二つの魂
私、佐伯美咲は、白い花畑で目を覚ました瞬間、そこが夢の中だと分かっているのに、風の匂いや草の感触まではっきり感じられて、不思議な気持ちで周りを見渡していた。
少し先にはアリアが立っている。
月明かりを浴びて、静かに笑っていた。
「美咲さん」
「アリアちゃん!」
私は駆け寄る。
すると、同じ瞬間に二人とも立ち止まった。
頭の中へ知らない景色が流れ込んできたからだった。
わたくし、アリア・ルナリアは、突然教室という場所に座っていて、黒い板の前で先生が話している景色を見て驚いていた。
机。
椅子。
制服姿の生徒たち。
「ここは……」
すると隣から元気な声が聞こえる。
「美咲ちゃん、ぼーっとしてる!」
わたくしは思わず振り返る。
そこには彩乃が笑っていた。
知らないはずなのに。
その名前が自然と分かる。
次の瞬間、景色は白い花畑へ戻っていた。
私は胸へ手を当てる。
「今のは……美咲さんの記憶」
私、佐伯美咲は、同じように突然月の王宮の廊下を歩いていた。
大理石の床。
大きな窓。
青白い月明かり。
侍女たちが頭を下げる。
『アリア様』
その呼び声に振り返る。
私は思わず笑ってしまう。
「これ、アリアちゃんの記憶なんだ」
夢ではない。
本当に見えている。
私、結城ひかりは、神殿の中庭で白い花の手入れをしていたのだけれど、不意に花びらが空へ舞い上がり、二つの光がゆっくり重なっていくのを見つめていた。
白い光。
月色の光。
二つは離れようとしても離れない。
「美咲ちゃんとアリアちゃん……」
胸の奥が温かくなる。
すると、神殿の奥から優しい声が聞こえた。
『二つの魂は響き合う』
私は振り返る。
誰もいない。
だけど、その声は確かにセレナだった。
俺、レオン・ソレイユは、ひかりが空を見上げて微笑んでいる姿を見つめながら、その笑顔を守りたいという想いが日に日に強くなっていることを自覚していた。
「ひかり」
名前を呼ぶとひかりが振り向く。
「どうしたの?」
「いや」
言葉が続かない。
すると、ひかりが首を傾げて笑う。
「変なレオン」
その笑顔だけで胸がいっぱいになる。
結局俺は、何も言えずに笑い返した。
俺、シリウス・ルナリアは、王宮の図書室でアリアの報告を聞きながら静かに考えていた。
「記憶が共有されている?」
アリアは真剣な表情で頷く。
「夢だけではありません」
「感情まで伝わります」
シリウスは窓の外を見る。
満月が浮かんでいる。
「千年前にも似た力があった」
小さく呟く。
「フィオラとセレナだけが使えた共鳴の力だ」
私、佐伯美咲は、その夜、自分の机で宿題をしていたのだけれど、ふとノートへ目を落とすと、いつの間にか美しい文字が書かれていることに気付いた。
『本日の予定』
『神殿訪問』
『月見の会』
私は目を丸くする。
「これ……私の字じゃない」
その瞬間。
遠くで誰かが慌てる気配がした。
わたくし、アリア・ルナリアは、自室で日記を開いた瞬間、見覚えのない丸い文字が並んでいることに驚いていた。
『数学テスト』
『放課後』
『コンビニ』
「こんびに……?」
わたくしは思わず首を傾げる。
そして少しだけ笑った。
「美咲さんの日常は、本当に不思議ですわ」
白い花畑。
夢の中で再び美咲とアリアが出会う。
今度は驚くこともなく、二人は顔を見合わせて笑った。
「また見えた?」
「はい」
「今日は宿題でした」
「私は王宮だったよ」
二人は同時に笑う。
するとその様子を少し離れた場所から見つめる少女がいた。
白い花冠。
優しい笑顔。
セレナだった。
「よかった」
小さく呟く。
「これなら二人で支え合える」
風が吹く。
セレナの姿は白い花びらになって消えていく。
その頃。
闇の国ノクティスの最深部。
ネヴァは古い石碑の前へ立っていた。
石碑には千年前の文字が刻まれている。
『二つの魂が一つになった時』
『封印の門は再び開く』
ネヴァは静かに石碑へ触れる。
紫色の光が広がる。
「もうすぐね」
その瞳には期待と悲しみが入り混じっていた。
そして、誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
「セレナ」
「今度こそ、あなたに会いたい」
月明かりの下で。
白い花と紫の花が静かに揺れていた。




