太陽と月
俺、レオン・ソレイユは、最近シリウスの様子がおかしいことに気付いていたのだけれど、それ以上に、自分自身も以前とは違う感情を抱くようになっていることを認めたくなかった。
執務室の机に向かう。
書類を読む。
サインをする。
本来なら集中できるはずだった。
だが。
気付けばひかりのことを考えている。
「……」
ペンが止まる。
俺は小さくため息をついた。
重症だな。
自分でもそう思う。
その時だった。
コンコン。
扉が叩かれる。
「失礼いたします」
アリアだ。
「どうした」
「ひかりが図書室へ向かいましたわ」
「そうか」
それだけの報告。
だが、なぜか少し安心した。
アリアはそんな俺を見て小さく微笑む。
「お兄様と同じですわね」
「何がだ」
「いえ」
意味深な笑み。
嫌な予感しかしない。
私はルナリア王国の図書室で本を読んでいたのだけれど、最近は聖女について調べることも増えていて、少しでもこの世界のことを知ろうと頑張っていた。
だけど、分からない。
フィオラ。
伝説の聖女。
どうして最近夢に出てくるんだろう。
私は本を閉じる。
その時だった。
高い場所にあった本が傾く。
「あっ」
落ちる。
そう思った瞬間、後ろから手が伸びた。
パシッ。
本が受け止められる。
「危ない」
聞き慣れた声。
レオン王子だった。
「わっ!?」
私は驚いて振り返る。
近い。
近い近い。
「レオン王子!?」
「怪我はないか」
「ないけど!」
私は慌てて一歩下がる。
心臓がうるさい。
なんでだろう。
最近、王子たちといると妙に緊張する。
レオン王子は本を棚へ戻した。
「無理をするな」
「大丈夫だよ」
「大丈夫ではない」
即答だった。
私は思わず笑ってしまう。
「またそれ言ってる」
レオン王子が少しだけ困った顔をした。
「事実だ」
本当に真面目だなぁ。
だけど、そんなところも嫌いじゃない。
ふと、レオン王子の表情が柔らかくなる。
「ひかり」
「ん?」
「最近、無茶をしていないか」
「してないよ?」
「本当か」
「本当!」
私は笑う。
すると、レオン王子も少しだけ笑った。
珍しいな。
私は目を丸くする。
今、笑った…!
「な、何だ」
「いや」
私は思わず笑顔になる。
「笑ったなーって」
レオン王子が固まる。
そして、視線を逸らした。
耳が少し赤いのは気のせいだよね…?
俺、レオン・ソレイユは、その瞬間胸の奥が妙に温かくなるのを感じていたのだけれど、ひかりの笑顔を見るだけで安心してしまう自分が理解できなかった。
いや、理解したくなかった。
次の瞬間。
ある光景が脳裏をよぎる。
月灯祭。
ひかり。
シリウス。
楽しそうな二人を見て胸が痛んだ。
「……っ」
なぜだ。
…考えるまでもない。
本当は、もう気付いている。
シリウスもきっと同じだ。
だから、余計に認めたくなかった。
だが、もう無理だった。
俺は、ひかりが好きだ。
守りたい。
笑っていてほしい。
ずっと、その隣にいたい。
その感情に名前を付けるなら。
恋以外あり得なかった。
その頃。
俺、シリウス・ルナリアは、訓練場で剣を振っていたのだけれど、昨日ようやく認めた感情のせいで余計に落ち着かなくなっていた。
好き。
その言葉を認めた途端。
全部変わった。
ひかりを見るだけで嬉しい。
声を聞くだけで嬉しい。
会えないと寂しい。
本当に面倒だな。
だが、不思議と嫌ではなかった。
わたくし、アリア・ルナリアは、庭園でお茶を飲みながら考えていたのだけれど、ついにお兄様もレオン様も同じ場所へ辿り着いてしまったことを確信していた。
「大変ですわね……」
ひかり。
お兄様。
レオン様。
何にも気づいていないのはひかりだけね…
わたくしは苦笑する。
でも、少しだけ願う。
どうか、誰も傷付かない未来になりますように。
その夜。
私は眠りについた。
そして、また夢を見る。
白い花畑。
風が吹く。
遠くで笑い声が聞こえる。
四人の影。
でも、その奥にもう一人いた。
紫と黒の髪。
毒々しい紫の瞳。
少女は悲しそうにこちらを見ていた。
『どうして』
声が聞こえる。
『どうして、みんなあなただけを』
その瞬間、闇が広がる。
「っ!」
私は飛び起きた。
呼吸が荒い。
心臓が激しく鳴っている。
今のは誰?
フィオラじゃない。
知らない。
だけど、なぜだろう。
胸が苦しかった。
まるで、その少女が泣いているような気がしたから。




