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ひかり〜約束の花〜  作者: せいら
夢と召喚と
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月から来た手紙

私は『約束の花畑』について書かれた本を読んでからというもの、頭の中がずっとそのことでいっぱいになってしまっていて、王宮の廊下を歩いていても、食事をしていても、夜ベッドへ入って目を閉じても、あの白い花畑の景色が何度も何度も浮かんできてしまい、気付けば無意識にため息を吐いていることが増えていた。

夢の中で見た景色。

本の中に描かれていた景色。

偶然にしては出来すぎている。

だけど、だからといって何かを思い出せたわけではない。

むしろ分からないことばかりが増えている気がした。

「ひかり様」

そんなことを考えながら庭園を歩いていた時だった。

振り返ると、そこにはアリア姫が立っていた。

今日も相変わらず綺麗だった。

紫がかった白い髪は風に揺れるたびに月明かりみたいな輝きを見せ、水色の瞳は湖のように澄んでいて、同じ女の子として普通に見惚れてしまう。

「アリア姫!」

私が手を振ると、アリア姫は柔らかく微笑んだ。

「少しお時間をいただいてもよろしいですか?」

「もちろんです!」

アリア姫と話すのは好きだった。

一緒にいると不思議と落ち着くし、初めて会ったはずなのに昔から友達だったような安心感がある。

それはアリア姫も同じらしく、私たちは会うたびに自然と会話が弾んでいた。

庭園の東屋へ移動すると、アリア姫はどこか迷うような表情を浮かべながら胸元から一通の封筒を取り出した。

「実は、ひかり様にお渡ししたいものがありまして」

「私にですか?」

「はい」

私は封筒を受け取った。

そこには何も書かれていない。

差出人の名前も。

宛名も。

ただ真っ白な封筒だった。

「これは……?」

するとアリア姫は少しだけ困ったように笑った。

「わたくしにも分からないのです」

「え?」

私は思わず聞き返した。

「昨夜、本を読んでいた時に突然机の上へ現れたのです」

「現れた?」

「はい」

普通なら絶対に信じない話だった。

でもここは異世界だ。

聖女もいる。

魔法もある。

だから否定できなかった。

アリア姫は続ける。

「中を読んでみたのですが、その内容が気になりまして……」

「内容?」

「ひかり様に関係があるかもしれないと思ったのです」

私は少し緊張しながら封を開いた。

中には一枚の手紙が入っていた。

古い紙だった。

まるで何百年も前のものみたいに。

そして。

そこに書かれていた文章を見た瞬間。

私の呼吸が止まった。

『白い花畑を見る者よ』

『月の下で交わした約束を忘れるな』

『夢は記憶』

『花は導き』

『再び巡り会う時、運命は動き出す』

私は目を見開く。

夢。

今、夢って書いてあった。

私は誰にも話していない。

レオン王子と美咲以外には。

それなのに。

どうして。

どうしてこの手紙は知っているの?

「ひかり様?」

アリア姫が心配そうに私を見つめる。

私は慌てて顔を上げた。

「これ……誰が書いたんでしょう」

「わたくしにも分かりません」

アリア姫も不安そうだった。

「ですが」

彼女は少しだけ躊躇った後、静かに言った。

「実は、わたくしも夢を見るのです」

私は息を呑んだ。

「夢?」

「はい」

アリア姫は遠くを見つめる。

「知らない場所です」

「……」

「白い花畑ではありません」

私は少し安心した。

でも次の言葉で再び固まる。

「けれど、知らない女性が出てくるのです」

「女性?」

「とても優しくて、とても大切な人だった気がするのに、顔だけが思い出せません」

私は思わずアリア姫を見つめた。

それ。

私と同じだ。

顔だけ思い出せない。

懐かしいのに。

分からない。

そんな感覚。

「わたくし、変でしょうか」

アリア姫は少しだけ寂しそうに笑った。

私は首を横に振る。

「変じゃないです」

「ひかり様……」

「私も同じだから」

その瞬間だった。

アリア姫の瞳が大きく揺れた。

そして。

なぜだろう。

ほんの一瞬だけ。

私の頭の中に映像が流れ込んだ。

花畑。

笑い声。

そして。

『セレナ』

誰かがそう呼ぶ声。

私は思わず額を押さえた。

「ひかり様!?」

アリア姫が立ち上がる。

だけど映像はすぐに消えてしまった。

まただ。

最近こういうことが増えている。

何かを思い出しそうになる。

でも思い出せない。

まるで誰かが記憶に鍵を掛けているみたいに。

その時だった。

「へぇ」

聞き慣れた声が響いた。

振り返る。

そこにはシリウス王子が立っていた。

「お兄様!?」

アリア姫が驚く。

シリウス王子は面白そうにこちらを見ていた。

「随分深刻そうな顔してるな」

「盗み聞きですか?」

「半分くらいな」

「最低です!」

「そんな怒るな」

シリウス王子は笑う。

だけど。

次の瞬間。

彼の表情が少しだけ真剣になった。

「夢を見るのはお前たちだけじゃない」

私は固まる。

アリア姫も驚いていた。

「お兄様も……?」

「昔から変な夢を見る」

シリウス王子は空を見上げた。

「知らない花畑」

私は息を呑む。

「知らない仲間」

アリア姫も固まる。

「そして」

シリウス王子は少しだけ苦笑した。

「誰かを守れなかった夢だ」

風が吹いた。

その瞬間。

私たち三人は言葉を失う。

偶然。

そう片付けるには、あまりにも出来すぎていた。


そして遠く離れた現代日本。

美咲はひかりの部屋で、一冊のノートを見つけていた。

そこには、何度も何度も描かれた白い花畑のスケッチが残されていて――。

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