 情報こそ力とはよく言うが、無知である自分には生命線だ。この世界において、情報を溜め込める有用性は高い。ネットで検索するようにいつでも、自分自身を軽量の電子端末のような媒体とし、保存し知識をいつでも引き出せるようになるのだから。自分にとって、必須すぎる最高の魔法ではないか。提案してくれた、プラマさんさまさまだ。

 それに本の情報を取り込むとなると、出典つきで情報も、それなりに正確そうだ。本が間違っていることもあるだろうが、おそらくは、学術的に定かじゃない時は、複数書をあたれば、その部分はカバーできるだろう。収集したものに限られるけれど、インターネットの精度高め版のようなものか。

 生活魔法を使えば、そこからいつでも、読みたい情報を引っ張ってこられるなんて、極めて逆に生きていた場所を彷彿とさせる現代的な魔法なきがした。生きていた頃の常識ではこれが可能だったのだから科学と魔法って区別つかないよなぁなんておもう。それをこちらでも、実現できるのだから素晴らしい魔法じゃないか。わくてかわくてか。魔法ができればだけど……。


ーー出来ればだけど……!


『なにか興奮する所がわからないでやがりますが、プラマ自身の知識にも偏りがあるのでせう。そんな時、この世界の情報について、触れられるのは、情報媒体である図鑑や地図や本でせう』

「つまりその魔法ができれば、それを蓄積できるってことだよね、これでしらない土地で怪訝におもわれなくてすむっ!」

『習得できればの話でやがりますが』

「う、うぐっ、でででもさ、でもこんなに便利な魔法が、あるならあの電気ビリビリ訓練法なんて、やらなくても、勉強しなくてもよかったんじゃないでしょーかー?」

 『なーにをいってるでやがりますかっ、魔法が使えない状況に追い込まれたとき最低限知識がないと、にっちもさっちもいかなくなるでやがりませう!』

「……うぐっ、確かに、おっしゃる通りですっ」


 プラマさんがついていけない以上どんな状況に陥るかなんてわからないのは確かだ。考えが浅はかでした申し訳ございませんっ。


 『わかったようなので話を続けるでやがります、目指すのはこの保管の魔法を使って、さらに派生させて、本を集積して、保管魔法内にある本の情報から、マスター(仮)の知っている情報とを結びつけて、みているものを常時擬似的に翻訳する魔法にするのが今回の最終目標でやがります』

「なる、ほど?」

『わかっていないでやがりますね、やってみたほうがはやいでせう、いいでやがりますね刮目するのです』

「はい!師匠」

『世界に流れる力、流力に囁く、万物に、理(ことわり)の地平を築きたまえ。広がるは無限、世にとつあるべきすべての成りたちを読み解け、解析』


 なにかプラマが長い呪文のようなものをいうと、急に、机の上においてあった本が浮き上がり、ペラペラとページがめくりあがる。そして、本から青い文字が、浮かび上がり、文字が本の姿へと、形を成し、青く透けた1冊の本が現れる。

 まるでコピー機の光が物体をよみとり複写し、本の中身を精査するかのようだった。情報が、吸い上げが終わると、流力の流れは止まる。

 その間気になって、知識を吸い上げた本を、開いてみると、実際の本の文字は消えていなかった。さらにプラマさんは次の呪文っぽいものを続けた。


『世界に流れる力、流力に囁く、身に叡智を宿し、知恵の棚を作れ。広がるは、無限、取り入れるは知の海、我が身の内に顕在化せよ、保管』


 対となる魔法なのだろうか。浮き上がった文字が本の形のようにまた、集合し、顕在化する。あの青い透き通った本だ。そしてその本の間に、栞のようなものが挟まれて、ぺらぺらとめくれあがったあと、パタンと閉じられてしまった。指で触れてみると触ることはできない。スカッと空を切る。そしてその本はまた形が崩れて、青い光となって、プラマの体に溶けてきえていった。


『これが解析と保管の魔法でやがります、そして、内に蓄積された知を現出せよ』


 そういうと、また消えたあの青い透き通った本が現れた。

 覗きこんでみると、何か文字のようなものがみえるが読むことはできない。


『本人にしか視認できないでやがります、いまは可視化させていやがりますが、本来はこの本の形もみることはできないのでせう』

「便利だね、人にみえないなら、って、プラマさん魔法使えるの!?」


そうじゃないとそもそも教えられないだろうということに気がついてしまう。魔女と、人間でも特定の人しかあまり使えないと聞いていたから、てっきり。


『この要塞の管理のための生活魔法程度とマスターに付与された特定分野の魔法だけでやがります、高度なものはほとんどつかえないでせう』

「こんなに広い場所で、魔法使えないと掃除とか大変だもんね」

『そうでやがります、まったくマスターはホムンクルスづかいが、あらいやつでやがりました』

「うん、めちゃくちゃなんか想像つくわー」

『この解析、保管の魔法もこの区域の手入れに必要でやがりますから、プラマもつかえるでやがります、この魔法は、人間のいう難易度でいうと中級程度らしいでやがります、けれど、中級といえど死活問題でやがりますからね、先に覚えないことにははじまらないでのでせう』

「いきなり目標が中級程度の魔法なの!?」

『仕方ないでやがります、こればっかりは』

「うーん、だよね、しかたない……しかたないけど、できないとやばいし」

『この魔法の発展系として、言語解析魔法に発展するのでやがります、なのでやるしかないのでせう』

「やらないと餓死まっしぐらだもんね、やるしかないかー」


いやもう死んでるけどね。いいえて妙な気がしてきた。


『食わないと魔女生も維持できないでやがります、ばしばしいくでせう』

「よろしくお願いします!」

 「ではちゃんとおぼえるでやがりますよ、魔言(まごん)についてでやがります」

 魔言、先ほどの呪文のようなものだ。あれにはちゃんと意味があるらしい。

「さっきの呪文みたいな?」

「じゅもん?」

「いやいやなんでもない気にしないで、魔言ね魔言」


うーんなんかこうビビットバビットブーな感じで、呪文って普通いうとおもってたけど、ここでは違うらしい、なんか色々ややこしいな。いや、世界が違うのに同じであることを求めるのもそもそもおかしいのかもしれないけれど。


『本来魔言というのは熟達した魔女には必要ないのでせう。でも、ひよっこのマスター(仮)はおぼえたほうがいいでせう』

「うっ、がんばります」

『マスター(仮)は、何も知らない状態でやがりますし、雑魚雑魚の魔女では、起こしたい現象を想像しずらい場合もあるでせう』

「うーん、確かになんにも知らないのに想像しろとかむずいかも、入門書読まずに調べろとかいわれてもどっからてをつけていいかわからないやつ」


『それを、自己の中で、明確化して、流力に働きかけないといけないとき、魔言は起こす事象を極めて限定化する働きがあるのでせう。つまり魔言により、流力の力の使い道の的を絞るのでやがります」


やみくもに想像しても、発動しにくい。ならば、大きい火の玉を例えば作りたいときは、大きい火の玉をつくるのに対応する魔言を使うことで発動が補助される。逆に小さい火の玉を作りたいときは対応する魔言をつかうことで補助される。魔言によって効果を定め効果の的を絞り、限定化するということなのかな。


「何か流力をつかって例えば火を灯そうとしても、その力の干渉の流れとか色々うまく想像できない時、助けてくれるってことだよね?」

『そうでやがります、これによって幾分か起こす現象は弱まるといわれてるのでせうが、人間は流力をこの魔言を開発して用いているようでせう。人間みたいに、流力があまり感じられないようなやつらも、これを使えば、便利に火を起こしたりできる、人間の便利さへの飽くなき探求はホムンクルスにもかなわないでやがります」

「私たち魔女みたいに先天性のものがなくても使えるってことかー、人間の開発力すごいなぁ、ってことは人にとって、魔言の原理ってなんかわかってるの」


自分や魔女も、もとは人間なはずだけど、いまとなってはそんな感想がでてしまう。


『全て解明されてるわけではないでやがりますが研究はあるようでせうね、書籍を検索してと、ふーむ、マスター(仮)、集合体意識による概念の強化と流力の想像思念帯干渉領域への作用についてと」


なんだか小難しいので、頭にはてなを浮かべているとプラマさんが説明してくれた。いわく、自分にも分かりやすく説明してくれるとこうらしい。流力は生き物や鉱物などに寄りやすい性質をもつ。そして特に、流力はその寄った相手の、影響を受ける。特段意思をもつものは、その影響を流力に与えやすいらしい。なぜそうなのかは研究が続けられているらしいとのこと。


 その、意思がある生物、人間が魔法を、用いるとき、流力の法則のうちの一つ、視認というものに大きな意味がうまれるとのこと。つまるところ、見ることが大事なのだとか。


 たった一人のひとが、一度魔言とよばれる補助の言葉を使って、魔法を発動させても、その魔法は"完成"ではない。その現象を視認し、その魔言によって、その現象が引き起こされるということが大事なのだ。その目撃者が、同じ魔言を使い、また同じ現象を起こし、誰かがまた視認する。伝言ゲームをくりかえすようにして、その魔言でおこる現象には共通の認識が生まれる。そうして、はじめてその魔法は、はっきりと、完成するのだそうだ。発動を繰り返し人々に受け入れられることで確固たるものになっていく。まるで生き物が伝えた言葉が、意志として、世界に流れる流力に伝播して行くように。


 そうして魔言により産み出された魔法は、必ずそういう効力をもって、発動される。たとえば蝋燭をつける魔言ならば、その程度の火の大きさのものしか、炎はあらわれない。自由なものじゃないのだ。炎を大きくしたいと思っても大きくはならない。魔言は、魔法の効果の方向性、威力などを決める、取り決め書のようなものらしい。


 これだけ聞けば融通がきかないようにおもえるが、メリットもかなりある。


 流力を扱える力の少ない人間に負担がないようにする制限できる安全装置なのだそう。発動する魔法が強いもので、失敗しても、ただ発動しないだけで死ぬこともない。流力にはアルコールのように耐性が強い人と弱い人があるため、流力を扱って体に取り込んで、急にアルコール中毒のように死ぬなんてことはなくなる。


 お酒のみすぎだめ絶対。


 流力の行使無理矢理だめ絶対。


そのための魔言さまさまなのだそうだ。


 またこの魔言の強みはセーフティー機能だけでなく、この魔言という言葉があり、流力があれば、魔女じゃなくても特定の効力を、安定して発揮しやすいということだ。多くの人々に視認し、普及し、効力の確定されたものは、流力さえあれば、現象を現出させやすくなる。


 魔女はそんなものがなくても本来は使えるし、そんな面倒な手続きを、とらなくても、大きな力を発動できる。取り決め書がなくても、世界の流力に訴えられる存在らしいけど。


 なんだかいろいろ欠陥だらけの自分からすると、流力があればその言葉をいえば発動しやすい言葉があるなんていうのは、めちゃくちゃにありがたいことだった。


 いい歳して?たかわからないけど、最初は、魔法が使えるのは面白そうだなぁなんて軽く考えていた。もちろんそれは嬉しかったけど、呪文とかあれば、ぶっちゃけ恥ずかしいなぁなんてのも、少しだけおもっていたりもしちゃったりした。できうるなら杖を振ったり、なんか一言だけいったら、魔法が使えるみたいなことがよかった。そうおもっていた。


 でも、むしろどうだろう。必ずその言葉を使うことで、特定の決まった現象を、質がよく発動できるとしたら、それが生活に馴染んでいるとしたら、人はそれに恥なんてかかない。


 魔言は、あくまで、呪文とかではなく、ただの生活の道具の一端になる。


 自分の記憶はないけれど、私の生きていたところには、魔法なんてものが存在しなかった気がする。だから、恥ずかしいなんておもってしまったけれど、そんなの自分の価値観でしかなかった。郷に入っては郷に従えだ。こっちの人からすると、そんな言葉使ったら、確定的に望む現象が手に入るのに、使わないわけがないだろう!なんておもった。


 利便性が、すべてを上回るのだから。

 自分の価値観をアプデせねば。


『さすがに中級からは難しいでせうから、少しずつ、段階をあげていくでやがります、手慣らしに、あって困らない蝋燭に火をつける魔法からやっていくでせう、何かあったときに火をおこせれば、便利でやがります』

「お、おおおお!」


サバイバル生活必需品、ファイヤースターターなくても、火がつけられる。道具があれば、意味をなさない魔法だが、それでも有用な生活魔法には違いない。やっぱりプラマさんはああいっていたけど、火がつけられる魔法とかあるじゃないか。たぶんなんか杖からバンッとはなつわけじゃないから、プラマさんはなんかイメージとちがうといっていたのかもしれないけど。蝋燭に火がつけられるなら、焚き火をして獣避けにもなるだろうし。すごい魔法が使えたらそりゃあ楽しいかもしれないけど。毎日使える蝋燭の魔法のほうが個人的にはまずは、ありがたい。命を繋ぐ魔法のほうが大事だ。目が覚めたとき火のありがたさはこれでもかとおもい知ったのだから。


『じゃあここのページの生活魔法をやってみるでやがります、お手本をみせたら同じようにやるのでせう』

「了解しました」

『世界を流れる力、流力に囁く、甘く香る蜜の燭の先、夜の帳を邪魔せぬ小さな明かりを、どうかそばにあたえたまえ、灯火』


 そういうとプラマの前には小さな蝋燭くらいの炎が現れた。確かにそれをみた。なにもないところから突然火が現れるのを。しかし、唐突に現れたそれはすぐさま消える。

 「もっとみたかったんだけど」

『防火できるようになっているとはいえ、まわりには本が多いのでせう、気を付けるに越したことはないのでせう』

「それはそうだね」


簡単なことを失念していた確かに、ここは蔵書館だった。すぐには覚えられないので本の呪文をそのまま、読んでみることにする。右手に本をもち、左手から火を出すイメージだ。もちろん他の本は回りから火がつかないように遠ざけた。


『じゃあやってみるのでせう』

「お、おーやってみるね、えと、世界に流れる力、流力に囁く、甘く香る蜜の燭の先、夜の帳を邪魔せぬ小さな明かりを、どうかそばにあたえたまえ、灯火」


 これで、出来たら良いのだけどと願った先に……。ボシュンという音と共に、むなしく魔法は失敗したり左手からは、黒い黒煙が飛び出て自分のそばに煙が立ち上った。


 「げふっげふっ、なんて古典的な失敗のしかたを」

『ごほっごほっ、目を閉じたらだめでやがりますっその現象を視認することが大事でせう、あとそんなに威力がない魔法なのに、たくさん力をこめたら、発動できないでやがりますっ』


 自分が魔女であることで、世界と流力の隔たりがないことはわかったけれど、今度は力を左手から流し込みすぎて、暴発したらしい。魔言の制約がかかっているので、発動はしなかった。黒煙が吹き出るくらいですんだらしい。


『煤(スス)がすごいでやがりますっ』

「うーあとで、からだ流さないと」

『もっと力をほそめて、つぎでやがりますっ』

「う、うんっえと、世界に流れる力、流力に囁く、甘く香る蜜の燭の先、夜の帳を邪魔せぬ小さな明かりを、どうかそばにあたえたまえ、灯火」


成功例をみたからああしたいと願ってみる。イメージをしっかりもって……。しかし、結果は、何どやってもだめだった。出るのは黒煙ばかりだ。二十回こえた当たりからは、死んだ魚のような目にかわってきた。魔女なのに魔法を使えないとはこれいかに。初級の魔法らしいのに。魔女なのに魔法使えないとか、魔女じゃなくて無女だよ!?


 「魔女生だめかも……はぁ」

『お、おちつくでせう、練習すればできるはずなのでやがりますっ』


 プラマの珍しい優しさがとても嬉しいけど、それと同じくらい辛い。まだ20回、されど20回、これはいろいろ考えて試行錯誤してみたけど、手当たり次第に適当にやったとて。だめなのかもしれない。


 「うーんうーん」


それから2日、魔法の習得は難航した。蝋燭に火を灯す魔法、植物に水をあげる魔法、そよ風をふかせる魔法、様々に試してみたがだめだった。プラマもさすがに、悪態のボキャブラリーのほうが多く、慰める言葉が思い付かなくなってきたのか、一緒にしょんぼりしている。さすがに申し訳なくなってきた。けれど、自分もだいぶうちのめされているので、プラマへ気をつかう余力はめきめきとへっていっている。


 何が原因なのかわからないけれど、自分は少しばかりやはり普通の魔女とはちがうのだろう。魔女ならば生まれたときにすぐに強力な魔法を使えるのだそうだ。なら自分はなぜ初歩の魔法すらできないのだろう。魔女だから力が大きすぎて、大きな魔法ならばつかえるのだろうかとおもって、害がなさそうなものを見繕ってもらって試してみたが当然つかえなかった。


 蔵書館の机につっぷしながら、ぐでーっと、倒れこむ。生活魔法をいくらとなえても、できないので、その本をめくるのも若干嫌悪感がでてきた。ここにある蔵書のなかにある物語の主人公とかならもっと、簡単に、ババーンと使いこなしてすごいことができるのかもしれないけれど、全然これっぽっちもできない。しかもやるのが魔言を、となえるだけでやることは練習がしぬほど地味だ。魔言を呟くたびに、発動できないと余計にむなしくなってくる。そうして、いたずらをして主人に怒られた犬のような顔で、しょぼくれていった。そうして、さすがにつまりにつまり、とうとう休憩時間となった。


『少し休憩したら言い案もうかぶかもしれないでせうっ』


 と、休憩時間に、プラマさんが、慰めるためにお茶をいれてきてくれるらしいごめんねプラマ~。

 おのれ生活魔法め。

 ため息をつきながら、ぺらぺらと、魔法と流力についてかかれた本を、めくる。何度も魔言をしゃべったせいで喉がかすれてきたのもある。


「流力について……」


 この世界には流力と呼ばれる、力がある。魔法だから魔力とかそういう名前でいいのではないかとおもうけれど、最初のそれを解明した学者が流力と名付けたそうだ。仕方がない。それに文字通りこの世界に流れる力のようなものなのだという。地脈、水脈、空、海、風、至るところに流力は存在し、大きなまるで川のように見えない流れがあるという。その大きな流れを流脈(りゅうみゃく)といい、世界中にはその流脈がいっぱいあるのだという。そのながれからこぼれ落ちた流力が、自然、人、生き物、鉱物などにまとわりつきやすい性質をもち、特殊な力を発動させる物体や個体を生み出す。 生き物が流力により知性や力をもったものを、変異体という。


 そのなかでも、人間が変異した存在である魔女は特異で、魔言をもちいずとも、魔法を扱える、存在であり、生きた自然と魔法そのものの体現とされる。こと、ほとんどの見た目が女性の出で立ちに近いことから、魔女と呼ばれるようになった。この魔女の力を解読することで魔言が生まれる。流力の発展的な使い方が生活に用いられるようになった。魔言や法術器の開発により、魔女ではなくとも、多くの魔法を行使できる存在が確認できるようになる。国家ではそれを流術士といわれる職業と定め、災厄をもたらす魔女よりも珍重している。


「法術器?」


 調べてみると、ランタン型、本型、杖がたいろいろあるらしい。つまり、物語の魔法使いが使う魔法の杖みたいなもので、形は様々にあるのだという。人間は魔女より流力に干渉する能力や、とりいれる能力が弱いため、その部分を補ってくれるものらしい。そんな便利な道具が法術器だ。これがあれば、欠陥だらけの魔女にも魔法が使えるだろうか。なんて考えてしまう。自分なら、どんな道具が良いだろうか。道具に頼ったところでそんなにもとが欠陥品ならだめかもしれないけど。でも、冷静に考えれば魔女にとっては、法術器とは、身体だ。


 自らが世界と接続して、魔法を行使するのだ。なら、もっと、しっかり、自分の肉体と流力の流れを感じて理解すべきなのかもしれない。


 座禅みたいなポーズをして、瞑想とばかりに、椅子の上で座禅し、目を閉じる。 身体の外にある流力を感じる、内にある流力も感じる。表皮を隔てるようにしてわずかにそれらに微かに差があるように感じる。そして流力のいちばん差が薄いところが、背中の紋様の部分なのだろう。流力が身体と外とを行き来するのを感じる。そこからさらに内側へ、流れ込んだ流力が、身体の流力へと変換されていくところをたどる。それをおっていくと、あるところでブツっと切れていることにきがついた。何度やってもやっぱり流れが追えなくなる。


 これじゃあなん十回やっても無駄だろう。


 まるで、流れを遮る水門があるかのように。そしてその奥に、なにか感じ取れない奇妙なブラックボックスのような場所がある。何度たどっても、流力の循環はそこできれてしまう。流力をなにかが絶対的に遮断するのだ。


 どれだけイメージして、外に現象として魔法を行使しようが、そこを通って外に放出されるとしたら、水路が途中でブツリと切れてるようなものだ。


 なんだこれ、自分のからだなんだから言うことを聞けというように、大量の流力を、背中からとり込んで、その場所に押し流してみる。これで成功するかはわからないけどやってみるしかない。たぶんアスリアも肉体の実験段階で亡くなったのだから、この身体も完全な身体じゃないのかもしれない。それでも魔法がないとこまるのだ。切れているなら繋げるか押し広げるか。とにかくやってみるしかない。


開け開け開け開け開け!


周囲にある、流力をありったけ吸い込んでみる。流力の吸収のいい練習にもなりそうだ。


「むぎぎぎぎぎ」


 他にやり方が思い付くでもなし、馬鹿の一つ覚えでただ流力を流し込んでみる。だめでもともとではあるが。


 そうしていくうちに、汗が吹き出てきて心なしかなんか胸の辺りが痛くなってくる。だができないとこまるのだから、どうにかここを通すしかない。最悪だめなら不完全な魔女のままここで御陀仏になってしまう。それはまずい。これがだめなら別の方法をさがそうと考えたとき……。


 身体の内側でミシリっという音がした。古びた、なに扉や箱を開けるときにバキッと、ミシッときしむようなそんな音だった。錆び付いたものを揺り起こしたような。その反動か、鼻から鼻血がでてきた。


『損失箇所の、■■をおこないました』


 そして、一瞬変な声のようなものが微かに聞こえた気がしたが。気のせいだったのだろうか。

 バキッと、音がして、なにか変わったのだろうか。

 先に鼻血を小腹がすいたときようにもってきたりんごっぽい果実を包んだ布で、おさえながら、身体の、なかを探ってみる。

 なんにもかわった気がしないけれど。とりあえず身体をもう一度流力の流れを、探ってみる。すると、あれほど厚く隔たっていた水門の壁が消えて、繋がりが感じられるようになった。

 唯一、まだ違和感があるのが、その繋がりの中間地点になにか、どんどんと流力をすいとってしまう穴のような、ブラックボックスのようなものがあるのはかわらないようだ。なんだか燃費がものすごく悪い。空気中にある流力を全部吸って循環させても、その部分に結構吸われてしまうみたいだ。これは欠陥なのか使用なのかアスリアさんのみぞしるのだが。こればかりはいまはどうにもできなそうだ。


 でもいまはとりあえず流力が、循環さできたことに意味がある。


 大きな魔法なら使えないかもしれないけれど、この繋がりが通ったのならば、いまなら使えるのではないだろうか魔法を!


 この身体を、法術器にかえる。


 流れをたどり、視認し、イメージを、重ねて、外と内との繋がりをより濃くし、外から取り入れた流力を身体という法術器を通して、実現させる!


 「世界に流れる力、流力に囁く、甘く香る蜜の燭の先、夜の帳を邪魔せぬ小さな明かりを、どうかそばにあたえたまえ、灯火」


 そうして、小さな炎がようやく指先に点った。



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