見えない絆
私、結城ひかりは、最近見る夢のことが気になって仕方がなかったのだけれど、それ以上に気になっているのは、その夢の中で何度も美咲の姿を見かけるようになったことだった。
朝食の席でも考えてしまう。
窓の外を見ても考えてしまう。
「ひかり?」
アリアが不思議そうにこちらを見る。
私は慌てて顔を上げた。
「え?」
「最近ぼんやりしていますわ」
図星だった。
私は苦笑する。
「そんなに分かりやすい?」
「とても」
アリアは優雅に紅茶を飲みながら頷いた。
「また夢ですの?」
私は目を丸くした。
「どうして分かったの?」
「わたくしも見ていますから」
その言葉に私は固まった。
わたくし、アリア・ルナリアは、ひかりと同じように白い花畑の夢を見るようになっていたのだけれど、最近はその夢が少しずつ鮮明になっていて、自分でも戸惑いを隠せなくなっていた。
「夢の中で女の子を見ました」
私が言う。
ひかりが身を乗り出した。
「黒髪の子?」
「えっ」
今度は私が驚く番だった。
「ひかりも見たの?」
私は頷く。
すると二人の間に沈黙が落ちる。
偶然とは思えなかった。
「同じ夢……?」
ひかりが呟く。
私は静かに頷いた。
胸の奥がざわついていた。
まるで何か大切な真実がすぐ近くまで来ているようだった。
私、佐伯美咲は、その日の放課後に図書室へ向かっていたのだけれど、最近は夢について調べることが増えていて、自分でも少し不思議に思っていた。
普通なら夢なんて気にしない。
だけどあの夢は違う。
絶対に意味がある。
そんな気がしてならなかった。
私は夢に関する本を何冊か取り出す。
そして席へ座った。
その時だった。
ひらり。
白い花びらが本の上へ落ちる。
「また……」
最近本当に増えている。
私は花びらへ手を伸ばした。
すると頭の中に声が響いた。
『ありがとう』
優しい声だった。
女の子の声。
私は思わず立ち上がる。
「誰!?」
周囲の生徒が驚いてこちらを見る。
私は慌てて座り直した。
だけど。
心臓は激しく鳴っていた。
俺、シリウス・ルナリアは、王宮の訓練場で剣を振っていたのだけれど、最近のひかりとアリアの様子が少し気になっていた。
二人とも何かを隠している。
いや。
隠しているというより、自分たちでも理解できていない何かに悩んでいるように見えた。
「兄上」
アリアがやって来る。
表情が少し曇っている。
「どうした」
アリアは少し迷った後で口を開いた。
「もしも記憶ではない記憶が見えたらどう思いますか?」
俺は眉をひそめた。
「何だそれは」
「わたくしにも分かりません」
アリアは苦笑する。
だけどその瞳は真剣だった。
俺は少し考えた。
そして答える。
「理由があるんだろうな」
アリアが顔を上げる。
「理由?」
「ああ」
俺は頷いた。
「意味のないことなら千年も世界は続いていない」
その言葉を聞いてアリアは少しだけ笑った。
その夜。
私、結城ひかりは、再び白い花畑へ立っていたのだけれど、今日はいつもと違って不思議な光が周囲を包んでいた。
花びらが舞う。
優しい風が吹く。
そして。
遠くから二人の少女が歩いて来る。
一人は美咲。
もう一人は。
「アリア……?」
私は目を見開いた。
二人は驚いた顔でお互いを見ていた。
初めて会ったはずなのに。
ずっと前から知っていたみたいに。
「あなた……」
美咲が呟く。
「どこかで……」
アリアも同じ言葉を口にする。
その瞬間。
二人の間で白い光が輝いた。
そして一人の少女の姿が一瞬だけ映る。
長い髪。
優しい笑顔。
どこまでも温かな瞳。
「セレナ……?」
ひかりが思わず呟く。
すると少女は微笑んだ。
『もう少しだよ』
その声は優しかった。
だけどどこか寂しそうでもあった。
次の瞬間。
花畑が眩しい光に包まれる。
夢が終わる。
だけど。
目覚める直前。
私は確かに聞いた。
『二人は一つだったんだよ』
という声を。
翌朝。
私、結城ひかりは、夢の内容を思い出しながら窓の外を見ていたのだけれど、胸の奥では一つの疑問が大きくなり始めていた。
美咲とアリア。
二人を繋ぐもの。
セレナ。
そして千年前。
全部がどこかで繋がっている。
そんな気がしてならなかった。
次回
第41話 知らない記憶
――アリアの中に流れ込む千年前の記憶。そして美咲にも異変が起こり始める――。




