見知らぬ友達
私、佐伯美咲は、朝のホームルームが始まる前、いつものように窓際の席で外を眺めていたのだけれど、今日は教室がいつもより少しだけざわざわしていることに気付いて首を傾げていた。
「転校生が来るらしいよ!」
彩乃が嬉しそうに話す。
「そうなんだ」
私は笑って答える。
その時。
教室の時計が一瞬だけ止まった。
誰も気付いていない。
気付いたのは私だけだった。
先生が教室へ入ってくる。
「今日は転校生を紹介します」
扉が静かに開く。
一人の少女が教室へ入ってきた。
肩まで伸びた銀色に近い黒髪。
透き通るような白い肌。
優しい青い瞳。
私は思わず息を呑む。
「……アリアちゃん?」
少女は少し驚いたように私を見る。
そして小さく微笑んだ。
「初めまして」
「白峰月乃です」
教室に拍手が響く。
だけど。
私の鼓動だけがどんどん速くなっていた。
わたくし、アリア・ルナリアは、その頃月の王宮で授業を受けていたのだけれど、不意に知らない教室の景色が頭へ流れ込み、思わず羽ペンを落としてしまっていた。
黒板。
制服。
机。
そして。
私によく似た少女。
「え……?」
思わず立ち上がる。
先生が心配そうに尋ねる。
「アリア様?」
私は静かに首を横へ振った。
「大丈夫です」
だけど。
胸の鼓動だけは止まらなかった。
私、結城ひかりは、神殿の花畑で白い花へ水をあげていたのだけれど、一輪だけ青白く光る花を見つけ、不思議に思ってしゃがみ込んだ。
その花へ触れた瞬間。
知らない少女の姿が浮かぶ。
制服姿。
穏やかな笑顔。
そして。
アリアによく似た横顔。
「誰……?」
花は静かに揺れるだけだった。
私、佐伯美咲は、昼休みになって屋上へ向かおうとした時、後ろから小さな声で呼び止められた。
「佐伯さん」
振り返る。
転校生だった。
「何?」
月乃は少し考えてから小さく笑う。
「初めて会った気がしなくて」
私は目を丸くする。
その言葉。
どこかで聞いたことがある。
「私も」
自然と答えていた。
二人は並んで屋上へ向かう。
風が吹く。
白い花びらが一枚だけ空から舞い降りる。
「きれい」
月乃が呟く。
私は花びらを見つめる。
すると、月乃も同じように見つめていた。
「白い花……好き?」
私が聞く。
月乃はゆっくり頷く。
「理由は分からないけれど」
「ずっと大切なものだった気がするの」
その言葉に、胸の奥が少しだけ痛くなった。
俺、レオン・ソレイユは、神殿で本を読んでいたひかりが急に空を見上げたことに気付き、その隣へ歩いていった。
「どうした?」
ひかりは遠くを見るように微笑む。
「美咲ちゃんが新しい友達に会った気がする」
「夢か?」
「ううん」
「そんな気がしただけ」
レオンは少し笑う。
「不思議な力だな」
ひかりも笑顔で頷いた。
俺、シリウス・ルナリアは、庭園を歩くアリアの様子を見ながら、彼女がずっと考え事をしていることに気付いていた。
「何かあったか?」
アリアは少し迷ってから話し始める。
「知らない少女を見ました」
「でも」
「とても懐かしかったんです」
シリウスは静かに月を見上げる。
「運命は人を引き寄せる」
その言葉に。
アリアは小さく頷いた。
私、佐伯美咲は、放課後になって月乃と一緒に校門を歩いていたのだけれど、ふと足を止めた。
道路脇の植え込みに。
白い花が一輪咲いていたから。
「こんな花、昨日あった?」
私が聞く。
月乃は静かに首を横へ振る。
そして。
その花へそっと触れた。
二人の頭の中へ同じ声が響く。
『友達になって』
優しい少女の声。
懐かしい笑顔。
白い花冠。
二人は同時に顔を見合わせた。
「今……聞こえた?」
「うん」
言葉は短かった。
だけど。
それだけで十分だった。
その頃。
闇の国ノクティス。
ネヴァは水鏡に映る美咲と月乃の姿を静かに見つめていた。
「新しい縁が生まれたのね」
隣にいた側近が尋ねる。
「止めますか?」
ネヴァはゆっくり首を横へ振った。
「いいえ」
「友情は運命を変える力になる」
紫色の瞳が細められる。
「だからこそ」
「最後に一番残酷な選択を迫ることになる」
窓の外では、白い花びらと紫の花びらが寄り添うように風へ乗り、静かに夕焼けの空へ舞い上がっていた。




