交差する想い
第三章、「月の姫と現代の少女」、開幕です
私、結城ひかりは、運命の扉が閉じたあともしばらく祭壇の前から動くことができなくて、美咲の最後の笑顔を何度も思い返していた。
「あれは夢じゃないよね……」
そっと呟く。
すると手の中の白と紫の花が淡く光った。
「また会える」
その光がそう教えてくれている気がした。
私、佐伯美咲は、教室の自分の席へ戻ってきても心臓の鼓動がなかなか落ち着かなくて、窓の外に浮かぶ白い雲をぼんやり眺めていた。
「ひかり……」
初めて会った。
ちゃんと話した。
ちゃんと笑った。
それなのに。
今はもう遠い世界にいる。
「早くまた会いたいな」
その瞬間。
机の上に白い花びらが一枚舞い降りた。
わたくし、アリア・ルナリアは、王宮のバルコニーで月を見上げながら、美咲という少女のことを考えていた。
初めて会ったはずなのに。
昔から知っているような安心感。
同じ笑い方。
同じ泣き方。
そして同じ温もり。
「本当に不思議な方ですわ」
私が微笑む。
すると胸の奥から懐かしい声が聞こえた。
『仲良くしてね』
セレナの優しい声だった。
俺、レオン・ソレイユは、庭園でぼんやり空を見上げるひかりを見つけ、その横顔から目を離せなくなっていた。
「まだ考えてるのか」
俺が隣へ立つ。
ひかりは少し笑う。
「うん」
「美咲ちゃんのこと」
その名前を聞くだけで。
ひかりの表情は柔らかくなる。
少しだけ胸が苦しくなる。
だけど、その笑顔を曇らせたくない。
「きっとまた会える」
俺が言う。
ひかりは嬉しそうに頷いた。
「うん!」
その笑顔を見て。
また胸が高鳴った。
俺、シリウス・ルナリアは、その様子を少し離れた場所から見ていたのだけれど、不思議と前のような焦りはなく、静かにひかりを見守っていた。
すると。
アリアが隣へやって来る。
「兄上」
「何だ」
「恋とは応援したくなるものでもありますのね」
俺は思わず笑ってしまう。
「そう簡単じゃない」
「でも」
視線はひかりへ向く。
「笑っていてほしい」
その言葉に。
アリアは優しく頷いた。
私、佐伯美咲は、その夜眠りについた瞬間、再び白い花畑へ立っていた。
「ここ……」
周りを見渡す。
すると少し離れた場所に一人の少女が立っていた。
月明かりのような銀色のドレス。
長い白銀の髪。
透き通る水色の瞳。
その少女はゆっくり振り返る。
「美咲さん」
優しい声だった。
私は目を丸くする。
「アリアちゃん!」
二人は同時に笑う。
そして自然に歩み寄った。
私、結城ひかりは、その頃同じ夢の中で花畑の奥を歩いていたのだけれど、木々の隙間から楽しそうな笑い声が聞こえて足を止めていた。
そっと覗く。
そこにはアリアと美咲が並んで座っていた。
まるで昔から親友だったように。
「ふふっ」
二人が同時に笑う。
その姿が、一瞬だけセレナの面影と重なる。
だけど次の瞬間には、また別々の二人へ戻っていた。
私は胸へ手を当てる。
「セレナじゃない」
「アリアちゃんと美咲ちゃん」
自然と笑顔になる。
二人は二人なんだ。
その答えが嬉しかった。
すると花畑の中央に一本の白い木が現れる。
枝には無数の花が咲いている。
その中に一輪だけ紫色の花が混ざっていた。
風が吹く。
紫色の花がゆっくり揺れる。
遠くから懐かしい歌声が聞こえる。
誰も知らないはずなのに。
三人とも自然にその歌を口ずさんでいた。
その頃。
闇の国ノクティス。
玉座へ一人の少女が駆け込んでくる。
「女王ネヴァ様」
ネヴァは静かに目を開く。
少女は震える声で告げた。
「運命の扉が完全に共鳴を始めました」
ネヴァはゆっくり立ち上がる。
窓の外には。
白い光が空へ伸びていた。
「そう」
「ついに月の姫と現代の少女が出会ったのね」
紫色の瞳が静かに細められる。
その表情は嬉しそうでもあり、どこか寂しそうでもあった。
「もうすぐ」
「千年前の続きを始めましょう」
白い花びらと紫の花びらが。
夜空で静かに交差していた。




