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いつか魔女が眠るまで~ゴーストクリエイター魔女になる~  作者: 穂波祈弦
2章 アダシア編~恋とはもっとも独りよがりな自家撞着に陥る酩酊~
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8、鼠取り作戦

 自分は、ロンダルさん、ノルクさん、ダカンさんと他勇士さんと共に、アダシアの南側から、探索をすることになった。そのため、避難所を出て今は、南側に出る地下通路を走っている。


 他部隊は、別の方角を当たることになり、そちらの方面に繋がる通路を使って、同じように進行しているはずだ。  

 また、ダカンさんがこの街のことにかなり詳しく、勇士としても、ベテランなため、人数は一人、こちらの方が考慮され、少なくなった。


「こっちのほうが少人数だが、俺は何よりアダシアに詳しいぞ、皆、安心してくれ、あ、もちろん俺より詳しいってやつもいるだろうが、いまはこらえてくれよ、勝負はこれが終わってからだっ、さぁ、出発しよう」


 ダカンさんが、鼓舞するようにそういうと、雰囲気が和らいだ気がする。

 ダカンさんと親しい勇士達が、「支部長にそんなの譲りますよ」などと笑い掛けている。ロンダルさんも、ノルクさんも続いて、勝負しなくても譲るなどと、否定していた。「おいおい張り合いがないなぁっおまえら」なんてガチで悔しそうだが、もしかして、一番詳しいって言い張ってるのは本音だったのか?


 でも、実際それで今助かっているのだから、感謝しよう。うんうん。世が世ならご当地アダシア、クイズ王決定戦とかに出ていそうだ。


 自体は緊迫してはいるが、そんなやりとりのお陰で、心がこちらも楽になった。こういうことに場馴れしている人達なのだと思う。先導している人が自信が無いと、不安になることをわかっているのだとおもう。


 ーーさすが支部長や勇士さんたち、ベテランだ。信じてついていける感じがする。


 張り詰めて仲間内で、ミスを罵るような雰囲気になるよりは、カバーが効く。自分は、どれほど役に立つかわからないけど、この人達がいればやれるような気がした。



ーー怖いのは変わらないけどね!



「おっと、ここだ、ここを曲がるぞ、こっちが南側の薬屋の近くに、出る通路に繋がってる、皆ついてきてるか」

『はい/おう!』


 時折皆が着いてきているのを確認しつつ、先方ダカン、後方騎士で、迷わないように先導してくれて時折確認を挟む。

 同じ光景が続く地下通路で迷って、戦力が分散してしまっては、二度手間になる。的確だと思った。


 宿屋から地下通路を避難用として利用したけれど、本来はこういう有事のための通路でもあるらしい。上が魔飲に襲われて通れずとも、狙いがそれている地下ならば、行き来がとりやすい。そのために、あちこちに張り巡らされてるのだという。


 かといって、この場所に詳しくないと迷路のように人を迷わせるけれど、そこは町の勇士の出番だ。現に、ダカンさんは慣れた様子で先導している。


「支部長すごく、案内、慣れる、気がする、依頼、義勇組合、おぼえた?」

「ナレーシアの知り合いなんだろ、なら支部長だなんて、ダカンでいいぞ~」

「わかった、ダカンさん」

「あ、で、ええとだな、俺は半分くらいは巨人族の血が流れているんだが、巨人族の里だと、俺は逆に小さくてな、山里の暮らしに馴染めなくて、小さい頃にアダシアにきたんだが、それで、故郷より、アダシアのほうが長い、だから、第二の故郷みたいなもんなんだよ」


 ダカンが大きいのは、半分くらい巨人族の血が流れているかららしい。じゃあ本物の巨人族はもっとデカイということだろうか。それにしても、ナイーブな話を聞いてしまったかもしれない、悪かったかな。



「聞く、づらい、きいた?」

「皆にいってることだ、そんなことはないさ」

「そうそう、むしろ、ダカン支部長がよ、アダシアっ子じゃないっていうなら、俺ら立つ瀬がないぜ」

「そうよそうよ」



勇士の人達も、知っていることらしい。それに、ここまで慕われているとは、人徳の賜物だろう。ただ、ネネルさんからすると、お小言の対象らしいけれど。


「ほんと、長く駐在している騎士の俺らもダカン支部長に聞くこといまだにあるっすからねー」

「ダカンさん、町のこと良くしってますから、いつも助かってます、あ、ありがとうございます」

「照れるぜロンダル、ノルクちゃん、ほめてもなにもでんぞ、ガハハハっ!」

「ひぅっ!?」


 豪快な笑いに、ノルクさんが、ダカンに気圧されていて、一歩たじろいでいる。見た目もでかいし声もでかいから、そりゃあ気圧されてしまうだろうけれど。ノルクさんが小柄だから、余計に、対比されてそう見える。

 私の頭の常識には、巨大化したら負けフラグなんて言葉があるらしいけど、デカイって、実際はパワーを感じるな。巨大怪獣の足元にいたら、人間ご飯粒みたいなもんだ。

 デカイと表面積は上がるから、攻撃は当たりやすいけど、小さい剣で身体を刺したら、少し蚊が刺した程度なのかも……。ダカンさんくらいデカイとそれが武器になりそうだ。


ーーデカデカムキムキだもんなー。


「相変わらずダカン支部長は、こんな時も元気だねぇ、おっさんは年のせいか、もう疲れて休みたいってのに」

「ロンダルさん、もう少し頑張ってくださいっ」

「ロンダル、終わったら酒瓶1本分ぐらいはおごってやる、がんばれぃっ!」

「まじっすか、言質とりましたよ、ダカン支部長」

「1本だけだからな!」


ーーそれ1本ですまないやつだ!


 と、そんなことを思いながら、こんなでやり取りをしているうちに、地下通路を抜けたらしい。

 突き当たりに階段が見えた。

 こちらは、宿の側の入り口と違って上に抜ける通路は、階段になっている。梯子よりは断然こっちのほうが良いけど立地の問題や、普段地下通路を、整備する人が多く通るなど頻度の問題もあるのかもしれない。

 現に普段人が入りやすいようにするためか、扉は鍵のかけられた金属製の開き戸になっていた。今は非常時に避難用に解錠したためか、鍵はかけられていないようだった。

 少し錆び付いているため、しぶそうだが、ダカンさんはいとも、簡単に開ける。

 ギィーっと、金属が軋む音がしたけど気のせい……。いや気のせいじゃないよね。


 ーーナレーシアちゃん、あなたのお父さん強すぎるよ。


 「おっとダカン支部長ここからは、俺らの仕事だ、したくもないが、騎士として協力者にやらせるわけにもいかない、俺が外に出てあたりを警戒したら安全なら合図をする、ノルクちゃんは一番最後に後方を確認して、流術士さんを守ってくれ」

 「りょっ了解しました!」

 

 騎士の領分というやつだろう、そこは、ダカンさんも、理解しているのか、ロンダルさんに先方を譲った。騎士は王の勅命で動いている。治安維持や魔飲の討伐、その安全を助力者に委ねたとあっては、問題が出るのかもしれない。


 「ダカン支部長、そこの流術士さんの側にいって守ってやってくれー、他の勇士の人達も」

 

 皆頷いて、そのように行動にでる。ダカンさんが後方に下がり、ロンダルさんが盾と、剣を構えながら周囲を警戒しながら扉からでた。しばらく念入りに確認したあとは、「大丈夫だ来てくれ」と、声をかけた。周囲はほとんど、避難して静まり返っているけれど、念のため逃げ遅れもいないか確認もしているようだった。

 全員が地下通路から出ると、ようやく自分の出番がきた。


 「わ、私たちが、警戒してるので、安心して濃度の濃い部分を探してください」

 「わかった」

 「焦らなくていい、俺らがいる」

 「今から、探る、地図ある?」

 「あ、ありますっ」

 「書き込む、良いもの?」

 「これは支給されている安物ですから大丈夫です」

 「なら、私、指差す、場所いる、印しるす、する、もらう、その時、印、お願い」

 「は、はい私がやります!」

 「ノルク、さん、お願い、します」

 「はい!皆さんも守りお願いします」

 

 

 騎士や勇士の人たちに視線をあわせ、今からはじめる合図をして、頷いてみせた。それに周囲も頷き返す。


 「行く」


 集中のために眼を閉じる。プラマさんと一緒に取り組んだ、流力を感じたときのように。

 

 ーーおそらくは、小さく弱いといっても、通常の場所の濃度よりは、濃い流力を放っているはずだよね。


 雑音のように空間に流力が漂っていても、出会った鹿もどきの流力は、まがまがしいほどだった。あのときは逃げるだけで精一杯だったけど、なんというか思い出してみれば、威圧感とドロっとした濁った濃いものを放っていたのを思い出す。あれほどではなくても、瘴気に汚染された生き物なら、普通の流力よりは小さくても濃い部分があるはず。

 

 「ふぅ……」


 深呼吸して、目を閉じる。自分の体は、魔女であり、魔女はこの世界の流力と隔たりがない。つまり、魔女の身体は世界の延長であり、世界は魔女の延長でもある。

 己の感覚を研ぎ澄ませ、糸を張り巡らせていくように、周囲の流力を、探っていく。何度もこれだけは練習して覚えたから、できるはずだ。


ーー焦るな。


 自分の回りを取り巻くものは、物質に寄って変質しているものが多い。

 まだ変質していない無色の弱々しいものもあるが、他はほとんどが変質している。

 木々に寄ってる緑、篝火の火の赤と光の淡い暖色、海の近くだから水に寄る青い色、土や石に変質した茶色、これらが当たり一面に多い。それらは、見たことのある一般的な流力だ。

 

「ん?」


普通の流力の他に、違和感のある場所に気がついた。これは魔飲ではないが、もしかしたら……。


「どうした」

「五軒先、建物、ニ階、人、流力、感じる」

「流術士ってのはそんなこともわかるのか」


人に寄っている流力が、人の形を薄ぼんやりと浮かび上がらせている。この変質は人、独特のものだ。始めてみたが分かりやすい。身体の表面に一番多く、それゆえに流力が人の形を、成すのだ。そして身体の内部に僅かに流力がながれて、きらきらと金色に煌めいている。


「お年寄り、足悪い、かも、近く、木、流力、感じる、木製の杖、かも」

「ここらへんに、そうだ、一人で住んでるばあちゃんがいた、身寄りもないからって定期的に勇士たちが見回ってたんだよ、しくったなぁ、有事で気が回らなかった、情けない」

「支部長は、逃げ遅れの確認は念入りにしてたわ」


一人の勇士の女性が、肩を叩いた。責任感が強い、また、支部長という立場のダカンさんだ、気負うものがあるのだと思う。それに、こんなときに全てを把握するのは確かに無理だろう。人は全知全能の神ではない。たまたま自分が感じるのが得意だっただけだ。



「そうだっ、今回は急なことだったし、仕方ないぞ、ダカン支部長は、騎士から要請うけて、動き回ってたからな」

「そうよ、まだ助けられるのだから、背負いすぎないで、支部長、その人、私が、避難させるわ、ごめん、戦力が欠けるかもしれないけれど、ほかの勇士の人たちはベテランだし、経験の浅い私が抜けた方が良いから」

「なにいってんだおまえは十分腕は立つだろう、俺が」

「いや、ここにいるやつらはみんな力がある、だが迷っている暇はない、率先してくれたからな、頼めるか、悪い」

「ええ!!謝らないで、そのための勇士達でしょ」


 一緒に来ていた女性の勇士の人が、そちらの建物に向かって離れた。迅速に役割を理解して、救助に向かった。

 ああいうさっと、決断できる彼女のような人や勇士さんたちは、とても、かっこいいと思った。いかんいかん、こちらも集中して探さなければ。肝心要は自分にかかっているのだから。


ーーうへー、引き受けたくなかったけど、責任重大だなぁ。やるしかないけど。腹をくくろう。


 全部探して瞬時に判断できれば良いけれど、時間がかかりそうだ。可能性の高い所をまず、潰していこう。


 「全部、探す時間、大変」

 「そうだな、あんたにも負担が大きい」

 「だから考えた、小鼠型(チュピリ)いそう、とこ、まずみる」

 「確かにそうだな、魔飲化したやつらは、燃費が悪い、だから流力をとりいれるだけじゃあきたらず、餌を探すことが多い、あとは暗いところか」

「あと、ゴミ、捨てる、場所、餌なる、近く、ある?」

 「ある、集積場所は地区ごとにきまっている、ここいらは、二つ隣の路地裏に、燃えるものと、分けて、出すことになってるぞっ」


 こちらも、生活ゴミの回収は決まった日に出すんだなぁ。生活感が近くて安心する。じゃーなーくって、ネズミもどき探さないと。


 ーー気がそれたらだめ、だめ、集中集中。

 

 「あっ、あと、ゴミ捨て場は、十軒先の橋下近くです」

  


 ノルクさんとダカンさんに、言われた通り、ネズミが隠れそうなところ、建物の暗がり、回収場所としてゴミが置いてある場所、他、食べ物がある店屋など、二人に聞きながら、場所を潰していく。


 「流術士の扱える力の量によって、捜索できる範囲って違うと聞いたことがあるが、大変なら、おまえさんを抱えて走り回っ……「ここ、いない、ここ、ない、ここ、潰した、ゴミの場所、いない、次、中央通り、つなぐ、道、下水入り口、近く、いない、お店、いない、次食べ物店、あとゴミ、集積場所どこ」

「次はここですっ」



 ーー何かダカンさんがいっていた気がしたけれど、今集中が途切れたら一から集めなおしになる。ごめんなさい。


 ついでに探しながら、周囲にある流力を集められるだけ、1ヵ所に集める。マルチタスクで疲労がたまるが、周囲にある流力を排除していけば、あの鹿もどきの魔飲で知った、どす黒い流力を捉えやすくなるだろう。

 流力はいくらでも自然からわいてくるけれど、吸収すれば、一時、空間から消えるようだから。

 煩雑な流力の中から弱いものを見つけ出すのはそれなりに苦労する、その、手間を減らす。

 ただ、一つ経験してわかったことは、流力で周囲を探していくと、目を閉じているのに、もう一つの視覚を得ているような心地になる。逃げるときなど有事の時は、とても便利になりそうだけれど、二つの視覚を使うのはそれなりに負担がかかるようなきもする。やってみて、良かった。自分の力への理解が深まる。



 「大丈夫だろうか」

 「支部長集中しているようだし、おっさんたちは守りに徹しましょう、勇士さんたちもお願いしますわ」

 「あ、ああ」


 

 すぐ見つかるくらいに目立つと思ったけれど、なかなか場所が町の規模がでかくて、見つけにくい。ひたすら焦りが増していく。


 ーーどこ、どこだ、どこに!?っ!?



 奥歯を噛み締め、焦燥を押さえつけて、ただ、ひたすらに、周囲を探した。その時だった。まるで空間が生き物の形に小さく欠落したように、ドス黒い流力が動き回っているのをみつけた。


「いた!二匹いる、一匹中央通り、二つ手前、法術器、店近く、路地裏、通じる?」

「中央付近の法術器の店っていったら一軒しかないな、わかった!」


 ノルクちゃんが、魔飲のいる、地図の位置に、印をつける。


「了解、続ける、もう、一匹、反対、中央付近、より、かなり、西、別動隊、少し遠い、海繋がる、運河近く、パン(チネッタ)のお店、穀物、食べる、橋の側、別方向」

「厄介な、あそこか、運河近くのチネッタの店っていったら、随分距離があるな、二手に別れるしかないか、手痛いぜっ」


 もう一つ、地図に印をつけると、確かにだいぶ、離れていることが目に見えてわかる。弱っているとは、いえ魔飲だ。戦力の分散は手痛い。先程一人減ったばかりだというのに。


「ノルクちゃんと、おっさんは別々に別れることになる、コマと通信装置をもってるのは俺らだからねー」


ロンダルさんが会話をしながら懐から、もう一枚支給されているだろう地図を出して、同じように、魔飲の場所をチェックした。



「は、ははははいっ頑張ります」

「大丈夫だ、俺が、ノルクちゃんについていく、一人よりは安心するだろう?」

「だ、だだだダカンさんありがとうございますっ」


 ノルクちゃんはかなり、不安そうで臆病そうだが、彼女も騎士だ。言動とは反した力があるのだろう。そうでなければ、騎士として勤めを果たしていないし、ナティア隊長に認められていないのだろうから。


 「じゃあ、おじさんは、勇士の人たちと、西側のほうに向かうことにするよ、魔飲が動いたら、流術士さん、ノルクちゃん通して伝えくれ」

 「私、ノルクさん、一緒、わかった」

 「よろしく、お、お願いしますっ、だだだ大丈夫ですががががが頑張りますっ」

 「ノルクちゃん腕はあるから自信をもちなよ、おっさんの言葉じゃ信じられないかもしれないけどね、それに中央近くだから、隊長も近くにいるし、安心っしょ、流術士さんも、ノルクちゃんも」

「ご、ごめんなさい私で、でも精一杯がんばります!」 

「ノルク、心配、して、ない、私よりは、充分、むきむき、強そう」


ーーうん、少なくとも、あの氷の隊長の下で働けてるなら私よりは絶対に強いだろう。本心からそう思うよ!


「ははは、だとよ、流術士さんは慧眼がある、こうみえて隊長の次に剣がたつんだぜ、さてと、働きたくないけどここは、歳だけくってるおいちゃんの無駄な経験で、どうにかきりぬけるほうが無難だろう、勇士さんたち、俺で頼りないかもしれんけど、頼みますわー」

 「はははっ、かわいい女の子じゃなく、ロンダルおまえの背中についていってやるから、支部長の酒、俺らにも寄越せよ」

 「それだけはあげれないなぁ」

 「なら、支部長俺らにも奢りで頼む」

 「くっ、仕方ない俺の小遣いからだせるぶんだけだぞ」

 『やりー!』

 「じゃ、頼んだおまえたち、俺は流術士どのと、ノルクちゃんと、中央に向かう、手が足りなかったら、救援にいくからな」

 「支部長なめないでくださいよ、ちゃんと仕留めますから」

 「保険だ保険、じゃ、いくぞ」


 勇士さん二人とロンダルさんは西に、私はダカン支部長と、ノルクちゃんと中央通りに向かうことになった。



 「自分、あんまり、戦力、ならない、かも」

 「大丈夫だ、俺がその時はなんとかする、それにちいこいが、さっきいってた通りノルクちゃんは、かなりの腕前なんだぜ」

 「そそそそそそんなことっ」

 「謙遜すんなって、俺は何度も協力しあってるから保証するぜ」

 「ノルク、ちゃん、自分、守る、お願い」

 「が、頑張ります!」

 「じゃ、やっこさんが、いなくなる前に、いくとするか!!居場所から逃げたら追えるように、監視頼むぞ流術士どのっ」

 「了解!」


 


 それぞれ、自分のやるべきことをやるべく、別れて、自分達は中央へと走り出した。自分は、逐一、こちらもあの小鼠型単語(チュピリ)の追尾しながら、場所を変えていないか、ノルクちゃん達に報告しながらついていく。しかし、途中で流力感知をしながら、歩き回ると疲労がたまってくるのか、頭が重くなってきた。


ーーうーぐるぐるする~。


 困り果てるほどではないけれど、さすがに身体の感覚と脳の視覚を別々にマルチタスクで動かしているようなもので、3d酔いしてる感じになってきていた。



 ーー慣れないことをするものじゃないや~。


 「足が遅くなってるぞ、大丈夫か?体力俺らはあるが、流術士さんにゃあつらいだろ」

 「体力、大丈夫、ただ、追尾、視覚、情報、別々、少し、目眩」

 「実際に見ている視覚と、もう一つ流力の視覚、二つあるような状態なのかもしれません、それで負担が、前、お仕事一緒にした方に、聞いたことがありますっ」

 「なんだそんな器用なことさせてたのか、そりゃあ悪いことしたなっ」

 「だ、大丈ぶっ!?」


 確かに酔って目眩がしたりしているが、こんなときだ、無理は通さないと迷惑をかける。もう少しでつくはずだ。そう思って、また、走り始めようしたら、ダカンさんに途中から、抱き抱えられた。

 

 「わぷっ!?」

 「追尾だけに力を割いていてくれ、現場までは俺らが送っていくからな」

 「は、はい!疲れたらわたしも救助者を抱える、訓練はうけていますから、変われますよっ、安心してください」

 「うぅ、二人、ごめん、恥ずか、しい」

 「気にすんな」

 「はい、だれでも助け合いですっ」

 


 ーーうぅ、優しい。


 ノルクちゃんより、自分のほうが身長は高いからかなり、大変だろうに、逞しい。自分より小柄な子にそんなこと言われるなんて。情けない。

 それに、ダカンさんにも、抱き上げられてなんとも申し訳ない。


 「なんだ、軽いな飯くってるのか?」


むしろ食べ過ぎなくらい食べている。流力の補填に、回ってるみたいだけど。


 「食べる、してる、うぷっ」



 抱きかえられていると、ダカンさんの、ムキムキの胸筋が身体にあたって硬いし、熱い。可愛らしい女性なら、異世界初お姫様だっこで、テゥンクしているような場面なのだろうが生憎そんなことはない。こっちは必死で、半ば車酔いしているようで、ゲロらないように口もとをおさえているのだから。



ーーぐぇー吐きそうぅぅぅっ。



 なかば白目を向きそうになりながら、どうにか、追尾を続けた。どうにか迷惑をかけている、ノルクちゃんや、ダカンさんに虹色加工されるだろう吐瀉物を吹き掛けるのだけは避けなければ。

 自分は半ばもう一度あの世にいきそうになってダウンしそうなのに、自分を抱えているダカンさんは疲れを滲ませることもない。それどころか足の速さも何もかわっていない。巨人種の血をついでいるとはいっていたけれど、たぶんこの体力は、訓練の賜物なのだろうと思う。

 ノルクさんも、かなり重い鎧をきているだろうに、息が乱れる様子はまったくない。可愛らしい見た目と反して、さすがは騎士といった所だった。


 ーーそれにくらべて自分は……うぅ、情報を流力の追尾だけにしたから大分ましになったけれど。少しまだ気持ち悪い。


 「す、すま、ない、迷惑かけて」

 「むしろこっちが駆り出してんだ、追尾してくれてるだけでかなり助かる、いまごろ流術士がいなかったどうなってたか」

 「その通りです、気にしないでくださ……っ、しっ!」


 ノルクちゃんが、急に止まって、ダカンさんに制止をかけた。そして静かにするように促す。自分もそのときに、地面におろしてくれた。はぁ……気恥ずかしかった。恥ずかしさのせいか、少し吐き気が収まった気がする。


 「こ、これっこれですっ、みてください、ほ、法術器にうめこまれてる、宝石の欠片です、噛み砕いた痕跡があります、他の店舗にもよって、店先に展示してある法術器を食べ荒らしたのかもって」

 「食べ、荒らす、魔飲、金属、宝石、噛む、ほど力?」

 「小さくても魔飲ですから、それに小鼠(チュピリ)は、硬いからの木の実の殻も割ってたべられるほどに鋭い牙と強い顎があるんです、魔飲化してさらに、力が増したのでしょう」

「噛み付かれないようにしないとな、骨まで砕かれそうだ」


 ーー骨まで、こ、怖い。



 「この欠片、おそらくは、法術器の流力を高める素材なのかも、これを食べて、力を蓄えようとしたのかもしれませんっ……あ、あの推測ですが」

 「推測であっても、可能性は捨てきれないなら、気を付けないといけないだろう?だったらそうするにこしたこたぁない、しかし、これが落ちてるってことはだ、近くか」

 「はい、おそらくは、さっき、追尾している場所から、動いていますか?」

 「店の中、動く、でも、あまり、変わる、ない」

 

 ノルクちゃんと、ダカンさんは、腰に何かつけている、測定器のような縦長のものを見ているようだった。


「本当だ近くにいるようだな、瘴気汚染感知計は、少し上がっている、小さくてもこれくらい反応するとは、さっさと駆除しないと街が瘴気まみれになっちまうぜ」


 こんな仕事をしている人たちだもんな、そりゃあ瘴気が濃い場所に踏み入れないようにする機械もあるか。赤いゲージがみえるが、多分アレが、高まるほど瘴気が濃いってことだろう。こんなに小さい魔飲だけで、このゲージが動くらしい、恐ろしい存在だ。


 

ーーちっこいのに、こんなに危険だなんて。


 

 「近づく、逃げられる、可能性、ある?」

 「魔飲は、感覚が鋭いです」

 「距離、いくつ、気、つく?」

 「視界に入らなくとも、わたしたちの歩幅の数倍で、入った瞬間逃げられるかも知れないです」

 「すばしっこいからなぁ……どうしたものか、一発で仕留めたい」

 「つ、剣はだめなので、私がこの小型の盾をぶつけ、数秒失神させて、ダカンさんがとか」

 「う~む、それだと相手は跳躍力がある、失敗したとき逃げられやすいかもしれん、すこしでも傷がつけば、ノルクちゃんが汚染されやすくなるだろ、それは避けたい、おれも、豪腕で潰したら増えちまう、厄介だなぁまったく、さっきのは最後の手段にしてくれノルクちゃん」

 「わ、わかりました」

 「あの、二人、確認、相手、特徴、尻尾使う、跳び跳ねる、すばしっこい、牙鋭い、切る増える」

 「はい、そ、そうです」

 「つまり、物理だめ、攻撃、よくない……なら、捕縛、一番、する」

 「何か考えがあるのか?」

 「考えと、いうくらい、じゃない、かも、でも……」

 

 こちらから攻撃したら、駄目で手が出せない。それに、ノルクちゃんも、ダカンさんも慣れているからといって、なるべく危険な思いはさせたくない。ならば、こっちから、攻撃しなければ良いのかもしれない。

 

 「うまく、いく、わかる、ない、けど、話す、良い?」

 「そりゃあ俺たちでも同じだ、失敗しても、中央には騎士さんがいる」

 「いってみてくださいっ、だ、大丈夫です」

 「じゃあ……」


 自分の考えを、不器用な下手な言葉だけれど、二人は真剣に聞き入れてくれた。有事だからとはいえなんだか、真面目に聞き入れてくれることが嬉しい。昔の自分はそんな体験してなかったのだろうか、とてもなんだか心が満たされているきがする。

 だからだろうか、こちらも、伝えることが無駄ではない気がして、考えをしっかりのべられた。


 「なるほど、ただ闇雲に捕まえにかかるよりはいいな、流術士がいればやはり、幅が広がるな、助かる」

 「この作戦で行きましょう、えとあの」

 「ルアドでいい」

 「ルアドさんっ、わ、私もノルクとよんでください」

 「ノルク……ちゃん?いや、さん?」


 見た目は小柄だけど自分よりは間違いなく年上だ。生きてきた年数的には、それゆえに迷ってしまった。


 「ルアドさん、のほうが年上のかたのようにみえますからちゃんでもなんでも、だ、大丈夫です」

 

 うーんそういわれたら、偏見は良くないけれど、ちゃんのほうが小柄な可愛らしい見た目に、しっくりくる。


「ノルクちゃん」 

「はい、ルアドさんっ、作戦、頑張りましょうね、お二人とも」

「おう!」

「魔飲、捕まえる、三人でっ」

「はい!」




 


  


 「では作戦開始しますっ」



 五軒ほど先の法術器の店に、まずノルクちゃんが入ったのをみて作戦は開始された。ダカンさんが、自分を抱えて、屋根の上に上らせてくれる。今回は自分の姿が隠れることがみそだった。


 『まず店から、出す大事、ダカンさん、自分、この先、行き止まり、屋根の上、待機する、ダカンさん、乗せるもらう』



 ダカンさん木に上るのが当たり前の動物のように、自分を軽々と抱えて、屋根の上に乗せてくれた。近くの階段や壁を利用して軽々とやってのける。いや階段上れそうなところから、持ち上げてくれるだけでも、良かったのだけど。


 ーーやはりこの世界の人間って戦闘民族なのか?



 『危なくないか?』

 『自分、動かない、大丈夫、感知能力高い、魔飲ごまかす、流術士近く、すぐわかる、はず、視界、距離が、魔飲の感知に含まれる、なら、高い場所も、察知、する、しにくい、かも、考える』

『た、確かに、そうですね』

 『アダシアの家は、結構波がきてもいいように高めにつくられてるからな』



 小鼠型(チュピリ)の感知範囲を、もっと詳しく記録が取れれば安心して行動に移せるけれども、そんな時間はない。とりあえず自分の存在が近くにくるまでばれなきゃ良いはず……。本当は一か八かだけれど。それを補うために餌も用意した。提案した手前、できるだけ確実性は増やしておきたい。

 餌は、先ほど集めた、大量の流力だ。

 瘴気にふれ、魔飲化したものは、食べ物だけじゃなく、己の力の生存や強化のために流力を取り続けようとするらしい。だから、先ほど法術器の店で宝石を噛み砕いて食べていたらしい。

 ならば、先ほど集めた流力は、垂涎の餌のはず。それにこれほど高濃度の流力ならば、自分の流力を隠してくれるかもしれない。それに、これくらいの濃度じゃないと、法術器に残っている流力のほうがおいしいと、そっちに食らいついてしまう可能性だってある。

 魔飲になんて、ミモモをあげたくないけれど、流力が物に依る性質を利用して、鞄の中の1個に先ほどの流力を、濃縮した。それを、袋に入れて、ノルクちゃんに持ってもらうのだ。


 

『それに、近くまでくる、察知される、でも、とりあえず、特定、場所、くる、できれば良い』

『そこまでとりあえずこれれば、良いんですね』

『そう』

『魔飲、流力、強い、好き、聞く、流力付与した、ミモモ持つ、ノルクちゃん、交戦せず、魔飲、それ使う、おびきだす、役、危険、でも、頼める?』

『大丈夫ですっ』

『ダカンさん、お店、ノルクちゃん、入る、その後、自分、望む場所、屋根の上連れていく、欲しい』

『わかった』

『そしたら、ダカンさん、忙しいけど、私の場所、から、通り面する、屋根の上移動、待機する、ほしい』

『わかった、ノルクちゃんが見える辺りが良いよな』

『それお願い、そしたら、路地裏、ノルクちゃんくる時、自分、魔法、ダカンさん側土壁出す、ダカンさん力ある、それもつ、路地、魔飲きたら、一時塞ぐ、塞ぐ前、ノルクちゃん逃がす、でもノルクちゃん、万一、逃げる、難しい時、閃光放つ、目塞いで、合図する、自分、引き上げる、ノルクちゃん、危険、ごめん』

『だ、大丈夫ですっ、騎士のお仕事ですから』


 陶器を焼き上げるとき、粘土板を作り出すのに使う生活魔法にそのようなものがあった。それを使えば土壁を生み出せるはずだ。引き上げる縄は、ダカンさんが、勇士の持ちあるく、救助キットの中にあって手渡してくれた。


 「きたぞ、無事釣れたらしい、ルアドっ頼む!」

 「了解!」 

 

 ノルクちゃんがこちらに向かっているらしい。作戦通りに、魔飲が、流力が込められた、ミモモに感づいておってきてくれたようだ。助かった。これが駄目なら、ノルクちゃんに追い立ててもらうしかなかった。あるいは、人をみれば逃げる可能性を利用して、追い込むか。

 しかし、高濃度の流力が生存のために必要とあれば、そちらのほうを魔飲も、とったのだろう。これこそ、ネズミホイホイだ。

 

 『世界に流れる流力に囁く、大地に連なる、地脈の恵みよ、力を、隆起し、望む形に現出せよ、土壁っ』


 ダカンさんのもとに、大きな、路地裏を一時封鎖させるほどの、土の大壁が、出来上がった。ダカンさんはそれを、軽々と持ち上げて、今か今かと、ノルクちゃんが路地裏に入るのを待つ。


 『そしたら、必ず、魔飲、逃げ場、なくす、上、飛ぼう、する』

 『そうだな、まるまる長い尻尾を使って、跳躍したり、跳び跳ねるのがあいつらのすばしっこさの理由だ、強化されたあいつらなら、軽々と屋根まで飛び上がれるかもしれない』

 『ん、それで、その、可能性、考えるした、ここ、路地裏、石畳、一部壊しても、いい?』

 『大規模範囲じゃなければ、店の中がこれ以上、瘴気で汚染されるより、いいと思います、騎士からあとで修復依頼だしますから』

 『なら、魔飲くる、したら、飛びにくいよう、足場を壊す、そして』


 ノルクちゃんがしっかり、路地裏に入り込む瞬間が見えた。さすがに、向こうも生き物だ、その瞬間、こちらにもう二人屋根の上にいることに気がつかれたらしい。随分と察知能力がお高いやつだ。さすがに三人は分が悪いとおもったのか、魔飲は逃げようと踵をかえして、暴れようとした。

 ノルクちゃんは盾で慌ててガードする、自分の目論みは、はなからガバガバではあるけれど、生物相手だどんな動きをするかまではすべて把握することはできない。動いて助けにいきたいが、いま自分が動いたら台無しだ。それに、助けるといったところで、絶対にノルクちゃんのほうが強い。


 「ダカンさん、お願いっ」

 「ああまかせろ!ノルク下がれっ」

 「はい!」


 瞬時に、ノルクちゃんは機敏に後方に跳び跳ねた。そのタイミングを見計らい、ダカンさんはノルクちゃんの前に、大壁を魔飲の前に築いた。うまくいった!


 ーーいまだ!


 「世界に流れる力、流力に囁く、生命の息吹ある、豊かな実りある土壌を耕し、生きとしいけるものを育み包む息吹となれ、耕作」


 チュピリが逃げ込んだ場所の石畳を、柔らかいぬかるんだ開墾した湿った土壌に変える。生活魔法は便利すぎる。生活なんて、結局いっているけれども、ただ生活に覚えていると便利だからまとめられているだけだ。利用方法によっては、いくらでも使い道がある。攻撃性の高いものは何一つできないけれど、一通り生活魔法だけは試して成功はできている。なら、出来るものを活用するしかない。


 小鼠型はやはり、逃げ道を塞がれたことで弾力性を与える尻尾を使って飛ぼうとした。しかし、ぬかるんだ土の上では、それほどの跳躍力は、だせなかったようだ。バネである尻尾は滑り、短い手足も、ぬかるんだ耕した土に絡め取られた。不完全な状態で、中空に飛んでしまった小鼠型は、足場を失い、捕まれるものもなく、体勢を崩した。それを見逃してはやらない。


 「世界に流れる流力に囁く、雄々しく泳ぐ魚の群れを、わが命の糧とするため、蜘蛛糸がごとく、掴み逃さぬ、檻となれ、捕縛」


 魔法で生み出した目の細かい網が、空から降り注ぎ、一瞬、小鼠型を捉えた。体勢を崩したまま網の重さに落下していくが、所詮流力で、作ったかりそめの網にすぎない。すぐさま、流力として取り込もうと噛み砕き始める、けれど、ただその、一瞬だけあれば良かった。下には、捕縛ように使う、封銀箱でつくられた、網と箱を用意した二人が待ち構えているのだから。


 「捕まえた!」


 網の中に落ちたのを、見計らい、しっかりとダカンさんが捕まえ、すかさず、ノルクちゃんが下に箱の蓋を置いて、箱の本体を網ごと、被せ蓋をした。そのまま逃げられないように二人がかりで、ひっくりかえし、蓋を開けられないように、何か札のようなものを、ノルクちゃんがした。たぶん魔飲を封じるための、これもなんか道具なのだろう。ガタガタと動き回っている音がでるが、しだいに、流力が通らないためか、力が弱まり、静かになっていった。

 

 「……」

 

 ほんの少しの沈黙が、流れる。そして、ダカンさんと、ノルクちゃんが二人顔を見合わせ、最後に覗き込んでいる自分の方を向いた。


 「作戦成功です!」

 「捕まえたぞ!二人ともお手柄だっ!」

 「はぁぁぁぁぁ……」


 大きなため息をついた。緊張していた糸が切れて、へなへなと、屋根の上でへたり込む。そのせいか脚が振るえて、立ち上がれない。


 「だ、大丈夫か?今下ろしてやるぞ!」

 「る、ルアドさん、大丈夫ですか」

 

 慌てて、ダカンさんが、屋根の上から、また抱き抱えて下ろしてくれた。本日、ダサい感じに、抱き抱えられるのは二度目である。


 ーーでも、でも良かったー!


 「き、緊張、とけた、うまく、いく、よかった」 

 「いやいや、たいしたもんだ、なかなか難しいなんていってたけど、随分やるもんだ」

 「自分、そんな、二人、すごい、飛ぶし、大きい、持つし、跳ねるし」 

 「連携の勝利だなっ」

 「はいっ」

 「ノルクちゃん、怪我、汚染、ない?」

 「だ、大丈夫です、この盾の表面も、封方銀が練り込まれてるんです、盾にしかあたってないので」

 「危険な役、引き受け、感謝」

 「そ、そんなっ、作戦がなかったらもっと傷をおってたと思いますっこちらこそありがとうございましたっ」

 「よかった」

 

 安心して、緊張がほぐれて、自然と微笑んでしまう。自分が魔女であることを一瞬忘れそうになるくらいの、連帯と達成感をなんだか感じた。不意に視線がノルクちゃんとあったが、なぜか気恥ずかしそうな顔で、視線を反らされた。


 「おお?ノルクちゃんもすみにおけないね」

 「ち、ちがいますっ!笑った顔、お綺麗だったから、隊長で見慣れてますしっ」

 「綺麗?自分?」

 「整った顔のやつが、自覚しないというのも罪だな、うちのナレーシアに色目を使うなよ」

 「そんな、綺麗、違う、だが、褒める、嬉しい、うけとる、おく」

 「ハっハっハっ、俺の嫁は美人で損はしないっていってたぞ、そうだ褒められたら受け取っておけ」

 「お、お気を悪くしないでほしいのですが、はじめ、あったとき、綺麗ででも、綺麗すぎてお人形みたいで、人じゃないみたいで、怖いなっておもったんです……でも、笑ったら……なんだか暖かい人だなって、その、こんなこと、ごめんなさいっ」


 ーーす、するどいノルクちゃん。魔女だからね。う、うーん、現場の感。


 「ありがとう?」

 

 とりあえず、褒め言葉はもらっておこう。



 「長耳とか、角族とかは、美麗なやつが多いっていうからな、俺はごついってナレーシアに嫌われるのに、うぅ、羨ましい」

 「逞しい、好き人、いる」

 「そうか?」

 「そ、そうですよ!」

 「うんうん」


 何て答えたけど、でも、この顔が綺麗なのは当たり前だとはおもっている。あ、勿論、ナルシストってわけじゃない。本当の自分の顔なんて覚えてもいないのだから。

 あの人が、アスリアが、己の身体をもとにつくった身体がコレだ。容姿の良い彼女の、身体、見目が引き継がれるのは当たり前だと思っている。

 だから、本質的には自分が優れているわけではないと自覚はちゃんとしているのだ。だから自分が褒められている訳ではないのだけれど。この身体でできることは、本来きっと自分の力ではないのだろうから。


 「どうかしました?」

 「いや、ちょっと、ぼーっと、これ、中央、届ける、終わる前、もう一つ部隊、連絡とれる?」

 「そ、そうですねっ!ロンダルさんに連絡してみます、あの、ロンダルさんっ聞こえますかっ」

 『ノルクちゃん?ハロハロ、しもしも、きこえてるけど』

 「そ、そちら、通話今しても、大丈夫ですかっ?」

 『おっさんは大丈夫、さっき捕まえられたところだよ、どうにかして、ただ、軽症だけど少し怪我した人が出たから、汚染されてるか、確かめるために救護班に引き渡すつもりだ、どうだいそっちは?』

 「ぶ、無事捕まえられました!」

『おーそりゃよかった、ご苦労さんっ』

 「ロンダルさんも、お疲れ様でした、私たちはこの魔飲を届けに、今から中央広場に向かいます」

 『了解~、怪我人、届けしだい、俺も中央広場に向かうことにするからよろしく隊長にいっといて~』

 「わかりましたっ」


 小型の板のようなものに、魔言が刻まれている。なんだか不思議な色の光沢のある板だ。その板から、ロンダルさんの姿が急に浮かび上がって、会話できるのだから、便利な代物だ。スマホ?のようだ。生きていた世界では通信できるものをスマホといっていたらしい。

 

 「向こうも無事捕まえたってか?」

 「はいっ、ただ、軽症だけど怪我人がでたから、汚染していないか確認のため救護班に渡すと、それから中央にロンダルさんがくるっていっていました」

 「こっちは怪我人がでなくて運が良かった」

 

 ノルクちゃんと同様にその言葉に頷いた。するとロンダルさんと入れ替りで、別の通信が入ってきた。


 『こちら、ナティアだ、聞こえるか、ノルク』

 「は、はいナティア隊長っ、今連絡するところでしたっ、ちょうど今、魔飲、捕獲完了しました、中央に向かうところです」

 『そうか、それは、良い知らせだ、だがまた頼みたいことが出来た、すまないが急ぎ中央にきてくれないかっ』

 「わかりましたっ」

 

 ナティア隊長と通信が切れたが、映像で見えた眉間の険しい様子をみるに、何かおそらくあまり良くないことが起きているのだろうことはなんとなく察した。


 「ふぅ、ろくなことじゃなさそうだが、とりあえずこれをどうにかしないとな、急いでとりあえず中央広場にいこう」

 「は、はい!あ、ルアドさんこれ返しておきますね」

 「ん?」 

 

 それは、さきほど、集めて流力を付与した高濃度のミモモだった。


 「私よりは、流術士のルアドさんのほうが、きっと流力の耐性が強いですし、いいとおもうので、必要なら終わったら私がかけあって、処分させていただきますねっ」

 「うん、頼む」


 流力の耐性はそれぞれだ。このような仕事をしている以上それなりにノルクちゃん高いのだろうけど、自分よりは低いに違いない。自分は例外で魔女なのだから、このミモモをたべたとて、困らないのだけれど。さすがに、人前で食べるわけにもいかないよなぁと思う。


 ーーも、もったいないけど、我慢、我慢……。


 「じゃあ行きましょう」


 もう、探索する小鼠型は、いないので、今度は、追尾を切っておこう。これで、酔うことはないはず。けれど、少しは役に立てたようで良かった。怪我人がでなかったのだから。しかし、油断は、してはいけない。まだ話を聞くに、この事態は終息していないようだから。





 

 中央広場に走り、急ぐと、ナティア隊長が、簡易的な本陣を構えて、地図をみながら、指揮をとっていた。三人で、本陣にいくと、怪我をしていない自分たちをみて、ナティア隊長の表情が少し弛んだようなきがした。あの時の殺気を放つ、氷の美貌という雰囲気とは反する。気のせいだろうが。



 「ノルク、支部長、流術士どの、無事だったか、怪我はないか?」

 「幸いな、流術士のルアドの作戦のお陰で、怪我も汚染もなく捕まえられた」

 「それはよかった、ダカン支部長、流術士のルアドどの感謝する、そして、ノルクも、良く頑張ったな」

 「そ、そんな……あ、ありがとうございます隊長」


 ナティア隊長が、ノルクちゃんの頭をワシャワシャと、撫で回すのをみる。ノルクちゃんも嬉しそうだ。結構な仏頂面に見えるが、広角が少し上がっている気がする。ノルクちゃんが喜んでいるし、ワシャワシャされている姿はなんだかはたから、みてもほほえましい。


 「た、隊長恥ずかしいですっ」

 「いや、すまない、一人任務は久々だから、ついてやれないと不安に」

 「もう、隊長っ!」

 「冗談だ、悪い、ただ部下が怪我をせず任務を終えることが嬉しいのだ、許せ、さてと、先にその箱預かろう」

 「お願いします」

 「あれ、どうする?」

 「箱ごと高温の炉で融解させるために、一瞬で焼却させる、そうすれば分裂は防げるだろう、かなり珍しい事態とはいえ、分裂する個体事態がないわけではないからな、対処は決まっている」

「理解」


 箱を渡すと、別の隊員が、その焼却のための場所にもっていき、燃やす準備をしはじめたようだ。


 「さて、一仕事終えたばかりですまないが、別動隊で汚染者が出た、すでに力を増して凶暴化していたらしい、増殖はしていないが逃げたとのことだ、故、おそらく、中央方面に追い立てるようつとめたが、負傷者の介助で、人手が割かれた、反対側の隊は建て直すまで索敵は不可能だろう、そのため、追尾を願いたい」

 

 ダカンとノルクちゃん、そしてナティア隊長からこちらに、視線が注がれる。


ーーいやー断れる雰囲気じゃないでしょこれ。


 ポリポリと気まずい雰囲気で、頭をかいた。内心1匹頑張ったし許してくれないかなと、おもうけれども、ここで断るとめちゃくちゃ気まずいことになりそうだった。

 

 「わかった」


 というしかなかった。圧されると、とことん弱いらしい自分は。


 「貴殿らの力添えで、もう残り残存は一匹だ、今回は、私も作戦にうってでることができる、追尾し、発見してくれさえすれば、対処はこちらで「うああああああああっ!」


 追尾をして、作戦をたてる用意をはじめようとしたそのとき、男性の叫び声が聞こえた。声の聞こえた方角を、驚いてみると、そこには人の大きさほどに、肥大化した小鼠型(チュピリ)がいた。それに追われるのは任務に参加していた騎士の一人だった。



 ーーいや、もはや小鼠型どころか、これは大鼠型でしょ!?チュピリなんて可愛らしい名前じゃないよ!?



 大鼠型が動いた場所は、高濃度の瘴気によって、石畳がボロボロに溶けている。うへー、でかくて強くなるとこんな風に瘴気を巻き散らして辺りを侵食するのか。恐ろしい。自分はここにいても役立たずだ。



 「別動隊の援護に向かわせた一人だったが、まさかっ……、各陣営、防護体制をとれ、周囲への被害を最小限にしろ!私が先頭にたつ、貴重品の魔飲討伐装備を持つ任を任された見習いのものは、いますぐ逃げろ、私がおさえている間に、物持ち、ここを離れよ!」 

 『はっ!』


戦いたくても、切れば、増えるのだから、悲鳴をあげた騎士も逃げるしかなかったのだろう。まったく、彼も偶然あたってしまったのだから、災難すぎるっ。



 「すまない、流術士どの、追尾を頼んだが、無駄になったようだっ、いまからでは、魔言も間に合わないだろう、逃げてくれ、私がうってでる」

 「すまない、役、立てず」

 「怪我をしていると事情はノルクから聞いた、十分だ、ここまで手伝ってくれて、感謝する、さあ逃げてくれ」

 

 なんだか逃げられることへの安堵と、弱い自分がすこしだけ情けない。しかし、それを上回る恐怖だけは消せない。あのときの鹿もどきに殺されそうになったときと同じように。

 しかし、ここで足を引っ張るよりなら逃げたほうがきっとずっと良いとは思う。逃げずにとんだことになるよりは、逃げるのも自衛の手段だ。

 それに騎士達はこういうものの、スペシャリストなのだから。言い訳を重ねてばかりだけれど。いまは、弱いのだからそれを認めて逃げるのも大事だ。


 「ハハハっ、そんな、役に立たないみたいな顔するな十分だ、ありがとよルアドさんよっ、離れてやすんでてくれ」

 「そ、その通りですここからは、隊長がいれば大丈夫ですからっ」



 役目は果たした。いつもなら怖いといって逃げてしまうことに何の罪悪感を感じないのに。なんだろう、この無力感は。

 さきほどの短時間でも協力しあったのが影響したのかもしれない。二人はこれから命がけで戦うのだから。なにも出来ないことがきっと悔しいのだ。例え自分が魔女だと知らないから向ける優しさでも。

 全ての人が、自分のように死んで人間が甦えるわけではない。こんなものがいる世界で、当たり前に命のやりとりをする彼らの姿が、どこか心の奥底で恐れと、強い輝きを感じる。瞳が星に焼かれそうなほどに。

 無力さを知るのも悪いことじゃない。

 そうすれば自省をおぼえ、自惚れを消すことができる。

 でも少し悔しい。

 でも怖さをおぼえている自分も自分らしいと思う。

 

 ーー力がなくてごめんなさい、でも……。

邪魔にならないのが、いまは一番の彼らへの助けだ!



 落としそうな荷物を網で掬ったり、他の騎士達を援助しながら、中央広場から離れることを選んだ。



 「しっかし、とんだ、大捕物になりそうだ、あのチビがなんかろくでもないもの食ったな、こりゃあ小鼠型(チュピリ)じゃなくて、どでか型だろっ!」


 ダカンさんが遠くでいってる言葉に自分と同じことを思っているのが聞こえて、シンクロして不謹慎ながら少し笑ってしまった。


 「ははっ、そうだな、支部長のいう通りだ、これじゃあチュピリというにはあまりにでかすぎる」

 「だろっ?っと、隊長さん俺も参戦するぞ、この戦斧かりるな、支給されたちっこい剣じゃ折れちまいそうだからな」 

 「かまわない、ダカンどの助太刀感謝する」

 「たったたた、隊長、私もお手伝いします!」

 「ああ、頼むノルク、残ったメンバーは皆も盾をもて、あれは生半可に切ったら増殖するぞ!ここから微動だにさせるな、大きな攻撃がきたら大楯もちの防御陣地に隠れろ、ダカン支部長や、私が攻撃して危なくなったら、ノルク、注意をひいてくれおまえはすばやいから撹乱できる」

 「はい!」 

 「一撃で蒸発させるまで、退魔の剣に力をためる、それまで時間を稼いでくれ」

 『了解!』

 「接敵する、いくぞ!」

 「ギュオオオオオオ!」


 獣のような鼠とは思えないようなうなり声が、周囲に響きわたった。その嘶きはガグゥにも匹敵する。


 「隊長おおおおおお!」

 「大丈夫だ、よくやった、そのまままっすぐつれてこい!」


 隊長が、逃げてきた部下に声をかける。それを信じて部下は、ナティア隊長のもとにまっすぐ走ってきた。魔飲と部下とナティア隊長が、ぶつかる、そんなすんでのところで、部下の首を捕まえて、突進してくるでか鼠型から反らし右方向に投げ、回避させた。人一人を、軽々もってなげる姿に唖然とする。

 その後、女性の体型に似合わないほどの、銀色の大剣の面で、でか鼠の突進を受け止めた。剣と魔飲がぶつかった瞬間、瘴気が飛び散り、それと同時に大きな車どうしがぶつかったような大きな音が響き渡った。

 そして魔飲が次の攻撃を繰り出そうとしたとき、振りかぶろうとした爪を、ダカンさんが、大斧で弾きとばした。


 「それぇ!!」

 「助かる、ダカンどのっ!」

 「こっちですっ」


 ノルクちゃんが形勢を建て直そうとする、どでか型に、剣と盾で切らないように、うまく立ち回り誘導している。


 「流術士さん、避難準備が完了しました!ついてきてください!」

 「わ、わかった」


 自分は逃げて、他の騎士に、退路を確保してもらいながら、他の騎士見習いや流術士たちと別区画の地下通路入り口から逃げるように走った。

 ダカンさんや、ノルクちゃんは、あんなのと戦って大丈夫なのだろうか。心配になり振り返りたくなるが、そんなことを考えても自分にはなにも出来ない。

 

 ーーとにかく逃げろ!


 脇目も振らずに足を動かす。いまは、あれろど景観を美しいと思った中央広場のだだっ広さが恨めしい。地下通路までの道が遠く感じる。走って走って、それでもまだ距離がそこそこある。その最中、焦って足がもつれたのだろう。逃げていた一人の流術士が、転んだ。飛び散った瘴気で汚染され、腐食した、石畳に、足をとられたのだ。それを助け起こそうとしたそのとき、なぜか魔飲が、尻尾を使って、ナティア隊長達の陣形を、飛び越えこちらに向かってきた。



ーーなんでえええええ!?


 慌てて、転んだ人を、助け起こして、かばって転がす。


 「逃げてっ」



 自分はそのまま動けず、鼠の爪が迫った。爪先が、ほんの少しだけ、右肩の皮膚に食い込む。だが、それ以上は何故か、ほんの一瞬だけ鼠は攻撃をやめたように思えた。そして……。


 『み、つ、■、た……どう、■て、やくそく、やぶ■た、ひと、り■、した、どう、して』


 声にならないような獣の叫び声だというのに、なぜか頭のなかにそう響いたきがした。



 「え?」


 その響いた声に、唖然として尻餅をついていると、大きな盾が、大鼠型に、でかいフリスビーのように回転して、直撃した。ナティア隊長が大鼠型に投げたのだ。その攻撃により、大鼠型は一瞬よろめいた。


 「敵はこっちだ、よそ見をするなああああああ!」


 ダカンさんが、ナティア隊長が投げた大楯を拾って、大鼠をおしつけて引きずるように、壁となる。鐘楼まで無理やり怪力でおしこめた。汚染された石畳にくっきり後が残っている。

 さきほどのことに意識をとられていると、不意にノルクちゃんがそばに、きていた。

 

 「大丈夫ですかっ!?」

 「あ、え、ぁ、あ大丈夫」

 「すみません失念していましたっ、終わったら処分しないとっていってたあのミモモにつれたのかもってっ、こうなった以上、燃やすまで私が持ちますっ」

 「ノルクちゃん、でも」

 「わ、わたしは、これでも騎士ですからっ……魔飲さん、こっちですよっ!」


 そういって、ノルクちゃんは、あのミモモの入った袋をもって、離れていった。こんな華奢な子に助けられる自分が不甲斐ないがしかし、今は逃げるのみ。



 ーーでも、さっきの声は……なんだったんだ。



 咄嗟に動かないとと思いながら、異常なことに思考がそちらにとられる。けれども、戻ってきた騎士見習いさんに肩を揺すられた。


 「おい流術士さん、大丈夫かっ、おいっ!」

 「だ、大丈夫」


 こんな場所で思考にとらわれている場合じゃない。騎士見習いさんが、慌てて、自分に肩をかして、立ち上がらせてくれた。


 「左肩ケガしてる、急いで逃げて手当てをしにいきましょうっ」

 「さっき、流術士さん、大丈夫?」

 「他のものがつれていきました!」

 「よかった……走れる、大丈夫」

 「わかりました、ついてきてください!」

 

 ダカンやノルクちゃんたちが交戦している間、懸命に走った。


 「ぐうぅぅう!これ以上は、スマンおさえられそうにない!」



 ダカンが鐘楼に力付くで、抑えていた魔飲が、強い力で押し返した。ダカンはその勢いに負け、吹き飛ばされる。ダカンはザァアアアっと土煙をあげながら、二三度背中を打ちながら地面転がった。それを逃すまいと鋭い爪が、ダカンを襲った。しかし、ノルクちゃんが、前にでて、前足の爪を小型の剣でいなし反らし、弾き返した。そして次の攻撃がくる前に大楯をかまえて、ダカンを守るのが見えた。それをダカンが起き上がりさらに片手で、支える。


 「ナイス、感謝だノルクちゃんっ」

 「いえ!」

 「またくるぞ、まだか隊長さん!」

 「もうすぐだ!」


 魔飲の巨体が一回転して、ダカンとノルクちゃんに尻尾を打ち付ける。もはや生きたしなるムチのようだった。爪も凶器、尻尾も凶器、あまりに恐ろしい。

 あと少し耐えきれば、攻勢できるだろう。

 もうすぐ隊長の大技が、使えるようだ。

 なら安心だ。自分ももう大広間を抜ける。



ーーん、いや、魔飲の流力が膨れ上がった、いや、ちがう、何か嫌な予感がする。

 

 「どうしたんですかっ、立ち止まっている暇はないんですよっ」

 「……くるっ」

 「え?」


 このまま逃げたほうがよいのはわかっていた。けれど、このまま逃げたら良くないことが起きそうなのも、なんとなくわかっていた。

 隊長の集めている力に感づいたのか、はたまた埒が明かないと向こうの魔飲も思ったのか動きが変わった。黒い鼠の巨体が、ぼこぼこと液体のように、泡立ち膨らんだかと思うと、咆哮と共に、二つにわかれた。


 「お、俺たち切ってないぞっ!」

 「な、なにがおこったんですかっ」

 「生存のために、自ら力をわけたみたいだっ、こんなこと急速変化聞いたことないぞっ、くるっ!」 

 

 少し身体が小さくなったぶん、動きは先ほどより、素早い。ダカンとノルクちゃんの大楯に、丸まったまま、身体をぶつけてきた。

 力は先ほどより弱くなったようだけれど、早いので二人がかりでも。猛攻を凌ぐだけで精一杯になり、次第に追い詰められていったのが見えた。そしてとうとう一匹を見失った。


 「どこに!」

 

 こちらからは、そのもう一匹が高速で移動したのがはっきり見えた。


 ーーこのまま戻って何ができる?けれど、この肉体はそもそも死んでいるらしいし、魔女だ。瘴気なんて、魔女には効かない。肉盾くらいならなるだろうか。魔女だってそしたらバレてしまうかもしれないのに。

 もう、どうにでもなれ!

 今日親しくしたばかりの人たちだ。でも、名前呼んで助けてくれて、そんなひとたちが、怪我をしてほしくなんてない。それにこの町のために頑張ってる隊長や騎士さんたちも見捨てるのは、胸くそ悪い気もする。嫌だっておもう。これは強さじゃない。

 蛮勇だ。

 正義感で動いてるわけでもないし、痛いおもいなんてしたくもない。けど、放っておくのは、なんか、ちがうっておもうからっ。


 「ってどこいくんですかっ流術士さん!」


 そうおもったら駆け出していた。ダカンさんと、ノルクちゃんが、もう一匹に気がついたときには、隊長さんのそばまで、もう一匹の魔飲は迫っていた。このままあのためた力で打ち勝ったもしても。もう一匹は逃げられる可能性は高い。


 ーー魔女は、魔言をもちいず、魔を操る、故に魔女である。


 そして、本来は望む形に魔法を形にできる。自分が、本当に魔女だというのなら、決まった言葉ではなく世界の流力が力を貸してくれるはずだ。

 走りながら、魔法を発動するイメージを、練る。難しい魔法はまだ出来ない。けれど、さっき、使えた魔法なら。



 「ダカンさん、ノルクちゃん、騎士さんたち、つれてよけろ、そして、そのまま、ナティア隊長、力を、ぶっぱなせ!!」


 目や耳だけはそこそこ良くなった身体だ、ナティア隊長が一瞬驚いたのがみえる。けれど、ナティア隊長は瞬時に目をあわせて頷いてくれた。ナティア隊長は、剣を振り下ろす構えに入る。

 ダカンとノルクちゃんたちも、他の騎士さんを連れて、ナティア隊長の斬撃の射程を理解し、その場から瞬時に離れた。

  

 「流力よ網となって、捕縛しろ」


 略式の魔言のようなもので正式なものではない。呟くように言葉にしたため、距離があるぶん、彼女たちには何か言葉にしていることしか、わからないだろう。だからバレないはずだ。

 急に空中から、降ってきた、大きな網に一匹が、足をとられた。

 

 ーーそうだ、一瞬でいい。


 そして、もう一匹が、ナティア隊長に、跳躍して、迫ろうと足を地面についたのを見計らって、また魔法を放つ。



 「耕作!」


 地面は隆起し、力を込めて跳躍しようとしていた、魔飲は、一瞬判断を失った。その瞬間をナティア隊長は見逃さなかった。金色の雷のような斬撃が、たった寸暇、判断を失った魔飲二匹を消し飛ばすのがみえた。光の本流が、広場一帯に広がり、視界が潰される。しばらくして、目がなれてくると、きらきらと、光る金色の粒が当たりに散乱し、魔飲は姿を消したのだった。


 静寂のあと、何人かの歓喜の声があがる。そして自分は、なんてでしゃばりなことをしたのだろうと、恥ずかしさから、尻餅をうち、座り込んだ。自分からこんな目立つことをしたら、魔女だって疑われる可能性を増やすだけなのに。

 深いためいきをついたあと、空が白み、朝焼けが街を照らし出したのを仰ぎ見ながら、地面にそのまま倒れ込んだのだった。


 ーーあーもう今は考えない。


 「疲れた……」


 朝焼けに飛ぶ海鳥が、のんきにみえて、そのときだけはうらめしくおもった。

 

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