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いつか魔女が眠るまで~ゴーストクリエイター魔女になる~  作者: 穂波祈弦
一章 脱出編・望まないはじまり~書きかけの小説をかかずに死ぬとは情けない~
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3  目覚め

 


 「あと5分……むにゃむにゃ、ん、ふぁー、このままじゃ二度寝してしまう……起きないと……久々によく寝たなぁ、ふぁ~、でもまだもうちょっと」




 めっっっっっちゃくちゃ寝た。

 久々に寝た。

 悪夢に魘されることもなく、すっごい寝た。




 一言で言うならこれぞ熟睡って感じだ。絶対に睡眠計測を行う機械を使ったら、深い眠りが続いていたに違いない。いやそもそも、機械がノンだとかレムだとか計測したところで、体感的には、寝たって感覚のほうが個人的には大事だ。


 

ーーうん、とっっっっても、スッキリした。




 身体は倦怠感を脱して、いまこそが健康体といえるほどには軽い。若かりし頃、大人たちがいっていた疲れが取れない、アレを経験し、それが常在装備になってしまった今や昔、こんな感覚は久々だった。




ーーんー自分の身体じゃないみたい、めちゃくちゃ、軽いー。不摂生が祟っていた重い身体とは大違いだよ。




 仕事に忙殺されていた日々、疲れが溜まっていても、休めない土曜日も日曜日も、結局なんだか抜けきれなかったあのどんよりした気だるさがない。まるで若返ったかのようだった。


 上司に怒られる不安、やらかす度に自分に辟易し嘆息する日々、生活水準底上げのために必要なノルマ、仕上げないといけない仕事にビクビクと震えて、月曜日にブルーマンデーを迎えるような心地ではない。


 強いて例えるなら、明日も寝てても良いのかと思える、寝正月のような心地良さだ。ここがハッピーニューイヤーだったのかもしれない。起きるのが辛いのではなく、純粋に今が最高に気持ちが良い。心地よい眠気とただ惰眠をむさぼるためにごろごろしていたい。




ーーんー、お前が浮気しても、私は浮気しないよ布団。




 1に睡眠、2に睡眠、3くらいで食事くらいには、睡眠は大事だと思っている、そんな自分にとってお布団がベストフレンドになるのは、自明のことであった。家の慣れた布団が嫌いなやつはあんまりいないのではないだろうか。

 そんなこんなで心地良い二度寝に突入したいとお布団を、寝返りをうって手繰り寄せようとした。しかし、返ってくるのはジャリジャリとしたつめたい頬の感触である。はじめて、違和感をおぼえた。




「ジャリ、いや、そもそもつめたい……?」




 いや、まてよ。ジャリジャリっと、冷たいし、硬いしおかしい。おかしいついでに、そもそもだ、今こんなに身体が回復しているということは、何月何日どれくらい時間がたっているのだろう。何年ぶりだろうこの軽い体は。




ーー|私の体がこんなに軽いわけがないじゃんか《若さを信じて寿命を削るそれを、不摂生という》。




 つまり寝過ごし、やらかし、大忙しの予感しかしない。




「ヤバい仕事!」




 そう叫びながら、身体を急に起こすと、キーンと耳鳴りと目眩に襲われた。ついでにどれくらい瞳を開くのが、久々なのか、目を開くだけで、世界が眩しくみえて、光が目を突き刺してくる。




「うぉ、目がぁ、ついでに頭も、ぬぉぉっ」




 頭はそこそこいつも悪い気も……いややめておこう。

 兎に角いまおかれている状況は、5倍ましくらいには、普通の知覚とは違う気がした。 


 まずなんだか、じめっとしていて、水の音が聞こえる。

 普通にベッドの上ってやつなら、水音なんて、水漏れでも起こしてるか、蛇口を閉め忘れるでもなければ聞こえるはずはない。

 じゃあ、外で寝る、なんて酔っぱらいの危険行為でもあるまいし。あ、とうとう仕事とかで、やらかしてホームレスの砦、雨を防ぐために高架下で目が覚めるというやつだろうか。


 でーも、それにしたって、結構なジメッと感だ。こんな湿度は夏場以外は、そんなにはないだろう。




ーーいーや、うん、やっぱりおかしくね?




 先程だって、布団を掴むはずが、マイお布団のフワフワと違った、冷たい石の感触だった。様々な違和感から、恐る恐る、瞳をもう一度片目ずつ開けて、光に目をならしながら、あたりを確認する。そうして、しだいに定まった視界が、教えてくれたのは、随分と非現実的な現実だった。




「なんじゃこりゃあっ!」




 自分は、石棺のような四角い石の箱におしこめられていたらしい。


 とりあえずは、認識的に、石棺(せっかん)と命名しておこう。見た目はそのまま棺桶みたいだからそういうしかない。


 その石棺を、名前も知らない木々が覆い、地面から少しばかり持ち上げている。




ーー木々のパワーってすげー。




と、馬鹿な反応まるだしで、唖然としながら眺めてみる。木々が揺り籠のような形をして、不自然な形に石棺を取り囲んでいるのだ。




「んしょ、っと」




少しばかり木々の間に、人一人が出ることができそうな穴がみつかる。木々の隙間を力をこめて、もう少し広げてみた。




「これで通れるかな、しかし、変な場所だなぁ」




 上を見てみると、木々が天井を突き抜けて、眩しいほどの光はそこから入ってきているらしい。あまり何が起きているのか、理解できていないけれど、とりあえずここから出るしかないことだけは確かだ。



 ーーうん、とにかくでないことにははじまらないよね。



 恐る恐る、眩しさに目を細めながら、その木々を掴み、石棺を出て、地面の上に足をつけた。


 石棺の周辺は不自然なほど草が繁茂していて小さな花が時折見える。その草や苔のようなものは、日光の当たるスペースだけに生えているのか、面積はそう広くなさそうだった。


 柔らかい草の感触から冷たい石畳に足を進めると、目が慣れてきて、ふと地面になにか模様のようなものが刻まれていることに気がついた。四方八方に、特定の不思議な形を描くように、水が流れているらしい。

 先程から湿気っていたり、水音がしていたのはこれだったのだ。

 その図形の意味はまったくわからないが、分からないことだけはわかる。そして、いまおかれてる状況がろくでもないことも。なんか怪しげな紋章もあるし、実験でもされちゃったのだろうか。いやいやいやそんなファンタジーな。




「いや~、もぅ、ほんと、ここどこだよ」




 びくびくと水音1滴にすら、怯えながら辺りを見回してみる。こんな湿気った場所には相応しく無いものが目にはいった。

 石で作られた本棚のような場所に、大量の本がビッシリと、埋め込まれているのだ。本に湿気はNGだろ、カビ生えるぞカビなんて、思ったが、触ってみると何故か不自然なほど本が劣化していない。




「不思議だー、んー?」




さらに、中をめくって見ると、全く読めない文字のようなもので書いてある。読めないので諦めて、本を戻すしかない。




「夢ってやつ?」




そう思って頬をつねってみる。




「いふぁい」




痛みは確かに、あった。夢でこんなに明確に、痛覚なんてあるはずがない。それに……。




「爪伸びすぎでしょっ」




頬をつねった瞬間に鋭く伸びた爪が、頬に突き刺さって、小さな血球を作った。手に少し赤い血がついてしまう。




「赤い……」




血の色と、針で刺されたような鋭い痛みは、はっきりと、ここが現実だと思い知らせてくれた。乾いた笑いと共に、この情け容赦ない現実に、呆気にとられて、膝を着いた。頭上のぼんやりとした光を見ながら、こう思う。




「もっかい寝たら、解決しないかな?」




 そう思って瞳を閉じてみるが、段々体が冷えてくるばかりで、クシャミがでるだけだった。


 「へっくしっ」



 肌をさすってもさすっても寒さは消えそうにない。部屋の水が気温を下げていることは、間違いないけれど、それ以上に、明らかにワンピースのような、薄い衣一枚で寝ていたら風邪をひく。最悪低体温で死ぬ。身体にかけられる布のようなものはないかと、ついでに、まわりを探してみたが、暖を取れそうなものはない。




「夢じゃないっぽいし、何より、ざむぃいいい」




 あれほど気持ちよく寝ていたというのに起きてみたら、これほどに寒いとは何事か。自分はこんな場所で、コールドスリープでもしていたのだろうか。目覚めたら何百年とか。




「いやいやい、ないない、うぅさむっ」




 へんな妄想を振り払って、奥歯をガチガチと震わせながら、立ち上がる。ここから出る方法をとりあえず探すしかない。ぐるりと当たりを見回してみると、本以外に気になるものが見つかった。

  人1人が通れそうなくらいの木造の扉だ。

 開かなければここで低体温症で、お陀仏だ。

 開いてくれと、願うしかない。

 ついでに、開いた先も、これ以上寒い場所ではありませんようにと、祈りながらその扉に向かって歩き出した。


 現実(いま)、何が起きているか分からないけれど、寒さだけはどうにもできない。 しばらく眠っていたせいか、足はヨタヨタとおぼつかず、地面を歩く感覚になれなければいけなかった。


 あと少しでその扉のもとまでたどりつくかというところで、躓き盛大に転んだ。どうやら石と石の間に根があったらしい。筋力が落ちていたり、部屋が光の当たる場所以外暗いことも相まったのかもしれない。




「痛たたた、散々だァっ」




 どうにか起き上がって、擦りむいた手のひらや、膝から汚れを落とした。その過程でふと気がつく。自分の擦りむいた血から、淡い光のようなものが漏れ出ているのだ。そもそも血も赤いが、うっすら透けている。これはどういうことだろうか。

 それだけじゃない、その血が目立つほどに、肌は驚くほど死人のように白かった。その異常さに気が付き、慌てて、 水鏡に、自分を映してみる。




「え」




 すると水鏡に映ったのは、老人のように白い髪の毛と、蛍のようにぼーっと光り輝く紅色と蛍光色の瞳だった。瞳孔は細く、獣のように鋭い。

 左の手を見てみると腕からは白い羽毛が、右手には銀色の鱗のようなものが見える。手足も人の骨と皮だけのようで、不健康なほどに細かった。なにより違和感のすべて集約されている、一番の特徴として、大きな角があった。明らかに自分の姿は、人のそれではなかった。




ーー爪が伸びたなとか、そういう場合じゃなさすぎでしょっ!




 まるで不完全に人を模倣したかのような、自身のその姿に、悲鳴をあげた。




「っ」




 水鏡に移った自身の姿は、まるで他人のように感じた。まるで自分の姿は、最初からそうではなかったと、"元の姿"を知っているかのように。




 じゃあ、肝心の元の、自身はどうだったか、思い出そうとする。これほど違和感と、嫌悪感を催しているのだから、確かにそういう姿があったはずだ。自分の姿はこうであったと。だが思い出そうとすると頭痛がしてくる。




「うそでしょっ……全然、思い出せない……頭が痛い……なんで思い出せないのっ」




 頭を抱えて、うんとか、すんとかいってみても思い出せない。頭痛が酷くなるばかりで、頭は回らなくなってくる。わかることは、ぼんやりと人らしきものだったきがすることだけ。姿は何一つ思い描けなかった。




「うそでしょー!!!ぬおおおお、ガッテム……ぅぅ、自分記憶喪失ってこと?」




錯乱して、頭を爪で掻いてしまい、爪が刺さる。そして地面にうなだれて、がくりと、崩れ落ちた。




「さっきから、自滅している気がする、

本当に馬鹿なのかなもう自分は……はぁ……爪切らないと自滅する……はぁ自分記憶喪失かぁ」




 ひとしきり錯乱したついでに、自分のことを何一つ、思い出せないことがなんとなく冷静になるとじわじわとしみてきた。涙まででてくる。目が覚めたら、なんか人っぽいのやめてるとか、ろくでもないおまけがすぎる。


 「人じゃないことに違和感覚えたってことはもとは人だったってこと?はぁ……なんでこうなってんだよ~」



 きっと、あの有名な小説のグレゴールザムザもきっとビックリだ。毒虫に変わっていましたならぬ、人間やめてたなんて。今ならきっと気持ちがわかる。

 天井をぼんやりと死んだ魚のような目で見つめながら、それでも姿は変わりはしなかった。




「へっくしっ、ふうさむい」




 現実は非常である。どれだけみためが、異形になっても、くしゃみは出るらしい。よたよたと現実逃避をしながら、寒さに負けて、扉のドアノブを掴む。向こうには、温もりと押しつぶされないくらいの現実があると信じて、完。



 なーんて、そんなわけにもいかないようだった。

 仕方なく凍死回避のために扉を開いてみる。

 すると、しばらく長く続く階段があり、上に登っていくと、また扉があった。今度は上に開く形式になっているらしく、ノブを押し上げてみる。すると、古い小さな倉庫のような場所にでた。やけに土ぼこり臭い。




「うおっげほっげほっ」




 目に砂は入るし、むせるしで、良いことはなかったけれど、扉はここを開けるしかなかったので仕方がない。


 薄い簡素な服しか、身につけていないけれど、これでもいまは一張羅だ。服のホコリをおとして、どうにか、そこから出る。そして、今度はただの木造ではなく、随分凝った金の装飾がついた扉があらわれた。こんどこそ、ましなところに繋がっていてくれと祈るしかない。寒さも空腹も、ピークなのだ。




「えい、ままよっ」




 ーーこういう時ままよとかいう人いる?いたよ、自分だよ。




 一人で不安なので、気を紛らわせようと、内心下らないそんなことを突っ込みながら、ホコリをかぶったドアノブをまわした。個人的には、戦にでもでるような大袈裟な気持ちだった。

 もちろん希望はありつつも、さしたる期待はしないようにしていた。とりあえず暖を取れそうな場所があれば良いと願いながら。しかし別の意味で期待は裏切られた。




「城……?」




 もっとこう表現がないのか、ボキャブラリーがないのか、みたいな気持ちだけれど、こう、自分という個体の貧困な脳みそではパットでてこない。記憶もナイ、ボキャブラリーもナイ、ナイナイずくしだが、その表現も、あながち間違いではないと思う。




「ふぁー!?」




 呆けて見回したそこにあらわれたのは、荘厳な大広間のような場所だった。城や大聖堂のように、天井は見上げるほどに高く、上を向いても、左を見ても、細かな装飾が施されている。

 均等に建てられた太い石造りの白い柱は、経年を感じさせることなく、支える役割を全うしていた。

 主を迎えるためにか、ひかれた赤い絨毯も、汚れた様子はない。それらのなにもかもが、一目で、普通の家じゃないことを想像させた。


 見上げた時に目に付いた、天井の絵は太陽かもしれない。それだったら、下の大理石のような石に刻まれた装飾の形からして対をなす月だろうか。

 天井の太陽のような紋様には、見たこともない生き物や、人が手を伸ばしている。そんな絵が描かれていた。


 荘厳さもあるけれど、しかし見た目ほど何故か感じる華美さはない。所々に木造の装飾もあり、温かみがあるからだろうか。




「いけないいけない」




 呆けてる場合じゃない。ここがどこであれ、まず、暖をとって、そのうえで、状況を確認しないと。もちろん、受け入れたわけじゃないが、行動だ行動。




ーーそうしないと、現実に負けちゃうんだなぁ。だって起きたら角が生え散らかしてるんだよ。考えたらもう負けだよねえ。




 とりあえず地下から抜け出したことを喜ぼう。

 うんうん。

 決して暖かい訳ではないが、水の流れた地下室のような場所よりはましだ。それでも、だいぶ寒いけど。




「うぅ、広間だから、ふきぬけで、へくしっ、やっぱり寒い」




 こんな立派な場所なら、暖炉とか暖を取れそうな物が置いてある場所も、存在するのではないか。そう思いながら、一からありそうな場所のドアを、開けようか考え始めたその時、視界に、丸い光の玉がよこぎったのが見えた。




「ひぉ!?ひひひひひとだま!?」




 声にならない変な声をあげて、当たりをもう一度見回した。


ーー気のせいだろう、気のせいだろうよね、気のせいであれっ。


 びくびくと、恐れからまるまった背中をのばして、バクつく心臓を宥めて、息を整える。恐怖からか、下ばかり見てしまう。そうして、恐る恐る、もう一度当たりを見回したあとに何も無いのを確認すると、安心して行動に移そうとしたのだけど……。




「のああああああ!?」




 眼前にあの光の玉が 、急にあらわれた。




『ーーーーー?ーーーー』


「なんていってるの」




 音声のようなものがきこえるが、なにを喋ってるのか、まったくわからない。尻もちをついて、あとず去ろうとするが、身体は固まって動かない。


 そうしていると、光の玉が急に自分の額の辺りに密着したかと思うと、なにかしはじめた。なにか悪いことを、されている気分はしないけれど。




 むしろ何故か安心感がある。




しばらくすると、光の玉がまた自分から離れていった。少し距離を置いて、止まる。






ーーなに?






『ーーー??ーーーー、でどだ、でてでてで、ドウキヲカクニンシマシタ、ゲンゴノタイケイノヘンヨウヲカクニンシマシタ、ジョウホウシュウセキ、ソウテイサレル、カイワゲンゴノリカイヲ、タイショウカラチュウシュツ、ケイサンヲカイシ、スイテイサレルカイワヲエンシュウ、カクニンヲオコナイマス、ピピピピ……カンリョウシマシタ』




光の玉が動きを止めたかと思っていたら、急に、今度は、片言の機会音声のようなで話し始めた。




「なになになになに!?」


『おはようございますでせう、おきやがりましたか、マスター、ネボウを通り越して、重役出勤でいやがります、一昨日来るのですっ!』


「キャアアアしゃべったあああああああああ!?」



それがはじめて、私が喋ったこの世界初の会話相手プラマであった。







ふわふわの布団が好きです

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