34治癒をする
神殿に併設されている診療施設には多くの怪我人がうめいていた。
ベッドだけでは足らず床に敷物を敷いた場所に多くの騎士らしき人や住人と思われる人が寝転がっていた。
簡単な手当ては受けたらしく頭や腕に包帯が巻かれていた。
「これはひどいな」
「ええ」
そこからさらに奥の部屋に進んでいく。
今度はベッドに横たわる怪我人がいた。恐らく貴族と思われた。
こんな時でさえ貴族が優先なんだな。まあ日本でもきっと金持ちが優先されるだろう。などと思った。
神官長がふたりの女性の紹介をした。
「こちらが聖女のバローシュ公爵令嬢とロドミール侯爵令嬢です。おふたりとも昨日から休まず治癒を行って下さって。おふたりともありがとうございます。先ほど王都の神殿から来られたシュナウト殿下と聖女リンローズ様です」
ふたりははっと顔を上げてこちらにお辞儀をする。
「私はメルディ・ロドミールと申します。殿下。聖女様よろしくお願いいたします」
「私はゴビア・バローシュと申します。殿下。聖女様よろしくお願いいたします」
ふたりは主にシュナウト殿下に向いてきれいなカテーシーをした。
そうだった。この国は魔力のあるのは王家の血が入った一族に多いから高位貴族が聖女なんだ。そんなことに改めて気づく。
それに聖女のくせに何?あの流し目みたいな視線。
シュナウト殿下もでれっと笑みをこぼしていた。まっ、いいか。私にはもう関係ない人だし。
私はすぐに気持ちを切り替える。今は怪我人が最優先だ。
「それで怪我人の様子はいかがです?」
「はい、何分人手が足りなくてまだまだです。こちらは辺境伯のネイト・ラセッタ様ですがかなり深手を負われていて」
「おふたりともかなりお疲れのご様子。ここからは私が変わります。シュナウト殿下。おふたりに魔力の補給を」
ふたりは「えっ?」という顔でこちらを見る。
「ま、魔力の補給?それはどうすればいいんだリンローズ」
シュナウト殿下は殿下でどうすればいいと狼狽する。
「おふたりともこちらに。殿下はいつも私が魔力制御をする時と同じつもりでいて下されば大丈夫です」
私はシュナウト殿下を椅子に座らせてふたりには殿下の腕に触れてもらう。
殿下の魔力を吸い上げるようなつもりになればきっとうまく行くはずと説明した。
すぐにふたりは殿下の腕をキュッと掴んで目を閉じた。
シュナウト殿下は少し顔をこわばらせていたがあり余った魔力を吸い取られることで逆に少し落ち着けたみたいだ。
うまく行ったと私はすぐに先ほどの辺境伯の治癒に取り掛かった。
彼は魔物に噛みつかれたらしい。肩口に大きな裂傷がありそこは黒ずんでかなり熱を持っていた。
そのせいで彼は高い熱で意識はなくうなされている。
「しっかりして下さい。すぐに傷口をきれいにします。毒が回っているせいで熱もあるんです。治癒魔法と薬の両方で治しますから」
私はまず治癒魔法を傷口と全身にかけると今度は持っていたバッグから薬を取り出した。
ある程度身体を回復は出来るが魔物の毒は治癒魔法だけでは難しいとも聞いていたからだ。
薬は解熱薬、傷薬。そして毒消しや化膿止めに使えるものばかリですぐに使える。
手に取った薬は小瓶に入った毒消し液だ。あまり多くは持って来れなかったがそれでも持ってきてよかったと思った。
それに薬草はもうすぐコリー領からつくはず。そうすれば煎じて怪我人に飲ますように指示を出すつもりだ。
「神官長。治癒魔法だけでは無理だと思います。これは我が家の領地で作っている毒消しと化膿止めです。彼に飲ませてもいいですか?」
一応万が一彼が具合でも悪化した時、まあ、あり得ないとは思うが魔物の毒はよくわからないので念のためだ。毒消し液に化膿止めも混ぜ込む。
「はい、お任せします」
「ありがとうございます。さあ、少し起きれますか?薬です。頑張って飲んで下さいね」
私は看護師でもないがこんなに弱っている人に優しくしないわけには行かない。
そっと口元に薬の液体の入った小瓶を添わせる。ゆっくり薬液を流し込む。喉仏が上下し確実に薬液が体内に取り込まれて行くのが分かる。
それを飲み終えさせると一度ベッドに横になってもらう。
そして今度ははちみつを取り出しサイドテーブルにあったスプーンに掬いそれを彼の口に入れた。
彼がそれを味見でもするかのように口を動かしそして目を開けた。
「あま‥いな」
「す、すみません。私…飲んだ薬がとっても苦いものだったからつい余計な事を‥」
美しい碧色の瞳だった。
まだ弱々しくはあるがそれでも意識が戻ったのはすごくうれしい。
「いや、君は?」
「はい、聖女です。先ほどまで別の方が治療に当たっていたんですがお疲れの用だったので交代しました。あのご気分は?」
「ああ、少し楽になった。ありがとう聖女殿」
彼はそう言うと私の手を弱々しく握った。
私も彼の手をぎゅっと握り返した。うれしかった。自分が役に泣てたことが。
初めての聖女としての仕事に胸が一杯になった。




