夢の向こう側
私は、美咲とアリアが同じ声で私の名前を呼んだ夢を見てから、その意味をずっと考えていたのだけれど、答えは見つからないまま今日も夜を迎えていた。
「セレナ……」
その名前を呟きながら眠りにつく。
すると。
柔らかな光が私を包み込んだ。
目を開く。
そこはいつもの白い花畑だった。
だけど今日は少し違う。
空が夕焼け色に染まっている。
花びらがゆっくりと舞い続けている。
そして。
花畑の中央に、一人の少女が立っていた。
長いミルクティーブラウンの髪。
青く澄んだ瞳。
白と金の聖女衣装。
花冠を優しく抱えている。
「……フィオラ様」
私が小さく呟く。
少女はゆっくり振り返った。
そして。
私によく似た笑顔で微笑んだ。
「やっと会えたね」
優しい声だった。
初めて聞くはずなのに。
涙が出そうになるほど懐かしい。
私は一歩前へ進む。
「あなたは……私?」
フィオラは首を横に振った。
「私はフィオラ」
「そしてあなたは結城ひかり」
その言葉に私は少し安心した。
「同じじゃないの?」
フィオラは花冠を見つめながら答える。
「私は千年前を生きた聖女」
「あなたは千年後を生きる少女」
「違う時代を生きる、別々の人だよ」
その言葉を聞いて胸が軽くなった。
私は私でいい。
前世に縛られなくていい。
ずっと聞きたかった答えだった。
その時。
花畑の奥から笑い声が聞こえた。
振り返る。
そこには四人の少年少女がいた。
アルス。
ルナ。
セレナ。
そしてフィオラ。
みんな楽しそうに笑っている。
花冠を作り。
追いかけっこをして。
肩を並べて空を見上げている。
戦いなんて存在しない。
穏やかな時間。
「こんな毎日だったんだ……」
私は思わず呟いた。
フィオラが静かに頷く。
「一番大切な思い出」
「だから守りたかった」
私、佐伯美咲は、その夜も夢を見ていたのだけれど、今日はいつもの花畑ではなく、小さな丘の上に立っていた。
隣には一人の少女。
セレナだった。
「見て」
セレナが前を見る。
丘の下には四人が笑っている。
私はその光景を見つめた。
「幸せそう」
セレナは優しく笑った。
「うん」
「だから私は約束したの」
「未来でもみんなを繋ぐって」
私はセレナを見る。
その姿は少しずつ透け始めていた。
「消えちゃうの?」
セレナは首を横に振る。
「違うよ」
「私はアリアにも」
「美咲にもいるから」
その言葉に胸が温かくなった。
わたくし、アリア・ルナリアは、同じ夜に不思議な夢を見ていたのだけれど、その夢の中でセレナがわたくしへ一輪の白い花を渡してくれた。
「これは?」
私が聞く。
セレナは笑う。
「親友の証」
「なくさないでね」
私が花を受け取ると。
白い光が広がった。
そして。
遠くから誰かの声が聞こえる。
『アリア』
『美咲』
『ひかり』
三人の名前が重なる。
その声は。
フィオラだった。
俺、レオン・ソレイユは、夜の庭園を歩いていたが、胸騒ぎがして眠ることができず、一人で月を見上げていた。
すると隣にシリウスが現れる。
「お前も眠れないのか」
「ああ」
短い返事。
だけど。
昔のような険しい空気はもうない。
二人は静かに夜空を見る。
「ひかりは笑ってるかな」
レオンが呟く。
シリウスは少し笑う。
「あいつなら大丈夫だ」
「泣いてても最後は笑う」
二人とも同じ光景を思い浮かべていた。
無邪気に笑う少女を。
夢の終わり。
私、結城ひかりは、フィオラと並んで白い花畑に立っていた。
フィオラは私を見つめる。
「ありがとう」
「私の代わりじゃなく」
「ひかりとして生きてくれて」
私はゆっくり頷く。
「うん」
「私は私だから」
その瞬間。
フィオラは嬉しそうに微笑んだ。
そして。
花冠をそっと私の頭へ乗せる。
「未来をお願い」
風が吹く。
白い花びらが空いっぱいに舞う。
フィオラの姿は光になり。
ゆっくりと夜空へ溶けていった。
朝。
私は目を覚ます。
窓の外には優しい朝日。
机の上には。
夢では見たことのないはずの白い花が一輪だけ置かれていた。
私はその花をそっと胸に抱く。
「約束するよ」
フィオラの願いも。
セレナの想いも。
そして、美咲やアリアとの絆も。
全部大切にしながら私は結城ひかりとして未来を歩いていく。




