現代の少女
私、佐伯美咲は、いつも通り制服に袖を通して家を出たのだけれど、最近は朝になるたびに異世界で過ごした夢を思い出してしまい、どこか心がふわふわしたまま学校へ向かっていた。
「おはよう、美咲!」
幼なじみの彩乃が手を振る。
「おはよう!」
笑って返事をする。
いつもと変わらない朝。
だけど、鞄の中には一枚の白い花びらが入っていた。
昨日までなかったはずなのに。
私、結城ひかりは、神殿の図書室で古い本を読んでいたのだけれど、不意に胸が温かくなり、美咲も今頃同じ朝を迎えているような気がして自然と窓の外を見上げていた。
「元気かな」
小さく呟く。
すると。
窓辺に白い小鳥が止まる。
小鳥は一度だけ鳴くと、青空へ飛び立っていった。
私、佐伯美咲は、一時間目の授業が始まってノートを開いた瞬間、ページの端に見覚えのない絵が描かれていることに気付いて目を丸くしていた。
白い花。
月。
太陽。
そして、花冠を被った少女。
「これ……」
私は描いた覚えがない。
隣の彩乃が覗き込む。
「美咲、絵うまいね!」
「え?」
「昨日描いたんじゃないの?」
私は静かに首を横へ振る。
「違うよ」
彩乃は不思議そうに笑った。
わたくし、アリア・ルナリアは、月の王宮で勉強をしていたのだけれど、本へ目を向けるたびに知らない文字が頭へ浮かんできて、思わず羽ペンを止めてしまっていた。
『数学』
『英語』
『理科』
知らないはずの言葉。
だけど、どれも懐かしい。
「これは……美咲さん?」
私は思わず笑う。
少しずつ、夢を通して記憶が重なり始めていた。
俺、シリウス・ルナリアは、庭園で本を読むアリアを見つめながら、その表情が以前より柔らかくなっていることに気付いていた。
「最近楽しそうだな」
アリアは嬉しそうに微笑む。
「新しい友達ができましたから」
「夢の中ですけれど」
シリウスは小さく笑う。
「それでも友達は友達か」
その言葉に。
アリアは大きく頷いた。
私、佐伯美咲は、昼休みに屋上へ行くと、青空から白い花びらが一枚だけゆっくり落ちてくるのを見つけて思わず手を伸ばしていた。
花びらは私の手へ乗る。
その瞬間、頭の中へ優しい声が響く。
『美咲』
「ひかり?」
風が吹く。
目を閉じる。
一瞬だけ。
異世界の神殿が見えた。
白い柱。
青い空。
そして手を振るひかり。
私は思わず笑った。
「見えてるよ」
その声は届かない。
それでも、ひかりも同じように笑っている気がした。
私、結城ひかりは、その頃神殿の庭で空を見上げていたのだけれど、突然風が吹き、白い花びらが空高く舞い上がった瞬間、不思議と誰かがすぐ近くにいるような温もりを感じていた。
「美咲ちゃん」
自然に名前を呼ぶ。
すると遠くからレオンが歩いてくる。
「何を見てる?」
私は空を指差す。
「友達」
レオンは少し首を傾げる。
「誰もいないぞ」
私は笑う。
「見えないだけ」
その答えにレオンも優しく笑った。
「そうか」
その夜。
私、佐伯美咲は、机へ向かって宿題をしていたのだけれど、ノートの最後のページへ気付かないうちに文字を書いていた。
『また会おう』
『白い花の咲く場所で』
私は驚いてペンを止める。
すると文字の下へ、もう一つの筆跡がゆっくり浮かび上がった。
『待ってる』
その文字はひかりのものだった。
遠く離れた異世界。
私、結城ひかりも同じ時間に日記を開いていた。
何も書いていないページへ。
白い光が走る。
そこには一行だけ文字が現れる。
『今日も元気だよ』
私は思わず笑顔になる。
「美咲ちゃん」
同じ月。
同じ夜。
違う世界。
だけど二人の心の距離は、昨日より少しだけ近付いていた。




