約束の花畑
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私はあの日、枯れた花を咲かせてしまってからというもの、自分の中に本当に聖女の力があるのかもしれないという考えが頭から離れなくなってしまい、部屋で一人になっても、庭園を歩いていても、食事をしていても、気が付けばあの時の光景を思い出してしまっていた。
もちろん嬉しくないわけじゃない。
誰かの役に立てる力なら素敵だと思う。
だけど同時に怖かった。
私は普通の中学生だったはずなのに、どうしてこんな力を持っているんだろう。
どうして私なんだろう。
どうしてこの世界に呼ばれたんだろう。
考えれば考えるほど分からなくなってしまう。
「ひかり様、何か悩み事ですか?」
声を掛けられて顔を上げると、侍女のエマが心配そうにこちらを見ていた。
私は慌てて笑顔を作る。
「だ、大丈夫!」
「全然大丈夫そうに見えませんけど……」
「うっ」
図星だった。
私は誤魔化すように笑った。
その日の午後。
私は気分転換をしたくなって王宮の中を散歩していたのだけれど、気付けばほとんど人が来ないらしい図書館へ辿り着いていた。
大きな木製の扉を開くと、そこには天井まで届きそうな本棚が何列も並んでいて、思わず「すごい……」と声を漏らしてしまう。
日本の図書館も好きだったけれど、ここはまるで映画の世界みたいだった。
古い本の香り。
窓から差し込む柔らかな光。
静かな空気。
なんだか少し落ち着く。
私は本棚の間をゆっくり歩きながら、本の背表紙を眺めていた。
ふと、一冊の本が目に入った。
まるで私を呼んでいるみたいに。
その本だけが妙に気になった。
私は無意識のうちに手を伸ばしていた。
『古き伝承と聖女の記録』
表紙にはそう書かれていた。
かなり古い本らしく、ページも少し黄ばんでいる。
私は近くの机へ座り、本を開いた。
最初は昔話のような内容だった。
太陽の国。
月の国。
聖女。
英雄。
千年前の戦い。
私は興味深く読み進める。
あるページで手が止まった。
そこには一枚の挿絵が描かれていた。
私は息を呑む。
白い花畑。
どこまでも続く花。
月明かり。
私は思わず立ち上がりそうになった。
「これ……」
知ってる。
私はこの場所を知っている。
何度も夢で見た。
何度も。
何度も。
何度も。
ページを持つ手が震え始める。
挿絵の下には小さな文字が書かれていた。
『約束の花畑』
その名前を見た瞬間だった。
頭の奥がずきりと痛む。
そして。
『必ずまた会いましょう』
誰かの声が聞こえた気がした。
私は思わず本を落とした。
ガタン!
図書館に大きな音が響く。
「ひかり!?」
聞き慣れた声が聞こえた。
振り返ると、そこにはレオン王子が立っていた。
「どうした!?」
私は慌てて本を抱き締める。
「な、何でもないです!」
そう答えたけれど、自分でも顔色が悪くなっているのが分かった。
レオン王子は心配そうな顔で近付いてくる。
その瞬間。
私とレオン王子の視線が重なった。
そして…
俺、レオン・ソレイユはひかりの顔を見た瞬間、胸の奥が強く痛むのを感じていた。
何だろう。
この感覚は。
初めて会った時からずっと続いている。
懐かしい。
守りたい。
二度と失いたくない。
そんな感情が、ひかりを見ていると自然と湧き上がってくる。
すると突然。
白い花畑が頭に浮かんだ。
月明かり。
風に揺れる花。
そして。
花冠を被った少女。
少女は俺に向かって微笑んでいた。
『アルス様』
声が聞こえた気がした。
俺ははっと我に返る。
「……っ!」
なぜだ。
今のは。
誰だ。
だけど映像は一瞬で消えてしまった。
俺は無意識のうちに胸元を押さえる。
ひかりも驚いたような顔をしていた。
まるで。
同じものを見たみたいに。
「レオン王子……?」
ひかりが不安そうに俺を見上げる。
俺は慌てて笑った。
「大丈夫だ」
大丈夫じゃない。
だけど説明なんてできなかった。
なぜなら俺自身、何が起きたのか分からなかったから。
その後も私、結城ひかりは本を見つめ続けていた。
『約束の花畑』
夢の場所。
だけど不思議だった。
私は確かに知っているはずなのに。
一番大切な部分だけ思い出せない。
誰といたのか。
なぜ約束したのか。
なぜ泣きたくなるのか。
何も分からない。
それでも、私はその花畑へ行かなければならない気がしていた。
まるで運命に呼ばれているみたいに。
そしてその頃。
闇の国ノクティス王国。
ネヴァは静かに水晶を見つめていた。
そこには本を抱き締めるひかりの姿が映っている。
「約束の花畑に辿り着いたか」
わらわは小さく微笑む。
「思い出すにはまだ早い」
紫の瞳が妖しく細められる。
「だが、時は近い」
玉座の間に冷たい笑い声が響いた。
千年前の約束。
千年前の恋。
そして千年前の裏切り。
全ての運命が、少しずつ動き始めていた。
最初の設定のソレイユ王国とルナリア王国の対立がはっきり描かれていなくてすみません!




