二人の王子
私はルナリア王国へ来てからというもの、アリアといる時間がいちばん多いが、レオン王子やシリウス王子と過ごす時間も増えていたのだけれど、二人は性格が正反対だからこそ一緒にいると面白くて、気付けば毎日のように振り回されている気がしていた。
このふたりといると、アリアに感じる懐かしい胸の感じや違和感を忘れることができて、少しだけ、楽になる。
もちろんアリアといるのが嫌ってわけじゃない。
ただ少し、辛くなるだけだ。
「ひかり」
聞き慣れた声に振り返る。
レオン王子だった。
「今日の訓練だが」
真面目な表情。
「俺が付き添う」
「え?」
私は目を瞬く。
「別に一人でも大丈夫だけど?」
「大丈夫ではない」
即答だった。
「最近シャドウの動きが活発だ」
レオン王子は腕を組む。
「何かあってからでは遅い」
やっぱり真面目だ。
私は思わず苦笑した。
その時だった。
「へぇ」
後ろから声がする。
嫌な予感。
振り返る。
やっぱりいた。
シリウス王子だ。
「過保護だな」
「お前には関係ない」
「あるだろ」
シリウス王子が笑う。
「俺も行くからな」
「は?」
レオン王子の眉が動く。
「なぜだ」
「面白そうだから」
「帰れ」
「断る」
私は思わず吹き出した。
また始まった。
最近気付いたことがある。
この二人。
会うと絶対こうなる。
「仲良いね」
何気なく言った。
沈黙。
「どこがだ」
「どこを見てそう思った」
二人の声が綺麗に重なる。
私は大笑いした。
やっぱり仲良いじゃん。
その後結局。
三人で訓練場へ向かうことになった。
私はこの世界に来てから光魔法の練習をしていたのだけれど、最近は少しずつ制御できるようになってきていて、以前なら失敗していた魔法も発動できるようになっていた。
白い光が手のひらに集まる。
「おお!」
私は目を輝かせた。
「できた!」
「上達しているな」
レオン王子が頷く。
「さすがひかりだな」
シリウス王子も笑う。
なんだか照れる。
その時。
足元の石につまずく。
「あっ」
身体が傾く。
危ない。
そう思った瞬間。
「ひかり!」
「大丈夫か!」
気付けば。
左右から腕を掴まれていた。
私は固まる。
右を見る。
レオン王子。
左を見る。
シリウス王子。
近い。
近い近い近い。
「えっと……」
沈黙。
二人も固まっている。
そしてゆっくり。
互いを見る。
「離せ」
レオン王子が言う。
「そっちこそ」
シリウス王子が返す。
「俺が先だった」
「俺も同時だ」
また始まった。
私は思わずため息をつく。
どうしてこうなるんだろう。
その頃。
俺、レオン・ソレイユは、自分でも情けないと思うほどシリウスへ苛立っていることに気付いていたのだけれど、それは政治の話でも国同士の対立でもなく、ひかりの近くにいるシリウスを見るたびに妙な感情が湧いてくるからだった。
意味は分かっている。
だが。
認めたくない。
ひかりは聖女だ。
守るべき存在。
それだけ。
それだけのはずなのに、ひかりが他の人のものになると思うだけで、今までの人生、マイナスな感情を持ったことなんてなかったのに、どうしようもない不安にかられてしまうようになった。
その頃。
俺、シリウス・ルナリアは、レオンの様子がおかしいことに気付いていたのだけれど、実を言うと自分自身も同じ状態になっているため、人のことを言えない立場だった。
ひかりが笑う。
それだけで。
嬉しい。
ひかりが落ち込むと、それだけで、気になる。
面倒だ。
本当に。
「はぁ……」
思わずため息が漏れる。
もう、どうしようもないほどに、ひかりへの想いが大きく膨れ上がっていることに、薄々気がつきはじめていた。
その夜。
私は客室のベッドへ寝転びながら昼間の出来事を思い出していたのだけれど、なぜか二人の顔ばかり浮かんできてしまい、自分でも理由が分からず枕へ顔を埋めた。
レオン王子。
優しくて、真面目で、頼りになる。
シリウス王子。
明るくて、面倒見が良くて、一緒にいると楽しい。
…時々意地悪で憎たらしいけどっ!
「うーん……」
私は唸る。
なんか。
最近。
二人とも変じゃない?
でも…気のせいかな?
そして、この違和感はソレイユ王国とルナリア王国の未来さえ変えていくことになるのだった。




