二つの王国
私は、第二の封印が目覚めてから数日が経った今でも、水晶に浮かび上がった『月と太陽が交わる時、運命の扉は開かれる』という言葉が頭から離れなくて、その意味を考えるたびに胸の奥がざわついていた。
そんなある日の朝だった。
王宮の中が妙に慌ただしい。
廊下を行き交う騎士たちの表情も険しい。
「何かあったのかな……」
私が呟く。
するとレオン王子が足早にこちらへやって来た。
いつも以上に真剣な顔をしている。
「ひかり」
「レオン王子?」
「少し問題が起きた」
嫌な予感がした。
俺、レオン・ソレイユは、王宮の会議室へ向かいながら頭を抱えていたのだけれど、まさかこんなタイミングで両国の関係が悪化するとは思っていなかった。
会議室へ入る。
そこには父上と重臣たちが集まっていた。
空気が重い。
「報告しろ」
国王が言う。
騎士団長が前へ出た。
「国境付近で小競り合いが発生しました」
室内がざわつく。
「被害は」
「幸い軽傷者のみです」
だが問題はそこではない。
長年対立を続けてきたソレイユ王国とルナリア王国。
ほんの小さな衝突でも火種になりかねない。
「ルナリア側の反応は」
「現在調査中です」
俺は拳を握った。
今は争っている場合じゃない。
封印の問題もある。
世界そのものに何かが起きようとしているのだから。
俺、シリウス・ルナリアは、同じ頃ルナリア王国の会議室で国境の報告を聞いていたのだけれど、内容を聞いた瞬間に深いため息をついてしまった。
「またか」
思わず呟く。
隣ではアリアも眉を下げていた。
「どうしてこうなってしまうのでしょう」
アリアが悲しそうに言う。
誰も答えられない。
太陽の国ソレイユ王国。
月の国ルナリア王国。
両国は千年以上前から対立を続けている。
今となっては理由すら曖昧になっているのに。
争いだけは残り続けていた。
「兄上」
アリアがこちらを見る。
「ひかりなら、きっと悲しみますわ」
その言葉に胸が痛んだ。
確かにそうだ。
あいつは誰かが傷付くことを何より嫌う。
私、結城ひかりは、その日の午後に事情を聞いたのだけれど、やっぱり納得することができなくて、一人で庭園を歩きながら考え込んでいた。
どうして。
どうして仲良くできないんだろう。
レオン王子も。
シリウス王子も。
本当は優しい人なのに。
その時、後ろから声が聞こえた。
「難しい顔をしているな」
振り返る。
レオン王子だった。
「聞いたんだな」
私は頷く。
「うん」
レオン王子は空を見上げた。
「長い対立だ」
「簡単には終わらない」
私は少し考えた。
そして言った。
「でも終わらせたいと思わないの?」
レオン王子が目を見開く。
私は続けた。
「だって、レオン王子もシリウス王子も仲良くなれそうなのに」
一瞬静寂が訪く。
そしてレオン王子は苦笑した。
「お前らしいな」
「え?」
「普通ならそんなことは言わない」
私は首を傾げた。
だけど本当にそう思ったのだ。
わたくし、アリア・ルナリアは、ひかりから届いた手紙を読んでいたのだけれど、その内容を見て思わず笑顔になってしまっていた。
『いつかみんなでお茶会しよう!』
大きな文字でそう書かれている。
その下には可愛い花の絵まで描かれていた。
「ふふっ」
思わず笑ってしまう。
普通ならあり得ない。
対立する二つの王国の王子と王女。
それなのに。
ひかりは本気で実現できると思っている。
でも。
だからこそ。
希望を感じるのかもしれない。
その日の夕方。
国境近くの広場で偶然レオンとシリウスが顔を合わせることになった。
空気が張り詰める。
周囲の騎士たちも緊張していた。
長年の対立。
簡単に消えるものではない。
「久しぶりだな」
シリウスが言う。
「そうだな」
レオンが答える。
沈黙が流れる。
するとその時、一人の少女が二人の間へ飛び込んできた。
「わっ!?」
ひかりだった。
「ひかり!?」
二人が同時に叫ぶ。
ひかりは慌てて立ち上がる。
「ご、ごめん!」
だけど次の瞬間、周囲から笑い声が漏れた。
騎士たちも。
兵士たちも。
つい笑ってしまったのだ。
張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。
レオンとシリウスは顔を見合わせた。
そして同時にため息をつく。
「本当にお前は……」
「空気を変える天才だな」
二人の言葉にひかりは首を傾げていた。
私、結城ひかりは、二人が少しだけ笑い合ったのを見て嬉しくなっていたのだけれど、その光景を見ながら胸の奥で小さな希望が生まれていた。
もしかしたら、本当にいつか太陽の国と月の国は仲良くなれるかもしれない。
そして私はまだ知らなかった。
その願いこそが、最後の鍵になることを。
この話から、次回予告を入れようと思いますっ!
次回、第34話「架け橋」
――長年対立してきた二つの王国。その間に立つひかりは、太陽と月を結ぶ架け橋となれるのか――。




