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間幕 ザーテル国防衛

フランツェルがレーデ・ベルテン領に訪れてから、数週間後……アルシアの忠告は見事的中した。

忠告は未来に起きることだと予測したフランツェルはイーラ国で起こる謀反を防ごうとイーラ国に身を置いている夢魔族の被害から一時的に避難しているマージェス国民の兵士達に知らせたが、謀反直後に取り押さえようとした兵士達の大半は命に別状はないものの重傷を負うなどのダメージを受け、未然に防ぐことは出来なかった。その知らせがたった今、フランツェルの耳に入ったのだ。


「くっ……イーラ国第一王子は何がそんなに不満なのだ。これでゲーテルハイツ王が討たれてしまっては――」


その時、窓から一羽の鳥が入ってきた。その鳥の足には紙が結われていた。


「なっ――!!まさかそんな」


手紙を読んだフランツェルは驚愕していた。そう、危機していたゲーテルハイツ王が討たれたのだ。


『やはり……ね、おっと――ごめんなさい、驚かせるつもりは――って言ってもさっきの手紙を見て驚いた顔してたもの、関係なかったわね』


「アルシア!!」


そこに現れたのは赤の魔王アルシアだった。当然、彼女自身も王という立場のため本体は魔界のままで、フランツェルが見えてるものは幻視魔術による立体映像だ。


『いつになったらアルって呼んでくれるの?まぁ、あなたのような気持ちの入り切りがはっきりわかる人間には難しいからいいとして――それはそうとして、マズい事になったわね。フラン、あなたの国にいる住民全員引き連れて私の領に来なさい!相手の次に襲う標的はあなたの国の全住民よ』


その言葉を聞いたフランツェルは息を飲んだ。言葉を出せなかったほど受けた衝撃を喉に通し、なんとか言葉を取り戻す。


「来なさいって言ってもそんな大勢で行ける『門』なんてまだ――」


『私が作るわ、だからフラン!あなたは住民を説得しなさい!もしこのままなら、イーラ国に支配されて自由は手に入らないわよ!』


「わ、分かった!!」


フランツェルは脱兎の如く、その場から離れる。その場に佇むアルシアは数分後に響いた大きな音――いや、声に驚く。内容こそ聞き取れなかったものの城周辺の民衆の騒ぎからするに説得し終えたのか周りが余計に騒がしくなった。時間にして約十五分という短時間で説得させてしまうフランツェルにアルシアはある種の羨望を覚えた。


『流石、マージェス国王ね。それにしても国全体に声を響かせる魔具があるとは便利ね、ひとつ特注しようかしら』


「それよりも『門』は!?」


『あるわよ、あなた達の足元にね』


その幻視体はお茶目にも片目を瞑る。それと同時にフランツェル達が見ていた世界はまた一転する。


「ようこそ、マージェス国の皆様方――レーデ・ベルテン領へ」


アルシアはマージェス国民の不安を取り除くために質疑応答や注意事項を話した後、フランツェルと共に自室へと向かった。


「これで狙いがイーラ国の襲うべき国はマージェス国からザーテル国に変わったわね」


「しかしそれでは――」


「ええ、間違いなくグレイスの祖父の国――ザーテル国は滅ぶでしょうね。このままなら、ね」


「もう既に対策してるの!!?」


「当然でしょ?こっちには一人で魔王諸共支配領地を全て焦土に変えた最強の騎士(グレイス)がいるのよ?それにマージェスとザーテルの両国を攻めれば実質イーラと並ぶ大国は消える。そうすると二手に分かれて両国を襲うわ……でも、マージェスに襲う人がいなければザーテル一点絞りになるわ」


「――だとするともうグレイスは」


ちょうど一つ目の部隊を撃破した所ね、とアルシアは何も無かったかのように淡々と呟く。それが当然と言わんばかりだ。それもそのはずで現在進行形でアルシアはグレイスの様子を見ているのだ。

グレイスとアルシアが掛けているペンダントには魔力を一切使わずに連絡出来たり、幻視映像を作り、持ち主の周りの状況を見る事が出来る機能が備わっているのだ。


「マージェス国にあるあの魔具も凄いけれど、私にはやっぱりこの魔具の方がいいわね」


アルシアが駄弁っている間にもグレイスは謀反を起こしたイーラ国の第一王子が率いる武装部隊をあれよあれよという間に四つ目の部隊まで倒してしまった。


『次の部隊に第一王子がいるが――アル、どうする?』


「それじゃ、捕縛してくれるかしら……もしだけれど、操られている様だったら殺しても構わないわ」


『分かった』


そう言って、グレイスからの連絡は終わった。


「殺しても構わないって――そんな横暴な」


「ええ、確かに横暴ね。けど、フラン……学があるならあなたも知ってるわよね?人族に出来る魔法の限度が存在することぐらいは」


人族は確かに魔法が扱える。しかし、限度が存在する。死霊魔法で蘇生をしても完全に蘇生出来ず、生前の意志を持った生きた死体が限度でそれ以上は人族の魔力回路では無理である。『物体を操る』魔法――傀儡魔法にも限度が存在し、人族の限度は同種族である人族や獣人や森人(エルフ)などの異人族を操れない事である。

よって、第一王子が操られていた場合、人族以外が操ってる事となる。そうなれば最優先候補として挙げられるのが魔族になる。

三年前に完全に壊滅した青の魔族では無いのは明らかであり、アルシアが率いる人族との共存を望む赤の魔族でそんな事をしてもメリットがあるわけではないし、それは赤の魔族と友好関係にある黄の魔族でも同じこと。ただ、赤の魔族ほど徹底してるわけではないためいないとは断定出来ない。最も人族を操ってる可能性が高いのは未だ実態が定かではない緑の魔族だというのがアルシアの見解だ。それをフランツェルに伝え、アルシアは続けて話した。


「緑は一時期青と組んでいた時期があるの。青は魔族らしく人族の殲滅や奴隷化を目的とした魔族だったから、もしかしたらってね。もしそれが本当なら自分の手を汚すことなく人族を滅ぼすつもりでしょうね」


「それに解呪魔法や拘束魔法が効きにくい操作魔法だと被害を少なくするためには、死を与えるしかない……という事ね」


「そう言うことよ、まぁそれもあるのだけれど――グレイスは魔法が一切使えないのよ」


「えっ……でも、そうね――魔法が使えないならそれが一番有効な手段ね」


こうして数分にわたって、アルシアとフランツェルの会話が終わるのと同時にグレイスの戦闘も終わっており、イーラ国の第一王子は結論として操られていた。それも、アルシアの見解通り、緑の魔族の手によってだった。

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