第二の封印
私はアリアと仲良くなってからというもの、一緒に過ごす時間がどんどん増えていたのだけれど、不思議なことに彼女と話していると初めて会った気がしなくて、ずっと昔から友達だったような安心感を覚えることがあった。
その日も私はアリアと庭園でお茶を飲んでいた。
「ひかり」
「ん?」
「最近、また夢を見ておりますの?」
私は少し驚く。
夢の話をしたことはある。
でも、そこまで詳しく話したことはない。
「なんで分かったの?」
アリアは困ったように微笑んだ。
「なんとなくですわ」
その表情を見ていると、一瞬だけ美咲の顔が重なった。
「え……」
思わず声が漏れる。
「ひかり?」
アリアが首を傾げる。
私は慌てて首を振った。
「ううん!」
気のせい。
絶対気のせいだ。
だけど、最近よくある。
アリアを見ていると。
美咲を思い出す。
仕草とか。
笑い方とか。
雰囲気とか。
全然違うはずなのに。
どこか似ている気がする。
「変なの」
私は小さく呟いた。
その時だった。
遠くから足音が聞こえる。
振り向くとレオン王子とシリウス王子がいた。
「ひかり」
「アリア」
二人は珍しく真剣な表情をしている。
私は少し緊張した。
「どうしたの?」
レオン王子が口を開く。
「月の神殿へ向かうことになった」
「神殿?」
私とアリアは顔を見合わせる。
シリウス王子が説明を続けた。
「昨夜から神殿の封印に異変が起きてるらしい」
「異変?」
嫌な予感がした。
レオン王子は頷く。
「聖女の力と関係している可能性が高い」
つまり、私も行かなきゃいけないってことか。
「分かった」
私は立ち上がった。
その日の午後。
私たちは月の神殿へ向かっていた。
王都から少し離れた森の奥。
古い石造りの神殿。
長い年月を感じさせる建物だった。
「すごい……」
私は思わず見上げる。
神秘的だった。
だけど、どこか懐かしい。
初めて来たはずなのに。
知っている気がする。
その時だった。
頭の奥がズキッと痛む。
「っ……!」
私は思わず足を止めた。
「ひかり!」
アリアが駆け寄る。
レオン王子も表情を変えた。
「大丈夫か」
「う、うん……」
痛みはすぐに消えた。
でも、その瞬間。
誰かの声が聞こえた気がした。
『待っていました』
知らない声。
優しい女性の声。
私は神殿の奥を見る。
暗い通路。
誰もいない。
なのに、確かに聞こえた。
神殿の最深部。
そこには巨大な扉があった。
青白い光を放つ紋章。
月の模様。
そして、中央には見覚えのある花の紋章が刻まれていた。
「この花……」
約束の花。
夢の中で何度も見た花だった。
私は息を呑む。
その時、扉が光り始めた。
ゴォォォォ……
空気が震える。
「なっ……!?」
シリウス王子が剣へ手をかける。
アリアも驚いていた。
レオン王子だけが私を見る。
「ひかり」
呼ばれる。
私は無意識に前へ歩いていた。
まるで、何かに導かれるように。
「ひかり!」
アリアの声が聞こえる。
でも、足は止まらない。
私は扉へ手を伸ばした。
触れた瞬間だった。
眩い光が溢れる。
「きゃっ!」
世界が白く染まる。
そして、見えた。
白い花畑。
風に揺れる花々。
笑い声。
四人の人影。
ミルクティーブラウンの髪の少女。
金髪の青年。
銀髪の青年。
そして、優しく笑う少女。
『フィオラ様!』
誰かが呼ぶ。
フィオラ。
その名前が響く。
だけど、その瞬間。
景色が崩れた。
黒い闇。
紫色の光。
そして、泣いている少女。
『どうして……』
苦しそうな声。
『どうしてわたくしでは駄目だったの……』
私は思わず手を伸ばした。
「待って!」
だが、景色は消える。
光が弾ける。
そして、私は現実へ引き戻された。
気付くと、私はレオン王子に支えられていた。
「ひかり!」
アリアが泣きそうな顔をしている。
シリウス王子も険しい表情だった。
「大丈夫か!?」
私はゆっくり頷く。
でも、心臓は激しく鳴っていた。
今のは何だったのだろう。
フィオラ。そして、泣いていた紫の瞳の少女。
なぜだろう。
あの少女の悲しみが。
胸の奥に残っていた。
その時だった。
神殿の中央に浮かび上がる文字。
誰も見たことのない古代文字。
そして、一文だけが光る。
『第二の封印、開放開始』
静寂が訪れる。
誰も言葉を発せなかった。
ただ一つだけ、確かなことがあった。
千年前の秘密が。
少しずつ動き始めている。




