白い花びら
私、佐伯美咲は、最近何度も同じような夢を見るようになっていたのだけれど、その夢の中には必ず白い花びらが舞っていて、それを見るたびに胸の奥が不思議な温かさと切なさでいっぱいになっていた。
その日の朝も、目を覚ました瞬間に夢の続きを思い出していた。
白い花畑。
優しい風。
そして、遠くに立つ誰か。
だけど顔だけはどうしても思い出せない。
「またあの夢か……」
私はベッドから起き上がった。
最近ずっとこんな調子だった。
ひかりがいなくなってから見るようになった夢。
偶然とは思えなかった。
学校へ向かう途中。
私は川沿いの道を歩いていた。
すると。
ひらり。
目の前を白い花びらが横切った。
「また……!」
私は思わず立ち止まる。
昨日も見た。
今日も見た。
それも一度や二度じゃない。
まるで私をどこかへ導こうとしているみたいだった。
花びらは風に乗ってゆっくり進んでいく。
私は気付けばその後を追いかけていた。
「待って!」
もちろん花びらが返事をするわけじゃない。
だけど不思議と追いかけたくなった。
花びらが辿り着いたのは、小さな公園だった。
懐かしい場所。
私とひかりが小さい頃によく遊んだ公園だ。
「ここ……」
思わず周囲を見渡す。
ブランコ。
滑り台。
ベンチ。
全部昔のままだった。
私はゆっくりとベンチへ腰掛ける。
すると自然と昔のことを思い出した。
『美咲ー!』
『早くー!』
元気いっぱいに走るひかり。
私はいつもその後を追いかけていた。
転びそうになれば手を引いて。
泣きそうになれば励まして。
だけど本当は。
助けられていたのは私の方だった。
ひかりがいたから毎日が楽しかった。
「会いたいな……」
そう呟いた瞬間だった。
ひらり。
また白い花びらが舞った。
そしてベンチの上へ落ちる。
私はそっと手に取った。
その時、頭の奥で知らない景色が見えた。
白い花畑。
青空。
笑い声。
四人の少女と少年。
その中の一人がこちらを振り返る。
優しい笑顔。
そして。
『ありがとう』
声が聞こえた。
私は目を見開く。
「誰……?」
景色はすぐに消えた。
だけど胸だけは激しく鳴っていた。
私、結城ひかりは、その頃アリアと一緒に王都の花市場を歩いていたのだけれど、並んでいる花を見ているうちに、ふと美咲のことを思い出していた。
「どうかした?」
アリアが聞く。
「ううん」
私は笑う。
「この花、美咲が好きそうだなって思って」
アリアは少し驚いた顔をした。
「そんなに大切なお友達なのね」
「うん!」
私は迷わず頷いた。
「世界で一番の親友だから」
その言葉を聞いた瞬間。
アリアの瞳が揺れた。
まるで。
何かを思い出しそうになるみたいに。
わたくし、アリア・ルナリアは、「世界で一番の親友」という言葉を聞いた瞬間に胸の奥が温かくなったのだけれど、それと同時に説明できない寂しさも感じていた。
親友。
その言葉が懐かしい。
誰かにそう呼ばれていた気がする。
誰かをそう呼んでいた気がする。
だけど思い出せない。
「アリア?」
ひかりが不思議そうに顔を覗き込む。
私は慌てて微笑んだ。
「何でもありませんわ」
そう答えたけれど、本当は気になって仕方なかった。
最近、夢を見るようになった。
白い花畑の夢を。
その夜。
私、佐伯美咲は再び夢を見ていた。
白い花畑だった。
花びらが舞っている。
そして、今度は少女の顔が少しだけ見えた。
長い髪。
優しい笑顔。
どこかひかりに似ている。
少女は私を見つめながら微笑んだ。
『もう少し』
その声は優しかった。
『もう少しで会えるよ』
私は思わず手を伸ばす。
「待って!」
だけど距離は縮まらない。
少女は少しだけ寂しそうに笑った。
そして。
『約束だから』
そう言い残して消えていった。
目を覚ました私は、しばらく天井を見つめていた。
心臓が速い。
涙が出そうだった。
どうしてか分からない。
だけど、確信していた。
あの夢には意味がある。
白い花びらにも意味がある。
そして、ひかりの失踪にも。
きっと何か理由がある。
私はゆっくりと拳を握った。
「待ってて」
誰に向けた言葉なのか分からなかった。
だけど、絶対に諦めない。
そんな決意だけははっきりとしていた。
次回
第37話 同じ夢
――異世界のひかりと現代の美咲。離れた二人が同じ夢を見る時、運命の歯車が静かに動き始める――。




