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ひかり〜約束の花〜  作者: せいら
夢と召喚と
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月の姫と銀の王子

私は豪華な客室の窓辺に立ちながら、見慣れない異世界の景色をぼんやりと眺めていたのだけれど、窓の向こうに広がるソレイユ王国の街並みは相変わらず現実感がなく、まるで夢の続きを見ているような気分からどうしても抜け出すことができなかった。

昨日までは日本で普通の中学生として生活していたはずなのに、今は王宮の一室で目を覚まし、聖女かもしれないなんて言われているのだから、自分でも笑ってしまうくらい状況がめちゃくちゃだった。

それでも少しずつ分かってきたこともある。

ソレイユ王国の人たちはみんな優しい。

使用人さんたちも。

騎士さんたちも。

国王様も王妃様も。

そして――レオン王子も。

私は窓ガラスに映る自分の姿を見つめながら、小さく息を吐いた。

「はぁ……」

すると。

コンコン。

部屋の扉がノックされた。

「ひかり、入ってもいいか?」

聞こえてきたのはレオン王子の声だった。

「は、はい!」

私は慌てて返事をする。

すると扉が開き、レオン王子が姿を現した。

今日も相変わらず絵本から飛び出してきた王子様みたいだった。

金色の髪は窓から差し込む光を受けて輝いていて、赤い瞳はどこか優しく、それでいて強い意志を感じさせる。

私は思わず見惚れそうになってしまい、慌てて視線を逸らした。

なんだろう。

初めて会ったはずなのに。

レオン王子を見ると胸の奥が少しだけ落ち着く。

それと同時に、なぜか切ない気持ちになる。

まるで昔から知っている人みたいに。

「今日はひとり紹介したい人がいるんだ」

「紹介したい人?」

私が首を傾げると、レオン王子は微笑みながら頷いた。

「ルナリア王国から来ている客人だ」

ルナリア王国。

昨日説明された国の名前だった。

ソレイユ王国が太陽の国なら、ルナリア王国は月の国。

正反対の特徴や政治体制を持つ隣国らしい。

私は少し緊張しながらレオン王子の後ろについて廊下を歩いた。

王宮の廊下は何度見ても綺麗で、磨き上げられた床には大きな窓から差し込む光が反射し、まるで物語の世界を歩いているみたいだった。

そして案内された応接室の前で立ち止まる。

レオン王子が扉を開いた。

その瞬間。

私は目を見開いた。

そこには二人の男女が座っていた。

ひとりは銀髪の青年。

ひとりは紫がかった白髪の少女。

「はじめまして」

先に立ち上がったのは少女の方だった。

長い髪は月明かりを溶かしたみたいに美しく、水色の瞳は宝石のように透き通っている。

その姿は本当にお姫様そのものだった。

「わたくしはルナリア王国第一王女、アリアと申します」

優雅にスカートを摘みながら頭を下げる姿に、私は思わず慌ててお辞儀を返した。

「ゆ、結城ひかりです!」

するとアリア姫はふわりと微笑んだ。

その笑顔を見た瞬間だった。

胸が少しだけ痛んだ。

懐かしい。

どうしてだろう。

初めて会ったはずなのに。

なぜか涙が出そうになる。

私は慌ててその感情を押し込めた。

きっと気のせいだ。

そう思うことにした。

「それで、こっちは俺の兄だ」

アリア姫がそう言った瞬間。

銀髪の青年が立ち上がった。

「シリウスだ」

短い自己紹介だった。

だけど存在感はすごい。

銀色の髪。

鮮やかな緑の瞳。

高い身長。

整った顔立ち。

少し不敵な笑み。

まるで少女漫画から出てきたみたいな人だった。

「へぇ」

シリウス王子は私をじっと見つめる。

私は思わず緊張して背筋を伸ばした。

「お前が聖女候補か」

「こ、候補ですけど……」

「ふーん」

なんだろう。

すごく見られている。

試されている気がする。

すると。

シリウス王子が突然笑った。

「面白そうだな」

「え?」

「思ってたより普通だ」

「普通で悪かったですね!?」

思わずツッコんでしまった。

するとレオン王子が吹き出し、アリア姫まで口元を隠しながら笑い始める。

「ふふっ」

「ははは!」

私は顔を赤くした。

なんだろうこの人たち。

王族なのに距離が近い。

だけど不思議だった。

アリア姫と話していると落ち着く。

シリウス王子と話していると自然と笑ってしまう。

まるで昔から知っていた友達みたいに。

その時だった。

アリア姫がふと私を見つめた。

ほんの一瞬。

アリア姫の瞳が揺れた気がした。

まるで何かを思い出しそうになったみたいに。

「アリア?」

シリウス王子が声を掛ける。

するとアリア姫は我に返ったように微笑んだ。

「何でもありませんわ」

だけど、私は見逃さなかった。

あの表情。

あれはきっと私と同じだった。

懐かしい。

そんな感情。

なぜだか分からないけれど、私たちはどこかで会ったことがあるような気がしてならなかった。


そしてその頃。

誰も知らない場所。

深い闇に包まれた王国で。

ひとりの女王が紫色の瞳を細めていた。

「ようやく現れたか……」

漆黒の玉座に座るその女性は、美しくも恐ろしい笑みを浮かべながら水晶に映るひかりの姿を見つめていた。

黒から毒々しい紫へと変わる長い髪が揺れる。

「今度こそ、わらわのものにしてやる」

その声は静かな闇の中へ溶けていった。

まだ誰も知らない。

太陽の国でも。

月の国でも。

そしてひかり自身も。

伝説から消された第三の王国――

闇の国ノクティス王国が動き始めていることを。

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