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ひかり〜約束の花〜  作者: せいら
月と太陽の架け橋
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26/58

闇の影

私は月の神殿から帰ってきてからも、あの光景が頭から離れなかったのだけれど、特に最後に見た紫の瞳の少女のことが気になって仕方なくて、気付けば何度も思い返してしまっていた。

『どうしてわたくしでは駄目だったの……』

悲しそうな声。

泣いていた瞳。

あれは本当に悪い人なのだろうか。

そんなことまで考えてしまう。

「ひかり」

声が聞こえる。

顔を上げるとアリアだった。

「また考え事ですの?」

「ちょっとね」

私は苦笑する。

アリアは私の隣へ座った。

「神殿のことですか?」

「うん」

隠す必要もない。

「気になってるんだ」

アリアは少しだけ表情を曇らせた。

「わたくしもです」

そう言った時だった。

突然、城の鐘が鳴り響いた。

ゴォォォォン───

重い音。

嫌な予感がする。

私とアリアは顔を見合わせた。

「何かあったのかな」

「急ぎましょう」

私たちは城内へ向かった。

大広間には既にレオン王子とシリウス王子、それに国王陛下や大臣たちが集まっていた。

空気が重い。

何かが起きている。

「ひかり」

レオン王子が私に気付く。

その表情は険しかった。

「どうしたの?」

私は尋ねる。

すると、シリウス王子が低い声で答えた。

「結界が破られた」

「え?」

意味が分からない。

結界?

「王国の外周を守っていた魔法結界の一部が消失したんだ」

私は息を呑んだ。

そんなことが起きるのか。

レオン王子が続ける。

「原因は不明だ」

「だが」

「第二の封印が反応した直後だ」

つまり、無関係ではない。

そういうことだろう。

私は背筋が寒くなるのを感じた。


その夜。

俺、レオン・ソレイユは、ルナリア王国の会議室で資料へ目を通していたのだけれど、今回の異変がただ事ではないことを誰よりも強く感じていた。

第二の封印。

結界の消失。

そして、神殿に残されていた古代文字。

全てが繋がっている気がする。

だが、分からないことが多すぎた。

その時だった。

窓の外を見る。

庭園。

そこに、ひかりの姿があった。

一人だった。

俺は思わず立ち上がる。

こんな時間に。

何をしている。

気付けば部屋を出ていた。

私は眠れなかった。

だから少しだけ外の空気を吸おうと思った。

夜空には満月。

綺麗だった。

でも、どこか不安になる。

その時、後ろから足音が聞こえた。

「ひかり」

振り返ると、レオン王子がいた。

「あれ?」

「まだ起きてたの?」

「それはこっちの台詞だ」

私は少し笑う。

「なんか眠れなくて」

レオン王子は私の隣へ来た。

しばらく沈黙。

だけど、不思議と気まずくない。

「怖いか」

レオン王子が聞く。

私は少し考えた。

そして、正直に答える。

「ちょっとだけ」

怖い。分からないことばかりだから。

すると、レオン王子は真っ直ぐ前を見たまま言った。

「大丈夫だ」

静かな声。

だけど、不思議と安心する声だった。

「俺が守る」

私は思わず目を見開く。

レオン王子は本気だった。

王子だからとか。

聖女だからとか。

そういう言い方じゃない。

ただ、守りたい。

そんな風に聞こえた。

「ありがとう」

私は笑う。

レオン王子は少しだけ視線を逸らした。

月明かりに照らされた横顔がどこか照れているように見えて、私は少しだけ不思議な気持ちになった。

その様子を遠くから見ていた人物がいた。


俺、シリウス・ルナリアは、偶然庭園へ向かったのだけれど、ひかりとレオンが二人で話している姿を見た瞬間、胸の奥が少しだけ痛んだ。

嫉妬。

そんな言葉が頭をよぎる。

だが、認めたくなかった。

認めたら、きっと苦しくなる。

それでも、視線は離せなかった。

「参ったな……」

小さく呟く。

本当に恋というものは厄介だ。


その頃。

誰も知らない闇の奥深く。

黒い宮殿の玉座で、一人の女が静かに微笑んでいた。

わらわ、ネヴァは、第二の封印が動き始めたことを感じ取っていたのだけれど、千年間待ち続けた時がようやく近付いていることに心を躍らせていた。

「フィオラ」

その名を呼ぶ。

懐かしく。

愛おしそうに。

そして、憎しみを込めて。

「やっと会えるのう」

紫の瞳が妖しく輝く。

その背後には無数の黒い影。

人ではない。

闇から生まれた存在たち。

そして、ネヴァはゆっくり立ち上がった。

「参るぞ」

影たちが跪く。

「世界は再び動き始めた」

「今度こそ」

ネヴァは笑う。

「全てをわらわのものにしてやる」

その瞬間、闇の国の空を紫色の雷が駆け抜けた。

そして、世界のどこかで。

新たな災厄が目を覚まそうとしていた。

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