3 ロッキンヘム金庫
あれから、鞄をぎゅっと握りしめて、大金をもっていることを気がつかれないように、びびりながら店を出た。
ーー右よし、左よし、でででるぞー!
そうしてびくびくして逆に挙動不審になりながら、店を出ようとしたところで、またカルに呼び止められた。わざわざ階段を上ってきてくれたらしい。
「ロッキンへム金庫の営業時間はもうすぐだよ急ぎなっ」
「時間、助かる、急ぐ、感謝!」
そうだったのか、わざわざしらせに来てくれるなんてありがたいなぁ。
頷いて礼をいい走り出した。正直足元をきひひひと、いいながら、見られなければ、世話焼きのおばあちゃんが、できたようで、なんだか、心強い気持ちになる。
ーー私にも祖母がいたのかな?
優しい人だったらいいなぁ。もう思い出せないのだけれど。
ふと走ってからすこしして、店のほうを見たけれど、カルばぁはもう店にもどったのか、振り返ったときには姿はなかった。
向こうはもちろん商売だし、すこし危なっかしい自分を見て、口を出したくなったのかもしれない。けれどそのすこし口を出してくれるのがなんだかこそばゆかった。今は、家族のような存在はプラマさんしかいないのだから。
すこしだけ、見知らぬ故郷に想いを馳せて、心がちくりといたんだ。
「って感傷に浸ってる場合じゃない、良かったな……無事?今日はとりひきできて良かった……よかったよね?」
うんうんそうだよと、心のなかで頷ずく。そうだ、ちゃんと取引できたんだ自分は。これで食料や宿代金にこまらないのだから。
異世界初、お金のやり取りとりができて、すこし自信がついた気がする。
ーープラマさんやったよ。
心の中のプラマさんに報告してみる。たぶん、要塞にいる、プラマさんはきっと噂をしているからくしゃみをしていることだろう。
お使いにでてオカンに報告する子供の気持ちがすこしわかった。
「こら、悪い魔女めやっつけてやる!」
「ぐははは!この町のすべてを破壊し尽くしてやるー!」
「この騎士が相手だー!」
「って、魔女役もう三回目だよ、僕に騎士やらせてよ」
「いいだろあと一回だけ!」
一人で換金できたくらいでドヤっていると、不意にそんな声が聞こえた。子供がごっこ遊びをしているらしい。獣種の子と、無毛種の子だった。どうやら魔女を討伐する騎士ごっこをしているらしい。
そのやりとりが、さっきまでの、安堵と郷愁を一瞬で冷ました。今日はたまたま上手く行っただけ。そう、悲観的な考えがよぎった。自分が魔女だからカルばぁは普通に、やり取りができたのだ。バレていないから、今日はうまくいっただけなのだ。
でも、次は?
自分はモノフ、野良の、魔女なのだ。それがバレたらどうなるのだろう。
すこしのお節介から、声をかけてくれたカルばぁのような人も、白い目でみるのかもしれない。カルばぁは悪くない。きっと魔女がそういうものなのだとおもう。
「ちょっと浮かれすぎたかなぁ、買い物できたから言葉も通じないところからここまできて、嬉しくなりすぎてたのかも、自分は」
ーー魔女なのに。
人としての勝手な自分の抱く情は捨てて、 売り買いの関係だけで、すませるべきだという気持ちがなんとなく、沸いてくる。求めている温かな人のやりとりは、望んだとて、壊れてしまうだろう不安が沸き上がってくる。自分が魔女である限り、関わった人に、迷惑をかけるときがくるかもしれないのだから。
あったばかりでも、人と会話して、人と、普通に接して嬉しかったことで、少し心が高揚してしまった。
ーー落ち着いて深呼吸して。
自分は魔女だ。だから人に近づいたら人を困らせることになる。
『人は騙すもの、人は覆すもの、人は嘲笑するもの、人は苦しめるもの』
ふと、心の奥底で、そう誰かが心を撫でた気がした。
『この本は、人への不信や嫌悪感を持っていなければ開けられない』
あのアスリアの書について、いっていたことが本当なら、記憶を忘れる前の自分が、そんな感情を抱えて奥底で燻っていたとしたら。この人への不信、立ち止まって前に現れた壁は、きっと元来のものなのかもしれない。プラマさんがいたから寂しくはなかったけれど、でも、あんな塔のなかで、二人でいたから、ちょっと、外で人とふれあったから心の鍵が緩んでしまったのかもしれない。それにカルばぁ、のなんだかんだいって、商売人なのに人の良さも合間ったのだと思う。
引き締めないと。
ーー近づきすぎれば壊れる。
自分は魔女なのだ。バレたらいけないから近づかないほうが良い。
「親しくなっちゃったら、傷つくのが耐えられないなぁ……」
自分が傷つけるよりなら、去ったほうが良いなんめ、そんな自己犠牲じみた考えじゃない。
ーー辛いからだ自分がきっと。
目が覚めてなにも知らなくて、声をかけてくれる人たちがいて、その人たちに裏切られたら、きっと大きな傷になる。昔の自分がまるで予防策のように記憶がなくても、囁いているのかもしれない。あのアスリアの本で、覗いた自分のように。
頭に冷や水をかけられたような気持ちになり、大金をもってびびっていたなんてこととは、別の意味で薄れた。
鞄を強く握る。
ーープラマのもとに変えるまでは、信じてはいけない。人のためにも自分のためにも。
塔から出て、ここまで来て、うまく行っていることが嬉しくて、人との会話も出来て嬉しくて、調子に乗っていた。冷静に、冷静に、カルばぁもいっていたじゃないか、自分は抜けているって。
いつどこで魔女だとばれるかもっと恐れるべきだ。心の熱を冷ますように、息をすって吐いて歩きだした。
私がその人に好感を覚えても、好感度は4割くらいで止めなければならない。4割は知り合い以上友達未満。
嫌われるのはきっと記憶がなくても、社会経験がなかろうとも、きっと辛いことだけはわかる。そして恐れられるのはもっと悲しいことのはずだから。
白亜の石畳をいわれた通り、歩いていくと、大きな通りに出た。中央通りという看板が書いてある。大通りならもう少し店が出ているかと思ったが、もう店じまいをしているのか露点が少ない。夕方にさしかかってきて今日はもう店を閉めた所が多いのだろう。
だが、数店、まだ開いている店がある。
「よし、迷うよりいいし聞いてみよう」
町じたい小道が多く、道が複雑なので、迷子にならないように道があっているか、さらに聞くことにした。足の早い果物を、寝下げている店によりいくつか買うついでに、ロッキンヘム金庫の場所をきこうと思った。
「これを3つ」
「まいど、1つ60レデだから180レデだな、もう店たたむ時間だから1個おまけな」
ーーやった1つおまけ。
足が速い果物は、さっさと、腐るよりおまけしたほうが、店主も悲しい思いをしなくてすむのだろう。
「嬉しい」
小さな桃のような少し硬めの果物を、手に取った。ミモモっていうらしい。ちょっと熟しているのか、値下げしているものは、触れたときに柔らかい気がする。鼻を近づけると、芳醇な甘くて爽やかな香りがした。
実質これがはじめての買い物だ。
硬貨をだして、数えて、お釣りをもらう。
ーーできた!
たったこれだけなのにものすごく嬉しい。見知らぬ場所で買い物ができることの安堵ったらそりゃないだろう。これこそはじめてのお使いならぬ、はじめての買い物だ。内心感極まった。
ーーで、でも目的は違うよねっ。忘れちゃだめだ、いけない。
「場所、ききたい、ロッキンへム金庫、行きたい、道、あってる?」
「おや、まぁ、旅人かい?」
「?、はい」
「どおりで、ロッキンヘム金庫なんて、この街で中央の広場にデカデカとたってるもんだから、外のものじゃないと、わざわざきくものもいないんだよ」
なるほど、それで、旅装もあいまって、 旅人だと察したらしい。それほど、聞くまでもないくらいには、でかくて有名な場所なんだろう。そりゃあ知らないのはここの土地に疎い人だけだろう。
「ここの中央通りが、真っ白い地面になってるだろ、それをそのまま道なりにまっすぐいけば、鐘楼の先がみえるだろう?」
本当だ鐘がみえる。カルばぁは、白亜の石畳を目印にすれば良いと言っていたから、地面を見すぎて歩いていて気がつかなかった。でも、ここまで来れたのも、この道のお陰だ。やっぱりこの通りであっていたようだ。
「感謝」
「いいさ、もうすぐしまるから、急いだほうが良いよ」
このまちの人は、人が良いらしい。 自分も普通の人なら……。いや考えても仕方ないよね。
果物をおまけしてくれた店の人に、手を振って、一口、買った果実を齧りながら、早足で歩きだした。爽やかな酸味と甘味が、口いっぱいに広がり、少し荒んでいた心が、果汁の波に押し流された。こんなに美味しいものを食べられるなんて、頑張って町まできたかいがあったじゃないか。
「熟す前のシャリシャリした桃を甘酸っぱくしたみたい……」
ーーこんなに美味しいもの食べられたんだからいいじゃない。人と仲良くなんて、目標じゃない。ご飯を食べようって死活問題の解決のために来たんだから。
少しの強がりだけれど、これからも魔女として自分が生きている限り、間違いなく、何度も起こりうることなのだろうから。慣れないといけないなーと思う。
「少し残して、プラマさんにも食べさせてあげたいなぁ……」
プラマがあそこに縛られるくらいなら、出ていっても、いいなんて、いったけど。外に出てみて、魔女だとわかっていて、普通に話せるプラマが恋しくなるなんて。しばらく、一人で暮らせそうにないなぁ。他の魔女のように国に所属すれば、友人はできるのかもしれないけれど。でも実験材料にされそうな自分じゃぁ、そんなことをできるわけでもないし。
「プラマさんが1日にして恋しいや……はぁ、とりあえず急ごう」
プラマ恋しさを振り払い、果物をたべきったあとは、夕焼けが迫る町並みを、眺めながら、閉まる前に金庫につくように走った。
お腹も空いていたから、果物を食べて、すこし落ち込んでいた気分も紛れた気がした。
ーー今は、気持ちより先にやるべきことだよね。
十分ほど走ったと思う、その頃には、大きな鐘楼が間近にみえるようになった。
「ついた、たしかに、これは壮観だし、めちゃくちゃ目立つわっ」
きっちりと、引き詰められた白い煉瓦状の石で中央広場は、景観が統一されていた。中央に大きな、鐘楼があり、それを囲むように、噴水がある。
噴水に、海でみたあの鳥が、羽をあらったり水を飲んでいる。それを子供が指差していた。
そんな穏やかな様子とはまた違い、夕暮れの街を日が暮れる前に、足早に荷車を載せた人が行き交っている。今日の仕事を早々に終えるためだろう。
そしてそんな人々を、見守るように立つ鐘楼の奥に、超然とロッキンヘム金庫が佇んでいた。
ロッキンヘム銀行のガラス製の窓には、夕日が光り輝いて、黄昏に染まる町を写しとる絵画のようだった。夕日の眩しさに目を細めて瞬きをすると、噴水で水浴びをしていた数羽の海鳥が飛び立ち、羽根を落とした。飛ぶ鳥が、羽ばたいていく空に、視線をむけて、肉眼でみえなくなるまで佇んだ。
「綺麗……」
たしかに、これは、目立つ。そしてアダシアで有名だといわれるのも頷ける絶景だった。その光景に見惚れてしまったが、いけないいけないと、その余裕を振り払う。ロッキンヘム金庫の手続き可能時間はもうすぐ終わりだ。急ごう。
足早にロッキンヘム金庫の大きな木製の扉の前にたち、開こうとすると勝手に自動ドアのように一人でに開いた。一瞬びくっとなって、中にドアマンでもいるのかと思って見てみたが見つからない。これもまた魔言の産物なのかもしれない。自動ドア?みたいなのはこちらにもあるらしい。
「いらっしゃいませ、どのようなご要件でしょうか」
勝手に開いたドアにあたふたしていると、目の前にいつのまにか、上質な折り目正しい燕尾服のようなものを着た男性が佇んでいた。
「金庫に、お金、預けたい、初めての、利用、お願い、する、ます」
「はじめてのお客さまですね、かしこまりました。開設手数料として2000レデ、1年間分の金庫の管理費用としての前払いとして、3000レデ必要になりますが、よろしいですか?」
「はい」
「かしこまりました、ではご案内させていただきます」
金庫の窓口のフロアの床は木製で、窓口までの道には、金の刺繍がはいった緑色の絨毯がひかれている。人が毎日利用しそうなものだけど、泥汚れすらないようだった。
ーー絨毯だけど、めちゃくちゃ高級そうふわふわ、絶対あの石棺よりは寝れる。
店内の落ち着きがありながらも、頭上の輝く照明や、みたこともない絵など、目移りしてしまいそうだった。案内されるままに、手前から3番目の、窓口にいくと受付の女性に引き継がれた。
「ここが開設手続きの窓口になります、私が担当のものになります。よろしくお願いします」
「よろしく、お願い、します」
「早速ですが、開設者様のお名前を、こちらの書類に記載していただいても。偽名などの身分の詐称がありましたら、当店では開設の手続きに審査が厳しくなる場合があります」
詐称してると見なされた場合などどうなるのか、なんて、質問をしたら、疑われそうだ。そのままルアドという自分の名前を書きたいが、肉体はアスリアのものを再構成したといっていたし。ルアドという新しく自身でつけた名前で通るのだろうか。質の店主の所の誓約書には何の支障もなかったけど。
あれにも名義の詐称を防ぐものは備わっているのかもしれないけれど。
最悪、申請できなかったらお金は、塔に保管すれば良い。やるだけやってみよう。
受付の人の言葉に、戸惑ったが、ルアドルルス・ペールガーと記載する。弾かれたらどうしようかという不安があったが、申請書は受領してそのまま通ったようだ。ほっと胸を撫で下ろす。原理は不明だが、元のアスリアの肉体では完全にないため、別の存在として認識されたのかもしれない。
いまいちわからないけど。
「失礼ですが、ルアド・ルルス・ペールガー様でまちがいありませんか?」
「不備、ある?」
やはりなにか通らない部分があったのだろうか。
「いえ、あまり……その大声で言うことではないのですがルルス・ペールガーは、空白の魔女の……」
あまり名乗りるのは憚られる、意味ある姓なのだろうか。
ーー何をやらかしているのか、私の創造者は。もっとアスリアのこと調べておくんだったよっ。あと焦って、ま、いっか、なんて、そのまま誓約書に書くんじゃなかったっ、い、いいいいい言い訳を。
「昔から、言われる……勘違い、いつも、こまる、けど、名はかえるの大変、でも、地元珍しくない、ルルス、ペールガー、この国発音、かぶるだけ」
ーーう、疑われてない?
「も、申し訳ございません……」
その対応に隣の窓口の先輩だろうかが、聞こえていたのか、頭を下げてきた。
「構わない、いつも、だから、ルアドとしか、普段、名前、言わない」
「ご不快にさせましたでしょうか、指導をいってきかせますので」
「気にしない、大丈夫、慣れてる……それより、手続き、出来る?」
何より、その魔女に創られた創造物のようなものだ。あながち、間違いはない。
ーー本当に有名人の後釜とか辛いぜ。
などと、言えるはずもない。こちらももう少しましな名前をつければよかった。いらぬことでお説教をさせてしまったに違いない。窓口の人申し訳ない。
「は、はい失礼します」
慌てて、奥で先輩らしき人に叱られながら、書類や手続きをすませている様子になんだか、こういうのを見る側もあまり良いものではないなと思った。怒られる部下の人をはたからみる人も、なかなか辛いものがある。
「申し訳ございません、開設費用と、維持手数料と、合わせて5000レデとなります」
バッグ内の紙幣のはいった袋から、5枚出す。
「確認いたしました」
それを確認したのち、木のトレイのようなものにのせて、奥に運んで行った。しばらくしたのち、銀色の金属製のカードの様なものを、彼女は持ってきた。
「これがロッキンヘム金庫の確認証になります。こちらには追跡機能がついておりまして、盗まれた場合は、申請して頂ければ追うことができます」
安全対策だが、魔法追跡機能、つまりG〇Sつきみたいなやつだ。おもったよりカード1枚の機能がすごい。
「通常預けられたお金のなかから維持費は引き落とされますが、口座維持費の引き落としが足りない場合はお知らせが届きます。また、お金を借りられている方の場合は返済期限を大幅にすぎますと催促状としてその機能が発動し、確認証の色が銀から色が薄く赤色に変化します、返金されると色は元に戻るようになっています」
督促状の色が派手に変わる封筒みたいだ。う、なんか記憶にあるような、身体が記憶がないのにものすごく拒否する。
見たくない色だ。
大人になると真っ当に生活できていれば見なくて済むやつであるが。なかなか恐ろしい物にも見えてきた。誰かが脳内で囁く。
ーーだから口座振替にしなさいっててあれほどいってるでしょ!
と、そんな声がした気がしてツキンと頭がい たんだ。
「この確認証を破損させたり、間違って壊れたら追跡できなくなるのでは?」
「いえ追跡することは可能となります。やましいことがあり故意に壊したとなれば、壊した本人に、赤い印がつけられますので。窓口にくるまでは消せませんし、町の境界を跨ぐたびに足はつきますので」
だから、あんなにのんびりと、守衛の騎士が通してくれたわけだ。犯罪者なら、みればわかるような仕組みができているのかもしれない。それにほかにも、見えないだけで、そういう反応する検知器みたいなものがあったりするとか?
「なるほど」
ーー同時にめちゃくちゃやっぱりこれ危なくね?魔女がもってても厄介な気がしてきたけど……どうにかできるのかな。結構面倒な代物な気がしてきた。
「また、口座維持費用が足りていない場合は長期にわたり放置させていると、口座が凍結されてしまい解除手続きと手数料に上乗せした費用が必要になる程度ですみますが、借金等で赤色に変化している方はカード自体が、刻まれた名前の本人様を追跡しますので」
「こわっ!?」
思わず言葉が漏れてしまった。そこまで大きな声ではなかったが、歩く督促状とか、1番恐ろしいものをうみだしてしまったかもしれない。
「その様子は……関係者ながら、その、大変恐ろしいものですので、ご利用は計画的にお願いします。普通にご利用していただいている方はそのようなことはおこりませんので、犯罪に荷担している方の口座や、カードの棄損、借金返済の滞納など、そういったことがなければ、追尾監視機能は発動しないように設計されておりますのでご安心ください」
ご利用は計画的に、肝に銘じよう。そのぶんロッキンヘム金庫の信用性はあがるために、大陸での信用度があがるのかもしれないが。
「き、気をつけます」
「最後にこちらの確認証に指をおいていただいて」
確認証に、人差し指で触れると、確認証に指紋が刻まれた。確認証には自分の名前がほられ、指紋が横にきざまれ、ロッキンヘム銀行の開設番号などが細かく記載されている。裏面には先程いわれた注意事項などが刻まれていた。確認証の再発行手続きなどもどこに問い合わせれば良いか書いている。
「これで開設が完了いたしました。ロッキンヘム金庫をご利用いただきありがとうございます」
「早速で悪い、お金の預けたい」
「かしこまりましたでは、預けるお金をこちらに」
窓口の卓上に350万レデほどの金貨を置く。そこそこの大金なはずだが、先程の名前よりは、全く驚かれなかった。常に金の流れがあるところなのだから、慣れるのかもしれないが。のこり78万レデは十分私にとっては大金だがバッグにいれて、塔に何かあった時に保管しておこうと思う。
ーードラ……ガグゥさんに襲われることだってあるくらいなのだからなにがあってもおかしくないよね。
塔から出られなくなったあの経験が、安心感を無意識に求めているらしい。安心安全こそ偉大なる心の平穏に大事なもの。
それに、このバッグが盗まれたとて、確認証で追跡できそうという点においてはプラスに考えよう。
確認証の機能は怖いけどね!
お金を正しく使っていれば一応味方になる機能だよね……。だよね!
それに借入を行うような生活は家や店を持ったりするならばあるだろうが、なにぶんあの塔の住人である。縁がなさそうだ。
「この金額でお間違いないでしょうか」
「はい」
そうすると、窓口の女性は、103176番と刻まれた大きな黄色いペリカンのような鳥を、つれてきて卓上に立たせる。といえど、やっぱり鹿同様、見た目は所々違うが。ペリカンもどきといっておこう。羽根に金属がついてるし。
ーーけど、鳥をいきなりつれてきて何事なんだろう。
そう思っていたら、その鳥がその大量の金貨を飲み込んだ。
想像を絶する出来事に、大声をあげそうになったが、我慢した自分はとてつもなく偉いのではないのだろうか。
ーー偉いよね偉い!
「鳥が……食べた」
ーー食べたんだが!?
今すぐ足を引っ張って、むんずっと、つかんで振れば、せっかく預けたお金は戻ってくるのだろうか。
ーーそ、そんな……。で、でででも、ここここここれには訳があるはず。金庫だもんね!
「ご安心くださいといわれても、はじめてのかたは驚きますよね、あれは、封袋鳥といいまして、普通の鳥ではなく魔言によりつくられたものになります。つまり生きているような金庫なのです。実際の生命ではないのですが。確認証に連動した鳥が、貨幣をのみこみ、本人が訪れないかぎり、封袋鳥は、口をあけません」
「へー義理堅い鳥だ」
「確認証と連動した鳥は、このレスタリア大陸のロッキンヘム金庫の同じ番号の鳥とすべて連動しており、大陸のロッキンヘム金庫のどの支店でもおろすことができます。また、物の預け入れを、行う方は荷重の重さにより別途有料になりますが、この子が飲み込み預けることも可能です。この支店の銀行が火事や災厄などに見舞われた場合も他支店へと保管がされ、安全に管理することができます」
鳥にお金を丸のみにされたときは生きた心地がしなかったけれど、この鳥が金庫とは。それにロッキンヘム金庫の他支店にいる鳥から連動して預けたいお金を下ろせるならば、鳥がATMの役割をになっている。それだけではなく資産の移動までかねているとは、何も知らないとはいえ、文明の利便性のレベルをなめていたのかもしれない。電子化されたお金が行き交う世界とは別の形で、この世界に資産のあり方は適応しているのかもしれない。
ーーペリカンもどきすごい!
「他にわからないことはございますか?」
「わかる、解説で、した」
「ありがとうございます」
「あと、名前……気にしない、で、いつも、のこと」
「あ……本当に申し訳ありません」
「ただ、きにしない、ほしい」
「開設者様がお優しい方でよかったです」
ぽつりと私にだけ聞こえるような声で窓口の女性は話した。横柄な利用者も、いるのだろう。特に一儲けしているような人間の中には。
「他にご利用したいお手続きはありますでしょうか?」
「これで、終わり、必要な時、くる」
「かしこまりました、では、またのお越しをお待ちしております」
そうしてようやく、お金の問題もだいたい解決し、明日、食材を買い入れれば、本当の目的は達成することが出来る。
後々、稼ぎ口を探すという大きめの問題はあるけど、そもそも自分が魔女であることもあるため、色々と弊害はありそうだなぁと思う。
それでも、たくさんの距離をあるって、言葉も自信が無いなか、翻訳内容を読んで、カタコトで会話していただけとはいえ、ここまで1人でやれただけ、まずは上々だろう。とりあえず自分を褒めることにした。
ーー偉いえらいぞー自分!




