届かない想い
俺、シリウス・ルナリアは、ひかりへの想いを自覚してからというもの、以前と同じように接しているつもりだったのだけれど、実際は全くそんなことができていないことを自分自身が一番よく分かっていた。
会えば嬉しい。
笑ってくれれば嬉しい。
だが、それと同じくらい苦しくもなっていた。
なぜなら、俺は最近気付いてしまったからだ。
ひかりがレオンを見る時の表情と、俺を見る時の表情は少し違う。
本人は全く気付いていないだろう。
レオンも気付いていないだろう。
だが、恋をした人間には分かってしまう。
だから厄介だった。
「はぁ……」
俺は訓練場で空を見上げた。
ため息が漏れる。
本当に重症だ。
その時だった。
「お兄様」
振り返るとアリアがいる
「なんだ」
「最近元気がありませんわね」
図星すぎて俺は苦笑する。
「そんなことない」
「あります」
即答だった。
妹は妙なところで鋭い。
アリアは少しだけ笑った。
「ひかりのことですわね」
「っ!?」
危うく咳き込むところだった。
アリアは平然としている。
「分かりやすすぎますわ」
「そんなにか?」
「はい」
またしても即答。
少し傷付くな。
アリアは優しく微笑んだ。
「でも」
「?」
「応援しておりますわ」
その言葉に俺は目を見開く。
応援。
そんな言葉を聞く日が来るとは思わなかった。
だが同時に、少しだけ胸が痛んだ。
応援ということは、叶うとは限らないということだから。
私はアリアと図書室で本を探していたのだけれど、神殿で見つかった第三の国という言葉が気になって仕方なくて、少しでも手掛かりがないか調べようとしていた。
だけど、全然見つからない。
「おかしいなぁ」
私は首を傾げる。
アリアも本を閉じた。
「ここまで記録がないのは不自然ですわ」
「だよね」
まるで、誰かが意図的に消したみたいだ。
その時だった。
本棚の隙間から一冊の古い本が落ちてくる。
「あっ」
私は慌てて拾う。
すると、本の間から一枚の紙が滑り落ちた。
そこには手書きの文字。
『月と太陽が再び交わる時、失われた国は目覚める』
「え……?」
私は固まった。
アリアも息を呑む。
失われた国。
やっぱり。
第三の国は本当に存在したんだ。
その日の夕方。
私は一人で庭園を歩いていた。
考え事がしたかったからだ。
だけど、気付けば誰かが隣にいた。
「レオン王子」
「一人か」
「うん」
レオン王子は少しだけ安心したような顔をした。
最近思う。
この人は本当に心配性だ。
「また無理をしていないか」
「してないってば」
私は笑う。
すると、レオン王子も少しだけ口元を緩めた。
その瞬間だった。
遠くからこちらを見る人影に気付く。
シリウス王子だった。
一瞬だけ目が合う。
だけど、彼はすぐに視線を逸らした。
「あれ?」
私は不思議に思う。
最近シリウス王子が少し変だ。
前より静かというか。
何かを考えているというか。
「どうした」
レオン王子が聞く。
「いや」
私は首を振った。
「なんでもない」
だけどなぜだろう。
少しだけ気になった。
俺、シリウス・ルナリアは、ひかりとレオンが並んでいる姿を見た瞬間、胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えていたのだけれど、それでも二人から目を逸らせない自分に呆れていた。
似合っている。
そう思ってしまった。
だから余計に苦しい。
もし、もしもだ。
ひかりが笑う未来の隣にいるのがレオンだったら。
俺は祝福できるだろうか。
そんなことを考えてしまう。
「情けないな」
小さく呟く。
すると、後ろから声が聞こえた。
「何がじゃ?」
俺は振り返る。
誰もいない。
だが一瞬だけ、紫色の光が見えた気がした。
その夜、私は夢を見た。
白い花畑。
優しく笑う少女。
そして。
その隣にいるもう一人の少女。
明るく笑っている。
『フィオラ!』
『セレナ!』
楽しそうな声。
仲良しだったのだろう。
見ているだけで分かる。
だけど次の瞬間。
景色が揺らぐ。
その二人を遠くから見つめる紫色の瞳。
悲しそうで。
寂しそうで。
そして、羨ましそうだった。
『どうして』
声が響く。
『どうしてわたくしは……』
そこで夢は途切れた。
私は飛び起きる。
心臓が激しく鳴っていた。
「今の……」
セレナ。
初めて聞いた名前。
でも、なぜだろう。
涙が出そうになるほど懐かしかった。
窓の外では満月が輝いている。
そして、運命の歯車は静かに回り続けていた。




