残された親友
私は、白い橋と花冠を見た夢から目覚めても、その景色が心から離れなくて、窓から見える朝焼けをぼんやり眺めていた。
すると。
机の上に置いた白い花が淡く光り始める。
「え……?」
花びらが一枚だけ宙へ浮かぶ。
そのままゆっくり扉の外へ飛んでいく。
私は思わず後を追いかけた。
俺、レオン・ソレイユは、朝早く王宮の庭を歩いていたのだけれど、走ってくるひかりを見つけて驚き、その先で白い花びらが光を放ちながら神殿へ向かっていることに気付いた。
「ひかり!」
「レオン! 花が!」
二人で神殿へ向かう。
その途中、アリアとシリウスも合流した。
四人が揃った瞬間。
花びらは神殿の祭壇へ静かに舞い降りる。
わたくし、アリア・ルナリアは、祭壇の上に置かれた花びらが眩しいほどの光を放つのを見つめながら、胸の奥で懐かしい鼓動を感じていた。
「この光……」
誰も動けない。
やがて祭壇の前に、一人の少女が姿を現した。
栗色の髪。
優しい茶色の瞳。
白いワンピース。
そして。
白い花冠。
「セレナ……」
わたくしとひかりは同時に名前を呼んでいた。
私、佐伯美咲は、その頃現代で授業を受けていたのだけれど、突然窓の外から白い花びらが教室へ舞い込み、景色がゆっくり白く染まっていくのを感じていた。
誰にも見えていない。
見えているのは私だけ。
花びらは机の上へ落ちる。
すると、頭の中に声が響いた。
『美咲』
涙が自然に溢れる。
「セレナ……?」
その瞬間。
私は夢ではなく、意識だけが白い花畑へ導かれていた。
私、結城ひかりは、祭壇の前へ立つセレナを見つめていたのだけれど、その笑顔はどこまでも優しくて、昔から知っている親友を迎えるような安心感に包まれていた。
「やっと会えたね」
セレナが微笑む。
「うん」
私は頷く。
「ずっと会いたかった」
セレナは嬉しそうに笑った。
そして。
ゆっくり振り返る。
その先にはアリアがいた。
さらに。
白い光の中から美咲の姿が現れる。
異世界と現代。
本来交わらない二人が。
初めて同じ場所へ立っていた。
私、佐伯美咲は、目の前にいるアリアを見た瞬間、初めて会うはずなのに胸がいっぱいになって、気付けば涙を流していた。
「やっと会えた」
自然に言葉が零れる。
アリアも涙を浮かべて笑う。
「わたくしもです」
二人はゆっくり近付く。
そして。
そっと手を重ねた。
触れた瞬間、白い光が花畑いっぱいに広がる。
セレナは二人を見つめながら静かに話し始めた。
「私は千年前、自分の魂を二つに分けたの」
「一つは月の国へ」
「一つは千年後の世界へ」
ひかりが驚く。
「どうして?」
セレナは少し寂しそうに笑った。
「未来でフィオラを一人にしないため」
「千年前の私では救えなかった未来を」
「二人なら変えられると思ったから」
美咲とアリアは顔を見合わせる。
どちらも何も言えない。
だけど。
胸の奥では同じ温かさが広がっていた。
俺、シリウス・ルナリアは、その光景を少し離れた場所から見つめながら、千年前のルナとしての記憶が静かに蘇っていくのを感じていた。
花畑。
五人で笑う日々。
そして、いつも中心で笑っていたセレナ。
「本当に……お前だったんだな」
小さく呟く。
その声を聞いたセレナは優しく笑った。
「久しぶり、ルナ」
シリウスは少し照れくさそうに笑う。
「その呼び方は反則だ」
その一言にみんなが笑った。
セレナは最後にひかりの前へ歩いてくる。
「ひかり」
「何?」
「ありがとう」
「私の親友になってくれて」
私は首を横へ振る。
「違うよ」
「ずっと親友だった」
その言葉に。
セレナは嬉しそうに目を細めた。
そして。
花びらになって空へ溶けていく。
『これからは』
『アリアと美咲が』
『私の代わりじゃない』
『二人自身として生きてね』
『そして』
『ひかりをよろしく』
最後の声が風に乗って消えていく。
白い花畑には。
ひかり。
アリア。
美咲。
三人だけが残っていた。
三人は同じ空を見上げる。
同じ月を見つめる。
違う世界に生きていても。
もう迷わない。
千年前から繋がる友情は今、新しい形で未来へ受け継がれた。




