35シュナウト殿下の力
それから他の人の治癒にも周り忙しくした。
何度か先ほどのラセッタ辺境伯の様子も見に行った。
傷はほとんど良くなり熱も下がっていた。
「でも、まだまで油断は出来ませんからね」と彼に脅しをかけた。そうしなければ彼は起き上がって辺境伯騎士隊の所に行ってしまいそうだったからだ。
しきりに「俺が行かないと‥」「責任者なんだ」「俺が指揮を取らないといけないんだ」そんな事ばかり言うラセッタ辺境伯がとても頼もしく見えた。誰かと違って。
午後をかなり過ぎて昼食を取るとシュナウト殿下から呼ばれた。
「これを見ろリンローズ」
シュナウト殿下が見せたのは神殿長が行っていた神宿石だった。
2メートルはあろうかという大きな石は透き通った薄黄色をしていて水晶柱のような感じがした。
「すごいわ。本当に神様が宿ってるみたいね。何だか神々しい」
「ああ、でも見てみろ」
シュナウト殿下が言うように石はかなりすり減っていて表面はざらざらしてかなり古いとわかる。
「これは一日も早く取り換えが必要だろう。すぐに国王代理に手紙を書く」
「ええ、そうね。そうだ。シュナウト殿下どうでした?」
「何が?」
「もう、聖女様に魔力を分けてみてに決まってるじゃない!」
「ああ、湧き上がっていた魔力が減って行くみたいで‥そうだなぁ、リンローズに魔力制御してもらったみたいで楽になった」
「でしょう?これで魔力制御の問題は解決ね。あなたの魔力を他の物に移せばいいって事が証明されたわ。ねぇ、この神宿石に殿下の魔力を注いでみたらどうかしら?少しは結界が強くなるんじゃない?」
「でも、それだけじゃ無理だろう。そうだ。リンローズお前も一緒にやれ。結界を張るんだよ」
「でも、許可もなしじゃ…」
「いや、練習だ。本格的じゃなく練習するだけだ。それならいいだろう?」
私は少し戸惑ったが明日ヒルダが来ていざ結界を張ると言うときに失敗したら困る気持ちが勝った。
「じゃあ、少しだけ。今日はかなり魔力使かったしうまくできるかどうかわからないけど」
「だから練習するんだろ。ほら、行くぞ」
「ええ」
私は手をかざしその神宿石を取り囲むイメージを作る。
シュナウト殿下は神宿石に手を当てて魔力を注ぎ込むらしく手のひらをぴたりと石に当てた。
私はヒルダに教わったように大きく広げて周りを包み込んでいくように大きく大きく魔力を広げていく。まるでこの石の力を吸収してその力を辺りに振り注いでいくみたいな感覚で‥
ふたりで魔力を込める。
淡いピンク色の光が石を包み込むと同時に石が満月のような橙色に輝き始めた。
それはまるで夕焼けのように辺りを照らしだしてしまう。その光は見る間に風に乗って遠くまで運ばれて行く。
その光に気づいた神官が走り出て来て大声で叫んだ。
「神官長!大変な事が‥すぐ表に来て下さい。神が降りて来ましたよ~」
何て言ったから、騎士隊の人や神殿にいた人たちが集まって来た。
「「「「こ、これは‥おおぉぉぉぉ、すごい。神が、月の神がセレネーン様が降りていらっしゃった」」」」
皆、そこに跪き頭を下げる。
「いえ、違うんです。これはただの偶然で…シュナウト殿下手を離してよ!」
あわわ。やめて下さい。皆さんこれには訳が。
ただ光が満月のような色というだけなのに‥
「そんな事。リンローズ。お前こそそれをすぐに止めろ!」
「止めようとしてるわよ。でも、きっとあなたのせいよ。魔力が引き寄せられたみたいに抑えがきかないんだから、早く何とかしてよ!」
どうやらシュナウト殿下の魔力が大きくて私はそれに引き寄せられるように魔力を制御出来なくなっているらしい。
私とシュナウト殿下は止めるにやめられずしばらくその状態のまま‥‥
やっとシュナウト殿下の魔力が弱まったのか私は魔力を収めることが出来た。その途端シュナウト殿下が倒れた。
「シュナウト殿下!」神官長が走り寄る。
私も魔力を使い過ぎたのかその場で意識を失った。




