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間幕 マージェス国王と赤の魔王

数日後、マージェス国の国王フランツェル・ヴァーゼリアにレーデ・ベルテン領への招待状が届く。封を切り、手紙の内容を読み終えたところで場が一転し、大抵の脅かしは動じないフランツェルもこればかりは流石に開いた口が塞がらないと言った感じで身動きさえ固まった。

フランツェルは手元にある手紙をよく見ると文の最後には『手紙が読み終えた時に驚かないようにね』と書かれていたが、するなと言う方が酷だと、思いながら立ち上がる。


「ようこそ、私の支配下(りょうち)――レーデ・ベルテン領へ。一応顔を合わせるのは初めてね、私がアルシア・ベル=ディザレスよ」


ここでまた驚く。そう、魔族が目の前にいるのだ。

場が一転しても空は青く、レーデ・ベルテン領だけは地上界と変わらない。最初は地上界のどこかの国の城の前かとも思ったフランツェルにとって魔族が出てきたと言う事を認知するまではさほど時間はかからなかった。むしろ、時間をかけたのは魔族である彼女がグレイスの正妻だということだった。


「あまりの急展開に腰を抜かしたの?無理もないけど、ここは冥界じゃないから安心して。大丈夫よ、私の支配下に身を置いてる身でありながら、人間の魂も身も取って喰おうだなんて企てる馬鹿な魔族なんて居ないわよ。……まぁ、仮にいたとしても私があなたを守るから安心しなさい」


そう言いながらアルシアはフランツェルに手を差し伸べ、腰を抜かしてしまった彼女を立たせた。

その後、アルシアはフランツェルの手を引いて城へと案内し、自分の部屋へと連れて来た。


「どこでも好きなところに座っていいわよ、改めて紹介するわ。私はアルシア・ベル=ディザレス。ここ、赤魔の領地――レーデ・ベルテン領とこのディザレス城の主にして、第十三代・赤の魔王……そして、グレイスの妻よ」


「ま、魔王……」


魔王、その一言でフランツェルの表情は(こわ)ばる。学のある人は皆知っているのだ、この世界は五つの界層があり、世界を作り上げた四神が住まう神界、天使族や神聖獣が住まう天界、人間――人族をはじめとする多くの種族が存在する地上界、魔族や魔獣が支配する魔界、亡き者の魂が漂う冥界に分かれていることと魔界を四人の魔王が支配していることを――フランツェルは知っている。そして、その一角が目の前に存在しているのだ。状況が状況ならば今頃死を受け入れているところだろう、それが分かる人間に高揚によるものにしたって恐怖によるものにしたって顔を強ばらせるなという方が無理がある。


「そう身構えなくてもいいわ、それはあなた達人間からすれば恐れられてる存在とはいえ、私たち赤の魔族は、緑の魔族やもう存在しない青の魔族ような人族を排他的に捉える考えは最初からないのよ、敵対しようとしない限りね」


途端、アルシアの先程までの友好的で柔らかな雰囲気は消え失せ、目を細めて一瞬にして冷酷な眼差しを向け、恐怖を植え付けるような雰囲気へと変わる。

それもまた一瞬の出来事で気がつけばそれは収まっており、友好的で柔らかな雰囲気が戻っていた。


「それで、フラン――あなたは身分からしてグレイスとは初対面なはずだけれど、私の勝手な見解だけどあなたは会ってすぐ求婚するほど浅はかな(ひと)ではないと思うの……昔、グレイスに何かされた?」


そんなことまで見抜かれていたかと言わんばかりにフランツェルの全身は小刻みに震えていた。先程の恐怖よりも強い驚きを隠せなかったのだ。

少し冷静を取り戻すとフランツェルは口を開いた。


「四年ぐらい前に私は誘拐されて、誘拐された先で助けてくれたのが彼だったの。その時は名前は分からなかったけど、顔ははっきり分かるぐらい近くにいたから――この前の会議で会った事を運命に感謝したわ」


「――ぷっ……あはは、なるほどね!あなたもなのね、グレイスに助けられたのは――まぁ、グレイスの事を考えればそれもそうかと納得しちゃうわ。彼、自分の手の届く範囲の弱い者は絶対に守ろうとするんだもの……まぁ、そこがカッコいい所なのだけれどね」


助けられた者同士仲良くしましょ、と言いながらアルシアはフランツェルに握手を求め、それに応じるようにフランツェルはアルシアの手を握った。


「そうそうフラン、一つだけ言っておくわ。近い内にイーラ国で国王の息子達の誰かが謀反起こすわ。これはもう避けられないから、もし現国王が討たれたらイーラ国を危険視しておきなさい」


アルシアの言葉と同時に世界は歪み、フランツェルは一瞬にして王室へと戻ってきていた。


「アレは一体どういう……」


言葉に問いを投げかけることすら出来ずに戻ってきてしまったためかフランツェルの心は不安で満ちていった。

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