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いつか魔女が眠るまで~ゴーストクリエイター魔女になる~  作者: 穂波祈弦
一章 脱出編・望まないはじまり~書きかけの小説をかかずに死ぬとは情けない~
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2 エラー対象の死が確認されました


 ここは、どこだろう。やたらと、生ぬるい感覚がある。そう、あれだ、温泉にでも浸かっているような、心地よい温もりだ。   


 けれど本物の温泉に浸かっている時と違って、全く動ける気がしない。四肢を動かしても感覚はなく、それどころか、目蓋は開けず、視界も確保できない。


 つまり今自分は、視界も失ったまま空間を漂い続けているような現状らしい。


 それとオマケでいうなら、なんとなくめちゃくちゃ眠いという感覚だけはある。


 暖かい高級そうなベッドで眠りこけていたら、こんな感覚なのだろうか。ウォーターなベッドとか。それはとても気持ちが良いのだろう。


 さてどうなっているのやら。そうは思うものの、身動きひとつとれないというのに、何故か、別に困ったなぁとも思わないのだ。現状への恐怖心はなく、安堵すらある。




『ーーーーー~~ーーーー、言語をダウンロード解析しました、現状の固体の情報を把握、対象の"死"が確認されました、原因の特定を開始、特定完了、過剰なストレスと、服薬、肉体疲労による脳血管へのダメージを確認しました』




 唐突にそんな言葉が自分の内側から響いた気がした。随分機械的な音だった。ちょっとまってほしい、死ってなんだ死って。




『これより惑星、文化レベルにあわせた個体の情報抽出を行います。12、43、50、78、90、100パーセント、情報の抽出を完了しました、個体名■■■■■■が生命としての活動を停止を確認、循環における座標02惑星における人類種としての肉体の確かな損失、腐敗促進をさけるため燃焼された記録を閲覧、脳神経系における活動が■■■■の擬似活動回路として成立していましたが、■■■■の疲弊および損壊が激しく、完全な移植は困難と推定されます、移植時に適合する確率は61パーセントです』




 はて、循環、損失、燃焼?


 なんだかわからないが、とりあえず私は火で葬られて、焼かれて、埋葬されたってことか?




 肉体は無いと?


 じゃあ今自分は幽霊だと?




 うーむ、そう言われると何故か、ストンと腑に落ちた。 通りで、四肢も瞼も動かせないわけである。ちょっとばかし足りなくても、回せる頭があった頃はまだ、幸せだったらしい。優秀な脳みそでは決してなかったけど、大事な私の頭だった。それすら消えているらしい。




 いやまてよ、しかし、今こうして考えていること自体が、思考ではないだろうか?


 幽霊が思考できるなら、脳みそ意外に思考や個人の情報は、どこに集約されてるのか。なーんて思ったりもするけど、今この状況は何にもきっと説明できない。




 きっと、夢オチなんて思っちゃったりもするけど、どっきりや夢オチにしてはなんとなく違う気もする。そもそも芸能人じゃなかったからどっきりなんて引っかけられるような人生でもないし。


 まさかのまさかで、本当の本当に死んじゃったとか、でも、にしたって、原因はなんだろう。誘拐されるような金品や、健康な臓器すらもっていなかった。案外豆腐の角に頭ぶつけたような些細なことだったりして。不摂生な生活はしていたから可能性としてはそれかな?ともおもう。けれど、死因を明確に思い出そうとしても頭にモヤがかかっている。この状況、天才物理学者とかがいたらどうなったかわかるんだろうか。自分は天才でもなんでもないから、わかるはずがないのだが。




 それにしたって、こんな場所があの世なのだろうか。


 瞳が機能していないっていったって、三途の川やら天国やらそれらしき何かは何処にも、感じられないのに。石の感触も川音もない、曼珠沙華も咲いていそうにない。あの世の船頭の舟歌だってきこえない。羽の生えた天使がいるなら、羽音くらいするだろう。まさかの地獄だって、釜茹でや悲鳴の音くらいする。




 もっとコミカルに、お前の人生で稼いだ船賃さしたことないぜっ!とかマッチョの船頭に、ごーてぅーへーる!!!とか、言われるかと思っていたのに拍子抜けだった。

 昔みたB級映画に、そんなのがあったなぁと思う。三途の川なのに船頭がマッチョの外国人みたいなミスマッチなやつ。

 そんなことは当然なかったらしい。  



 死体が焼かれて耳の機能も失ってる可能性もあるけど、まぁそこは置いておこう。そもそもそんなことをいったら、古典的なイメージでしかでない自分の貧困な発想にすぎないし、あの世の存在なんて分からないのが当たり前だし許してほしい。誰に許される必要があるのかわからないけど。


 それにしたって、普通の状態ではないことだけは確かだ。






 肉体がないなんていわれても動けない見えないこといがい実感はないし、こうして考えることが出来ているのだからなんとも今は不便な感じはしないのだ。


 普通なら、驚きとか、恐怖とか、色々湧き上がるところだけど、何故かまるでそんな回路を切断でもされたように何にも感じられない。拘束されてるとか、変な薬で倒れてダルいーとか、そういう感覚もない。すると、やっぱり、ここは、少なくとも現実的な場所ではきっとないのだろう。


 まるで客体として、自分がそうしているということだけが、ぼんやり認識がある。ただ淡々と、そういう電子アナウンスの指示を聞いているかのようで、なんの感慨も芽生えない。




『意志と■■■■情報の選択、エラーが表示されました、再度試みます、エラーが表示されました、再試行を行いましたが、■■■■情報の選択はできませんでした、生命循環からの逸脱を確認、キャッシュクリアをうけつけません、損壊による廃棄を提案します、廃棄を提案します』




 もしここが、本当に死後だって仮定したとして、前世のことを少しだけ思い出してみる。親戚の連帯保証人になって親が喧嘩するわ、殴り合うわ、家賃やら人の借金を背負わされたり、作家のパワハラや、盗作や、いじめとか、まぁ色々体験なんてしたくもないようなことを体験した気がする。




 ーーいや、字面だけで、ろくなことないな!




 だからだろうか、あんまり人は好きじゃなかった。たった一人の友人をのぞいて、人間恐怖症ってやつである。




 けど、完全に嫌いになれなかったのは、創作があったからだろう。自分も人であることは離れられない。また、それを生み出す人間も、人だからだ。嫌悪はあれど、否定できなかった。だから最後まで、無様に未練がましく創作を握り続けていた。他人からみたらマシな環境だと、思われてるかもしれないけど、決して自分からしたら、あんまりろくな事は無かったような気もする。


 まぁ死んでしまっているとしたら、もはや笑える話だ。悲劇とは、最終的に喜劇のように笑うしかないものだろう。なにかあったのか、なにをしたかったのか、もがきながら死んで、そんな自分は何も残さず死ぬらしい。




 おーなんということだ。人生2週目なんてよくいうが、ゲームなら強くてニューゲームとかあるはずなのに、自分にはなさそうだ。追加ステータス要素が何も登録されなさそうな人生すぎるだろ。むしろマイナス補正値がかかりそうですらある。はぁ、死んだとしても、自分の無能さが際立つとは……。




 それにしても、この機械仕掛けのアナウンスが本当だとしたら、自分は廃棄されるのだろうか。




 まぁろくでもない人生だったけど!


 社会に残しておきたい富とか誉とかある人間でもないけど!


 さっさと廃棄した方がそりゃあ手っ取り早いけど!




 廃棄って言葉がなんか如何せんうけつけられない。




 ーーうー廃棄か……。




 でも1周くらい思考が回ったら、不思議と廃棄という言葉が悪い気はしなかった。それほどまで生き返ったとて生きたい人生だったか、と思ったらそうでもない。頑張ったことは頑張ったのだから。こんなことをいったら、生きたいと願う人間からはきっと、侮蔑を向けられそうな人間に違いないけれど。




 生きたい人の前で失礼ですよ!とか論破されるんだろうけど。こうなっては仕方ない。


 


 ろくなことはなかった、してもいない人間なので言い返せない。総理大臣とか、すげー偉業達成した科学者とか金メダリストでもない。


 廃棄なんて、物のように扱われているというのに、まるで諦め受け入れている。それくらいの人間だ。つくづく生き甲斐のない人間性である。


 けれど、それと同じくらいなんとなーく、それでいいのかと、ふと思った。


 書きかけの創作が脳裏を掠める。これ確か前にも、こんなの思わなかったけ?そうだ、確かに頭がめちゃくちゃ痛くて倒れて、そんなときまで創作のことを思い出していた。最後まで創作バカかよ。


 これが本当に死んでいるという結果のあとに訪れる現象なら、もうそんなことを考えたって何かをできる体がないけど。消えるとか消えないとか、もうとっくに終わっているのに、そんなこと考えたって仕方ないと言うのに……。


 ーーあきれたものだなぁ自分。


 それにしても、さっきの電子音のような声、わけのわからない話のパレードだった。機械的な言葉の羅列、死後の世界は、思ってるより、デジタル管理社会ってやつなのだろうか。人件費削減ってやつか。世知辛い。地獄も天国も極楽も、あの世ってやつは随分簡素化しているとしたらそれは、やりすぎだろう。


 このまま、ベルトコンベア式に処理されてしまうとしたら、目を閉じたら不味いんじゃないか?


 本当に廃棄されてしまうんじゃないか?


 いや死んでるんだぞもう、別に目覚めたってろくな人生が続く訳じゃないだろう、目をとじてどうなろうが関係ない話じゃないか。


 二つの思考がいったり来たりする。


 そんな、二律背反の気持ちとは裏腹に、眠気は増してくる。いや、そもそも、もう死んだっていうのなら眠いってのもおかしい気がするし、これ以上頑張らなくて済むのではないか、ギブアップしたっていいんじゃないのか。永眠とかいて死とかくのだ、寝ちゃえと心がささやいてしまう。睡眠薬とか飲んだくらいには激烈眠い。寝ちゃえ。寝ちゃえ。寝ちゃえ、えーいそれなら寝てしまうか……。


 意識を手放そうとした時に、別の声が内側で響いた。




『まって、プラットフォームの最適化を確認、"生命の大海"へのアクセスコードを入力、7回路まで始動、急ぎ承認にして』




 機械的な音声とは違う、何故かどこかで、聞いたことがある声がした。君どこかであったことある?みたいな、いやいやナンパの古典方法じゃないんだから。うん、聞いたことがあるはずなのに、まったく、思い出せないなら、それは聞いたことがないのとさして変わらないんじゃ?


 そうだ錯覚の類に違いない。


 けれど、人的なその声の響きは、諦めと微睡みに飲まれていた思考を、少し引き戻してくれた。言ってる事の意味は全くわからないけど。




『承認を完了、回路からの、"始原"の接触を確認』


『なら、ワクチンを注入開始、並行して、このまま続行して』




 始原とはなんだろう、ワクチンとはなんだろう。そう思ったとて、自分に施されている処置であることはわかる。




『バグの残留が確認されたままデリートをした場合、成功率は著しく下がります、適切なクリーンナップ後、治療、循環に戻す方がコストが低いと提案』


『もう時間が無いの、進めて』


『管理者の命令により続行、スキャン開始、スキャン開始読み込み中』




 何かが全身を通り抜けていったような感覚がした。まるで医療機器に体を検査され読み込まれたような。むず痒いような感覚に、もぞもぞとしてみるが、そもそも肉体がないのにおかしな話だ。




『1部、重大なバグから引き起こされるエラー回避のため、個人記録に関する部分を焼き消します、それを行うことによって、適合率があがり、個体の保存割合が大きくなります』


『本当は全部残せれば良かったけど……いいえ、この子が消えるよりなら、そうしてちょうだい』




 ーー消す?


 ーー何を?


 


 そう思った頃には、そもそもの疑問は消えていた。あれほど、自分の中にあった、ーーやーーへの気持ちがまるで霞の奥にまぎれて消えていくように中から無くなっていった。喪失の恐怖をおぼえるどころか、喪失したことすらまるで知らないかのように。




『負荷を考慮し、構成体情報に適合した、合致する肉体の生成、個体情報の損壊を補える値が強い個体を補強として用います』


『既存情報も出来るだけ付与してね』


『抽出された既存情報を付加します、個体の人類種への嫌悪および不信を確認、生前の能力を確認、マイナス値を補正し、適格能力の付与を施します、エラーが発生しました、■■■■損壊および、人類種への嫌悪の原因である能力を、完全に消すことはできません』


『そう……■■から解放されているなら、そこは問わない』


『わかりました、では、生前の能力を加味し、固有能力、クリエイティブポゼスを付与、生前の体験および、クリエイティブポゼスの付随能力として他複数が発現しました、対象が遭遇した事態にあわせ解凍されます』


『それでお願い』


『8、27、38、52、81、93、100パーセント、構成が完了しました』


『■■の魔女、灯台守の魔女より最後の祝福を』




 灯台守の魔女、そういった、彼女の声は、寂しげで、とても悲しげで、それでも、何故か慈しみに満ちている気がした。 その声のお陰だろうか、私の中にある、あれほどに燻っていたーーへの激情は凪いでいた。その声だけが今の自分の内を満たすものに変わっている。否、もうそれだけが自分のもっている、最大限の情報になっていた。




『スタートアップ前の確認を完了しました』


『そう……はやかったわね、でもいつかあえるわ、必ず、あなたが歩ききったその時に』




 もう行ってしまうのか?


 名残惜しさが、心の奥を掠める。会ったこともない、姿さえ確認できない。ただ、ただなんとなく懐かしいその人に、それでも何故か郷愁を覚えずには居られなかった。




『最適中、最適中、破損部分の懸念事項は突破され、イデアの送信を完了しました』




『ご苦労さま、これで、最後の私の役目は終わったわ、その日が来るまで眠りましょう、私は助けてあげられないけど、どうか、どうか良い人生(たび)を』




 その声の主は、最後に私の頭を、撫でたようなそんな、不思議な感覚がした。名残惜しいその感触をたぐりよせようとしたら、まるでつきはなされたかのように、自分の存在は沈んだ。




 深く深く。水底に沈むように。




 己は、重りをつけられたかのように、自由を失って沈んでいく。目蓋は重くなるばかりで、夢心地にただようばかりになった。抗うことも知らない幼い子供のように、流れに身を委ねるしかない。沈んで沈んで、そうしていくと、彼女の声が遠退いていく。まるで水面の光が、遠ざかるかのようだった。


 なぜだか知らない人なのに、それがとても寂しかった。母親から離された子供のように悲しみがあった。


 顔も見えない、誰かのその声が心地よさが消えるのが辛かった。ずっと聞いていたかった。でももう終わりらしい。




ーーいい子だからもうおしまいよ。




 そんな風に諭すようになぜだか聞こえた。


 この人を困らせてはいけないとおもったから、それ以上はなにも求めることはやめてしまった。


 でも、でも、あなたはいいのだろうか。そんなに寂しそうで、悲しげなのに。ひとりぼっちに見えるのに。誰か、そばにいてほしくはないのだろうか。そう思ったけれど言葉にはならなかった。


 深い微睡みがその言葉を許さなかった。


 隣にいてあげられなくて、助けてあげられなくて、ごめんね、ごめんなさい。


 この心配は、きっと彼女には届かないのだろう。そんなどこかのだれかのちっぽけな心配なんて知るはずもなく、遠くで私のために彼女が歌ってくれている。子守唄のように、私を導くために。暗闇と、困難と、悪夢に苛まれないように。だから大事にその声を聴いた。導きのその声が、口ずさむ遠い日の歌を、|波間に歌が消えるその時まで《意識が途切れるその時まで》。




『慈しみ深きもの


 産声枯れた


 大地を許し


 罪忘れの愛し子を


 どうか


 聖なる血で


 灌ぎたまえ』




おやすみなさい。何にも無い自分に、歌ってくれた人、どうか、またあえますように。



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