運命の扉
私は、セレナが白い花びらとなって空へ消えていく姿を見送ったあとも、その温もりが手の中に残っている気がして、静かに胸へ手を当てていた。
花畑には風だけが吹いている。
すると。
祭壇の奥から、小さな光が生まれた。
光はゆっくり大きくなり、一枚の扉の形を作り始める。
白い扉。
中央には太陽と月、そして一輪の花が刻まれていた。
「これは……」
私が呟く。
アリアが息を呑む。
「伝承にある運命の扉ですわ」
俺、レオン・ソレイユは、ひかりの前へ一歩進み、その扉から溢れる不思議な力を感じながら静かに剣へ手を添えていた。
「開くのか?」
誰にも分からない。
その時。
ひかりがゆっくり扉へ触れた。
白い光が広がる。
神殿全体が震える。
そして。
扉は静かに開いた。
私、佐伯美咲は、白い花畑の中でアリアと並んで立っていたのだけれど、目の前に現れた扉を見た瞬間、心臓が大きく鼓動した。
扉の向こうには。
見慣れた制服姿の少女。
長い黒髪。
優しい瞳。
私は思わず一歩前へ進む。
「ひかり……?」
私、結城ひかりは、扉の向こうから聞こえた自分を呼ぶ声に顔を上げ、その先に立つ少女を見つけた瞬間、胸の奥が熱くなって涙が溢れていた。
「美咲……!」
私は走り出す。
美咲も走り出す。
二人は扉の前で同時に手を伸ばした。
あと少し。
届く距離。
だけど。
指先が触れる直前。
光が揺れた。
二人の手はすり抜ける。
「え……」
私は目を見開く。
美咲も同じ表情だった。
わたくし、アリア・ルナリアは、その光景を見ながら自然と涙が零れていた。
「あと少しなのに……」
すると、祭壇に残っていた白い花冠が光り始める。
花冠は空へ浮かび。
ひかりと美咲の間へゆっくり降りてきた。
そして、二人の指先を優しく包み込む。
今度は。
確かに温もりが伝わった。
私、佐伯美咲は、その瞬間、ひかりの笑顔がはっきり見えて嬉しくて涙が止まらなかった。
「本当にいたんだね」
私は笑う。
ひかりも泣きながら笑う。
「ずっと会いたかった」
「私も!」
短い言葉なのに。
何年も探していた親友へようやく届いた気がした。
俺、シリウス・ルナリアは、その光景を見つめながら静かに微笑んでいた。
「これがセレナの願いか」
レオンも頷く。
「世界を繋ぐこと」
二人は顔を見合わせる。
敵としてではなく。
同じ未来を守る仲間として。
その想いはもう揺らがなかった。
すると。
突然、扉の奥から紫色の光がゆっくり広がり始める。
白い花びらが黒く染まる。
空が曇る。
「これは……!」
神殿が大きく揺れる。
扉の向こうで美咲が驚いたように空を見る。
同じ瞬間。
異世界でも空が紫色へ染まっていた。
遠くから女性の声が響く。
『やっと開いた』
『世界を繋ぐ扉』
『今度は私も向こうへ行ける』
その声と共に。
紫色の花びらが風に舞う。
私、結城ひかりは、扉の向こうにいる美咲を守るように前へ立った。
「誰?」
静かな笑い声が返ってくる。
『千年前に忘れられた友よ』
『待っていて』
『もうすぐ迎えに行くから』
光が消える。
扉もゆっくり閉じ始める。
「美咲!」
「ひかり!」
二人は最後まで互いの名前を呼び続けた。
そして、扉は静かに閉じた。
神殿には再び静寂が戻る。
だけど。
祭壇の上には新しく一輪の花が咲いていた。
白と紫が混ざった。
今まで誰も見たことのない花。
私はその花をそっと手に取る。
「絶対にまた会える」
その言葉に。
レオンが頷く。
シリウスも微笑む。
アリアは空を見上げた。
遠く離れた現代で。
美咲も同じ月を見上げている。
運命の扉は閉じた。
けれど、世界を繋ぐ心は、もう誰にも壊せない。
第三章「残された親友」 完
そして物語は、新たな真実へ。
第四章「月の姫と現代の少女」
──交わるはずのなかった二人の少女が、ついに世界の境界を越え始める。美咲とアリア、二人に託されたセレナの想いが、千年前の運命を大きく動かしていく──




