12 塔の外へそして、はじまり
たぶんきっと、読み継がれるような、物語の主人公ならとっくに新しい仲間をつくったり、新しい旅をしたりするころだとおもう。
だけれど私の現実は、言葉も通じないし、食料も限りがあった。いや、食料があっただけかなりましな事案なのだとおもう。
面白味もないくらいに知識はないし、みるものすべてが新しい知識だった。記憶だって曖昧で、前の生きていた頃の常識らしきものだけが自分の中にある。ここではそんなにそれは、役に立ちそうになかった。知識で、無双なんてできるわけもない。そんな知識を沸いてでてくるように、すぐさま頭のなかで教えてくれる人がいるわけでもない。三回こすったら願いを叶えてくれるランプの魔神だっていない。
この世界のことなんて何一つ知らない状態で放り出された。
むしろ、本を情報として収納できる魔法があったことが、反則なほど便利なレベルでずるいのだろうけど。
逆にこれがなかったら積んでいたとも思っちゃう。
なにもかもわからずに目覚めて、あるのはただただシビアな現実だった。
プラマに合えずに外に出ていたらガグゥに食べられていたかもしれない。食べられて胃液に溶かされ続けていたりして。おーこわい。
魔女にだって、人は、風当たりは強そうだし、なにも知らずに魔女だとバレたらリンチにされり、生活として得られるすべての信頼は消え失せる。
魔法だって魔女なのにまともに使えそうになかった。いろいろなにもかもどうしてこうなったって感じで、この一月過ごしてきた。
泥臭く一から学んで。
プラマがいなかったら、もうとっくに諦めていたかもしれない。
とても綱渡りをしているような一月だったとおもう。
現に、いまもそうかんじる。
魔法、装備品、挨拶、いろいろと準備をしたけれど、いくら準備してもそれなりに不安は不安なのだ。
ビビリなのだから仕方がない。
けれど臆病であることはこんな危険な生き物がいる上では才能なのではないだろうかとはおもっている。
勇気と蛮勇は違うとかいうけれど、勝てる可能性のあるやつや強いやつがもてば勇気、弱いやつがもてば蛮勇に変わるだけなきがしてしまう。世知辛い。
ちなみに私は勇気じゃなく弱い魔女なので蛮勇になる。
だけれどしかたないのだ蛮勇の魔女にとっては、生命の危機、飢餓の危機なのだから。しいていうなら蛮勇でも勇気でもなくいいかえるなら、間違いなく生存戦略による生命維持活動の延長のようなものだろう。
「解析、保管、変換」
いろいろあって、お陰で、この三つの魔法はご覧の通りこれだけ短縮できるようになった。内心、お赤飯たくくらいのめでたさだ。
蝋燭の火をだす灯火の魔法、コップに水をそそぐ魔法、あと閃光魔法と煙幕魔法と破音魔法を、短縮でできるようになった。
ーーあとはまぁ……できてないけどね!
ここまでが時間的に限界だったのだ。
でも、それでも上々だったとはおもう。
ーー私のなかではね!
いろいろ苦戦しまくっていたのに、都合よく時間内に、閃光と煙幕と爆音の魔法が短期間に仕上がったのには理由がある。
単純に、そんなにながったらしく詠んでたら、死ぬやろおまえという、端的なプラマさんのお言葉をきき、確かに!という、お気持ちになってしまったからだ。そりゃあそうだ。 ガグゥに襲われてる、最中に待ってくれっていってガグゥが待ってくれるわけがない。
長い魔言をとなえるなんて確かに無理だ。集中できないに違いない。熟練の戦士でもあるまいし。
最初は解析、保管、変換の魔法の精度をあげる予定だったのだが、その魔法を覚えると決まってからは、先にそちらの魔法のスパルタ練習が数日続いた。
短い時間音を届ける魔法、光を灯らせる魔法などの基礎生活魔法事態は、蝋燭に火をともす魔法と同じように最初に習得したため、コツをつかむのが楽だったのが幸いした。成功事態はすぐにできたが、短縮となるとそれはもう慣れず失敗しまくり、魔言のありがたさを感じたのだった。
これらの魔法を、習得するまでに、解析や保管、変換の魔法の練習はあまり狙って出来なかった。けれど、逆に破音、閃光、煙幕などの、魔法を使うために、魔言をおぼえられなかったりいろいろと、解析などの魔法セットを、何度も何度も行使することが多くなった。バカ、ゲフン、私の記憶力のおつむの弱い巧妙である。嬉しくない。
そのお陰か、携帯的なものを開くようなていで、よくも悪くも使用頻度と依存度があがり、ついでに出来ちゃったというやつである。日常使いすれば嫌でも、おぼえるよねっ。はぁ……。
最初はそんな都合よくなんておもったけれど、その前の短縮の魔言の習得の影響も良いほうに作用したみたいだ。他のスポーツをしていたりしている人が他のスポーツで習熟しやすいとか、楽器を引ける人が他の楽器でも習得しやすいというアレだ。アレソレ、えーっと、学習の転移ってやつだっけ?
そうそんな感じだということにしておこう。順調順調と喜んだけど、そもそも冷静になると、正直閃光などの魔法は初級クラスの魔法なのだから、魔女なのにつまっていること事態がおかしいらしいのだが。そんなこといわれましても、つまってしまうのだから仕方がないよね!
ーーうっ、自分でいってて自虐が辛い。
強そうな魔法とか透明化とか、そんなのはもはやほとんど夢のようにおもえるけど。便利な魔法は習得できたしそこを喜ぶべき。千里の道も一歩からとかいうじゃない?
『さっきから一人で落ち込んだり喜んだり忙しいやつでせうね』
「み、みてたとはっ、いや、出来たから喜んでたけど、冷静に考えれば普通の強い魔女なら、こんな努力しなくていいんだよなぁって……自虐しだしたら涙がちょちょぎれて」
『大丈夫でやがります』
「プラマ~!」
優しい言葉としての大丈夫かとおもい、ぬか喜びして抱きつこうとする。
『どんなにおバカでも不出来でもプラマはマスター(仮)がこの場所の主であるかぎり見捨てないでやがります』
が、当然そんなことはなかった。
「プラマぁなんかそれ絶対的に慰めにもなってないしいつか見捨てられそうだし、微妙な優しさが辛いんだけどっ」
『そんなことをきにしてもしかたがないでやがります、おまえはおまえでせうってことでやがります』
「うー、そうだねそうだよね……うん」
『よくココまでとりあえず頑張ったことは一応ほめてやるでせう』
「お、おぅ、急に優しいとてれるぜぃ」
『じゃあ厳しくいくでやがりますか?』
「優しいままでお願いしますっ!」
あまり褒められないからプラマさんから、ちょっと、嬉死はずか死ぬ。ギャップがある。
『それでこれらが、塔脱出計画、基礎卒業へんのお祝いのようなものでやがります』
そういって机の上におかれたものには、旅人用の衣服と、鞄、靴、懐中時計のようなものがあった。
「これは」
『外用の一式セットでやがります』
旅人ようの衣服は、唐草色のローブに収納がいくつもついた、作業着のようなものだった。出で立ちからすれば、男物にもみえるが、おそらく旅で汚れたりしてもいいものを選んでくれたのだろう。それに良質なものをみにつけていると、それはそれで狙われたりするのかもしれない。 この世界の、いやこの大陸や近辺の治安がどの程度のものかわからないだろうし、完璧にどこにでもいそうな旅装にしてくれたのかもしれない。しかし見た目に反してかなり着心地がよかった。そしてローブを羽織る。
『こちらのローブは一見普通のものに見えやがりますが、とてもスグレモノでローブを、身につけると、汚れや雨などを弾き、清潔な状態にたもち、快適な温度で身体を包んでくれやがりますっ』
プラマさんの言い方は、通販の紹介文のようだったが、なんとなーくこの製品の製作者はなんとなく想像がつく。
「便利なアスリアせいでしょ?」
『あたりでやがります、マスターはとにかくめんどくさがりで、そのためのそれでやがります』
「なんかあのこれまでの生活魔法をみればわかるよ……あ、これは?」
『空間繋ぎの双子鞄でやがります、これは、マスターの得意魔法を使った鞄で、鞄をひろくしたり、別の場所に繋げてものを送ったりためたりできる鞄でやがります、食料を大量に買い込んだら、ここにいれることで帰って来るときかさばらないのでやがります、もちろん軽いままでやがります』
「持ち帰るのどうすればいいかまで、そうだ考えてなかった」
『だろうとおもいやがりましたっ、それでこの鞄でやがります、ただ一つ欠点がありやがりまして』
「欠点?」
『拡張されてものを大量に入れることは可能なのでせうが、その、送り先に対となる双子の鞄が、倉庫の中にうもれてさがしきれず、恐ろしい有り様になってやがります……マスターは片付けという行為が脳みそからぬけてやがりましたからねっ』
「じゃあ送れないの?」
『溜め込むことじたいはできるでやがりますからそれでしばらくはつめこんで、代替していてほしいでやがります』
「わかった」
『ぷ、プラマがど、どうにかあの腐った倉庫の海の中から、出掛けている間にさがしてみるでやがります……マスターがほったらかしにした危険物もあるのでプラマしかはまだはいれないでやがりますから』
「む、むりしないでね?」
『プラマが帰ってもいなかったら、そのときは腐の海にのまれたとおもってくれでせう』
「生きてかえってきてプラマー!?」
自分と、プラマは、互いに命がけの食料調達のための奮闘になりそうだ。
でもとりあえずたくさん入れることができるのだからそれはそれで、もっているだけで、助かる。
「取り出すときは?」
『ほしいものを思い浮かべながら鞄を軽く叩くのでやがります、トントンと』
「なるほど」
鞄に本をいれて、もう一度その本を取り出してみる。トントンとたたくと、あの本を、たしかにちゃんと取り出すことができた。
「おもしろいっ」
『おもちゃじゃないでやがりますからねっ、あと、たくさんいれすぎるといれたものを忘れてなにいれたっけって、ぜーんぶとりだすはめになるのでやがりますから、ちゃんと買ったものや入れたもののメモをとったり、計画的に使うのでやがりますっ』
「思い出せないととりだせないやつかー、それはいれすぎ注意だね……」
『ただ生き物いがいはだいたいなんでもはいって腐らないので、食料は安心して買ったものをつっこむのでやがりますよ』
「わかったっ」
『あとこの靴は靴底がすり減らない、蒸れない、水虫にならない、匂わない、泥はね防止、足の疲労軽減負担のすぐれものでやがります、出不精マスター御用達一品でやがります、靴職人の魔女製作の高級靴でやがります!』
「靴職人なのに魔女なんだ、いや魔女なのに靴職人なのか?」
『ほかにもいろいろ変わり者の魔女はいやがるのでせう、人形の魔女、薬売りの魔女、迷宮の魔女、卵の魔女とかいろいろ』
卵の魔女って気になるが今聞いたら話がそれそうなので我慢しよう。
「とにかくざっくばらんにいうと、いろいろ旅装便利セットってことだね」
『端的にいえば、その通りでやがります、鞄に、あとは着替えようの服を何着かいれてあるので安心するのでやがります』
「うん、ありがとうっ……ん?でもこの懐中時計みたいなやつは?」
見慣れない数字のような文字でかかれているが、これはやっぱり時計なのだろうか。そういえば、ここにきてから昇る太陽と沈む太陽、夜の星と月、プラマさんのおたまとフライパンでしか、時間を把握していなかったきもする。
『これは時刻みの魔法の正針がうめこまれた時秤でやがります』
ここでは、時計のことはトキハカリというらしい。時間を質量のようにはかるような名前なんてなんだかおもしろい。
『これは、見た目はただの時秤でやがりますが、法術器という道具でやがります』
ああこの世界ばん魔法の杖か。懐中時計型もあるんだね。
「人間の流術士さんがつかうやつ?」
『それでやがります、これをもっていれば、もし魔女だと怪しまれても、流術士としてやりすごしやすいのでやがります、ちなみに魔女が使っても法術器を壊すだけでやがりますから、時秤の機能と、バレないように隠す機能しかついてないでやがります』
「完全偽装用なんだね」
『わかったでやがりますか?』
「うん、いろいろプラマが考えて用意してくれたことが伝わったよ」
『そ、それはしかたない緊急事態でやがりますからっ、し、しかたないでやがりますっ』
「でもありがとう」
『か、感謝はなんどしてもいいでやがりますよ~』
「うんうん、ありがとね」
だいたいの説明は受けたが、あと二つ、プラマがものを懐から出した。あのもふもふのどこにはいっていたのだろうか。謎だがとりあえずスルーしよう。
「これ宝石とか換金物や、薬草とか?あ、もしかして換金できるかもしれないやつ」
『そうでやがります、もっと高い品はあるのでやがりますが、高すぎると貴重な品が多くて、足がつきやすいのでやがります、これくらいあれば当面の生活の食料自体はどうにかなる金額になるとおもうのでやがります』
「ありがとう」
『どうしても換金で足りなかったら、そこそこ貴重な薬草や金属を他にもバッグにいれておくので、どうしてもというときはそれもだすのでせうよ』
「プラマさん、買い物にいくのを心配するお母さんみたいだよっ」
『ひょろひょろの雑魚雑魚の魔女はいくら心配してもたりないでやがりますっ』
「それはそうだね~いいかえせないっ」
『あとこれは、例のガグゥの首飾りと、牙を首飾りのようにして、みたでやがります』
黒、白、赤、黄色、青、緑、といった色とりどりの鱗と、なんかたくさんの小さい牙と大きな牙が何個か。
とりあえず強そうなガグゥのものを、これでもかと詰め込んだのかもしれない。なんだか鱗はギターのピックみたいだし、牙がついていると、あまれた民俗的な飾りみたいだ。
『これらのガグゥの、鱗や牙はとても貴重なものでやがりますから、バレたら、大事になるのでやがります、ここを出たら塔の入り口で鞄にいれるのでやがりますよっ』
「そんなに貴重なの?」
『家が何軒もたつでやがりますっ、わかるやつにしかわからないでやがりますが、狙われたら大変でせう』
「出さない絶対っ」
『効果自体はプラマがためしてみやがりましたが、確かにガグゥはよってこなかったのでせう』
「そんな危険なことしたの!?あぶないよっごめんねプラマ」
『プラマはそんなに弱くないのでやがります、要塞のなかでは、で、やがりますがっ、生身で雑魚雑魚のマスター(仮)にためさせるよりいいのでやがりますっ』
「……そりゃそうか、でも、うん本当にありがとう危険なことまでしてくれてっ」
プラマのほわほわの毛?をなでまわして感謝を伝える。そうか、自分が魔法に苦戦している間にそんなことを、いろいろしてくれていたなんて。本当に頭があがらないなぁプラマさんには。
「プラマさんのご協力もたまわりまして、これで準備揃ったかな」
『やれることはやったとおもうのでやがりますっ』
「じゃあ、明日、準備をしたら外に出てみようとおもう」
『明日早速、ほっ本当に、明日にいくのでやがりますか?ざ、雑魚雑魚のマスター(仮)ならなにかやらかすのではないかと気が気でないでやがります』
心配してくれているのはわかる。でも、ここをでなければ始まらないのだからしかたない。本人も不安で不安でしかたない。それでも、食料は尽きるだろうし、いつかは外にでなければならない。たとえあの首飾りがあって要塞という森の中を探し歩いたとて、ガグゥいがいの生き物もいるというし、安全性は外の方が高い。それならやはり塔をでなければならないのだ。
「不快におもわないできいてほしいんだけど、ここがお家であることには変わりはないけど、もし、もしだよ、プラマが一緒に要塞の外をみてみたいとおもったら、そんな魔法をどうにかみつけたら、一緒にいつか買い物したり町に出たりして、楽しんだりしたいなぁなんておもうんだ」
『それは……』
「プラマがここにいてくれたら、いつだって安心だけどさ、でも、一緒だともっと楽しいし安心かなぁって、私なんにも知らないか何かやらかすかもしれないしさ」
『……ばかでやがりますね……、そんな高度な魔法まだまだだめだめ魔女には遠いでやがりますっ』
「そ、そうだよね」
『でも……ここに必ず帰ってくるというなら、それも悪い気はしないでやがります』
「いつか、いつか、一緒にお買い物できるようにがんばるよっ、ひとりで待ってるの退屈だしさそんなことさせないようにっ」
『……、余計なお世話でやがりますが、……いえ、楽しみにしていますマスター』
気のせいかいつもの口調と違ったようなきがしたが、楽しみにしているという言葉に、少しだけ、未来に目標ができたきがして、ちょっとだけ舞い上がってしまってなんとなくスルーしてしまった。いつか、プラマをお買い物につれていってあげたい。
そのためには、自分がやはり外にでて、買い物をして、生活をできるようにならなければならない。
ーーうむ、がんばる。がんばるぞー。
怖いけど、きっといつだって、なんでもはじめては怖いのだ。自分の生活のためひいては、助けてくれたプラマのために、必ずはじめてのなんちゃっておつかい高難易度を成功させなければ。
「食料も少なくなってきたし、明日外に出てみようとおもう」
『必ずちゃんと、帰ってくるのでやがりますよ、一回、二回くらい失敗したって数日分はまだもつでやがります』
「うん、ありがとう」
『……今日はゆっくり寝るのでせう』
いつもは、厳しいプラマさんも今日ばかりは優しいようだった。そんなことをいったら、また厳しくされてしまいそうなので、余計なことはいわないけれど。なんだか、そんな少し不安なようなしょんぼりしたような、プラマさんの雰囲気だった。余計にちゃんと帰ってこなければという気持ちを強くさせた。
そうして、目覚めてから、塔の長い長い1ヶ月近くが過ぎ去り、ようやく外に出る時がきたのだった。
これから何が起こるのかなんて、当然わかるわけもない。ただ、こうなってしまった以上、生活は続くしかないようなのだから。
「今夜寝れるかな」
「鞄よし、靴よし、服よし、持ち物よし、首飾りよし、じゃあプラマさんいってくるねっ」
『そそっかしいのでやがりますから、ちゃんと一つ一つ確認するのでせうよ』
「おかんかっ!」
『とりあえず、帰ってきたら美味しいご飯をつくれるように準備をしていやがります、あ、あとこの本を塔の入り口についたら、階段下の石畳の下に空洞があるのでやがります、そこに置くのでせう』
「何この本」
『行きだけ良くとも、帰りがまたガグゥや生き物に襲われないとは限らないのでやがります、この本は上下で組となっていて、組の魔法を使うことで定点魔法という魔法を発動できるのでやがります』
「定点魔法?」
『これがある所どうしが、繋がって一瞬で戻れるということでやがります、安全のために探しだした、アスリアマスターのつくった残りのいくつかの一つをさがしだしたのでせう』
「これがあれば、一瞬でこの場所までもどってこれるってこと!?」
『塔入り口からでやがりますね』
「一度成功したらガグゥの恐怖に怯えなくてすむのか……ありがたや、はじめて感謝したよアスリア"さん"」
『ちゃんと人に探されないように石畳の下に隠すのでやがりますよ、そこでまた本にさわって唱えたら発動するようになっていやがりますからね』
「魔言は?」
『保管の魔法にはいってるはずでやがります、魔法がへたくそでもこの本があれば読むだけでいいから雑魚雑魚の魔女でもできるのでせう』
つまりググレカスてきなやつか。いや、カスっていってないけど。きっと、準備をしてくれていたに違いないけれど、おそらく、腐の海をこえて、ようやく探しだした物の一つなのだろう。魔言のカンペが間に合わなかったに違いない。プラマさんのホワホワにほこりがついているのできっとそうだ。それでもこれが、あるだけで、行きだけで危険が格段にさがるのだからありがたい。ぎゅっと、その本をだきしめて、プラマに心のなかで感謝する。
ーープラマさんに感謝しっぱなしだな。
いつか、返せたらいいな恩を。フライパンはまだまだ返せそうにないけど。
『こっちでやがります』
プラマさんに案内されて、大広間の大きな扉をぬけて、しばらく道なりにいくとまた扉をくぐり抜け、左右に階段が設置されている、巨城の玄関口のような場所にでた。大広間まで簡単に設計されているようにみえたが、おそらくプラマさんが案内してくれなければここにすらたどり着けない仕組みがなっているのかもしれない。部屋数も想像よりずっと多そうだし。入り口からの侵入者よけなのかもしれない。
そして、案内されて、とうとう城門のような大きな扉の前まできた。
まさか家から、出るために1ヶ月もかかることになろうとは。世界のことを知らなすぎて、ガグゥなんていうドラゴンの脅威に襲われたりして、出れなくなるなんて考えていなかった。
そもそも、そんなこといったら、何故か自分が見知らぬ世界で魔女として、甦ったなんてこと自体そんなまさかなのだけれど。ここからが魔女としてのある意味本当の一歩だ。
『この場所を出たら、道が舗装されて出来ていやがりますから、ガグゥの生息域をぬけ、湖がみえたら、そこに飛び込むといいでやがります』
「とびっ」
『森のなかもまだマスターの作る要塞の内部なのでやがります。その湖の中は実際の水ではなく、そこから、本当の塔の一番出口にたどりつくはずでせう、一般の方が訪れるとただの小高い塔にしかみえないようになっていて……魔女のみがこちら側にくることができるのでせう』
「なるほどそういうしかけなんだ、よしっ」
頬を叩くと、一歩踏み出す。正直外にはガグゥがいっぱいいるし、恐怖しかないけれど、でなければ飢餓で苦しい思いをしてしまうのだから、いちかばちかだ。
「いってきますっ」
『気を付けるのでやがります』
プラマをぎゅっとして、そして、名残惜しくて、なおかつ、不安に負けそうになるので、振り返らずに、鞄の肩掛け紐を強く握りしめて、扉を勢いよくあけた。恐怖に負けないように。
プラマを疑う訳ではない。それでも、この首飾りがきかなかったらどうしようとか、襲われたら咄嗟にどうするかとか、心配事ばかりが浮かんでしまうから。だから、勢いをつけるしかなかった。
あけて、小走りに走り出す。要塞の周りを飛んでいたガグゥ達は、こちらに気がついたようだった。それだけでからだがすくむ。それでも、ここまでプラマさんが後押ししてくれたのだ。やるしかあるまい。ちょっとだめだったら1回もどってきても……なんてチラリと、プラマをみそうになったがダメだ。我慢我慢。
「走れー!」
そうやって鼓舞して、勢い良く走りだした。いまいる場所の外からの様子をみておきたかったが、そんな余裕はあるわけがない。怖いカグゥから逃れることばかり考えてしまう。
ガグゥ達はこっちを確かに視認しているような気がした。恐怖からくる疑心暗鬼だろうか。あの、金色の目が遠くからでも輝いて凝視している気がするのだ。それにこの体になってか、少し感覚が鋭くなったのか、それほど大きくないはずの翼の音もはっきりきこえる。
同じ場所に滞空して、何が現れたのか確認しているようだった。人間の身体を逸脱したせいか、思ったより結構軽く走れることがなんとなく救いだった。あれほど、机にかじりついてばかりで、一月の運動量なんてさしたるものでもなかったのに。それだけが、救いだった。
走り続けていると、
ーーーーーキュアアアア!
という甲高いガグゥの鳴き声が聞こえた。何の叫びかわからないが、飛び回っていたガグゥは、いななき、合図をしているようだった。襲ってはこない。
「この首飾りが効いてる?」
効いてなかったら、そもそもプラマさんが、渡すわけがないのだが。こんな状況で、そんな底意地の悪いことをするようなプラマさんじゃないとおもう。一月一緒にいたのだからそう思う。ただ、不確定な要素はいくらでもある。早めに逃げ切るのが得策だ。一度外に出ればあの本を設置すれば安全地帯までもどってこれるのだから。
時折息切れしては隠れながらも、ただ走り続ける。
言われた通り行くと、道に、板がうちつけられ、簡易的に舗装された道が確かに見えた。
あれだ。
そしてその入口には街灯が1つたっていた。外灯には武骨にポストのようなものが、くくりつけられている。その手前には、装飾の施された鉄の門と連なるように柵があった。鉄の門にふれると、金属の擦れるような音がして、ひとりでに開いた。そこを開け放つと、ここが本当の要塞の外のようなものなのだろう。草木が舗装された道を、覆いそうになるほど、生い茂っていた。ガグゥは今は襲ってきていない。しかし、圧倒的にガグゥのほうが、滑空して迫ってくれば早いのだからこの鱗はちゃんと機能してくれているらしい。警戒はとけないけれど、もしかしたら、この首飾りのおかげで安全に、たどり着けるかもしれない。おどおどと周囲を警戒しながら、進んでいくと、ガグゥは確かに、周囲にいるようだが、襲ってこなかった。少し胸を撫で下ろす。このまま湖まで行ければ良いのだ。
「……こんなにあっさり出られるなんて」
油断してはいけないけれど、あまりの状況の呆気なさに気が少し抜けたのは確かだ。首飾りはしっかりと右手でにぎりしめたままだけれど、そのおかげで周囲にもう少し目を配れるようになった。
「ここが1つの塔の中なんて信じられない」
足元には見たことない虫があるっていたり、見知らぬ鳥の声もきこえた。ガグゥの他にも、小さな虫や動植物が存在しているようだ。ガグゥが暮らせるくらいだから、相当広大な土地なのだろう。これをつくったのが、アスリアという魔女なのだ。それを考えると、魔女という存在を人が恐れるのをわかる気がした。自分は今は産まれたばかりの存在に近いけれど、魔女とはこの空間を創造出来うる存在なのだ。
それでもそんな魔女でも、磨耗とやらの苦しみには抗えなかったという。
途方も無いスケールの中に自分がいることを、初めて理解できたきがした。
それが存在する世界。
どんな世界なのだろう。
未知の不安と期待が膨らんだ。
少しの興奮から緩んでいた気持ちが、カサっという、草木が揺れる音で現実に一気に引き戻された。ヒヤッとしたが、小さな動物だった。
ほっと胸をなでおろし、また警戒して、道を歩きながら、恐る恐る進んでいく。やはりこの首飾りはちゃんと機能しているみたいだ。
どれくらい歩いたか。
2キロ近くは歩いただろうか。この世界の単位においてキロが正しいかはわからないけど。
ずっと肩を竦めながら、ようやく湖の水がみえてきた。それまで閃光も破音も、使わずにすんだ。取り越し苦労だっただろうか。足早に、水のある場所にかけより、本当にこの中に入っていいのだろうかと、水鏡に顔をうつし、ためらっていると、不意に頭の中に声が響いた。
『みつけた』
そう呟いた声のようなものが聞こえた気がした。背筋がぞくりとして、嫌な汗が流れた。
「え」
幻聴かどうか確認する間もなく、ガグゥの甲高い鳴き声が響き渡る。
ーーキュアアアア!
その声がきこえた途端、先程まで遠巻きに警戒して姿をしていたガグゥが何故か、とびあがり、高速で私目掛けて、襲ってきた。眼前まで鋭い爪が迫る。
その目は金色の普段の瞳とは違い、真っ赤に染まっていた。
とっさのことで、反射的にどうにかよけられたが、身体を木々にうちつけた。
正直、良く避けられたと思う。恐怖と、何故という気持ちがせりあがってくるが、ガグゥの爪は、まってくれない。震える足、震える声、それでもただ痛みから逃れるために、次の攻撃をしてこようと旋回してきたガグゥに、手をむけた。そして……。
「閃光!」
「キュアアア」
咄嗟に、魔法を放ったと同時に、ガグゥがよろめいたのがわかった。慌てて、迷っている暇などないと、覚悟を決めて水面に飛び込んだ。身体が沈んでいくと、少し上の方で、ガグゥの爪が水面まで波を立て、抉ろうとしていたのが見える。
あのまま動いていなかったらあぶなかった。一瞬しかとめられなかったが、それでも閃光を覚えていて良かったと本当に思った。咄嗟のことで今更心臓がバクバクと音を立て始める。
重傷をおっていたかもしれない。
ーーなんで急に暴れだしたんだろ?
確かにこの首飾りの効果を実感していたのに、突然のことだった。様々な思考が頭の中でめぐっていたけれど、今はそれどころではない。このままでは溺れてしまう。
本当にこの湖は、プラマの言う通りなのだろうか。
上にはガグゥがいるので、水面にはあがれないので、信じるしかないのだが。ある程度もぐってみると、ふっ、と、水の重たい圧力が消えるような感覚がして、重力が唐突にもどってきて、そこそこの高さから地面にお尻をぶつけた。
「痛い……」
しばらく痛みがおさまるまで動けず、しばらくお尻を擦って、ようやく立ち上がれるようになった。不思議と水に濡れたはずの衣服は乾いていた。そういう魔法なのかもしれない。上を見てみると、確かに、水の中を通ったとは思えない。ただ頭上には長い螺旋階段がみえるのみだった。本当に、あの場所は下からでは普通の塔にしか見えないらしい。
「はぁ……」
意気込んででたものの、ガグゥに最後の最後で襲われるとは。溜息をつきたくもなる。途中までは確かに首飾りの効果はあった気がしたのに何故最後の最後に襲ってきたのか。疑問は芽生えたけど、でも、それでもとりあえずなんとか、外に出たのだ。良しとするしかない。しかし、しばらくあの恐怖は忘れられそうに無かった。あの声だってなんだったのか。幻聴というには、はっきりしていたような。あれが聞こえた途端ガグゥがこっちを攻撃したようなきがした。
プラマにかえってきたらきいてみるしかない。
先程のガグゥの姿を見て、手が少し震えている。でも動かずにいたらもっとその恐怖にのまれてしまいそうなので、何度か唇が震えて失敗しながら、あの本をとりだし、石畳の下にある空洞を見つけて、本をしまう。魔言を調べ、定点魔法とやらのアイテムを設置した。
これは設置者しか見えないらしいので、荒らされる心配もない。
「はぁ……」
ガグゥへの恐怖でまだ身体も手も震えている。少し座り込んでいたけれど、ようやく心臓の激しい鼓動がおさまってきたので、立ち上がった。
「目的地は先なの先が思いやられるよ、あはははは……はぁ」
外の世界にガグゥより怖いものがいませんように、そう思いながら、外へと続く扉に手をかけた。しばらく誰もあけていなかったせいか、立て付けが悪くなっていて、開けにくく、体当するとようやく開いた。ふわりとホコリ臭かった塔の内部に風が入ってきた。そして……。
「海の匂いだ」
扉をあけて、1歩ずつ外に出る。地面に降り立ち、その匂いの先をたしかめるため、塔のほうを振り返る。すると、塔の背面には、海がひろがっていた。よかった普通にちゃんとした海があるじゃないか。
「それに、高い岸壁に立てられてると思わなかったなぁ」
あんなかガグゥにかこまれた場所の外には、さらに海が広がっているなんて。こっちが現実のはずなのに非現実感がある。違和感をおぼえてしまう。しかし、それでも、その風の匂いや、波の音に耳をかたむけてみると、少し先程の恐怖が落ち着いたようだった。
ーーいつかあのガグゥに困らないように自分はもっと魔法を覚えないとな。でもいまは……。
ここは、確かに外だ。
あたりに誰もいないのをきょろきょろと、確認して、抑えきれない気持ちを声にだす。ようやくたどりつけたのだから。
「外だー!」
1ヶ月、要塞生活がすぎ、魔女としてうまれなおしてから、それがはじめての外、はじめての世界だった。
これから向かう世界への楽しみと不安を心に、抱いて歩き……歩き。
「ってなんかこっちにくるー!?」
土煙をあげて、それはそれは、なんかばかでかい、黒いでかい、なんかやばげなオーラを放った鹿のような生き物だった。 すごくでかい。
ーー人生は与えられた手札で切り抜けるしかないとかいうけど。あれはそういうもんだいじゃないってばー!!
どうする、私、どうする、自分、走馬灯のように駆け巡るさしたことない1ヶ月の記憶が、ぐるぐるとまわった。そして、あることにこんなときに気がつく。
「自分名前なくない!?名前ないままどつかれてお陀仏ってことぉ!?」
世界はかくも厳しく、一難去ってまた一難、ガグゥはとても序の口の口だったのかもしれない。こんなとき、どうすれば良いかなんて対策は思い付くはずもなく。それどころか、何故かこういうとき叫ぶ言葉が、頭にうかんだ。
「私どうなっちゃうのー!」
ってそんなこと言ってる場合か!
はじめての世界への進出、どうやら、鹿に殺されそうです。




