月夜の舞踏会
私は人生で一度も舞踏会なんてものに参加したことがなかったから、ルナリア王国の王宮で開かれる大規模な舞踏会へ出席すると聞いた時からずっと落ち着かない気持ちでいっぱいになっていて、朝から何度も鏡を見ては「本当に私で大丈夫なのかな……」と不安になってしまっていた。
だって私は普通の中学生だ。
ダンスなんて体育祭のフォークダンスくらいしか経験がない。
王族や貴族だらけの舞踏会なんて絶対場違いだと思う。
「ひかり」
振り返るとアリアがいた。
思わず見惚れてしまう。
月を思わせる白紫色のドレス。
銀色の装飾。
宝石のような瞳。
まるで本物のお姫様だった。
いや、本物のお姫様なんだけど。
「アリア綺麗すぎる!!」
私が叫ぶとアリアは少し照れながら微笑んだ。
「ありがとうございます」
「いや、本当に綺麗!」
「ひかりもですわ」
私は首を傾げた。
「え?」
アリアは鏡を指差す。
そこに映っていたのは白と金を基調にしたドレスを着た私だった。
髪の毛先の桜色のグラデーション。
青い瞳。
普段の制服姿とは全然違う。
「私じゃないみたい……」
そう呟くとアリアは優しく笑った。
「とても似合っていますわ」
私は少しだけ照れてしまった。
夜。
舞踏会会場。
巨大なシャンデリアが輝き、音楽隊の演奏が響き渡り、多くの貴族たちが優雅に踊っている。
私は完全に圧倒されていた。
すごい。
映画みたい。
というか映画以上かもしれない。
周囲を見回していると。
「ひかり」
聞き慣れた声が聞こえた。
レオン王子だった。
黒と金を基調とした正装姿。
普段より大人っぽい。
いや、めちゃくちゃ格好いいっ!
思わず固まる。
「どうした?」
「な、何でもないです!」
危ない。
普通に見惚れてた。
レオン王子は少し笑った。
そして。
私へ手を差し出した。
「一曲どうだ?」
私は固まった。
え。
今、何て言った?
「無理です!!」
私は即答した。
レオン王子が驚く。
「なぜだ?」
「踊れません!」
「大丈夫だ」
「大丈夫じゃないです!」
絶対踏む。
百パーセント踏む。
むしろ踏まない未来が見えない。
だけど、レオン王子は優しく微笑んだ。
「俺が合わせる」
何故だろう。その言葉に、少しだけ安心してしまった。
私は恐る恐るレオン王子の手を取った。
音楽が流れる。
ゆっくりと踊り始める。
最初は緊張していた。
でも、不思議だった。
レオン王子が本当に上手く合わせてくれるから。
自然と身体が動く。
「すごい……」
「だから言っただろう」
レオン王子は少し笑う。
私は悔しくなった。
「最初から分かってたみたいな顔しないでください」
「分かっていた」
「むかつく!」
その瞬間。
レオン王子が吹き出した。
私は目を丸くする。
初めて見たかもしれない。
こんな風に笑う姿。
すると、胸が少しだけ高鳴った。
俺、レオン・ソレイユは踊りながらひかりを見つめていた。
不思議だった。
ひかりといると。
自然と肩の力が抜ける。
王子としてではなく。
ただの一人の人間として笑える。
それが心地良かった。
そして。
同時に怖かった。
なぜなら。
最近見る夢が少しずつ鮮明になってきているからだ。
白い花畑。
風。
そして。
誰かの笑顔。
見えそうで見えない。
届きそうで届かない。
それでも。
夢の中のその人と。
ひかりが重なる。
俺は無意識に手を握りしめた。
絶対に。
失いたくない。
そんな感情が胸の奥で膨らんでいく。
その頃。
会場の端。
俺、シリウス・ルナリアは静かに二人を見ていた。
周囲の貴族たちは楽しそうに話している。
だけど、俺の視線は自然とひかりを追っていた。
なぜだろう。
最初は興味だった。
聖女。
異世界人。
特別な存在。
そう思っていた。
だけど今は違う。
ひかりが笑うと安心する。
落ち込んでいると気になる。
守りたいと思う。
そして、レオンと踊る姿を見た時。
胸の奥が少しだけ痛んだ。
「参ったな……」
俺は苦笑する。
どうやら、思った以上に手遅れらしい。
突然、会場のシャンデリアが突然揺れた。
ガタッ――
会場がざわつく。
誰かが悲鳴を上げる。
そして、天井付近に黒い霧が現れた。
私、結城ひかりは思わず息を呑む。
何あれ……?
その瞬間。
会場の空気が一気に冷たくなった。
レオン王子の表情が変わる。
シリウス王子も立ち上がった。
アリアの顔から血の気が引く。
そして遠く離れた闇の国で。
ネヴァは妖しく微笑んでいた。
「まずは挨拶じゃ」
わらわの笑い声が闇に響く。
「久しいのう――フィオラ」
誤字などを編集しました




