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ひかり〜約束の花〜  作者: せいら
残された親友
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35/60

空白の席

私、佐伯美咲は、今日も当たり前のように学校へ向かっていたのだけれど、その当たり前の中には、もう一人の親友の姿だけが欠けていて、その事実に慣れることができないままだった。

教室の扉を開く。

いつも通りの朝。

クラスメイトたちの話し声。

先生の足音。

窓から差し込む朝日。

何も変わらない。

本当に何も変わらない。

ただ一つだけ。

ひかりの席を除いては。

私は無意識に窓際の席を見る。

そこには誰もいない。

机も椅子も残っている。

だけど。

持ち主だけがいない。

「おはよう、美咲」

友達が声を掛けてくる。

「おはよう」

私は笑顔を作った。

最近は泣かなくなった。

だけど悲しくなくなったわけじゃない。

泣きすぎて涙が出なくなっただけだ。

授業中も私は何度も窓際を見てしまう。

先生に当てられた時。

ノートを取っている時。

休み時間。

ふとした瞬間。

その度に思う。

今ひかりがいたら何て言うだろう。

きっと笑っている。

きっとみんなと話している。

きっと私の隣にいる。

そんなことばかり考えてしまう。

「美咲」

隣の席の友達が心配そうに言った。

「大丈夫?」

私は慌てて頷く。

「うん!」

だけど本当は大丈夫じゃなかった。

昼休み。

私は一人で屋上へ向かった。

ここは私とひかりのお気に入りの場所だった。

フェンス越しに空を見上げる。

青空が広がっている。

「ひかり……」

名前を呼ぶ。

返事はない。

分かっている。

それでも呼んでしまう。

その時だった。

ふわり。

一枚の白い花びらが目の前を横切った。

「え?」

私は周囲を見回した。

花なんて咲いていない。

風もない。

なのに。

確かに白い花びらだった。

私は慌てて追いかける。

だけど次の瞬間には消えていた。

まるで幻みたいに。

「何だったんだろう……」

不思議だった。

だけど。

なぜか少しだけ懐かしい気持ちになった。


私、結城ひかりは、異世界の王宮でアリアたちとお茶を飲みながら過ごしていたのだけれど、その日は朝から美咲のことばかり考えていた。

「どうしたの?」

アリアが聞く。

「え?」

「何だか寂しそうですわ」

私は苦笑した。

「分かる?」

アリアは優しく頷く。

「親友のことですわね」

私は少し驚いた。

だけどすぐに笑ってしまう。

「うん」

「美咲っていうの」

アリアは静かにその名前を繰り返した。

「みさき」

その瞬間だった。

アリアの表情が一瞬だけ変わった。

まるで。

その名前を知っているみたいに。

「アリア?」

私が呼ぶ。

するとアリアはハッとしたように微笑んだ。

「何でもありませんわ」

だけど。

その瞳には僅かな戸惑いが残っていた。


わたくし、アリア・ルナリアは、「美咲」という名前を聞いた瞬間に胸の奥が小さく痛んだのだけれど、その理由が分からなくて戸惑っていた。

初めて聞く名前のはずだった。

それなのに。

懐かしい。

会ったことがある気がする。

手を繋いだことがある気がする。

笑い合ったことがある気がする。

そんなはずないのに。

「どうして……」

わたくしは誰にも聞こえない声で呟いた。

すると窓の外で白い鳥が羽ばたいた。

その姿を見た瞬間。

頭の中に知らない少女の笑顔が浮かんだ。

黒髪。

優しい笑顔。

そして。

『またね!』

という声。

だけど次の瞬間には消えてしまった。


私、佐伯美咲は、その日の帰り道を一人で歩いていたのだけれど、夕焼け空を見上げた瞬間に胸が締め付けられるような感覚を覚えていた。

「会いたいな……」

ひかりに。

もう一度。

話したい。

笑いたい。

くだらない話をしたい。

そう思った時だった。

突然、風が吹く。

そして耳元で誰かの声が聞こえた気がした。

『待ってる』

私は立ち止まる。

「え……?」

周囲には誰もいない。

だけど確かに聞こえた。

女の子の声だった。

私は空を見上げた。

夕暮れの空の向こうに。

誰かがいる気がした。

その夜。

美咲が眠りについた後。

夢の中で再び白い花びらが舞い始める。

そして遠くに立つ少女の影。

まだ顔は見えない。

まだ名前も分からない。

だけど。

運命は確実に動き始めていた。

次回

第36話 白い花びら

――美咲の前に何度も現れる不思議な白い花びら。その導きの先に待つものとは――。

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