7 ご飯やばいご飯(ドラゴンって食べれるの?)
食糧がないらしい。
ガッテム!?
現実逃避したくなってきた。
ぐるぐるぐるぐると、思考が回る。
きっと寒さから解放され、空腹から解放され、余裕がでてきたせいだ。
ジャングルの奥地で、食糧探しをするよりは、恵まれていると思いたいけれど、如何せん食糧の問題は大きすぎる。
自分、色々ありまくりではないでしょうか?
石棺から目覚めて、ほんのちょっと気分の悪い記憶が戻ったり、自分のベースとなった人の実験の結果に巻き込まれたことが判明したり、色々ありすぎた。数日で怒涛の勢いで、マイ人生は進みやがるぜ。
もう自分の人生を、天災とか、そういう類いのものと、やり過ごして、メンタルを切り替えるしかない。ないのだけど……。
ーーそれでも、それでもなんでじゃー!
なんて、叫びたくなるのくらいは心のなかで許してほしい。
本で、出て来るような人は、あっさり生まれ変わったぜなんて、受け入れられてるけど、私は無理かもしれない。宗教的に、転生の概念が根強い国なら、受け入れたり出来るのだろうか。
それに種の起源に迫る!とかいう、学者でもないし、人生とか生命を探究する気は毛頭無いし。私みたいな、ゆるーく生きてきた(多分)、人間にとっては想像を逸脱しすぎだと思う。真面目にいきてる、そうじゃない人はごめんなさい。
とにかく、どうしてー、なんて疑問に思ってしまうのだ。うじうじ考えたって仕方ないこともわかっているけど。考えてしまう、だって、人間だもの。角生えてるけど。ごほん、そう、普通の人間だって、コウノトリとか運んできたり、父母がいてほにゃほにゃーっと、それくらいの感じで生まれた理由をなんとなーく認識したりするのだから。そんなもんなのかもしれない。 けれど、自分は実験の失敗で、なんかすごーい確率でこうなったんだと言われたら、理由はわかったけどわからんが現状である。ここにいるんだから、それが、原因であることは、明確だけど、かといって、実験に巻き込まれたよ、ワーオ、でこれからの事はすませられない。
唯一ポジティブに考えられることは、まあ最低限の礼とばかりに、受け継いだこの要塞だ。とりあえず雨風はしのげそうだ。
こうなったという原因がハッキリ判明したのは大事な事のはずだけど、もう少しジェットコースターの速度を緩めてほしい。だってだって、今度は食糧だよ!?
水、食糧、塩分、睡眠、これ命の源よ。
このままじゃ、餓死まっしぐらだよ!
ご飯大事ご飯。
既に原因の人は死んでるし、結構迷う厄介な遺言残していくし、それだけでもけっこう頭が痛いが、その上1ヶ月分くらいしか食料がないときた。
ーー1ヶ月、十分でしょ?
と一瞬脳裏に楽観的な可能性が芽生えるが、いや、絶対それは無い。そう、もう1人の理性の自分が否定する。
前世的な記憶なのかなんなのかわからないが、自分のもつ知識によると、スーパーとか、コンビニとか、ショッピングモールとかいう、お金さえあれば、食料を買うことができる施設があったらしい。そんな世界と違うことは明らかだ。どうだ、外はジャングルだぞ。前世の甘ちゃんな自分の感覚ではきっとない。いや軍隊とかそういうサバイバル訓練でも受けてたり、マタギの眼光煌めく狩人でもないかぎり、食糧生産者さんに、頼りきりなはず!
ーーマグロ漁船にみんなのってないでしょ!?
うん、やはり私が生まれた場所ではみんな非サバイバル人口は、多いはずである。たぶん。
そんな人間が野生児が如く、槍で魚をつついて食べるのだって、簡単じゃないはずだ。 網とか、囲い込み的な漁法?
いやいやいや、魚突っついてる間に、ガグゥがあらわれたらどうするよ。えいっと、先に魚の前に自分の頭がガブリッだ。私は、歯向かうこともできず、弱そうな餌になるしかない。そんな雑魚い餌予備軍にできることは、ひと月では限られている。それにガグゥがいるくらいだし川とかに、怖い生き物も当然いそうだ……。
いやいや、悲観的に考えすぎてもいけない、落ち着いて、一つ一つ出来ることを考えてみよう。純粋にアスリアさんが食料をどうやって仕入れて、いたかまずプラマに聞く。これは第1だろう。外にドラゴンがいる限り、アスリアさんはどうにかアレをしていたのだ。むしろガグゥを、どうにかしないと出られない要塞ってなに!?という感じであるのだが。ここをでて森で採取というのは、今はあまりに現実的では無い。あんなのが居るならこんなのも、そんなのもヤバいやつがうじゃうじゃいるかもしれないのだから。
だとすると、やはり食べ物は、捕るより、今は、買うに、重きを置いた方が良いのではないだろうか。雑魚雑魚の魔女に生まれ変わった私は、人間の営みの力を借りるべきだ。きっと外に文明は存在するはずなのだ。本があるくらいだし、学術研究院とかいう単語もあったし。
文明あるよね?
お願いします、存在して!
さて、存在する前提で考えたとき、文明との触れ合いのためにそれには何が必要だろうか、整理してみよう。
胡座をかきながら、無い頭で、むむむむと捻り出して見ることにした。とりあえず、ここを安全に出て、そこまで行く方法を確立する。
まず、言葉をどうにかする。プラマと話せるのはプラマさんが同期してあわせてくれているだけだし、多分ここの世界の言語は話せないことに変わりはないのだ。
あとは、食料を、買うためのお金をどうにかする。
そして外の常識を知る。
それが目下やるべき事だろう。金は何か価値があるものを、買い取ってくれるような施設があれば、解決するかもしれない。そこは、この要塞に残された財産とプラマさんだよりだ。働くために金が必要とは、世知辛い世の中である。しかし、後々働く方法を考えるにしたって、あまりにこの世界のことを知らなすぎる。
言葉や常識はどうだ?
ひと月で身につくのは最低限の付け焼き刃なものに違いない。ないよりはマシだが。それまでにそれらをどうにかして、外に出て、人のいる場所まで出向かなかければならない。 ちょっとコンビニいって帰ってくるじゃないのだ。外は、自分にとってはあまりに未知すぎる。出るしかないが、出るために色々と必要なものが多すぎる。
んー、んー、悩んでも仕方がない、やはりプラマ様に相談してみるしかない。
部屋を出て、調理場や大広間、知っていそうな場所を探索しながら探してみることにした。倉庫、今議題の食品庫、行ったことのある調理場、他に客間のような場所まで、扉をとりあえずバタバタと開けてみる。それを悟ったのか、呼び声が聞こえたのか、大広間に戻ったところで、プラマが顔を出してくれた。
あれからのプラマは普通だった。声を荒らげる事もないし、いたって普通だ。自分が地雷を踏み抜いていないだけなのかもしれない。プラマの表情は分からないので、そう思って見えるだけかもしれないけれど。マスターのことを聞かされて、色々思うところはあるのだろうし、人はだれにも触れられたくないところはあるものだ。それに、記憶もない、ないないづくしの自分なんぞに、二人の関係など推し量ることもできない。積み重ねたものに、簡単においそれと関係は追い付かないのが普通だ。けれど、それでも日課なのか、マスターの言いつけ通りなのか、当たり前のようにプラマは毎日、掃除や辺りの手入れを怠らない。それが、プラマの日々の大事なことなのだということは、数日だが、何となくわかってきた。
「プラマ~」
『なんでやがりますか、くたばっていたぶん、安静にしていやがれです』
「いやー、食料の事を聞いたらどうにかしないとってさ」
『それはそうでやがりますが、あと1週間ぶんってなって困るより、言っておくほうがいいかと思ったんでやがります、だから、もう少しゆっくりしてやがれです』
色々悩んだ末に、心配させるとはおもったにせよ、伝えることにしたのだろう。まぁ、いきなり1週間ぶんの食料しかないぜ!なんて、尽きる直前に、こんなジャングルに囲まれた場所で言われたら、そりゃあ焦る。あのアスリアさんの本もどうにかしないといけないが、目下あの本より食事の方が生命に関わる最優先事項だ。
「考え出したら色々寝れないたちみたいで」
『心配事があっても、世界の終わりより自分の睡眠の方が大事、なんて、マスターはぐぅすか寝てたでせう、今の中身はいがいと細かいやつでやがりますね』
「いや絶対そっちのマスターのほうが、図太すぎるよっ!?」
『うーむ……マスターは基準にならないのかもしれないでせう』
「絶対そう、絶対っ」
『フーム、マスター基準は何も当てにならないと、しかし、その図太さ同様、食料調達にもそれはあてはまりやがりますねぇ、いつの間にかマスターは外に出て買ってきやがりましたからね』
「そうなんだ……じゃあやっぱり参考にならないな……うーん、あのさ、まず食料を手に入れるために、必要なことを考えてみたんだけどさ、聞いてくれる?」
プラマに自分なりに考えを説明してみる。まず、この世界の知識がないこと、常識を知らないこと。食料と交換するためのお金が無いこと。そして何より、自衛をする力がないこと。これらに対して、自分だとアプローチは限られることを伝えた。
『マスターアスリアは、少なくとも、自分より博識であり、知識はこちらが教わるものであって、教える必要がなかったでいやがります』
「だ、だよねー、ははは、プラマやこんな要塞作った人だもんね……」
『ふーむ、しかし、いくつかどうにかできる方法はあるでやがります』
「本当!?」
『顔がっ近いでやがります! 期待はするなです。まず、一応貨幣に変えられるものは、この要塞にはそれなりにあるとおもうでせう、そこは安心できるでせう、目下問題なのは』
「なのは?」
『外に出たら、風に吹かれれば死にそうなお前の貧弱さでやがります!』
「あ、やっぱり!?」
想像していたけどやっぱり自分はこの世界では弱々の部類らしい。
『ガグゥくらいでビビってたらここで暮らせないでやがります』
「あ、あははですよね~、こんな場所に住んでるんだもんね、普通、自分で住んでる自分の家からガグゥがいて出られなくなるってないよね……ちなみにアスリアさんは強かったの?」
『強かったと思うでやがります、でも、マスターは血なまぐさいような詳しいことは、あまり話してくれなかったでせう……ただ、強き魔女個にして万の兵士に値す、そのもの天を地に、地を天に転変させ、まるでその姿は自然そのものであった……有名な本の一説でやがります』
「つまりアスリアさんその強き魔女ってことだよね」
『少なくともマスターが負けた有名な話はきいたことがないでやがります』
思ったより、この身体の元になった人、すごい人だったりするのかもしれない。
直接あった感じ、あんなに雑で、軽くて、振り回しまくるタイプなのに?
明らかに、なんかズボラで性格とか色々だめだめそうなのに?
それなのに、見た目も良くて、頭も良くて、力もあるとか、天は何物をあたえるのか。うらやまけしからん。努力したら自分もそうなれるだろうかと思ったが、そんな自分は全く想像できなかった。ちくしょい。
「つ、つまり、ガグゥ何体ぶんくらいの強さ?」
『そもそも、ガグゥはマスターに怖くて近寄ってこないでやがりました』
「……私は、つまり、近寄ってくるくらい弱いと」
『この要塞の中では雑魚の、雑魚でやがります、きっと廊下の甲冑にすらまけるでやがります』
「そんなああああ」
ほらこういうのって、見知らぬ場所で目覚めたら、すごい力があって、その力でバンバン解決していくもんじゃないんだろうか。
いやそういう力、あるべきだよね!
かっこよくドラゴンを退けるとかさ。そんな物語を読んだことがあったような気がしたのに。
それが、現実は、雑魚すぎて、家からでれないとか!?
アスリアさんと、ベースが元は同じなのにスペック違いすぎでしょ!?
悩んでることが家からガグゥに餌にされそうだから出れないとか、食糧調達だとか、私とはえらい違いだな!
『項垂れても、力は湧いてこないでやがります、まぁそもそも魔女ってものは、強いのが当たり前でやがります、ガグゥ数体なんて蹴散らせるでやがります……なんでそんなに雑魚なのか、雑魚度でいえば、逆に稀少魔女でせう』
プラマの口ぶりでは、この世界の魔女は、めちゃくちゃ最初から強い上級ジョブ的な存在らしい。つまり最初から木の棒きれじゃなくて伝説の剣をもってそうな感じの人達らしい。だが、私は実際どうだ。窓を開けた途端、美味しそうなご飯の匂いにつられて、ガグゥにそのままパクリと食べられそうな弱さである。
「雑魚オブ雑魚……ワースト魔女、ガグゥに食べられる、プラマおらは、死んじまうだー」
『もう死んでるようなもんでやがりますっ』
確かにプラマのマスターは死んで、そこから自分自身は生き返ったようのものだけど、一瞬その言い回しが何となく気になった。ふと、そもそも、普通に食事ができていたが、あんなに長期に寝ていて何故体が保たれていたんだろう。なんてふとした考えが掠める。でも、自分が勝手に気になっているだけだ。プラマにはきっと深い意味はないんだろう。それより私が雑魚過ぎるほうが問題だ。
「そんな殺生な~」
『自分の身くらい守れるように、このプラマ様が色々教えてやがりますからはなれやがれですっ!』
「本当に?本当」
『創造主たる魔女に、教えるなんて聞いたこともない話でやがりますが、付け焼き刃でも、ないよりましでせう』
「ないよりぜんぜんましましっ」
『この要塞を維持するために、プラマはここからでられないので、みっちりきっちり、教えてやがりますですから覚悟しやがれです!』
「は……はい」
そうして、食料解決のための道のりをどうにかしよう作戦のために、プラマさんから手厚いご指導を受けることになったのである。要塞に引きこもって、しばらく勉強したり、準備してから外に出れば良いや~なんて甘いことにはまったくならなかった。1日目は病み上がりだからと、また布団に戻るように言われ、なんだプラマさん優しいじゃん、なんて思ったのが、運の尽き。それから数日で後悔することになった。
『起床!』
朝、日も開けきらぬうちに、プラマさんが2日目に起こしに来た。食事を寝ぼけ眼で取らされているうちに、あの長い爪を切られたり、着替えさせられたりする。倒れる前に服を渡す予定だったが、あんなことになってずっと、寝巻きのようなものを着せられていた。そして今日とうとう渡されたわけだが、私服になる予定の服は、着てみると暖かい。あの薄いぼろきれはなんだったのか。このあたたかさマックスな衣服は、アスリアさんのお下がりらしい。なんでも保存させる魔法のようなものがかけられてるらしい。通りで、黒い上質な生地で着心地もよく、袖を通しやすい。それにデザインも、華美な服装ではないことが助かった。どこにでも着ていける。当然サイズも大体同じだ。着る時に困ったのは、角が引っかかることくらい。
ーーぬくい。ぬくいぞ。
とうとう、あのぼろきれ卒業、装備がグレードアップした。軽快な効果音が脳内で流れるほどには重要装備を手に入れた気分だった。
はじめて自由すぎる、アスリアさんに感謝した。服の趣味が派手じゃなくてありがとう。服を買っておいてくれてありがとう。
内心感動でむせびなくほどに、服のありがたみを感じていると、そんなありがたみに浸る間も与えず、プラマさんは私にこう言った。寝ぼけ眼の私を引きずりながら。あのお洋服汚れるので引きずらないでいただけるとプラマさん。ついでに首もひっぱられて苦しいですプラマさん。ぐぇっ……。朝食が口からでますプラマさん。
『今日からみっちりどこにでても恥ずかしくないようにこのプラマが教えやがりますっ』
やるとなったらプラマさんは、張り切るタイプらしい。プラマさんと私とのテンションの差がひどい。もちろん私にも、やる気がないわけじゃない。食糧調達のためにわざわざこちらが頼み込んでいるのだから。プラマさんには感謝している。
ただまだものっすごく、外暗いです、プラマさん。
「ふぁい……」
『返事ははい!でやがります』
「は、はい」
欠伸をしながら、プラマさんの1ヶ月分詰め込み、スパルタ授業が、そこからはじまったのである。免許講習みたいだと思ったが、もう少しプラマさんは厳しめの厳しめだった。マスターには遠く及ばない自分で、あきれられていそうだが、それでも見捨てずに教えてくれる。純粋にあまりに自分が弱すぎて放っておけないのかもしれないけど。いずれにせよプラマ様には足を向けてねられないでせう。
『もう、ぼんやりしてないで、ちゃんと暗記しないと、ご近所さんに常識がないやつが引っ越してきたと思われたら、ご迷惑でやがります』
「この森林の近くにご近所いないでしょっ」
『口答えしない! で、やがりますっ!』
「はいっ!」
そんなこんなで厳しめスイッチが入ったプラマさんに、はじめて、最初に教えられたのはこの世界のことだった。茶色い大きな羊皮紙のようなものを、どこからともなく持ってきた。中を見てみると、地図が描かれた巻物だった。
私が、知っていると感じる世界の地図とは明らかに違う。薄ぼんやりとしか記憶しかないが、違うという違和感は、はっきりとあった。
本来惑星の表層にある大陸は、火山活動や地中の動きによって、地面が生まれては移動しを繰り返すはずだ。ならば、同じ大地の流動を繰り返し続けたら、記憶のものと似通った形式になるはずだが、その地図は、明らかに異なる。
左側に大きな大陸、その下に少し離れて大きな大陸、他には疎らに小さな島々が連なっている。 そして反対の右側には、飛び飛びに中程度の大きさの大陸があり、さらに一番世界で大きな大陸が存在する。
その地図の端には、大きくこう書かれているらしい。
『エスカ』
と、この世界、いや惑星の名前、人はこれをエスカと呼んでいるのだろう。それが今自分がいる星の名前だった。地図の正確さ含め、しっかりとした計測がなされていそうだ。そしてこの星が、球体であることを前提にして描かれたこのような地図があるということは、今いる己が、その星の地面の上で生きていると認識できているらしい。つまりは、宗教や思想による統制よりも、事実として、文明がこの地図のあり方、それを許していることになる。
それに、観測できる星を、自分の存在する世界のほとんどだとしたら、この地図の表記の仕方に、きっと間違いは無いのかもしれない。宇宙旅行にでも旅立たない限りは。
『いまいるのは、ここの右側の大きな大陸、レネリアス大陸でやがります』
私はエスカの東部、レネリアス大陸という大きな大陸の端っこにいるらしい。その沿岸部付近だろう。この世界にも当たり前であるが海があるらしい。生命起源的な話が同じかはともかく、海があれば塩と魚は存在するはずだ。まさか海が甘いとか、死海みたいにめちゃくちゃ濃い塩湖並み、なんてことはないだろう。ないよね……?
……自然とは良くできているので生き物がいる以上きっと、海の摂理だって似たようなものだと信じたい。いや本当にお願いだから生物存在していて、お魚たべたいよお魚。 よだれが。食欲と魚への渇望に意識がそれている私の煩悩が、プラマさんに伝わったのかこづかれた。ありがたいプラマさんのお話を、聞いていない私が悪い。もう食欲にまけて、危機感が薄くなってやしないか?しっかりしろ。
『そして今居る場所がここでせう』
そんな世界の地図に赤い点をプラマがつけてくれる。ここが自分の現在地だ。そしてそこには、灰の塔という文字が刻まれた。
『マスターは便宜的にここを灰の塔とよんでいやがったです』
「ん、ちょい、プラマ先生質問よろしいでしょうか」
『なんでやがりますか』
「灰の塔っていうからには、塔なわけですよね、なら、あの外の森林とかは、じゃあなんなんですか?」
『いまここにあるものや、あの木々やガグゥ一匹、虫一匹に至るまで塔のなかに納められているでやがります、そしてそれらすべてが要塞として機能していやがります』
「え、あ?は?」
一瞬頭が追い付かなかったが、塔のなかにあの自然が全ておさまっているということか。つまり塔の中にある世界とは違い、外にはまた別の世界が広がっているということだ。信じられない。そんな塔のなかに小さい世界みたいなものを作り上げることが出来る、アスリアさんとは何者なのか。雑なだけじゃなかったのか。とにかく、疑問はつきない。しかしなにより、想像を絶して今居る場所の異常さがわかった。
『自分も外に出られないでやがりますから詳しく教えられないでやがります、理解できなくても、まずは知識として頭に詰め込むでせう』
「う、うん?と、とにかくそうだね」
『灰の塔のあるレネリアス大陸を統べるノウンベルト皇国は、多種属多民族国家で、魔女であるマスターにも少し当たりが弱いからここにすんでやがります』
レネリアス大陸を納めるノウンベルト国は多種属多民族国家、良く言えば寛容、あるいは来るもの拒まず、去るもの追わず的な国なのだろうか。他の可能性としては、建国のさいに種の様々な尽力があったとか。色々と可能性の想像は膨らむ。
とにかく言えることは、閉鎖的ではなく、鎖国もされていない、それだけは確かだろう。そうはいえど、いろんな存在がいるかぎり、寛容であれど差別は必ずありうる。実際に触れ合うまでは、警戒しておきたい。それに、魔女に当たりがきついってやっぱり何かあるってことだ。宗教的な話なら根が深い。すぐに打開などは難しい。
「前々から気になってたんだけど、魔女って私の知る魔女なのかな、ええと杖とかもってなんか魔法撃ったり、怪しげな薬作ったりとか、儀式めいたことしたりとか」
『いささか、なんだかとんちんかんなイメージをもってやがりますが、想像とは違うでやがります』
「違うの!?」
魔法の杖もって火の玉とか出せるイメージだったけど出せないの!?
ふぁいやぼぅっとか。
あ、なら、もしかして、怪しげな鼻の長い老婆が薬とか作ってるようなそんなイメージとか、ねるねるげふんげふんそうなかんじの。
なんか言おうとしたけれどプラマさんからは、絶対なんか考えているものとは違うことだけは確かだと、強く視線を送られた。
そんな、せっかく魔女になったら、やりたかったのに。
「うーむじゃあ、魔女ってなんなの?」
『……それは』
「これも、言いづらいとか? じゃあ聞かない方が、まだ、まってもいいよ?」
『違うです、必ず教えなければならない事柄でやがります、ただ、これは、プラマ自身も助けてやれないことでやがります……プラマは魔女のマスターにつくられやがりました、だから、魔女は嫌いではないのでせう、その上で聞いてほしいのでやがります』
よほど深刻なことを、プラマは伝えようとしているのがわかった。伝えられないのではなく、私を思って伝えてこなかったのだ。言葉につまっていた要塞の話を含め、伝えたら自分が何らかの衝撃を受けるということだ。この反応からしておそらく決していいものではない気がした。
「いつかは知らないといけないし、それを知らない方が怖いと思うし、私がそれに傷ついて悩んだりしたって、プラマのせいじゃないよ」
『そうかもしれないで、やがりますが……』
「ショックはうけるかもしれないし、それで、愕然としちゃうかもしれないけどさ、聞かされる相手が誰かって違いだし、見知らぬ他人よりなら、知ってるプラマがいいかなぁ……あ、でも、こういったら、言わせるのも重荷になるやつかな?」
『大丈夫でやがります、マスターの置き土産みたいなもんでやがります、ならプラマが尻拭いしてやらないといけないでせう』
「ありがとう、そして、どっかのアスリア、プラマに感謝して」
お、感謝感謝とか軽い感じで言いそうな想像が就く。想像するだけでなんとなく、ぐぬぬと、ぐぬる人だ。
『まったくでいやがります、あんマスターは』
プラマは、少し深刻そうな様子だったがちょっとほぐれたようでよかった。
「ではよろしくお願いしますっ」
頷いたあと、ごほんごほんと咳払いして、プラマを意を決したように、語り始めた。
『魔女は、……魔女は生きた屍体、そして、この世界に大きな時代の変化をもたらすと共に、反して意味嫌われる災厄を招き入れる存在とも、よばれているでやがります』
「まってまってまっていきなり、ワードが想像よりデカつよい、すぎた、すぎる生きた屍体? 厄災?」
『文字通り、この世界では、魔女は死んだ人間がなる存在、死んだはずの人間が何故か蘇り、強大な力を持つ存在として現出する、死人は生き返らない、その例外として、この世界では唯一死から外されたもの、それを、魔女とよんでいるのでやがります』
最初はまて、まて、まて、意味がわからんと思ったが、何故かだんだんと聞いているとピースがハマるようにしっくりくる。これまでの目覚めてからの違和感が、払拭された気がしたからだ。自分の肉体の元となる人物アスリアさんは、もう死んでいると言っていた。それで変わりに自分が、あそこで眠り続けていたとして、どうやって生きていたのだろうと疑問だった。呼吸器もなく、栄養を通す管もない、ただ、自分は石棺の中に入れられていた。数日して、目が覚めたならわかる、しかし、プラマの雰囲気からもっと長く眠っていた可能性もあるのではと、何となくは感じてはいた。食糧が一月ぶんも残っていたから、服が綺麗だったから、そんな事実があったから、日がたっていないと、思っていた。思おうとしていたけれど……。
「ま、まてまて、きいていい、ぷ、プラマ、私の元となるアスリアさんが実験をおこなって今どれくらいたったの? 私が目が覚めたのはどれくらいっ?」
『……30回、年が変わったでやがります』
「つまり、30年……」
ーーそういえば、30とかなんとか前にプラマがいっていたきがする。
人は、生き物は、肉体を持つ以上こんなに腐敗せず、綺麗なまま生きてはいられないのだ。脳死して肉体が存続していたとて、床擦れは起こす。だが、私には傷ひとつなかった。
それに、死んでいたとしたらますます、保存装置もなく薬品漬けにもされず、存在しているのがおかしい。
ああ、普通まともに"生きてるもの"がこんなに綺麗な保存状態で生きているはずがない。物であっても、空気に触れ続けるかぎり劣化していく。あの時、石棺の蓋は明けられていた。ましてや、光が降り注ぎ、太陽光すら浴びていた。自分の肉体は30年もたてば、経年劣化はまぬがれないはずなのだ。人も有機的なものである以上、特別ではない。
"ソレ"が起き抜けに当たり前に歩き、食事を当たり前にする。
異常のなにものでもないと実感する。普通はリハビリをしなければ歩けないのだ。つまり、私は、不気味そのものが歩いているようなものだ。
生きた屍体、いいえて妙だ。
何と的確な言葉だろうか。
それでもどこか理解と感情が相反する。理解したくないと感情がせめぎあう。だって認めたら、認めてしまったら……。
「で、でも食糧庫は変わらず綺麗だったよ、普通腐るはずだよねっ、30年もかわらないはずないしさっ、そ、それに、服だって虫食いになるハズでしょ?」
『あれはマスターが施した、劣化しない術法によるものでやがります、服に埃はたまるのでプラマが手入れしていたです、食事はたべないかぎり劣化しない魔法がかかっているでやがります』
そうだ、プラマのふと気になった言い回しがあった、もう死んでいるのと同じだとプラマがいったあの言葉、今ではいやというほど理解出来てきてしまう。
「本当に30年たってるの? そそそそ、その実験とかいうのからっ」
『……です』
「本当に死んでるの?自分」
『そうで、やがります……』
「そう……、なんだ……」
『"魔女"と呼ばれるもの、それは、この世界では、死人しか、そう、呼ばれない、です……』
この世界で、生きることは、生者の特権ではなくなり、そこには、魔女がおしこまれていた。そんな、歪なセカイであることを、私はその時身をもって知らされたのだった。なぜなら……。
自分が魔女であるのだから。
アスリアさんが言った。でなければあの本は開かないと。
つまりならば、それを信じるならば私は、魔女であるらしかった。
うーんうーん認めたくない認めたくないけどなんか薄々変だなーとはおもっていたけど。
顔とか死人みたいに白いし。
あんだけ寝てて普通に起き上がれるし。
やっぱりかー、やっぱりかー。
逃れようがない事実だ。
ーー私やっぱり死んどるやないかい!
つまり、私は、そう、いうことらしい。




