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いつか魔女が眠るまで~ゴーストクリエイター魔女になる~  作者: 穂波祈弦
2章 アダシア編~恋とはもっとも独りよがりな自家撞着に陥る酩酊~
18/28

1 港町アダシア

 

ーーなんでー!!


 皆様お覚えでしょうか。そうです、私、塔を脱出できたんです。そうできたんですが、なんとドラゴンから逃れられたと思ったら今度は、でかい黒々したなんか、ヤバげなものがこっちに向かってきています。


 ーーわーでっかい鹿!


 「いや、わー、じゃなくてでかすぎだろ!」


 自分の背丈の3倍は、あるだろう鹿っぽい生き物をみて、思わず自分で自分に突っ込んでしまった。いやそもそも、突っ込んでいる場合じゃないのだけど。ここを出る前に襲ってきたガグゥさんみたいに、とろーんとした赤い目をして、こっちにくるんだけど。


 ーーなんであれこっちに向かってくるの!?何モンスター的なのにすかれる体質なのか、私はっ!?


 「こういう好かれかたはまったくいらない!」


 慌てて外にでられた余韻に浸るまもなく、走りはじめた。どうやら、命がけの逃走劇を繰り広げないといけないようだ。

 一難さってならぬ、ガグゥさってまた鹿難。

 いらぬ意味で、もてもてである。


 「なんでぇ~~!?」


 せっかく塔の外に出られて、灯台の外観から美しい外の様子を楽しもうとしていたところに、鹿に襲われるとは。

 息がきれやすい身体だったらとっくにお陀仏だった。あの角に突き上げられて、宙に浮いていたか、あるいは突き刺されて串刺しになっていたか。

 そんな想像をしてぶるりと、身体が震えた。

 いやいや、そうならないためにも、とにかく、走るっ、走るしかないっ。陸上選手走りがごとく走る。


 正直、なんかこっちに向かってくるし本能から逃げたほうが良いと思って逃げ出したけどあれなんだろう。少し後ろを向いてちらりと、見てみた。遠目からみて、真っ黒い鹿っぽい何かっていうことしか確認できない。

 そもそも鹿だとしたら鹿の速度って、人間より絶対はやいよね。はやいよね絶対。大事なことなので。

 それに土煙あげてるんだけどっ、どれだけ速いんだよ。


 ーーって明らかに距離が縮まってきているよー!! 


「ぜぇぜぇ……なんで、私めがけてくるんだよこんちくしょう……」


ーー脇腹いたくならないのだけ助かる。一回死んでるからかな?


 いやでも、今度どつかれて死んで転がったら魔女ってどうなるんだろ。なんかただたんに、死にそうにはない気がするけど。 いやーでも、痛いことは痛いのだから、痛覚がある以上ましなことにはならないとは思う。


 少なくとも目覚めたときには、爪で頬切った時痛かったし。痛いのは嫌いだ。これは記憶がなかろうときっと共通なはず。いや、痛いのが好きな人っているの?痛いのをお好みになるマゾヒストのお方でもないとだいたい嫌いでしょう。


「痛いの嫌だから逃げるしかない!」


 ぬおおおおおおおお、振り返らなくても、なんか禍々しい気配感じる。ちらりとまたみると、やっぱりさっきよりすごく近づいていた。というよりもう、はっきり見える距離にいる。なんか空間が歪んでいるように感じるほど漆黒だし、真っ昼間なのに鹿のまわりだけ、夜がきたみたいだよ。なんかやばいやつだってことは理解できても、どうにもできない。キュウウウウウと、なんか甲高い声を上げて、漆黒の角でこちらをドスンッと、鹿もどきが突いてきやがるきまんまんじゃないですかっ。


ーー追い付かれるー!?


 でかい角がこちらを串刺しにしようと向かってくる。

 あわてて命からがら、横に飛んだ。


 「とおおおおおおっうぉっとぉぉ」


 ゴロゴロ転がり、痛みと恐怖動けなくなりそうになったけど、脳裏に、ガグゥの爪が迫ったときのことがよぎった。必ず、次の一撃がくるはずだ。それをみはからい、怖いけれど目を開いて、本能的に避けるためにまた転がった。


 「ぐぅううううっ、小石ぃ刺さるぅ」 


 転がっていくうちに、林のような場所に差し掛かる。あそこに隠れられたらよかったが、そんな暇はない。それに、隠れられるのを、睨んでか、三回目の攻撃は向こうも逃がさないと、こちらの旅装の裾を、きっちり足で踏みつけ押さえつけてきた。役者でもないのではや着替えなんて当然無理なので、脱ぐことも出来ない。


 ーーなんだこの鹿賢いっ!じゃなくてヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。


 「鹿にころされるうううううう!!」


 次に訪れる痛みを想像し、咄嗟に閃光を放とうとしたその時、凛とした声が聞こえた。


 「魔を飲み込んだ憐れな命よ、逝ねっ!」


 何かをしゃべっていたのかわからないが、とにかく、いきなり、金色の光が突如として現れて、あの黒い鹿をぶったぎった。速すぎてわからなかったが、多分、金色の刃のようなものが飛んできて、鹿らしきものをどうにかしたのだとおもう。 


 何が何やら。


 呆然としていると、足元に転がっていたあの黒い鹿のような生き物が、姿をかえた。あれほど全身黒かったというのに、真っ白い表皮へ変わっている。何が起きたのだろう。余裕が出来て、よくよく見てみると、茶色い角、細長い尾、自分の知る鹿に良く似てはいるが、異なる生き物だ。


「どうなってるんだろ」


 光に切られた生き物は、息も絶え絶えに、苦しげにハクハクッと、息をしている。腹から血を流して、苦しそうだ。生々しいやりとりに、結構脳みそにやきつきそうだったが、とりあえず助かったことに安堵すべきだろう。まだまだ、またぎの精神は芽生えそうにない。

 次第に弱まっていく鹿のような生き物をみて、自分がやったわけではないとはいえ、目を閉じさせてあげた。南無阿弥陀仏アーメンその他もろもろ。

 ようやく震えている足のまま、立ち上がって、土をほろったころ、数人の足音が聞こえた。


 人がきている。


 会話になったらまずいバレないように、変換の魔法をかけておこう。


 「変換」

 

 ボソッというと、先ほど聞こえていた言葉が、わかるようになった。


「ここだな、手触りはあったが、仕留めたか?」

「おっす、遠見でも、みえたっすよ命中したのが」

「な、なんか、たたたたた隊長、さっき人影がみえたような気がしたんですけどっ」

「市民を巻き込んだとあっては、大変なことだ、確かに魔飲のものだけしとめたきがしたが」

「いいいい、いってみますねっ」


 やっぱりこちらにくる、見つかった以上隠れるのは不自然だとは思う。こちらから、出向こう。言葉はわかっても、しゃべるのは、片言しか単語を話すことしかできない。発音も流暢ではないのだろけれど。いずれは話さないと会話はできないし、仕方がない。

 草を掻き分けて、出ていくと、おっかなびっくりしたような態度の少女と目があった。少年のようにもみえるが、喉仏は小さいし、肩幅も狭い、やっぱり女の子だろう。


「あ、あの、すみません、大丈夫でしたか!?」

「大丈夫」

「お怪我は!?」

「ない、あ、自分、言葉、下手、きく、心地悪いごめん、する」

「か、かまいませんっ」


 いま話している言葉はモナネスキア語だ。レネリアス大陸を納める覇権統治国家、ノウンベルト皇国は、モナネスキア語という言葉を用いると、プラマさんと勉強した。

 モナネスキア語には謙譲語とか、敬語とかというものはなく、どちらかというと英語とかに近い、ポライトネス、つまり場にあった単語や言い回しを使う言語らしい。

 自分からすると変換によって、自己言語に変換されているため、あまりその感覚が伝わらないのだけれど。そのお陰で助かっているからオッケーだよね、と思っている。正直、はいといいえの単語と数字しか、変換だよりで覚えてないけど。言語学や語学の先生がいたらきっとあまりに、雑すぎて涙目だろうなきっと。


 ーーよーし、でも、会話は度胸、第一村人との会話挑戦するぞ。


 相手に見えない変換画面ではあるが、チラチラとみたら怪しまれるだろう。バレないように、気を付けながら、見易い位置に変換画面を配置する。話してる内容が聞こえたとしても、発話はやはりまだまだ課題だ。自国の音の発音で、並列表記してもらって、それを、そのままのべる。

 なんか正直ややこしくて最初は???と頭上に浮かべていたがやってみるとわかりやすい。視覚化するとこうだ。

 おはようといいたいと念じると、おはよう(カウナン)と表記されるような感じである。スペリングがほしいときは、また、別の調べ方で変換しないといけないみたいだけれど、会話ならこれで十分だし、これが今は精一杯だ。

 向こうは、切れ切れの単語のように聞こえるだろうが、意味はわかる程度には通じるらしい。もちろん塔にいる間に、プラマと試してみてある。

 変換する前の言葉は全く今はまだ聞きとれないので、もちろんここからも、自分が理解できる言語でお送りいたしまする。


「あ、れっ、れれれれれっレネリアス大陸はモナネスキア語が公用語なんですが、そそそそそそっとからきたかたでしょうかっ」


 ずいぶん、この子は緊張しいな子らしい。前髪で目がみえにくいし、髪も少し短めだし、これも合間って男の子っぽくみえたのだろう。せっかく茶色のくせ毛からのぞくころころした丸い瞳は可愛らしいのにもったいない。などとおもってる場合じゃなかった。


「旅、人、交易品、見に」


プラマとある程度設定は合わせた。港町アダシアは、国際交流の盛んな港町らしい。それで、そこにはそれなりに珍しい品物が、並ぶとのこと。魚介はもちろん、外国からの香辛料や、珍しい宝石や布や壺などもある。アダシアはそういう、交流地点の町の一つらしい。そのため、船や陸路から、買い付けにきた商人や、その品に興味がある好事家や、旅人がくる。商人ならば、いろいろと足がつくと悪いし、ここでは旅人ということにした。近隣のものや、モナネスキア語が公用語の国から来たと言えば、怪しまれるためだ。流暢じゃない近隣のものなんていかにも怪しい。


「遠国、角族多い、マルメシアから移民の船、つく、きた、災厄、うけいれの時、けど、移民じゃない、同じ船、旅、乗り物、安く、費用、減る」


そのため、この見た目もあって、角族という、獣人族の一種に扮することにした。レネリアス大陸には多種族いるが、それでも、国ごとに種族の偏りがある。そのほうが生活的に便利なのだろう。水で暮らしやすいものは水に、木の上で暮らしやすいものは木の上にという感じだ。それゆえ自然と、集まる種族も特色が出やすいらしい。マルメシアという国は、レネリアスより離れた、温暖な島国で獣の種族が多い国だ。ただ、災厄で、何度か島の国土が汚染され、移民せざる追えないものが、レネリアスに流れ込むことが多いらしい。マルメシアはこの大陸で、大きな国のノウンベルトの同盟国なため、受け入れざるを得ないのだという。この世界もお国事情は、色々ありそうだなぁと思った。


「い、い移民船にのって、運賃を、やすくしてきたということであってますか?」

「あって、る」


 プラマさんが持たされてくれた偽法術器の時秤を見せた。懐中時計ならぬ、時秤の蓋刻まれてる紋様は、流術士の資格を示す、木の紋様らしい。これは法術器としては偽物だが、この紋様じたいは本物だとプラマさんが言っていた。出歩く時に、魔女バレすると、めんどくさいから、「とっちゃった」とかなんとか、アスリアが言ってたらしい。


「ほう偽物も多いが本物のつくりだな、世界流術士教会の木の紋様だ、なかなかに珍しい、紋様についてる実が四つとは優秀な流術士どのだな、国際派遣士の資格じたい難しいときくが」


ーー世界流術士協会とか、優秀とかあるの!?辞書さん助けて!


『世界流術士協会、世界中の流術士が、国籍関係なく加入できる組織である。資格証明、知識の交流の場の提供、仕事中の事故による死亡による遺族年金の保障、戦争への介入の抑止運動、災害時の国同士の流術士派遣の援助や仲介も行っている、活動は多岐に渡る』


『国際派遣士は、協会のもうけた試験を突破した、国外でも自由に動ける優秀な流術士のこと(なお他国の戦争への介入は禁じられている)、基本的には流術士は学んだ学舎の国の流術士となるが、国際派遣士は世界をまたいで支援・援助を行うエキスパートとして活躍できる、流力を吸い土地を潤すアグサクネと呼ばれる木の紋様がその証である。国際派遣士には五等級まであり、行える任務が違う、紋様についている実の数により等級は判断できる』


 ーーなんか知らない単語が、なんかそんなのあるのか!?いや、チラッとみたけど、なんかそんなのやっぱり、あるらしいよ。あるんかい!? わからないけど、とりあえず、ばばばばばばばばばバレないようにしないと。


 私とちがったアスリアの頭の良さが裏目にでた。やっぱり「とっちゃった」とかいって、とれる代物じゃなさそうじゃん!


ーーほどよい目立たない感じでいいんだよ!!


「は、はじめてみました」

「ノルク、いい勉強になるちゃんとみさせてもらっておけ」

「は、はい」


 ノルクという先ほどから、おどおどした少女に声をかけたのは、美しいプラチナブロンドをポニーテールに結わえた女性だった。慎重は高いし、目鼻立ちがとても整っていてもモデルさんのようだ。世が世ならそういう仕事についていたかもしれない。声からするに、あの光を放った一撃を放ったのはこの人でありそうなので、まったく、華奢ではないのだろうが。勇ましく凛とした声なのに、顔は美人という。なんか天は二物を与えまくるものじゃないかやっぱり。アスリアしかり。

 よくよくみると、二人とも鎧のようなものを身に付けている。

 騎士なのだろうか? 

 騎士ってなんか魔女バレしたらまずそうな人たちの香りが、ぷんぷんする。


ーーごごごごごごごごまかさないとっ、自然に自然に、やっぱむずいよっプラマさん助けてー!!


「身分証として流術士がそれを持てば、困らないものときく、旅人ならば便利な代物だろうな、だがそのような優秀な人がこの時期に……」


なんか少しじろじろ見られてる。美人に見られると怖い。なんか疑われているのだろうか。


「隊長ー疑り深くなる仕事とはいえ、魔飲に襲われてた人を前に、尋問みたいなことはまずいっすよー」


「いや、すまない、確かにそうだな、つい仕事柄だ、危ないところだったな、怖かっただろうに、優秀な流術士といえど、魔言を唱える間もなく、魔飲に差し迫られれば一溜りもない」


あの黒い鹿もとい白かったやつは、魔飲(まいん)というのか。なんか本で見たような。後で調べ直そう。とにかくあの真っ黒なやつはそう呼ぶらしい。


「危なかったっすねー、魔飲の確認情報きいて、きてみたら、案の定っすよ、なんでこんなところに」

「交易品、目当て、ついで古い、灯台、見る、きた、絵になる、アダシアの町、一望、はじめてきた、ので、景色、見たい、かった」

「ああ、それでここは眺めがいいっすから、メェクルも時折休憩場所にするんっすけど、まったく運が悪かったっすねー」


 メェクルなんだろうそれは、なんか乗り物の名前っぽい。はーさっきから、知らない単語がバカスかでてくるけど、プラマさん、結構自分あれくらいじゃ、知識不足かもしれないよ~。いやでも、言葉あんまり、知らず外国いったらこんなもんかも。とにかく必要そうなのはあとでメモして暗記しないと。


「た、たいへん、でしたね」

「あなた、たち、は?」

「これは失礼、私たちはアダシアの町の駐在騎兵隊所属の騎士、皇王様から命令をうけた、警邏のようなものだ」

「ま、皇王さまの命令っていっても、俺らは、末端の皇国のぺーぺーみたいなもんすから、伝聞と命令の紙しかしらないっすけどね、着任したときは遠くからみるから豆粒みたいで」


豆粒っていっていいのか、王様を。


「そ、それでも、真面目にお仕事大事ですよっロンダルさんっ」


 このあくびをしてる、やる気無さそうな二日酔いの不精髭の男は、ロンダルというらしい。騎士とかいうには、お堅そうなイメージがあるが、まったくそんな様子がないのが、なんともまぁ気が抜けそうだった……。二日酔いで、微妙に剃り残したような髭を、ぽりぽりとかきながら、ものっすごいやる気が無さそうだ。暇な田舎の、駐在騎士ならこんなもんなんだろうか。港町となれば、麻薬とか違法なものとか来てないかとか確認するの、忙しいような気もするけど。


「ノルクちゃんは真面目だねー、オッサンからすると、今回みたいなのは困るし、平和で暇なほうが皇王陛下もいいでしょっておもうけど、ふぁ~」

「ロンダル、ノルクのいうとおりだ、真面目に業務をこなせ、しかし、平和であることが民には一番だろうがな」

「あー二人ともお堅いお堅いおじちゃんには、まぶしすぎるぜぃ、とりあえず隊長、俺はあの死骸持って帰らないと国に報告できないんで、あれどうにかしますね、帰ってしゅわっとしたやつをこうグビッときめたいんで」

「そうだったなっはじめててくれ」

「了解っすー」


 お堅そうにみえるが、部下への注意もしつつも、結構柔軟にみえるなこの隊長って人は。歳は若そうだが、慕われていそうな人だった。それに、だらしなさそうにみえて、ロンダルって人も、隊長より歳上にみえるが、ある程度機転を効かせて下にでて、年の功なのか、場を回すタイプのようにもみえる。これがうまくまわって、生真面目な隊長たちを支えているのかもしれない。


「あ、あのっ、あの、ロンダルさん私も手伝いますっ」


 そして生真面目なノルクという少女はてきぱきと仕事をする、諌め役と息抜き役ところころと動く部下、理想的なのかもしれない。身長が低いからか、騎士の鎧に着られている感があり、なんだか可愛らしい。それでも騎士なので強いのだろうが。


「ああノルクもいってくれ」

「旅人よ、引き留め悪かったな、今日はアダシアに滞在するのか、魔飲に攻撃されたなら、瘴気をあびる場合もあるだろう、どこか不調なところや怪我は」


瘴気?


なんか鹿もどきの、あの禍々しい気配のやつかな。ぎりぎりあれに触られるのは回避できたのはあんたさんのおかげですよ隊長さん、と心のなかで呟いた。


「いま、ない」

「そうか、流術士ならば普通のものよりは流力の耐性は高いかもしれないが、もし調子が悪かったら、アダシアの騎士の詰め所にきてくれ、性格は難はあるが治療の腕はこれぞってやつがいるんだ」

「理解、おぼえる、必要、ある、時、利用」

「ああそうしてくれ、アダシアは良い町だ、夜は飲み屋街を離れれば波の音しか聞こえない静かなところだ、飯も上手い、良い滞在先になるだろう」

「楽しみ、料理、あと、感謝、魔飲から、助け」

「これが我々の仕事だ、魔女という恐るべき災いの種を残す害悪から守るのが、我々騎士の役目だからな」


 当然の仕事だといったようないいぶりだが、一瞬魔女という単語を言った瞬間、恐ろしいほどの冷たい感情が滲み出ているような気がした。こういうのを殺気というのかもしれない。


 ーー良く創作とかで、殺気を感じる!とかいう表現あったけど、感じ取れるのかそんなの?とおもっていたけど、こっこういうものなのかもっ。怖い怖い怖いよーっ。


 笑顔なのに、ものすごい背筋が凍るような感覚がしたのは気のせいだろうか。この身体になってそういうものに敏感になっているのかも。

 この人になんとなく魔女だとバレては絶対にいけないような気がした。動揺を見せないように、頷く。


 「騎士さん、仕事、頑張る、応援」 


 決して恐れを出さないように、職務を応援する素振りみせる。


 「ああ、ありがとう、必要なら他の見回りの騎士が戻ってきたら、町まで送らせようか、少し遠い ぞ」

 「いい、心、落ちつく、ため、歩く」

 「ああそうか、もうここいらは見回って魔飲もいないし、安全だろうしな、心配せず街道を使ってくれ、では、職務に戻らせてもらう」

 「感謝」


 慌てる素振り見せず、ゆっくりと手をふって、そのあと歩き出した。決して怪しまれないように。疚しいことが、ないように見えるように。周囲に、気を張りながら。しばらく歩いて、姿がみえなくなったあたりで、静かにため息をついた。

 第一村人発見なんて、いってる場合じゃない出会いだった。魔飲とかいう鹿もどきに襲われるし、であったのが、よりによってなんか、取り締まりとか行ってそうな騎士さんだし。いやこの世界の騎士ってのが、自分の知る騎士さまと同じなのかわからないけど。治安機構は、集団が存在する以上発生するものだよね。警察官さんとかみたいに。でも、なに、そうはいっても、光の刃とかなんか放てるのがこの世界の騎士のデフォルトなの?怖すぎる。戦闘民族なのだろうか。魔法なんてあるくらいだけど。いやそもそも、一発目で塔を出て、騎士やら魔飲やらあうとか、もう、なんかもちすぎでしょ。


 ーー騎士さんに、目をつけられたらまずいのなにものでもないよねっ。魔女とかバレたら一発アウトな雰囲気ばしばしあったし、騎士の隊長っぽい人のやつ。ほーんとっいろいろ、心臓とまるかとおもったあああっ。止まってるけど一回!


 「……本当買い物するだけで死にそうだよプラマぁ助けてプラマ」


 もうおっちんじまってるでやがりますっ、これくらいやりやがれですっ、て言われてるような、幻聴が聞こえた気がした。とほほ。


 「前途多難だよ~!」


 しばらく、騎士さんの眼光とか、ガグゥとか魔飲とか夢にできそう。そういえば、魔飲ってなんなんだろ。これは調べといたほうが良いよね。あんな体験したらそりゃあね。


「現出」


 魔飲の知識を辞書の知識から検索して、歩きながら見てみる。


『瘴気、流力の一定濃度が越えたものをいう、流力が滞留して一定以上の濃度になると可視化できるようになり、その中に長時間いると生物の肉体に害をもたらす、また自然や生態系にも変化をもたらす』


『魔女の瘴気、あるいは流力の濃い瘴気だまりに足を踏み入れてしまい、変質した生き物、変異したものの総称、瘴気に通常触れつづけると、毒となり生き物は死ぬことが多いが、まれに魔飲として蘇り、周囲に害をなす、それそのものが瘴気を放つようになり暴れ回る』

「なるほどだからあの生き物は、黒くなって、襲ってきたのか……はぁ、ドラ、ガグゥさんも、あれだし、魔飲までいるし、この世界生きるの大変かよ……気を引きしめなければっ」


 ますます、買い物ができたら、魔法の練習をしなければ、と思う気が強くなった。正直、小説とか漫画とかってやつの知識でなんとなくおぼえがあるけど、バトルとか別にそんな無理だよ、と思っていた。でも、あんなのが日常だったら、そりゃぁ、どうにかできるようになんか生き物って対処するしかないよな、なんておもう。


 「はぁ……くわばらくわばら」


 この世界大変そうだななんて先を想像して不安になったが今はそうもいっていられない。お腹はすくのだから。

 そこからしばらく歩くと小高い丘から、海がみえた。記憶とは違うが、見慣れない海鳥のような生き物がいる。青い羽と白い体毛、黄色い鋭い嘴、大きさはカラス?くらいだろうか。キャンキャンと犬のように鳴く鳥のような生き物らしい。その声をききながら、海風をあびていると、騎士との邂逅、魔飲のこと、魔女バレの不安いろいろと、少し気持ちが凪いでいった。


 「海っていってたから、こんなのを想像してたんだよ」


 と呟く。ほら、海はまともだったし、全部が全部ヤバい世界じゃないかもしれないじゃないか。そんなに臆病風をふかせてきたら、買い物なんて出来そうにないので、とりあえず、今は歩いて町につくのを目標にしよう。それがいい。一歩一歩だ。

 それに、怖い騎士さんたちとはいえ、話が一応は通じた。プラマさんに付き合ってもらい、試して練習したとはいえ、めちゃくちゃ不安だった。騎士さんたちが、汲み取ってくれたとはいえ、かなりの進歩だ。これなら買い物も可能かもしれない。自信がついてきた。でも、しばらく騎士さんがたが、灯台のあたりを巡回するとなると、要心して塔に戻らないと。

 でも、いまのところは、どうにかなってる。本当は目覚めてなんにもわからないし、知り合いもいないし、プラマさんはお外にでるのは難しいし、心細かった。自信がなかった。でも、うん、これなら、どうにか買い物をして確保できるかもしれない。少しの自信が芽生える。


「頑張ろう……!」


さっきの魔飲を思い出して、ちょっと不安になったけど、もう出ないっていうし。


ーー騎士さんたち!信じるからね!もうあんなの出ないってー!!


 ビビリなので、びくびくしながら、しばらく歩いていたら、街道の分かれ道に来た。看板が立ててある。文字を変換すると、左向きの看板がアダシア、もう一方の分かれ道のほうを向いてる看板には乗り合い所とメェクル乗り合い所と書いてある。あと見慣れない距離の単位だろうかと、数字がその下に記載してあった。これ何キロくらいなんだろう。それに……。


 「メェクルってなんだろ」


 そういえば、騎士さんたちも言ってたなと思いながら、またしばらく歩き続けた。

 メェクルを調べれば良いのだろうが、まぁ落ち着いてからでいいかと思ったりもして保留した。ネットで絶対忘れて調べられないパターンなきがするがあうべきはあうはず。

 交通量がそこそこあるのか、土がならしてあって、小さな街灯のようなものが時折整備されている。中に石のようなものがみえるけど、これが夜になれば光ったりするのかな。見てみたいな。

 そんなことを考えられていたのは、束の間のことで、下に町が確かにみえるのに、距離が縮まらない


ーーあ、あの看板に何キロってかいてあったんだろう。


 結構歩いた気がする。疲れてきた。この服のお陰で汗は、かいていないが疲労は溜まる。


ーー騎士さんたちにお言葉に甘えればよかったかなぁ……。い、いやいやいやいや。魔女バレのほうがヤバイ。


 一時の苦より、魔女生の苦しみを回避するべきだ。それにそのためにアスリアも、そこそこ町から遠い場所に塔を置いたのだろうし。


「うんうん頑張ろう頑張れ自分」


 記憶ないけど、前の人生で絶対こんな歩いたことないよ絶対……。疲れて座り込みそうになったが、とにかく町に今日中について、宿をみつけないと、野宿確定になる。


 ーー足を動かせばいつかたどり着くはず!


 そうして向こうの世界でいう午後の3時ごろに、ようやく、でかい門の前についた。大きな壁と、開け放たれた門を、立ち止まり、見上げるようにして眺める。石造りの壁のようにもみえるが、なんだか光りに当たると少しばかりテカテカと光り輝いているので、なんだか特別な鉱石のようなものなのだろうか。

 騎士も在中している町なのに、こんなに大きな壁と、門があるのはやはり、あのさっきの魔飲などがいるからなのかもしれない。


「でかい」


塔から目覚めて出られなかった反動もあったのか、海や、大きな建物一つ一つに、ただただ、感動してしまう。感嘆してぼけーっと口を開けて、眺めていると、後ろから声をかけられた。


「どいてどいて、すまないが、そこの角族の人危ないよっ」

「うぉっ」

「魔飲が片付くまで通行止めだったんだ、急ぎたいんでね」

「悪い」


 何がなんだかわからないけど、大きな影がみえたので、咄嗟にその影から出るように避けた。振り替えると、そこにいたのは、これまたでっかい羊のような生き物だった。大きさは町の壁よりは小さいが、自分の数十倍は大きいのではないだろうか。もこもこの白い毛をまとって、その中から愛らしいつぶらな赤い瞳がのぞく。大きな、ウサギのような長い耳が横から垂れ下がっていた。ウサギと羊のハイブリット感……。

 最初はもこもこから声がしたが、良くみてみれば、羊の奥に手綱を引いているおじさんがいた。御者なのだろう。無毛種、記憶でみたことのある普通の人間のおじさんって感じの人だ。


 「あんがとよ」

 「メゥ、メェグゥ~~」


 もこもこ毛玉ちゃん、もといメェクルは進んでいいかと、主に催促の鳴き声をあげたようだった。それをきいて、主は手綱を強く引いたようだった。


「おう、もう、すすんでいいぞーメェクル、悪いね角族の人」

「こちらも、すま、ない」

  

 こいつがメェクルか、と呆気にとられながら、でかい毛玉のようなメェクルが通るのを、しばらく眺めつづけてしまう。もさ、もふ、もさ、もふ、と通るたびに、毛が揺れるので、飛び付きたい気持ちにかられた。とても、魅力的な体毛だったが、もちろん心のなかで耐えに耐えてこらえた。

 そして、その後ろにメェクルがひいているのは、エンジンがないバスのような、乗り物だった。これが、メェクル乗り合い所の、乗り物の正体だったらしい。中に何人も人影がみえる。


ーーお金ができたら、一度絶対に乗る。


 そう心に誓った。


「すごいもふもふだった……毛がりしたら、どれほどの量になるんだろう」


 結構短絡的な自分が助かった。あの鹿もどきに襲われた恐怖は、いまやあの歩く巨大なもふもふに意識をとらわれてしまい、抜けおちていた。

 のそのそと歩くたびに、地響きでも起きそうだが、メェクルは、軽やかに歩いていった。

 過ぎ去るメェクルをみながら、そのあとを追うように、町のなかに入った。


「塔の中も怖かったけど、外も怖いけど、でも、すごいものばっかりだ」


 不安と、好奇心とは表裏一体のものなのかもしれない。未知は既知にいつかは変わると信じよう。こういう生き物だっているんだから悪くないだろう。


 「ふぅ、よし、ここでたむろしてても意味ないな」


 門の前に、騎士がいたが、身分証など必要かと思ったが普通に通れた。国境とかでもないかぎり、案外ざるなものなのだろうか。よほど変な動きをしていたらそりゃあ止めるのだろうけれど、街の往来を全て、確認するほどのものでもないのかもしれない。むしろ港のほうが警戒度が高かったりして。


ーーいやそんなことは後だあとっ。


 足はもうくたくたで張っているし、足の裏もいたい。でも、感慨はひとしおだった。

 心のなかで門を潜り抜けるときは、町への一歩を大きく踏み出す。

 感動しながら、跨いだ。


 「到着」


 だってここに、このアダシアの町にくるために、一月無理やりプラマさんに、ビリビリされながら、耐え抜いたのだから。まだ大事な買い物があるけれど、それでも、嬉しいものは嬉しいのだ。少し口元がにんまりしてしまう。小躍りするくらいの心のなかでは気持ちだったけれど、不振がられないように落ち着きをはらうよう努めた。


ーーでもうれしいもんは嬉しいもんね!ついたー!


 町の中は石畳のようになっていて、赤い煉瓦のようなものが、しきつめられていた。その上を、感慨ひとしおに、ひとつひとつ踏みしめて歩く。


「お家も、赤い瓦みたいなのが屋根にのってるし、壁は石灰みたいに白いなー」


 港町だから、夜でも目立つように、白い壁にでもしているのかもしれない。それに、潮風にふかれるのだから、それに、強い素材なのかもしれないなーなんて考えたりする。鉄製だと塩で錆びそうだし。

 建築物は、為政者の城でもないかぎり、だいたいは、近場で取れやすい鉱物や木材などでつくるのが一般的だと思う。あるいは、その土地の気候風土にあわせたものとか。これらの壁や屋根にもそんな意味があるのだろうなーなんて想像をしてみた。


「壁の近くにはあんまりお店がないな、人通りもちらほらだし」


 壁の近くには、あまり店らしい店はなく、小さな騎士の詰め所のようなものと、いくつかの家のような建物があるのみだった。もしかしてあの魔飲とかいるからかな。となるともしかして、外側のほうが土地が格安とか?

 でもいくらお金が安くても命のほうが大事だとなれば、壁から遠い方が良くなるだろうし……。


ーーなんて勝手な推測だからわからないけど。


 そこから入り口の大きな通りを抜けて、しばらく歩くと、港へと下るように街ができているのか、高い場所から海が見えるようになり、さらに店数も増えていった。緩やかな坂になっているのかもしれない。


「おぉ」


 異国情緒溢れる町並みや、海の美しさにも感動していたけれど、やはりそれだけじゃなく驚いた部分があった。メェクルにのっていた無毛種のおじさんをみたときは、人間さんの見た目だこれぞ!知ってる!という感じだったけれど、街中ともなると、ヒトの姿は多用だった。

 鱗のある爬虫類っぽい人、けもけもしい犬のような人、背中に羽が生えた人、いろいろ歩いている。良くみると頭上に空を飛んで荷物を運んでいる人もみえた。


 「これが多民族国家、いろんな人間(ヒト)たちなんだ……この世界のこれが当たり前か、もっと大きい町なら、もっといろんな人がいるんだろうぁ」


ーーなんて、自分も頭に角はえてるし、身体に体毛や鱗まであるけど。確かにこれじゃぁ、角のある自分が浮かないはずだ。


 色んな種族があるとは学んでいたけど、みるときくとじゃやはり大違いだなぁなんて思ったりもした。これなら、安心して街中を歩けそうだ。いきなり魔女だ!なんて言われそうにない。

 そんなこんなで、すれ違うたびに、多用さにひとしきり感動したあと、ふと近くに店をみつけた。

 この町では珍しい木組みの建物であった。潮風で褪せないよう、黒く表面だけ焦がしているため、一瞬木製の建材でたてられていると気付かなかった。

 その建物は、民家というよりは、何かの風変わりな店らしい。扉の上に、看板が下がっている。


 どうやら法術器の店らしい。


 杖がた、筆記用具がた、ぬいぐるみがた、手袋がた、剣にガントレット、宝飾品のついたものまで様々陳列してある。


「綺麗なものなんだなぁ……って、ぇっ!?」


 値段をみると死ぬほど高かった。


ーー法術器ってこんなに高いんだ!?


 偽物とはいえ、偽装ようの時秤をみて、見比べてしまう。これ、偽装ようだけど、そこそこのお値段だったりして……。いや、値段は考えないでおこう。

 良い携帯並みのお値段が最低ランクだった。こんなの流術士さんたち使ってるの?

 魔女より金持ちじゃないと流術士ってなれないじゃん!

 ガラス越しに商品をみていたので、店内の人と目が合いそうになり、視線をそらして、いそいそと、離れた。


「物の貨幣感覚がバグりそうな値段だった、ちゃんと、お店屋露店をみて、ものの市場価格を調べながら、歩こうっ」


 あまりに世界のこと知らないから、金銭感覚が違うと、怪しまれそうだ。

 他にも露天でだしている肉、魚、加工品、果物や野菜、砂糖や塩、穀物類などの見慣れない食材の単価を通りすぎながら見てみる。飛び抜けた法術器の値段をみたあとで、生活必需品の値段に少しばかり安堵した。


 ーーこ、これだよこれ、市民の価格相場は!


 買い続ければこれらも、ちりつもで、高くなるのだろうけど、ちょっと値段の落差にほっとした。

 他にも金物屋、貴金属宝飾品の店、剣や鎧の店もある。貴金属や宝飾品のたぐいは、やはりこちらもそれなりのお値段だった。売ることはあれど、買うことはない気がする。


ーー指輪を買って、一世一代の告白!なんてことはこんな人生縁遠そうだし……とほほ。


 それにしても剣や鎧の店なんて当たり前にあるし、暮らしていた世界より、とても危険との距離が近い世界なのだと思った。市場を見てみると、いろいろと勉強になる。

 見た商品の値段を抽出して、魔法で記録として、保存し、メモした。この町の相場なので、正確なものては、ないだろうけれど。ここで買う分には、これらをメモすればだいたいの平均の生活に必要な商品の、単価が割り出せるだろうという魂胆だ。


ーーやっぱり、家計簿って大事だよね。


 「とりあえず、プラマさんの軽食を歩きながらたべたけど、お腹またすいてきたな……でも我慢我慢、ええと、まずすることは」


 脳内でプラマさんから言われたことを、思い出す。


『いいでやがりますか、町についたら、質屋や買い取りの店のような場所が必ずあるはずでやがります、港町だから、内々に、足がつかないように物資を処理したいやつらや、金に変えたいものが必ずいるのでせう、そこであの薬草や宝飾品やらを売って、お金に変えるのでやがります、そのお金で宿をかりて、買い物を数日かけてすませるのでやがります、一気にたくさんの物資を一人で調達したら目立ったり、足がついたりしやすいのでせう、同じ店には立ち寄らないこと、いいでやがりますね、あと、何はなくとも調味料や干し肉などは必ず手に入れるのでせうよっ』


「そうだ買い取りとか、質屋とかを探さないとっていってた!」


道行く人に聞こうにも、足早に通りすぎていくばかり、店にいって買い物をしながら聞くにもまだ元手がない。どうしようか、そうあぐねて立ち止まっていると、声をかけられた。


「よう、なんかうろうろしてるが、大丈夫か」


ビクッとして、振り向くと、大柄の筋骨隆々の男性が、声をかけてきた。いや、大柄というには、めちゃくちゃ大きい。高身長というレベルを越えているくらいにはでかい。ラフなシャツのようなものをきているようにみえるが、なんだか無理矢理あわせているのか、ぱつぱつにみえる。とにかく、あまりの大きさに、上から下までついみてしまう。この世界メェクルも、鹿もどきもでかかったけど、でかいのがデフォルトとかないよね?!


「あ、悪い、でかいからおどろいちまったか、あ、怪しいもんじゃないぞっ義勇組合ってとこにつとめててな、迷子とか、迷ってるひととか、そういうのも、助けるのも仕事なんだ、巡回中にたまたまみつけてな」

「そ、そう、助かる、言葉、流暢じゃ、ない」

「なるほど、じゃ、ここのもんじゃないのか」

「旅人、移民船に、乗って、きた」

「なるほどっ、おまえさんも苦労したんだな」

「違う、乗り合い、船、みたいな、もの、旅、のせて、もらったような、もの、倉庫かりて」

「あ、わるいわるい、すぐはやとちりして、悪い癖なんだよっ」

「この国、ついたばかり、貨幣、交換、したい、路銀少ない、買い取り、店、知りたい、道すがら、採取した、薬草とか、物とかうる」

「あぁなるほど、じゃあ、カルばぁとこなら、適切に買取りしてくれるだろう、いくつか店はあるが、ぼったくり店もあってな」

「カルばぁ?」

「カルって婆さん、知り合いがやってる質屋と買い取り両方やってる店だ、ここからまっすぐいったあと、曲がり角がある、細い道にでるから、さらに右に曲がると、路地裏にでるんだが……って、わからんかぁっ、あはははは、悪いな、説明下手でついてこいっ!」


 運が良かった、この人のからから笑う感じ、なんとなく、悪い気はしない。騎士に助けられたとはいえ、はじめてあったあの人たちは肝が冷える感じがしたが、この人の雰囲気は悪い感じはしないなぁと思う。


ーーいや、もちろん、なんかそうおもっていても、悪い人だったりすることなんてざらにあるんだろうけど!


 自分騙されやすそうだし気を付けないと。

 でも、義勇組合っていう言葉だしてたし、なんか名前からして、お助け合い組織みたいな感じがするじゃないか。信じてみよう。だめなら、逃げる。


 「頼む、する」


 「おう、まかせろっ」


 歩きながら義勇組合とかいうのを調べようとしたが、向こうの歩幅めちゃくちゃでかいので、魔法なんて使っている余裕はなかった。置いていかれないように、早足でついていく。もしかして、この人が巨人族とかそういう感じのひとなのだろうか。とにかく一歩がでかいので、疲れきっているのも相まって、息をきらしながら歩いた。

 まっすぐいって、まがりかどを……っていってたけど、結構道が入り組んでいて港町だから高めにぎちぎちと建物を作っているせいか、奥まったところだと道が確かに分かりにくい。

 案内してくれる魔法でもないだろうか。あったら絶対に習得しよう。 


「ここだ、ここ」


 細い路地の奥に、小さな開けた場所があり、1本大きな木があった。迎えの窓には洗濯物がかかっている。

 その手前に小さな街灯がつりさげられた、看板のついた木造の扉がポツンとひとつだけあった。その手前で大柄な男の人は止まった。


 「一人、みつけられ、なかった、感謝」

 「いいっていいってこれも仕事だっ、おれのな!あはははっ」


 いやー本当に、豪快に笑う人だなぁなんて思う。そんな様子で、男の人が笑いながら扉を開けようとしたら、中から、気だるそうな猫耳女性が、扉からでてきた。 


ーー猫耳、本物だ!?ん?本物だってなに?


 猫耳は前の世界では偽物もあったのだろうか。そして、この猫耳女性は、何か制服のような普段着とは違う、出で立ちをしている気がする。それと、良く見れば、大柄な男性の着ている服についてる紋様と同じだった。鳥の折れた羽に添え木がされているような紋様だ。


「ってやっぱりここにいましたね、支部長っ!?」

「げっ……」

「またサボってっカルさんとこに、逃げ込んでないかききにきたんですよっ、娘さんがここに良く顔だすからっ」

「ちちちちっ違う、ちがう、今回は真面目に支部に帰る前に、迷っていた人を案内してただけだっ」

「そうなんですかっ!?」


とばっちりにギロッとこちらをみられたので、確かに真実だから、あわてて首を高速で縦に降ってみせた。


「……まぁ、ならいいですけど、書類今日中のやつたくさんあるんですからねっ、はぁ……金にならない仕事なんてやらないに限るのに、支・部・長のせいで……ほんとだるい」

「悪い悪い、帰る、帰るっから、耳をひっぱらないでくれっ」

「そうしてください、まじでだるいんで」

「ぐっ偶然、とは、いえ、助け、感謝」

「助けたのことはとても確かにいいことですけど実は偶然じゃないんですよ、この人、書類仕事から逃げる口実に町の巡回してくるっていって逃げるのなんて、しょっちゅうのことなんですからっ」

「あ、あはははは、しょっちゅうしょっちゅうか?そんなには、いやさぼってはいないぞっさぼっては!」

「嘘ですから信じないでくださいね?」


 では今日声をかけてきたのもなんだ、偶然というよりは高確率で居合わせるものだったらしい。しかし、自分としてはとても助かったので、その巡回とやらに、感謝しないと。


 「助けてもらった、今日、だけ、責めない、頼む」

 「あら、お優しいかたでよかったですね支部長、このかたに免じてこれ以上は責めませんけど、もう、書類やらないと今日は返しませんから、手間かけさせないでくださいっ、まじだるいんで」

 「とほほほ……かわいいかわいい娘に3日もあえないなんて、おとうちゃん、残業ばっかできらわれちゃうよぉ~」

 「はいはい、合いたかったら、さっさと仕事してくださいねっ~~!


 首根っこをつかんであの巨体を引きずっていった。気だるげな猫耳女性は結構な力持ちらしい。


 「何か、わからないことが、あったら、義勇組合にきてくれていいからなー!この印の看板のところだぞ、一番町ででかい広場にあるからなー!!」


 引きずられながらご丁寧に、胸元の服の紋様を指差して、教えてくれた。とてもありがたいが、なんだか、嵐のような人達だった。うん、もし、時間があったときは、お礼だけはせめても言いにいこう。


「あ、名前聞き忘れた……組合とかに、いけばきけるか、支部長とかいってたし、でもとりあえずはやることやらないと」


さて……。


「お金、手に入れないとだよねっ」


 本題のお金を手に入れるために、ここに来たのだから。引きずられていく、彼の姿が見えなくなって、ようやく扉をあけた。扉を開けるといきなり階段になっていて、階段の奥に、ぽつんと灯りが灯っているのがみえる。転ばないように恐る恐る、階段をおりていくと、また扉があった。そこを、開けると、異国情緒をなんとなく感じる、香の匂いが漂っていた。不快ではないが、すこしばかり煙い気がする。そしてその部屋には、カウンターのようなものが置いてあり、その奥でごそごそと音がした。少し薄暗い室内であることも相まって、何か出てきそうだった。見回してみると、奥の壁には不思議な生き物が液体につかっていたりする瓶や、宝飾品のついた小箱、光り輝く布、鳥かごには鳥まではいって、置かれてある。そして、天井からは、じゃらじゃらとなんの鍵かわからないものまで、たくさん吊り下がっていた。こんなに鍵があって分かるのだろうか。

 店内をじろじろと思わずみてしまう。そうして、そっちに呆気に取られていると、台の奥の暗闇からぬぼーっと、顔が現れた。


「のぁっっっ!?」


 突然のことで、扉まで後ずさってしまい、ドンと、丸い取っ手のついている扉に肘をぶつけた。痛い怖い痛い!


ーーおっ、おっっっっおばけ!?!?


 自分が死んでいるのにおばけはないだろとその時は冷静になるまで気がつかなかった。


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