2 質屋と買い取りと名前
「なんだい化け物でもみたような顔をして、失礼だねっ」
声がして、良く良くみると、顔だけがあらわれたように見えたけれど、ちゃんと人がいた。ほっとして胸を撫で下ろした。
ーーはぁおばけかとおもった。死体がうごいてここにいるんだし。そりゃあおばけを怖がるほうがおかしいか!
「すま、ない、暗い、人いた、驚いた」
暗い室内に目がなれてきたのか、ようやく、店の主の顔が見えてきた。加齢により少し痩せて骨張っているが、はだ艶もよく、いかにも食えないと感じる、矍鑠とした老齢の女性だった。白髪の多い髪を、丸く丸めて結わえており、唇には薄く紅をさしている。歳を重ねても身なりはとても気を配っているのだろう。着ているワインレッドの服も、強そうな雰囲気を助長している気がした。
ーー強そうな婆さんだ。いかにも食えないやつという感じで、身ぐるみ剥がされそうな強さバリバリ感じるよ。
「店なんだからそりゃあ当然だろういるのは、なんだい、上からドタバタ、音がしたけど、厄介ごとじゃないだろうね」
キセルのようなものを口に当て、ふぅーと、煙を吐いた。香だけではなく、この臭いも混じっているらしい。ちょっとむせそうになりながら、慌てて追い返されないように話をした。
「違う、店、案内、して、もらった、義勇、組合の、人、身体、大きい」
「あー、あいつかい、それなら納得だ、どうせまたサボってつれていかれたんだろう」
「獣の耳、ついた、女性、つれて、いった」
「全く懲りないねぇあいつも、さて、客なら歓迎だよ、質にでも物をいれにきたのかい、それとも買い取りかい」
「買い、取り、売れないと、困る」
「それにしては、焦った様子もないねぇ、わけありってかんじには見えないが」
「焦りはある、売れないと、飯、宿ない、ただ、だめだったときは野宿するしかない、だけ、旅、野宿なれてる」
ーーいや、慣れてはいないけど!足元をみられたら困るから頑張って冷静に努めているだけだけどね!
「何はともあれ、まぁ、買い叩くことはしないが、売れそうにないなら買えない、そこは理解しておくれ」
「わかった」
「言葉が流暢じゃないね、異国のものかい?」
「そう、マルメリア、から」
「あそこはいつも獣の魔女が、きな臭いから仕方ないね、詮索するつもりはないよ、わけありなんて生きてりゃいくらでも合う、ただ、買い取りの時に書く誓約書の名前くらいは書けないと面倒でね」
たぶんどうにか変換をつかえば書けるだろうとおもうけど。
ーーん?名前?なんか鹿もどき騒動で忘れてるような。
「大丈夫」
「なら良いさ」
鞄の中から物を、大量に出して並べる。その入っていた、中身や量をみて、ニヤリと店主が笑った。
「双子鞄かい、質がよいものだね、それを、売ったらかなりの金になるよ、大量に入るものなんてほとんど出回ってないんだっ」
ーー一目でこれが良さそうなものだと気付くあたり、この婆さん目ざとい!
「こっこれ、だめ、売れる、ない」
やっぱり小さい鞄から量をだせばそりゃあ分かられるか気を付けないと。じろりとみられて、凝視されて、口角をあげられてびびり一瞬、後ろに鞄を隠してしまった。
「とりゃあしないよ、ひひひちょいと今時それくらい入るのは珍しいからね、まぁ旅装だと、ないとこまるだろうし、惜しいね、壊れたときは引き取るよ」
「壊れても?」
「ここは質にいれるものもやっているから、一見がらくたで壊れたものでもなおせば売れる。そういう筋とうまくやれれば、懐に入ってくる。元値は安く売値は高く商売ってそんなもんだろう。それが商売だろう……ふむ、さてと」
店主は、並べた品を、良く良くみると、面白そうな顔をしてこちらと商品を見比べはじめた。宝石類、鉱物類、砂金、薬草など、プラマが見繕ってくれたものだ。それを見た途端に、店主は、なんだか悪巧みでも、思いついたように笑った。
獲物を狙う蛇感がすごいある。
スクロールのようなものに、宝石を置くと含有物が表示される仕組みになっているらしい。それだけじゃなく、直にしっかりと、虫眼鏡のようなもので、観察しているようだった。
「おやおや、こんなに綺麗に研磨された宝飾類なんて首都でもなければそうそうおめにかからんだろう。宝石人から分け与えられたような純度だ、ふむ偽物ってわけでもなさそうだ、輝き重さ、光……」
この世界のどこかに身体に宝石が生えた人たちがいるらしいがそれをヒカリノヒトとよぶのだそうだいつかあえるだろうか。あくまでこの宝石は、そんな貴重なものじゃなく、普通の鉱物を掘り当てたものだとおもうけれど。だよね?アスリア?プラマさん。
でもそれくらい、いいものなら、市場が、そりゃあ大きい金になるほうに流れるよな。大きいマグロだって大手に競り落とされて高値が付くんだろうし。マグロと宝石って比べるものが、ちがう気がするけど。比喩だ比喩。
この宝石も、結構なものらしい。
ーープラマさん、これもじゅーぶん、足が付く部類じゃないのかい?
「宝石と、砂金は、いますぐにでも買えるよ、ただ、薬草と鉱石類は品質は良さそうだが、加工品前だ、それに、鉱石にいたっては、用途があるところにおろしたほうが高値が付くだろう」
「安く、なる?」
「そうだねぇ、しかし品は良い。一見さんで、上客でもないのに、してやる義理もないが。商売の勘はある方だ。私が、1晩預かる。宝飾品と砂金の分の値段から仲介料をひいて、加工して得意先に売ってその儲けを明日渡すこともできるがどうする?」
「なにもわからず、屑鉄のように扱われるよりはいい」
人を信じすぎるのも問題だとは思うけれど、法術器や、他の物の値段をちらちらと横目にみたあとでは、これらの価値は、それなりのものであることはさすがにわかる。それに、あの剛胆そうな義勇組合とかっていう大柄の人が悪いようにも見えない。この人に託してみても良いのかもしれない。だめだったときは、勉強代ということにするしかないけれど。
「頼む」
「きまりだね、さてと宝飾品と砂金の額はそれなりの額になるね」
天秤に物をかけて重さをはったのち、何かこちらの世界のソロバンのようなものだろうか、で、指をなめたあと色つきの石を弾いて数え始めた。
その後、席を立って、店主らしき人は、奥に行き、しばらくしたあと、何かを袋に入れて持ってきた。ドサッとそれなりの音がして、置かれた中には大量の貨幣が入っていた。そしてその中からいくらか、手数料をぬいて計算し確かめているようだった。
ーーそれなりになるとはいったけど、真面目にびびっちゃうよね。おおおおお、多い、多い部類だよねこれっ!
貨幣の量にびびっていると、計算しながら店主は、こう声をかけてきた。
「詮索はしないが、あんた、頭は、それなりには話は通じる程度にあるようだし、ここいらの、相場はみてきたんだろう」
「一応」
「あの大柄の男にあって良かったさね、新参で流れ着いたヤツらはちょろまかして掠めとるやつがいるからね、あたしに当たったのは運が良かったよ、気をつけな」
「見分ける、コツとか」
「……授業料ついでに、金でもとりたいところだが、今回はまけておいてやるよ」
「どうして?」
「商品の品が良かったからさ、上客になるかもしれないだろう、入ってきたときは期待してなかったがねぇ、ずぶの素人っぽくて、ころっと騙されやすそうだが、臆病さが幸いしているんだろう」
ーーこの婆さんエスパーか!?
「……きひひ顔に出ているよ、あたりかい、その出で立ちで旅をするものなら、もう少し、騙されないようにならないといけないねぇ」
なんだか旅人だと装っているのだと、見透かされていそうな感覚がして、この婆さんの言葉一つ一つに、背筋を撫でられているような感覚がしてしまう。
「か、感謝、する」
「さてと、コツといったらなんだが、売り手の情報を聞き出そうとするもの、商品の足を追おうとするものは、ろくなことにならない、その店では売るのはやめたほうが良いね、流すやつがいて追われるってことさ、どうしても売らないといけないといけないときは、一品だけ貴金属を売るんだ、名前入りのやつでもね」
「どうして?」
「その客は金が今ほしくて仕方がない家にあるものを困窮して売ろうとしているやつか、あるいはそんなものとわかれたがっている恋仲の贈り物のようにも見せるんだ、そんな客は実際多い、こんな風に少なくとも高い純度の高い宝飾品や砂金なんて売ったら、餌になるようなもんさ」
「ぐっ……きを、つける」
この人を選んで良かった。あの大柄の娘大好き、おじさんありがとう。確かにこの人じゃなかったら、自分は今頃、良くない縁を結んでいたに違いなかった。
「質であずけて、金をわたすなんて、恨まれやすい商売だがねぇ、こういう仕事ほどきっちりしてないと、余計な所から目を付けられて、商売あがったりになるもんさ……さっきいったようなやつら、裏にてぎたないやつらがいることが多い、だがねぇ、ふぅ……うちは、老い先短いババアの店だ、なにも恨みは増やす理由なんてないだろう?」
「……長く、続けて、くれる、助かる」
「ははは、質屋のババアにそんなこといってくる客なんてなかなかいないよ、まぁ、こんだけいいもんだと、少し隠すのが、骨だがね、そこは長年の腕だ、どうにかしてやるさ」
「感謝」
ーープラマさんは悪くないけど、たぶん金目になりそうなものを心配していろいろと突っ込んでくれたのだろうし。でもやっぱり結構なお値段だったらしいよプラマさん!
外に出られないプラマさんだから、今の品物の原価なんて、そりゃあしらないだろう。それに30年も時間があいていれば、マスターと同期もできていないし、新しいマスターは、しらないんだから、そりゃあこうなる。プラマさんに伝えたら落ち込みそうだけど、とりあえずあとで情報を落ち込まないようにそれとなく伝えておかないと。
「どうにもおぼこいから、どっかの夜逃げしたお偉いさんの家族や子供かと思ったが、なんともそういうものじゃないらしい」
たしかに、こんな金目になりそうなものばっかり持ち込んだらそう思われますよね。なんかそんな気はしていたよ。でも、いろいろ入り用だし仕方ない。でも、どうしてそうじゃないと思ったんだろう。
「なぜ?」
「そんなやつらが質屋のババアに感謝なんてしないだろうからねっ、面白い珍客がきたものだ……まぁ、次からこんな上物をもってくるなら、品を少しずつ持ってくるんだね、金払いが良すぎると足が付いたり、襲われたりするよ、あんた抜けてそうだ」
お偉いさんなんてでかい椅子にふんぞり返ってるイメージあるもんな、たしかに、偉い政治家とか。
ーーでも、抜けてそうは余計だよ!いや、うぅ、ぬけてるかもしれないけど。目覚めて0歳だしっ、とはいえ、店主はいや、そんなの知らんがなだろうけどとほほほ。
「うっ……ぬけてる、たしかに、ある、わかった、きを、つける、でも、どうして、良くする?」
「最初は期待してなかったが、良い品を下ろしてくれる客は、逃すには惜しいだろう?」
店主はニヤリとまた、悪そうに、算段をして、そろばんのようなものを弾き出した。恐ろしいような、頼もしいような、なんとも言えない気分になった。がめついところもあるが、それゆえに金が関われば、信頼できる人なのかもしれない。
「商売なんて基本的に良いものをだせば全部うれるっていうわけじゃない、場を読み、先を読み運を引き寄せる、そうでないと続かないものさ」
確かに恨まれそうなこの商売を、うまくのりこなして波にのってやってこれた人だけはあるのだなぁと思う。この人が言うとなんとなく、貫禄と含蓄がある気がした。
「さてと支払いは、レネリアス内の皇国通貨レデでいいだろ、じゃないと交換してもらわないと大量にはないから時間が必要になる、急ぎなんだろう宿代やら」
「ああレネリアス内のものでいい」
「じゃあこれでどうだい」
赤い城のような絵がかかれたような紙幣が8枚、青い鳥の絵がかかれた紙幣が7枚、その他に、金色の獅子のようなものが描かれた硬貨が42枚ある。
ここでは確か、金色の硬貨は紙幣より高いあつかいらしい。鋳造のコストが高いから、金額がでかいやり取りの時にしか使わないそうだ。ちなみに貨幣単位はレデ。
プラマさんからそりゃあもう、ひたすらこっぴどく足をビリビリされながら覚えさせられた。
金貨、赤紙幣、青紙幣、緑紙幣、銀色硬貨、銅色硬貨が高い順番らしい。紙幣は信号機カラーらしい。
信号機?がなんとなくわからないがそんな単語が浮かんだ。
金貨1枚でだいたい現在10万相当、それに対して赤い紙幣が1万相当、青い鳥の紙幣が千円相当の扱いくらいらしい。緑紙幣は100円、銀色は10円、銅色は1円くらいのものらしい。
もっと厳密な少数以上のレートがあるのかはわからないが、今は計算しにくいので勘弁して欲しい。
それにやはり、通常の生活につかう程度なら、貨幣社会においては、市場流通で売り買いする時、お金は区切り良く、分かりやすい方が良いのだろう。
この世界ではどれほど貨幣流通が一般化されているか分からないけど、少なくとも、単純に考えると、今回の売り上げは428万7000円相当ということになる。
ーーこんな大金もったことない!
内心、めちゃくちゃ心臓が飛び出そうになる金額だったけれど、冷静に考えてみれば、これよりも高いあのガグゥの白や黒の色のついた鱗ってどれくらいだったのだろうとふと思ってしまう。
それに、なにかあってもいいように、蓄えは魔女的にあったほうが良いだろうしなぁなんて思う。これくらいでも魔女には足りないのかもしれない。それこそいつ魔女だーなんていわれて、野良魔女的に、夜逃げするかわからないし。
ーーでも持ち歩くのが正直こここここ怖いな怖いよね。現金輸送車両?襲われちゃうよ。うううう、たぶん前世では全く金に恵まれたような人生じゃなかったんだろうなぁ。このびびりかた。あはは……。はぁ……辛い。昔の私の通帳残高より多そうだよ。
想定より高額な値段がかえってきたことに驚きすぎたり、落ち込んだり忙しかったが、それでも、表情には出さないようつとめた。抜けてるっていわれたし気を付けよう。
でも当面、この金額ならば、今回の食費と宿代、これからの食い扶持を見つけるまでの恐れが少しは減る。この店にそれ程のお金を置いてあったこと自体も驚きだが。客が質にいれたときの、ストック分のお金なのかもしれない。
「加工品の仲介手数料は抜いてある」
「わかった」
財布がわりの小袋を、とりだしてそちらに入れ直す。数えてみるときっちり428万7000円ある。カバンにいれてみたものの、このなかにそんな大金がはいっているとおもえば、大金に少しばかり焦りが出そうだ。
ーー挙動不審になっちゃうよっ。
それにしても、きっちりした計算と、仲介手数料はぬいているあたり、本人は老い先短いなんていっているが、しっかりしていて抜け目がないなぁこのばぁさんっておもったりしてしまう。この抜け目なさ、見習わなければ。
「じゃあ受け取った、ってここに名前をかいとくれ」
誓約書のようなものだろうか。文言を翻訳してみると、つまるところ買い取ったあとのものは、返品したりできません。文句はうけつけません。売ったものなどの情報や顧客の守秘は守ります。盗品うけつけません。盗品だった場合、売った相手の顧客情報を騎士に渡します。などといったものだ。そしてその紙の下に内訳書がついている。
ーーって名前!?そうだよ、自分の名前をつけるのを忘れるやつがいるかよ、いたよここに。
魔飲騒動で、名前を考えるのを忘れていたことに気がついた。塔を出たときには覚えていたのに。ええと、ええと、名前、名前。
ーーあーおもいつかん!
私はアスリアのなんかいろいろで、アスリアのからだで、アスリアの次に生まれたみたいなもんだし、二番目になんか生まれたってことになるのかな。
んー、つまりつまり、二番目、えっと、この国の二番目の数字って、ルアってよんだから。ルア、ルア、ルアド……。二番目の人っていみで、ルアド。ルアド、ルアド・ルルス・ペールガー。
ーー名前ってもっと大事なもんだとおもうんだけど、今はこれでいくしかない。ええい!買い取りの時に名前考えるやつがいるかよ、私だよ!
冷や汗を足らしながら、変換画面に書かれているスペルをそのまま書き写す。そして指のはらにインクをつけて、名前のとなりに押すらしい。
ーールアド・ルルス・ペールガー。適当に名前付けちゃったよ、大丈夫なのか、これ。
不安に思いながら名前を書いて指をおした、その誓約書を見つめていると、魔言でも刻まれているのか、筆記し終わった瞬間、光り輝いてくるくると丸まった。そして丸まったのち複写魔法なのか、同じもののうつしが、あらわれ、私の手元におさまった。
そしてもうひとつの原本を店主が確認した。
「ルルス・ペールガーねぇ……」
「なにか、問題、あった?」
「いや、なんでも、と、これで、やりとりは完了だね」
なんか、誓約書はあれで、通ったらしい。
ーー良かった……誓約書がざるで。いやでも、誓約書がざるでいいのか?
「それはあんたがもっていな、高額の売り買いが会った時10万レデ以上は基本的に記載して、100万レデ以上は誓約書の複写をわたすのがこの国の決まりだからね」
「なるほど……ちなみこれ誓約とか破ると」
「商品を変換するかわりに、そっくりそのまま受け取った金を返さないといけなくなるね、変換しないと利息がついて、騎士に連絡がいっておわれることになるね」
「……返す、いらない」
「ははは青ざめたねっ、商品がいわく付きで、盗品でもなければ、返さなくていいさね、みたところ高いものではあるが、盗品の類いの魔法鑑定に反応はない」
「ぬぬぬぬ、盗んで、ない、私物!」
宝飾品とかはアスリアのものだけど。もとは……。まあでも、自分の身体も、アスリアのものだけど。ってややこしいな。
「ひひひ、なんだそんなに青ざめて、疑ってないさね、そんなことができそうなたまじゃないようにみえるさ、あんたの顔をみてると、ま、じゃ、明日同じくらいの時間に、残りはとりにおいで」
なんだかこの人は信頼できるけれど、頭が一生、上がりそうにないそんな気がした。
「理解、来る、明日」
「そういえば、泊まる宿は決まっているのかい?」
「ない、いまから探す」
「この時期なら、港近くの宿は、埋まっているからね、買い付けにきた商人たちで、中央部から少し離れるが、海鳴亭は古い宿だが清潔感はあるし、飯が上手くて夜間は静かな宿だ。立地が少し離れているぶん宿代も港よりの店よりは安い、旅人にはいいだろう、ここいらの宿は飲んだ連中が夜通し騒いで聞こえてくるから、五月蝿いのさ?」
「良いこと、きいた、助かった」
疲れてぐっすり眠りたい、喧騒から離れたい今の自分にとっては、良い場所だ。食事も美味いらしい。近場の宿の相場などとも比べたら、求める宿と合致する。大金を手に入れたとて、これを散財するような気はさらさらない。それに数百万は大金だけど、暮らしていれば、それなりの速度で削れていく額だろうから大事にしないと。紹介された海鳴亭の価格は、手ごろなものらしいし、助かった。
今晩はそこに、とまることにしよう。
「ついで、きいて、いいか?」
「ここまできたらまけといてやるよ」
「……大金、怖い、あずけたい」
「ハハハハっ、こんな大金になるものを売りにきたのに、小心だねぇ」
めちゃくちゃ大爆笑されたけれど、だって、ぜったい盗まれたら目も当てられないじゃないか。
本来このカバンがもうひとつの鞄に繋がっていれば、並の金庫でもあけられないような安全な場所に繋がっているのだけど、生憎、プラマいわく腐海とかしているらしいので希望薄だ。それならば、自分でもっているか、他者に預ける施設があるならばそれを利用するしかない。
「ロッキンヘム金庫が大広場にある」
現出させて、調べると大陸有数の、銀行、兼金庫を誇る金融機関らしい。
「今回はうちに金貨があったが、毎回こうはいかないだろう。高額になるとウチが引き出すぶんには本人と店と、ロッキンヘム金庫とのやりとりになる」
「わかった、はじめてアダシア、場所、ききたい」
「大広場、アダシアの港町で有名な美しい鐘楼がある、そこを目印にするといい、一等地に構えているから目立つよ、白亜の石畳を追うと良いさね」
「いろいろ、感謝、名前、きいて、いいか?」
「質屋のババアの名前なんてききたいなんて、おかしなやつだね、まぁ、いいか、カル・タンツ、カルばぁってよばれてるよ」
「カルばぁ、明日、とりにくる」
「あいよ、準備しとくよ」
がめついが、気の良さそうな、カルばぁに、明日の仲介してもらった物の、売り上げの受け取りを約束をして、扉を出た。
「大層な名前のわりには、珍しく気が抜ける子だったね……こういう客もたまにはいいか」
大金でびびり散らかしている私もとい、あらためルアドには、面白がるカルばぁの声だけが扉を閉めるときに微かに聞こえたのだった。
その面白がられている本人は、鞄に入れた大金で、挙動不審になりそうになりながら、努めて平静さを保とうとして階段で転けていたので、まったく耳にはいっていなかったけれど。
そもそも、大金で前後不覚になっているけれど、名前って、ノリで焦ってこんなに決めちゃいけなかっただろうって、後で気付くのだった。




