架け橋
私は、国境で起きた出来事から数日が経った今でも、レオン王子とシリウス王子が少しだけ笑い合った瞬間を思い出しては嬉しくなっていたのだけれど、それと同時に二つの王国の関係を本当に変えることなんてできるのだろうかという不安も感じていた。
そんなある日だった。
私はレオン王子に呼ばれ、王宮の会議室へ向かっていた。
「何だろう?」
不思議に思いながら扉を開く。
すると。
「えっ!?」
思わず声が出た。
そこにはレオン王子だけではなく、シリウス王子とアリアもいた。
「ひかり、こっちだ」
レオン王子が手を振る。
私は慌てて席へ向かった。
「どうしたの?」
シリウスが腕を組みながら言う。
「お前の提案を試してみることになった」
「私の?」
意味が分からない。
するとアリアが微笑んだ。
「お茶会ですわ」
私は目を丸くした。
俺、レオン・ソレイユは、正直に言えばこんな提案が通るとは思っていなかったのだけれど、父上もルナリア王も今の状況を少しでも改善したいと考えていたらしく、両国の若い世代による交流会という形で許可が下りたのだった。
「まさか本当に実現するなんてな」
俺が呟く。
シリウスも苦笑した。
「同感だ」
そして二人とも同時にひかりを見る。
「え?」
ひかりは状況を理解できていないらしい。
その反応に思わず笑ってしまった。
わたくし、アリア・ルナリアは、ひかりが驚いている様子を見ながら、やはりこの子は特別な人なのだと改めて思っていたのだけれど、それは聖女の生まれ変わりだからではなく、人と人を繋ぐ力を持っているからだった。
ひかりは身分で人を判断しない。
国で人を判断しない。
だから自然と周りの人たちも変わっていく。
「ひかり」
「ん?」
「ありがとうございます」
ひかりはきょとんとした。
「何で?」
「秘密ですわ」
わたくしが笑うと、ひかりは不思議そうに首を傾げていた。
交流会当日。
国境近くの大きな庭園には、ソレイユ王国とルナリア王国の貴族や騎士たちが集まっていた。
最初の空気は重かった。
誰も積極的に話そうとしない。
長年の対立はそう簡単には消えない。
だけど。
「このお菓子美味しい!」
ひかりの一言で空気が変わった。
「本当ですわ!」
アリアが笑う。
「それ、ルナリアの名物なんだ」
シリウスが説明する。
「へえ!」
ひかりは目を輝かせた。
その姿を見ていた人たちも少しずつ笑顔になっていく。
会話が生まれる。
笑い声が響く。
そして気付けば、太陽の国の騎士と月の国の騎士が同じテーブルで話していた。
俺、シリウス・ルナリアは、その光景を見ながら不思議な気持ちになっていたのだけれど、昔から当たり前だと思っていた対立が、本当は必要なかったのではないかと思い始めていた。
「なあ」
俺は隣のレオンへ声をかけた。
「何だ」
「俺たちが子供の頃に出会っていたらどうなってたと思う?」
レオンは少し考えた。
そして答える。
「多分、普通に友達になっていただろうな」
思わず笑ってしまう。
「だよな」
その瞬間だった。
広場の中央で転びそうになったひかりを、俺とレオンが同時に支えた。
「危ない!」
「大丈夫か!?」
二人の声が重なる。
ひかりは目をぱちぱちさせた。
「だ、大丈夫」
周囲が静まり返る。
そして。
「仲良いじゃないか」
誰かがそう言った。
次の瞬間、広場中に笑いが広がった。
俺とレオンは顔を見合わせる。
そして同時にため息をついた。
私、結城ひかりは、みんなが笑っている光景を見ながら胸がいっぱいになっていたのだけれど、それはきっとずっと見たかった景色だったからなのだと思う。
太陽の国。
月の国。
本当なら敵同士だった人たち。
それなのに今は笑い合っている。
その時、風が吹いた。
白い花びらが空を舞う。
私は空を見上げた。
すると一瞬だけ。
白い花畑が見えた気がした。
フィオラ。
アルス。
ルナ。
セレナ。
四人が笑っている。
そんな気がした。
そして胸の奥で何かが温かく光った。
まるで。
千年前に結ばれなかった想いが、少しだけ報われたように。
その夜。
神殿の奥深くで、一つの光が静かに輝いていた。
誰にも気付かれないまま。
最後の封印が。
わずかに反応を始めていた。
第二章「月と太陽の架け橋」 完
次章予告
第三章「残された親友」
第35話 空白の席
異世界で仲間たちとの絆を深めるひかり。
現代で親友を探し続ける美咲。
離れた二つの世界で、運命は再び動き始める。
第三章スタート!




