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いつか魔女が眠るまで~ゴーストクリエイター魔女になる~  作者: 穂波祈弦
2章 アダシア編~恋とはもっとも独りよがりな自家撞着に陥る酩酊~
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6、蜜砂糖と魔飲騒動



「いまいる災厄級の魔女は、動かないやつか、《《動けないやつ》》が、多いだろう?恋の魔女もしばらく、動く様子がなかったんだけどね、急に動き出したらしいんだよ」


ーー動けない?災厄と化した魔女は動けないものなのかな、どういうことだろう。でも確かに台風や地震や雷みたいなものが、自由自在に動き回ったら今頃世界滅亡してそうだもんなぁ。


「急に……動く、どうして?」

「あいつらのことなんて、わかるわけもないさね、それでもそのとばっちりはくるだろ」

「確かに」

「余波で魔女の振り撒く瘴気にやられて獣が魔飲化しちまってね、畑周辺を汚染したんだよ、町近くの獣も、それらに怯えて暴れまわって、困ったものだよ」


ーーもしかして、灯台あたりで、魔飲に襲われかけた、あれか、あれのことかー!?


「くる途中、魔飲から、騎士、助けて貰った」

「そんなことがあったのかいっ、よっぽどあんた、運が良いね、アダシア駐在の騎士なんてそんなに数がいないだろう、田舎だし、この瘴気災害や魔飲騒ぎで、出払っていて、巡回してもなかなかあわないんだよ」


じゃあ、あの時出会えたのは、ものすごく運が良かったのか。


ーー助かったー!今頃魔飲の餌になってかもしれなかったのかっ。うわー。


「アダシアはさ、隣町や、港を介して色々入ってくるからやっていけてるけどね、塩の影響で、育つ作物に偏りがあるのさ」


 大きな災害で、海水で畑を流され、被害を被った場合、除塩を行わなければ、作物の育成が阻害され、育たなくなるというのは記憶の中にある。土中の塩分濃度が高くなるとかなんとか。

 だから、水で洗い流したりする必要があるとかいっていたような。

 そもそも、土地の影響で、アダシアはもとから土中の塩分濃度が高いのかもしれない。適切に塩分を使うことで甘味を増すものもあるそうだけれど、そこまでの、作物の栽培を研究するのも並みの根気じゃないと思う。


 ーー農家さんありがたや。


 長い間アダシアは、育つ野菜などを試して、きっといまに至るのかもしれない。それが、魔女の被害によって、大きな影響を受けたということか。


 これを聞くと、魔女という存在はとてつもなく、害悪のような気がして、心の奥がとても締め付けられるような気がした。顔にはもちろん出さないようにしたけれど、旅装の袖のなかで強く拳を握って耐えた。


「その中でも蜜砂糖は、ここいらでも育つ植物で、塩田や漁業いがいに、ここいらの特産として足しになってたんだが……今回の騒ぎで、畑が何軒もやられちまって、流通しても、混ざりものや粗悪品、高値でとても買えなくなってるのさ……アダシアの蜜砂糖は黄金砂糖なんて文句もあるくらいなんだがね、いまはみる影もないよ」


蜜砂糖は、金色に輝くような、美しい砂糖らしい。見てみたかった。


「それで……今、買えない、理解」

「隣町からも分けて貰ったり、いろいろしてるけれど、街道にも魔飲が出たりと……おかげで、蜜砂糖の店は閉め切っているんだよ、商売上がったりさ」

「生計たてる、大変」

「もちろんそうさ、ただ、ここいらの店のものは塩田や漁業も親戚の手伝いで、副業でやってるやつらが多いからね、そっちにいって食いつないでるみたいだね」

「なるほど、理解、でも事態、大変」

「まったくだよ、頭が痛い話さ、うちの店が加入してるアダシアの商業組合の連中もおかげで最近ピリピリして、疲れるったらありゃしないよ」

「でも、蜜砂糖、買えないと、困る、ない?どうしてる?」

「それはそうさ、変わりに深砂糖や、華精の蜜で、代用してるが、時間の問題だね、アダシアにとっては、大きい産業の一つだからね」


 辞書で調べてみると、深砂糖は、蜜砂糖より、調理に使ったとき、少し苦味が残ってしまう茶色い色の砂糖なのだそうだ。お菓子などに使われることはあるが、他の調理に使うときにはその苦味が邪魔になる。だから、普段は蜜砂糖より、低価格で販売されていると書いてある。


 華精の蜜は、華精という生き物が集めた蜜らしい。華精が何かはわかっていないけど、なんだかやってることは蜜蜂のようだなぁなんて思ってしまう。どんな存在なんだろう。それにその蜜舐めてみたい。


「最近じゃ、純正だと高値で蜜砂糖売り付けて、転売しにくるやつらもいるんだよ、中を見てみたら深砂糖や他のものを混ぜた粗悪品だったりしてね、アダシアの蜜砂糖の評判も落ちてる始末さ……」

「はやく、落ちつく、ほしい」

「まったくだよ……自然の災害のようなものとはいえ、長く続くとめいっちまう」

「嫌なこと、聞いた」

「いや、いいさ、ついね、こっちが教えるどころか、愚痴のようになっちまった、年寄りの悪い癖だね」

「おばあーちゃん、カルばぁー!まだぁ、お客さんいるー?」

「ちょいとまってな、今行くから、じゃあ、愚痴ばかりきかせちまったみたいになったから礼だよ、そんなこんなで義勇組合で華精の蜜を取りに行く依頼が増えているらしい、欲しかったら、頼みにいくのもありだね」

「理解、必要なら、行く、みる」


 砂糖が買えない、高値になっているとなると、確かに代用できるのは、蜜とかになるのかもしれない。深砂糖も一応手に入れておきたいが、それも流通してるのかどうか。値上がりしていそうだ。

 とりあえず、できるだけ他のものは、買い込んで、必要だったら義勇組合とやらにいってみることにしよう。



 カルばぁから受け取った、お金を双子鞄にいれて、少し挨拶をしたあと店を出た。町にきて買い物が出来たことや、会話が出来たこと、それで舞い上がっていたけど、やはりこの世界において魔女はとても、面倒な存在らしいことは、わかった。

 勉強して知識を叩き込むのも必要だけれど、実際に外に出てみるとより魔女の厄介さがわかる。

 自分は同じ魔女だけれど、その被害を間接的に被って、魔飲の生き物に襲われたり、砂糖を買えなかったりしているのだからなんとも複雑な気分だ。それに、産業的な大きな被害のほかに、やっぱりあんな魔飲なんかがいれば、人命だって失われるかもしれない。


 ーー確かにこれじゃあ、魔女のこと、こんなの嫌いになっちゃうよなぁ。


 移動する災害とか、台風みたいなものだ。いや、それより汚染されるからたちが悪いかも。


 「恋の魔女か……目が覚めてあんたのおかげで本当に大変だよ」


 一言ごちる。件の相手には届くわけもないのだけれど。


「もう少し買い物したら、帰って休みますかー」


 その日は、買い物としては充実したけれど、魔女の自分としてはかなり、ヒヤリハットな気分にさせられる話を聞かされることになった。


ーープラマさんが、こりゃあ言い渋るはずだよ。とほほ。はやく解決しないかなぁ。


 そのときは、他人事のようにそう考えていた。






 あのあと、日用品を買おうと、タオルや歯ブラシや歯みがき粉を探し歩いた。別に魔法さえあれば困らないのだけれど、なんというか気持ちの問題やエチケット的に耐えられなかった。


 歯ブラシはそれはそれは大きい種族ようのものから、小さい種族用のものまであって面白かった。自分と同じくらいの身長の長さの歯ブラシがあって圧巻だった。この世界でも虫歯はあるらしく、歯食い虫に食べられるぞーと、大人が子供を驚かせていたのを見た。自分は無毛種サイズの、植物繊維のようなもので出来た歯ブラシと、薬葉(くすりば)と呼ばれる葉っぱが練り込んであるらしい練り歯みがき粉を買った。塔に戻ったら早速磨こう。歯磨きをする行為を恋しがるときがこようとは。


 そんなこんなで、歯ブラシまではよかったのだけれど、ふわふわタオルはなぜか、激高で大問題に直面した。聞いてみると素材も高く繊細なため、手縫いしかできないらしく、ペルシャ絨毯が如く、バカ高かった。数枚で、安い法術器が買えるお値段だった。向こうは、化学繊維があるからか、紡績技術の進捗が異なっているのかもしれない。


ーーうぅ、ふわふわタオル~!


 戦々恐々と、タオル一枚を持つことになるとは思わなかった。いつか欲しいけれど、いまは高望みはしない。我慢、我慢、我慢。


ーー宿のものは綿のようなガーゼっぽい素材だったけれど、どこにあるんだろう。あとで聞いてみよう。


そんなこんなで、買い物をして、宿に戻った。忘れないように買い物したものを、記録して、リスト化して、生活魔法で残す。せっかく買ったのに、たくさん買って思い出せなくなって、鞄から取り出せなくなれば困るからだ。紙を出さなくてもメモ出来る魔法を使った。これはもちろんアスリアが考えたらしい。めんどくさいことを取り除く魔法を創ったのは、だいたいこの人なのだとわかった。


ーー便利でありがたいけどさっ。


 動かないと身体に悪い?魔女って死人でしょ、身体に悪いもないじゃない。なんていってそうだ。そしてプラマがキレているのが想像がつく。 


「それにしても、明日で宿泊最後か、とりあえず買い物したら塔にもどって、心配してるプラマさんを、安心させなきゃ」


 夕飯までの間に身体を清浄魔法で綺麗にし、休む準備をすませていると、突然けたたましい鐘の音が鳴り響いた。慌てて、部屋着になっていたところを、旅装に着替えて、扉を開ける。同じように、宿泊していた客も扉を開けて、顔をだしていた。慌てて、この宿の娘さんが階段をあがり、こちらに、走ってきた。


「魔飲が、町に侵入したそうですっ」

「防護陣は展開されなかったのかっ!?」



他の男性客が、女の子に険しい顔つきで、駆け寄ってきて詰め寄っている。防護陣が何かわからないけれど、少なくとも、この子がその防護陣とかなんとかは、どうにか、出来ることではなさそうなのは確かだった。多分防護何て言うから守ってくれるものなのだと思う。


「落ち着いてくださいお客様っ」

「だからアダシアへの商談なんてやだったんだ、最近きな臭いって噂だったじゃないか!」


この人は、商談にこのまちに来た人らしい。確かに身なりがとても紳士的な服を着ている。商談のための衣服なのだとおもう。ちょっと振る舞い的に焦って、紳士度が低くなっているけれど。こんな状況じゃ仕方ないか。


ーー自分もヤバいことには違いないし、おじさん、気持ちわかるよ。


 いや、冷静に頷いている場合じゃない。


「お客様、とりあえず避難を」

「避難ったって、町のなかに入ったんだろう、どこに逃げるというんだっ」

「それは騎士の方が案内を」

「騎士ったって、町の駐在騎士は、最近の騒動で出払ってほぼいないんだろう?」

「それは」

「こうなったら宿泊を返金してくれないか、いまならメェクルの最終便に間に合う、隣町まで逃げた方が安全だ、返金してくれっ」

「お母さんにきいて」

「ちんたらしてる暇ないだろうっ!」



お客さんそんなに怒らないでくださいよなんて思ってしまう。確かにこりゃあ、先払いお願いするのわかっちゃうよ。何かあったとき、あれそれ、揉めるの大変だし。ムキムキの強い人に、お金払わず逃げられたら困る。


ーーうーん、それなりに怖い、ギスる場所に立ち会うの目覚めてはじめてだっ、こういうところに立ち会うときが一番部外者としてメンタルにくるよねー。怖いちょーこわい。 あの隊長騎士さんの眼光には叶わないが、確かに怖いっ。


 どうしようどうしようと、恐怖から内心であわてふためいており、動けずにいると、少女の肩を客が強く掴んだ。そのせいか、少女は顔を歪めたように見える。痛そうなのは明白だった。それを見て、あまり干渉したくなかったけれど、悩みに悩んで声をかけるのことにした。

 ビビリだからピリピリしているところになんて当然入りたくないけれど、これでは女の子が可哀想だ。

 ここで傍観している自分も、なんだかダサいなぁとおもう方が勝った。ガグゥや、魔飲よりはこ、こわくないよ。


ーーうーえーい、話しかけるぞ、話しかけてやるからな!ええいままよっ!


「すまない、話、わる、入る、あなた、大変そう、でも、事情、わからない、けど、この子、悪くない、少し、落ち着く」

「わからないなら割って入ってこないでくれっ」


ーーひゃい!


 一瞬内心そうですよね!と納得しかけたけれど、実際その通りだけど、わからないし関係ないんだけど!


ーーだって女の子も可哀想だし!


 女の子だっていまはたぶんどうしようもなさそうなんだよなぁ。困った顔をしてこちらを見つめてくる。どうしようといった顔だ。普段ならいなすことができる程度には、この宿を手伝ってきたのだろう。泊まっている間は、とても上手に接客しているのをみている。ただ、なにぶん緊急事態らしい。


「お母さん、呼ぶ、はやい、いってきて」

「は、はい」

「おいっ」


通り過ぎようとする女の子の腕を強く、掴もうとしたのをみて、こちらがその客の腕を強く掴んだ。この細腕のどこに秘められていたのかわからないけれど、思ったより強い力が出て、押さえ付けることができた。この身体、結構、腕力が強いのかもしれない。


ーー本当に何混ぜたんだろこの身体……。


今はでもこの身体で助かった。


「落ち着く、皆、町、人同じ、だから、あの子も同じ、逃げたい、でも、きた、だから、お金も、悪い、よう、しない、はず、だから、落ち着く、頼む」


 強く睨み付けると、何故か掴んだ相手の身体がビクッとこわばったような気がした。この眼、確かに、睨むとそこそこ、ガグゥとか爬虫類の目っぽくて、威圧感があるのかも。


ーー本人としては、内心ビクビクなんだけどなぁ。騙せてそうだから良っか。


「わ、悪い」

「いや、あなたも、悪くない、ただ、落ち着く、して、ほしい、かった、災害、慌てるの、わかる、慌てる、判断曇る、怪我する」

「そ、そうだな」


 中身はめちゃくちゃ弱いざこざこの魔女だけれど、この見た目、うまく使えば、虚仮威しに使えそうかもしれない。

 確かに自分、目つきとかアスリアが色々混ぜたせいか、結構鋭いし、睨めば確かに怖いかも。

 余計な悪知恵を一つ覚えた。


「連れてきましたっ」

「来た、よかった」

「すまないね、話は変わるよ悪いねお客さん、返金は構わないが、今慌てて出てっても、結局危ないよ」

「それは……いや」

「ここいらのもので、確保してる避難路がある、そこは地下に通ってるから安全さ、地上は騎士たちが探してくれている、危険な道を逃げるか、地下に避難するかはお客さんの自由だ」

「……地下か、わかった」

「お客さんたちみんなで貴重品をもって、下に集まってる、はぐれないように、一緒に行動するよ」


海鳴亭の女将さんは、他のお客さんに話を通してきたため、遅くなったらしい。自分達が最後だったのかもしれない。双子鞄を持ってきて、首にかけて、部屋を出た。階下に行くと、数人のお客さんの姿が見えた。



「これで宿泊名簿に書いてある人たちの全員だね、ナレーシア」

「うん、名前確認したよっ、貴重品ももってもらった」



あの看板娘の女の子は、ナレーシアちゃんというらしい。こんな非常時になって知った。けれど、そもそも、宿に泊まっている娘さんの名前なんて、なかなか聞かないのかもしれない。コンシェルジュがいそうな、高いホテルとか、フロントにご案内しますみたいな場所なら、違うのかもしれないけれど、とんと縁がなさそうな人生だったことは、思い出せなくても察している。 


 ナレーシアちゃんと一瞬目があって、微笑んで頭を下げたのが見えた。



 ーー可愛い、この笑顔、びびりだけど頑張ったかいがあったかな、えへへ。


「今から外の井戸近くにある、地下通路の扉から通路を通って、避難場所にいくからね、あたしについておいで」


 さっきの客を含めて、数人のお客は顔を見合わせながら、頷いて見せた。海鳴亭の女将さんも、それを見回して頷いて見せる。

 そのまま扉を、出て、宿の近くにある、井戸を目指す。外は出てみると、来たときより明るかった。おそらく、この騒動で、普段は明かりをもう消している店や家々が、明かりをつけているのかもしれない。そのせいか、夜目になれるまでもなく、周囲は照らされていた。


 言われるがままについていき、宿の近くの、林の中に、小さな水車小屋のような場所があった。水車のようなものは、まわっていないようだけれど。こんなところがあったのか、と周囲を見回してしまう。正直藪から何か出てきそうな気がして、こんな事態だし、影が濃い部分にビクビクしてしまう。落ち着け落ち着け。


 「ここだよ」


 小屋の中は、地面だけ石畳になっており、その中央に井戸があった。


「避難所の入り口は?」

「落ち着きな、昔は、この井戸から汲んでいたけど、生活魔法の普及で便利になっちまったから、使ってないがね、よいしょっと」


水汲みように設置された紐を三回引くと、かぱっと音をたてて、一部の石畳がもりあがった。


「てつだっとくれ」


そして、ナレーシアちゃんやお客や自分も手伝い持ち上げると。本当に、人が数人おりられそうな長さの梯子が壁に打ち付けてあった。そこまでは高くなさそうだけれど、なにぶん暗いので、落ちそうで、やっぱり怖い。


「明かりを使って先導するから、ついてきな」


言われるがままに、数人の客と一緒に、階段を恐る恐るおりていく。暗くて足を滑らせそうだったけれど、したまでいくと、なんだか明かりが見えてきた。地下には下水用や雨水を流すための、通路が大きく掘られており、補修に使う人のためか、光る石が設置されていた。だから下が急に明るくなったらしい。たぶんこれは、あの街道に置かれていたものと同じだ。石が、暖色と白色の中間色の明かりを放ち、あたりを照らしている。目に眩しくない優しい光だった。 


「下水、なのに、臭い、腐臭、ない」

「それは、壁に書いてある魔言と、埋め込まれている法術器みたいな機械が、浄化と、腐臭を無臭に変換して消してくれてるんですよ」

「なるほど」


 ナレーシアちゃんが説明してくれた。ナレーシアちゃんは、自分より賢いらしい。説明されてみると、確かに地下下水の壁面にはそのようなものが施されている。感心しながら頷いて聞いていたが、そういえば、ナレーシアちゃんが自分のもとまで、先頭から下がりここまできてくれたのに、今気がついた。いつのまに。


「さっきは、ありがとうございました」

「気に、する、ない、たまたま、こんな、状況、でも、あの人、責めない、あげる、いい?」


他の客に聞こえないように小声で話す。


「わかりました、優しいんですね」

「優しい?わかる、ない、でも、怒る、しばらく、続く、疲れる、それでげっそり」

「ふふ、確かにそうですねっ」

「そう、そう」

「旅人さん、お名前聞いてもいいですか?」

「ルアド」

「ルアドさんは、優しくて面白い人ですね」

「そう、かな、照れる、お世辞、でも、嬉しい」

「お世辞じゃないんですが」

「大人からかう、よくない」

「本心ですっ、助けてくれたから」


大人どころか0歳みたいなもんだけど、危ない、うまれて0歳なので、この距離の詰めかたに、メロついて絆されるところだった。人間耐性がないとこうなるとは。さすが看板娘だ、ナレーシアちゃん。でもごめん、悲しいことに自分魔女なのよね。


「これ、まだ、道続く?」

「避難所まで続くので、少し長いです、ただ、同じ光景が続くので余計にそう感じますけど」

「そうかも、そう、いえば、防護陣、守る突破、何故?」


 あれから、歩きながら防護陣のことをしらべたが、町を守る力のある結界のようなものらしい。この世界で結界って言葉があるのかわからないけど、自分的にはそういうものと、思っておく。あの、はじめて、大きな門についたときに、壁が光沢があるように見えていたが、あれ一つ一つが、その防護陣を構成していて、どこが欠けても、強度を保てるようになっているらしい。この防護陣は、魔女や、魔飲対策のために、つくられた町を常在的に要塞化する力があるのだとか。

 

 ーーでも、それなのに、何故魔飲に入られたんだろう?


「今回の魔飲は、前回大きな魔飲を、騎士さんたちが、倒したときの、残りみたいなものらしいです」

「あの、黒いの、逃げた、残り」

「はい、そうです、大きな個体を倒しても、そこから逃げた小さな力が、別の小さな生き物にとりついてしまうことは珍しくない、すぐに普通は小さいから瘴気だまりのような濃度になれずきえちゃうんですけど、でもたまに消滅しないで残る個体がいるらしいです」


「厄介」


「本当ですよね、それで、今回それが出たらしくて……小鼠(チュピリ)型が町に、だからあまりにも弱い力に、護方陣が感知して反応できなかったようで、町の人が見かけてわかったらしくて」


小鼠(チュピリ)というのは、有り体にいえば向こうの世界のドブネズミのようなものらしい。とにかく繁殖力が強く、色は灰色、牙が向こうのネズミより鋭くセイウチのようで、尻尾が長くくるくるとまるまりその伸縮性で飛びはね、すばしっこいらしい。なんだかだいぶそれだけきくと、ネズミの強化ばんみたいだ。


「この町では、法で、病気を持ち込むような動物は飼うことを禁じられています、昔の黒魔病っていう、病気から法律が変わったとか」

「防疫か」

「はい、交易を行う港で船に乗り込んで病を広げたりすれば問題になりますから、小さいときに教わるんです、小鼠(チュピリ)はその代表例で、いつも駆除されるんですけど……たぶん今回は、荷運び用のメェクルに紛れ込んでたんじゃないかって」

「それじゃあ、気付く、難しい」

「はい……小さいから見つけにくくて、騎士さんたちも手間取ってるみたいで……小さいけど、瘴気をまとっているので、危険だから、駆除が終わるまで、住民やお客さんは避難することになったんです」

「それで」


 確かに小さいすばしっこい生き物だと、探すのに手間取るだろう。先日みたやつのように大きくても怖いけれど、小さくても厄介なのが魔飲(まいん)らしい。これで、瘴気を撒き散らして、被害を出すんだから、なんとも厄介なやつらだなぁなどと思ってしまう。


「あ、そういえば、自己紹介まだでしたね、私ナレーシアって言います」

「私は、ルアド、旅でここきた、ええと、ナレーシアちゃん、よぶ、いい?」

「はい、もちろんです、えっとじゃあ、私はルアドさんって呼びますね、本当はお客さんにお名前なんてきいても、すぐ宿泊したら離れてしまうので教えないんですけど……助けてもらったから言っておきたかったんです」

「そんな、自分、大したこと、する、ない」


むしろ、中に入ってことを荒立てたかと心配したくらいだ。


「ルアドさん、今大したことしてないって言ったんですよね、私にとってはたいしたことです、ご本人がそうでも、私は助かったので」

「なら、礼、言葉は、うけとる」


でもそういうならうけとっておこうとおもう。感謝されることに悪いことはそうないだろうから。


「はい、そうしてください、ふふ」


 それから些細なことやこの町のことを、話しながら、歩いていると、時間を感じず行き止まりのようなところに差し掛かった。


「あっ、つきましたよ」

「行き止まり?」

「この壁は、特殊で、行き止まりのように見えるだけです、みていてください」


ナレーシアの母親が、扉の真ん中を押すと、何かが作動したのか、壁に刻まれている魔言のようなものが光り輝いた。そして、壁だった所が、透き通って向こう側への道が現れる。物珍しそうに見て、浮かないのように、努めて冷静に、そこを潜り抜けた。塔で不思議な体験をしまくってなかったら危なかった。


 瞬間、いきなり、全く違う空間に出たような、光景が広がった。地面の上に、大量のテントのようなものが、立ち並び、所々には簡易的な店までみえる。まるでここは地下ではないかのような、広大なスペースだった。


 「うちの宿のテントの番号はここだね」


 海鳴亭の女将は、番号のついた木札を、持っており、その番号と同じテントの前にいくと、立っている棒きれの止め金に、札をかけた。


「木札、かける、意味ある?」

「それをかけると、ここに全員避難していますって、わかるようにするためですよ、ルアドさん、避難とかの経験ないんですか?」

「旅、してる、避難より、回避すること、多い」


ーー本当は無いですごめんなさい、ナレーシアちゃん!


「あぁ、確かに、生活してる町じゃなかったら、避けた方が、安全ですもんね~」

「一人、だと、防犯、大事」

「確かに」

「安全が確認が出来たら、騎士さんたちが来てくれて、鐘がなって、避難解除になります」

「了解、はやく、おさまる、嬉しい」

「ええ、小さいころは何が起こってるかわからなくて、みんなで集まれてわくわくしたんですけど、大きくなると、魔飲のことをしって、避難する不安がわかるようになってしまいました、いまも町の人や騎士さんが危険な目にあってるってことですから……はやく捕まるといいんですが」

「自分も、そう、思う」


確かにこの間も騎士や一部の町の人たちが、地上で魔飲の捜索をしていると考えると不安になるだろう。犠牲者がでないといいけれど。


「ナレーシア、お母さん炊き出し手伝ってくるよ、終わったら食べるものもらってくるからね、その間寝袋をお客さんに配っといてくれ、あと必要なものを設置して」

「はーいっ」

「私も、手伝う、良い?ナレーシアちゃん」

「はい!」

「お、助かるよ、お客さん悪いね、じゃいってくるね」

「はーい、いってらっしゃい、あ、お客さんたち中に入って腰をおろしてお休みください、今から色々準備しますので、ルアドさんはこっちにお願いします」

「わかった」





 テントの中は入ってみると、思ったより広かった。たぶんこの空間や、テントにも、魔法が使われていて、塔のクローゼットのように拡張されているのだと思う。テント中の箱から、寝袋や簡易枕などを出して、ナレーシアちゃんを手伝ってお客に渡していく。夕食も食べそこねているだろうし、はやく寝る予定の客もいたはず。自分もその一人だった。


 ーー御客さんわかるよ、安眠妨害が一番辛いよね。


 皆一様に疲れきった顔をしていた。自分も正直疲れていたけれど、こんな自体なので逆に目がさえてしまっている。とんだ買い出しになったものだなぁと、ため息をつきたくなった、はぁ……。

 でも、きっと、ここにいるすべての人が、そう思っているのだと思う。なので、文句は心の中でぼやいておこう。ぼやぼやぼやぼやぼや。


 ーー確かにこんなことばっかり起こす原因になる魔女ってそりゃあ、嫌われてしまうよなぁ。余計に、バレたらいけないってわかったよ。 


「こっち、配った」

「ありがとうございます、これは、角族さんようの枕です」

「ありがとう」


角を置いてフィットしやすいようになってる枕を渡された。なんて便利な。自分の寝袋を最後にテントの端の方に設置すると、箱の中に寝袋は無くなった。


「他、やること、ある?」

「えーと給水瓶の設置と、トイレの設置です」


 ーー給水瓶?トイレの設置?トイレは設置するものなのか?


「じゃあ、これお願いします、台座はテントの奥にありますから、給水瓶を置いてくださいね」


 給水瓶は、縦長のティーポットのようなもので、特定の台座に置くと連動して、生活魔法が発動する仕組みらしい。台座に置くと、いつのまにか、蓋をあけると瓶の中に水がたまっていた。そういえば、宿の寝室にもあったけれどこんな仕組みだったんだ。

 これは便利だなぁ。

 水道いらずか。

 ただ大量にでるわけではないので、完全に飲み水用みたいだけれど。それに、台座が重いので、盗んで売って小銭稼ぎもできそうにない。だからポット単体で機能しないのかもしれない。


「よく考えられてるなー、さて、最後に木製のコップを数個隣に置いて終わりっと」


 ただ台座を起して動かし、ポットを置くだけなので、すぐ終わったため、ナレーシアちゃんのほうを手伝いにいく。きっと客の自分に手間をかけさせないようにこちらをやらせたのかもしれない。それにしても、トイレを設置とは、簡易トイレ的なことなのかな。いや、災害用のトイレみたいなものとか。でも、ここは魔法がある世界だ。想像がつかない。


ーー異世界の簡易トイレとは。


 テントの入り口にいってみると、ナレーシアちゃんがちょうど設置をはじめるところだった。四角い金属製の枠を地面に置く。それからどうするのだろうと、興味津々にみていると、それがひとりでに、みるみるうちに、金属が液体のようにうにょうにょと、引き伸ばされ工事用の仮設トイレのような形になった。


ーーなんだこれー!?


 そして、扉をあけると、中央部は、自分の記憶にもある見たことのある便座の形だった。

 ただ興味深く気になって、何故か覗いてみると、底は土になっていた。そこに、何か丸いものを、一粒ナレーシアちゃんが投げ入れた。

 そこから、芽が生えて、木の背もたれになる。中はどういう仕組みになっているのか、トイレの底は葉がおい繁っていた。どういう仕組みなんだと、気になりすぎて仕方ない。でも、こんなのもしらないのかと思われたら怪しげに思われるかもしれない。


 こっそりと、現出させ、検索をかけることにした。


 『形状記憶簡易仮設物資、トイレなどが代表例、金属に特化した魔法を扱う魔女があみだしたもの、形状変化の魔法をかけた金属を凝縮し、地面のわずかな流力に触れることで、元の整形された金属の形に戻る』


ーー便利だー!


『また、排泄されたものの処理には、植物の改良をする魔女が作り出した養分食いの種を利用する、養分食いの種を植えると高速で成長し、排泄物を養分に変換して、ある程度蓄えると灰のようになり種を一つだけ残す、そしてまた植えると、以下略、無限ループ』


ーーこれって汚水処理施設っているのかな?


 いや、さっき通った下水道とかあったし、生活排水とかは別なのかもしれない。たとえ、浄化して、どれだけ綺麗にしたとしても、水の流れる場所は必要になるのかも。


ーーいや、どれだけ綺麗にしたとしても、そもそも非常時じゃないと、飲みたくないかも……。浄化される前を知ってると。


『ただ、数が大量に作り出せないため、通常の家庭のものは、浄化処理を行う魔法がかけられた器具を用いるのが一般的、養分食いの種は主に災害用に用いられることが多い』


ーー用途で使い分けがされてるなら、確かになるほど。ってそういえば、自分目が覚めてからトイレにいっていないような気がする。どうなってんだこの身体!?


 いやまて、もしかしてだけれど、食べたもの全部流力効率の悪いこの身体が、存続させるために使っているとしたら辻褄があう。


 っていままで、そんなこと、気がつかなかった自分もだいぶバカなのかもしれない。


 いままで、魔女ってそんなに、人間と違いあるのか、なんて思っていたけれど。ここにして、トイレの必要性がないことに気がついた。便利と言えば便利だとは思う。混んでるトイレの列に並ばなくてすむのだから。


 古い文言でアイドルはトイレにいかないなんていう迷言のようなものがあったけど、魔女はアイドルだった?


 なんて、はぁ……。いままで気がつかないなんて。今度は人間らしく生きるためには、トイレにいくふりをすることにしよう。……でも、排泄とかが必要がないなんて、確かに、それって、生き物といえるのだろうか。身体の仕組みで補う虫とかはいるらしいけど、それが必要ないなら、確かに魔女は食べたものを循環させ排泄する必要の無い部分において、魔女は確かに生きていない、死人なのかもしれない。


「何か考え事ですか?」

「ごめん、すこし、考え事、大丈夫」


 ーーうーん、トイレから、まさか魔女らしさを実感するとは、なんともいえない気分だ。うーむ……。


 「ルアドさんも、疲れたでしょう?休んでください」

「ありがと、ナレーシアも」

「私はお母さんの手伝いして、そのあと休みます」

「自分、てつだっ」

「大丈夫です、たくさんお手伝いしてくれました、ありがとうございます、お客様なのにこんなことまでしてくれて、じゃあいってきますね!」


ぺこりと、行儀よくお礼をして、笑って手をふって走っていってしまった。可愛らしい子だ。こんなときなのに頑張っているナレーシアは、とても、自分なんかより偉くみえた。魔女なのに力も弱く、さしたる事もできない自分よりよっぽどだ。


ーーナレーシアちゃんなんて良い子なんだっ。


 大きな力をもとうがもたなかろうが、もてる範囲で人は行動して生きていく。どれだけ魔法がある世界でも、人の営みは自分の手のひらの上で出来ることを、積み重ねていくしかないのかもしれない。魔女もその1人だ。自分は力のある魔女じゃないけれど、こうなってみれば普通の人とあまり変わらない。自分も出来ることをコツコツやっていこう。


 けれどそうはいったものの、炊き出しを手伝いにいったら、また気を遣わせそうだし、いま寝たら起きれる自信がない。なんとも手持ちぶさただ。テント内で、周囲に人がたくさんいるし、魔法の行使も目立つ。何をしようか悩んでいると、こっそりと、声をかけられた。


「さっきは、悪かったね」


 話しかけてきたのは、ナレーシアに詰め寄っていたあのお客さんだった。髭のある紳士服っぽい男性商人さんだ。いまは落ち着いているのか、服装も相まって理知的にみえる。


 「仕事が上手くいかなかったり、色々焦っていたんだろう、すまないね」

 「誰でも、ある、人生、そんなこと」


 ーーたぶん……0歳だとなんか説得力無いけど、そう、そういうことは、誰でもあるとおもいます。


 「助かるよ」

 「ナレーシア、あの子にも、言って、あげる、安心、する」

 「あの子が、少し手伝いが落ち着いたらそうするよ」

 「それ、いい、失礼、立ち入る、嫌なら、きくやめる、だが、仕事、商談、大変、魔飲、影響?」

 「構わないよ、商才があるとはいえないから自分も悪いのさ、ただ、細々と暮らしていける程度に続けられていたんだがね、蜜砂糖を使った交易品を多く生業にしていたうちはだいぶ今回の魔飲騒動で、痛手を被ってね」


「それは……大変、辛い」


「でもうちだけじゃないさきっと、だから、悪態ばかりもいってられないんだが、どうにも新商品の売れ行きが悪くて、今日も下ろし先に断られたんだ、塩のおろしやら他の交易品にも手を出しているけど、それだけじゃもたなくて、他の商品は他の商人がもう取引しているだろうから」

「市場、新規、取り引き、見つかる、難しい」


ーーつまり、レッドオーシャン状態か。そりゃあ焦ってしまう。


「ああそうなんだ……蜜砂糖の畑の除染が終わってもね、来年までは砂糖はできないだろう、その間食いつなぐのに頭を抱えてるんだよ、悪いね、そしたら魔飲騒動、まいったね、こんな話してすまんね」

「聞いたの、自分、大丈夫、ちなみに新商品何?機密、なら、しゃべる、ない」

「別に珍しいものじゃないさ、ただここいらでは蜜砂糖が主流だから、使われにくいかもしれないがね」


 小さな袋から出したのは、水晶のような四角い砂糖だった。氷砂糖だろうか。違うのは少し色が青がかっていることくらいか。


「口で転がす菓子みたいだろ?蜜飴玉みたいな、蜜砂糖を固めたやつあるだろ、あれは金色だけれど、それと似てる砂糖なんだ、一つ愚痴をきいてもらったお礼といっちゃなんだが、あげよう、なめるだけで美味しいぞ」


 飴ちゃんをあげよう的なオバチャンのようなのりで一粒手渡された。氷砂糖のようなものを、なめると、口のなかいっぱいに甘味が広がった。久々の果物いがいの、甘さにめちゃくちゃ唾液がでてしまう。めちゃくちゃ身体に染み渡る、しびれるようだ。甘いって、罪の味だ。


ーー甘い、うまい、甘い!


「ははは、あんたさん、詰め寄られたときは無表情で怖かったが、よくみたら顔にでやすいんだな」


 カルばぁにもいわれたばかりなのに、恥ずかしい。


「甘い、久々、すごい、嬉しい、だから」

「なら、よかったよ」

「氷砂……この砂糖、飴、宝石、みたい、綺麗、しかも、美味しい、なんで、売れない、便利、不思議」

「だよなぁ、こんな事態だから売れると思ったんだが、蜜砂糖の主流な町だからってのが根深いんだろうな、それに蜜砂糖は味に馴染みやすくて、料理に重宝されやすいんだよ、だがこの砂糖は溶けにくくて、保存が難しい、それよりなら深砂糖のほうがって」

「ふーむ……、溶けにくい、逆に、便利、ことある、これ、何に使う、宣伝?」


 和菓子とかに使うけれどこちらではあまりないのだろうか。


「お菓子とか普段使いとか料理とか飴とかだな、皇都ならそんな感じらしいが」

「煮物、漬物とか使う、確か、美味しい、けど違う」

「違う? 他にあるのか」

「果物や、果実酒、お酒、浸ける、そしてゆっくり、溶ける、それで逆に旨味でる、防腐を助ける」

「酒はここいらじゃ、辛い酒が、好きな船乗りが多いから考えたことなかったなっ」


確かに、通った店でも、甘い香りというには程遠い、強そうな酒気の匂いが香っていた。確かにそういうイメージが強いなら、カクテルのようなお酒や、果実酒を選択肢から外してしまうのも無理はないかもしれない。


「強い辛いお酒、苦手、選択、しない人、多い、飲む、なれない若い男性、女性」

「確かにな、甘いのが好きな種族もいるし、売り込み先を変えるのもありだな」

「それに、遠路航海、新鮮、野菜、果物積む限界、乗せる、しても、商品、船乗り、穀物、干し肉、食生活片寄る、それ、病気、増える、病気予防、宣伝、売れない?」


 塩辛いものを食べたら甘いものを食べたくなるのが人間だと思う。


 ーー私だけ?


 と、とにかく、たぶんそうだよね。

 だから船乗りさんたちが、香辛料入りの干し肉をかじり果実酒を飲む選択肢をもってくれるといいなぁと思う。それに酒好きともなれば、辛い酒が尽きれば次はある酒をもってこいというだろう。酩酊してチャンポンになったら、中身は覚えているだろうか。

 さらにこれらにライムのような柑橘類やその果汁を、使えばビタミン不足などで、起こる病を防げるかもしれない。

 それに果実酒に残されたクエン酸やビタミンは、疲労回復や、風邪予防を助けてくれたりする。長くおけば消えてしまうらしいけど、飲まないよりはましだと思う。壊血病のようなものが、こちらの世界にあるのかわからないけれど、とにかく、栄養バランスなどを助ける手助けになるかもしれない。

 遠路航海になればなるほどそういったものは重宝されると思う。

 いずれにせよ、肉食ではなく雑食の種族は多そうだし、なら、なんでも満遍なく食べた方が良いに決まっている。消化酵素とかに、違いがあるならまだしも、そんな様子はあまり見なかった気がする。

 少なくとも市場の食べ物の店や、無毛種の人や他の種族を屋台でみていると、食事しているのに差異はなかった。


「確かにな、どれだけ船を魔法で拡張しても、もうけたいやつは、船員の食料より、できるだけ、多く商品を乗せようとするだろうし、保存をかけるものも商品優先になるだろう、長期保存機能つきの箱は値がはることが多い、そうなると、新鮮な食料を、積むのにも限界があるな……保存食か」

「ただ、瓶、熱湯つける、菌死滅、発酵爆発、注意」

「ああ、発酵のことだな、うちのかみさんもいっていたなそういえば」

「奥さん?」

「あぁ、今回はやく、帰りたかったのもかみさんに仕事ばかりだとかいろいろしかられてね、それもあってイラついてたんだ悪いことをした嬢ちゃんに、まぁでも、それでも、商才のない不出来な俺に、似合わない出来た嫁だよ」

「なら、その奥さん、船で、料理する人、専門の人、他の人、聞く、商品使い道、もっと、増える、可能性」

「うちのカミさんには、家事やると、やりなおしっていわれるから、盲点だった、聞いてみるよ」

「あと、酸っぱい果物、酢漬けの野菜とか、一緒に、うる、どう?船乗り、奥さんたち、喧伝、航海する人、売れる、思う、野菜も、含まれる成分、風邪や、口、荒れ防ぐ、野菜、町融通できる?」


抱き合わせ商法だ。スーパーの野菜の棚に、関連する料理のタレや具材を、置くあれだ。船乗りの奥さんなら、旦那に健康のために、持たせたくなる作戦。


「ああ、知り合いがいる農家の!糸口が出来たきがする、見方を変えて売ってみるかっ」

「役に立つ、わからない、けど……少し、やれること、増えるなら、良い」

「とんでもないさ、行き詰まっていて、機転を効かせるのを忘れていたよ、慣れた商売のやり方にこだわっていたから、いつのまにか停滞してたんだな」


 最初はまったく別の用途で売っていたのに、ペットグッズにしたら、爆売れしたなんてのはある話だ。それに生活や台所のグッズの販売を、奥さんたちにきいて、作ってみたら爆売れなんてのもある。と昔の記憶にある。


 ーー生活用品は家事をやる方がたが、やはりお強いらしい。


 「商談もうまくいかないし、宿も離れて価格をおさえたのに泊まっていたら、町に魔飲はでるし……最悪だと、思っていたけど、これも神クツァルテヌカのおぼしめしかもしれない、あなたのような人にあえた」


クツァルテヌカ、この世界の信仰宗教にはクツァルテヌカという神がいるらしい。覚えておこう。宗教というのは多様なものがあっても、許しあえれば良いが、火種になって地雷を踏むものも多くある。


 「大げさ、自分、発想、話しただけ、それ、する、難しい」

 「いやいや、それでも、随分視野がひろがったよ、上手く行かないと視野が狭くなるからね、この騒ぎの夜も、効能があったようだ」

 「売れる、良い、願う」

 「ああ、ありがとう、他の商品についても、売方の視点を広げてみるよ、売って、家族に土産をかって帰りたいからね、そうだこれ」

 「この、砂糖、大事、商品」

 「これは、見本用に持ち歩いてるものなんだ、売り物は別にある、だから、もらってくれ、いまは少ししかないが」

 「……でも、成功、わからない、ただ、自分、素人、大変そう、心配話しただけ、気分転換、余計なお世話、かも」

 「そんなことない、腐っているより、ましにさせてくれたさ、そのお礼だ」


 紳士は断っても引きそうに無かったので、しばらくあーだこーだいいあったあと、砂糖の袋を受け取った。それに袋ごともらったが、袋に魔言がみえる。魔法の袋だ。たぶん砂糖が溶けないように、保存する魔法がかけてある。さっき保存の魔法がついたものは高いって、袋事態も高いのではないか。うけとって、別のものに移し替えようとするが、やはり押しきられた。


 「その袋は、小さいからそんな値段じゃないさ、大きいものは高いが、だから気にしないでおくれ」

 「ありがとう」


 大事に双子鞄に、砂糖をいれた。アダシアの評判の蜜砂糖ではないけれど、この砂糖も十分その蜜砂糖以上に大事な砂糖になった。なんだか、使うのが惜しい。大事なときに舐めよう。


 「蜜砂糖も戻ったら、中央通りの店におろすから、買いに来てくれ、この砂糖もね、格安で売るよ」

「その時、必ず」


 そうやって紳士のお客さんと、話していると、ナレーシアが戻ってきた。海鳴亭の女将さんと一緒だ。二人の手に持っているものから、いい匂いがする。  


「待たせたね、炊き出しもってきたよ」


 その匂いをかぐと、ぐーと、自分のお腹がなった。それを聞いた紳士も、ナレーシアも、女将さんも、他のお客さんたちも、その音を聞いて笑い出した。素直すぎる身体だ。穴があったら入りたい。トイレにいかなくていいとかいってたけど、全然この音をきくと、死人らしくないなぁと思う。


 でも魔飲出没騒動で緊張している今、間の抜けるこの音でここにいる人たちが、笑顔になれたならそれもまた良いか。


 どうやら騒がしい夜だったけど、悪くない経験になったような気がする。大事な、砂糖だって貰えた。


「ルアドさん、どうぞっ」

「ありがとう」


ナレーシアちゃんから、木の器と匙を渡される。炊き出しのスープは、具だくさんな野菜と魚の身が入ったものだった。あついので、舌を火傷しないように少しずつ飲む。


「おいしい」


 しみじみと感じ入ってぽつりとそう呟いた。


 出汁が効いているからとか、野菜や魚が新鮮だからかもとか、味つけがとか、理由はあるけれど。


 目覚めてから、はじめて食べたプラマさんの料理を思い出した。どんな料理よりも心の飢えを満たしてくれたような、温もりを感じる料理だった。こんな事態の相乗効果もあるのかもしれない。こんな中で食べられているからかもしれない。


 でも、理由は、なんでもいい。


 ただ、温かく、美味しいと思ったそれだけで。


 スープの野菜の甘さが、舐めた砂糖のように染みた。


 死人の冷たい身体だというのに、何故か奥からあたたまるようだった。


 どうやら今日も、空腹で眠らなくて良さそうだ。

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